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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン27

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第9章:老兵の晩餐


志藤のモンテカルロは、かつての高級住宅街を彷彿とさせる、瓦礫が整然と積み上げられた「ヒリヤード・セクター」へと滑り込んだ 。そこは、核震災と三正面作戦の傷跡が深く残る旧都心にありながら、戦艦大和のサーチライトが特権的に降り注ぐ、選ばれた者たちの隠れ家だった 。

+4


「着いたぞ、日向。ここがこの街の真の『金庫』だ。狼も羊も、結局はこのじいさんの掌の上で踊っているに過ぎない」

+3


地下大深度へと続くエレベーターを降りると、そこには瓦礫の街の凄惨さを微塵も感じさせない、退廃的なまでの贅沢が広がっていた。重厚な防爆扉の先にあるのは、核シェルターを改造した豪華な私邸である 。

+1


室内には、高級なバーボンの香りと、どこか懐かしい古いレコードの音が漂っていた。



(琥珀色の照明に照らされたリビング。白髪混じりの短髪に無精髭を蓄えた老兵、源三が、ゆったりとしたガウン姿でリクライニングチェアに腰掛けている 。彼の傍らのテーブルには、数十年もののウィスキーのボトルと、丁寧に手入れされた盆栽が置かれ、その背景には、かつての警官時代の誇りを感じさせる記念品が並んでいる )

+2


「……来たか、志藤。相変わらず騒々しい足音を立てる野良犬だ」

+2


源三の声は、深く、穏やかだった。だが、脳内のナノマシン「ブルー・ゴースト」が神経を研ぎ澄ませている凱には、その穏やかさの裏側に潜む、氷のように冷徹な「殺気」が手に取るように分かった 。源三は元警官であり、現在は再建利権を裏で操る「銀行家」だ 。彼は、復興支援金や汚職で得られた莫大なデジタル通貨「YAMATO」を管理し、システムの血流をコントロールしている 。

+4


「新顔を連れてきました。復興庁の期待の星、日向凱です」

+1


志藤が不敵な笑みを浮かべて凱を紹介すると、源三はゆっくりとグラスを傾け、凱を値踏みするように見つめた 。


「日向、と言ったか。良い目だ。かつての私や、まだ『羊』だった頃の志藤と同じ目だ」

+1


源三は、テーブルの上に並べられた、復興区画では決して手に入らない本物の牛肉のローストと、ヴィンテージの赤ワインを顎で指した 。


「座れ。今日は晩餐だ。大和の上の連中が配給の合成肉を食っている間に、我々はこの街の『実り』を享受しよう」


凱は、促されるままにテーブルについた。豪華な食事、芳醇な酒、そして志藤のチームメンバーたちがリラックスして談笑する光景 。一見すれば、それは志藤がかつての師である源三を敬う、和やかな再会の場に見えた 。

+4


しかし、会話の内容はどれも血生臭かった。


「ロシアの連中が、例の制裁金の件でしつこくてね。三賢者の爺さんたちは、自分たちの懐は痛めず、俺に源三さんのところから『融資』を受けろと唆してくる」

+2


志藤が事も無げに言うと、源三は静かに笑った。


「志藤、お前はこの街の秩序を守るために、どれだけの『貸し』を私に作っているか分かっているのか? 三賢者が望むのは効率だ。だが、私の望むのは『古いルール』の維持だ。友情という名の不変の価値だよ」

+2


「友情……。いい言葉だ。だが、この街では友情もまた、証明できなければ価値を持たない(It's not what you know, it's what you can prove)」


志藤はそう言うと、自らのグラスを源三のグラスに力強くぶつけた。乾いた音が室内に響く。凱はその音に、これから始まる凄惨な儀式の開始告げる鐘の音を聞いた気がした。


凱は、源三の足元の絨毯の不自然な膨らみに気づいていた。ブルー・ゴーストの熱源センサーが、床下に隠された膨大な数のハードウェア・ウォレットの存在を捉えていたからだ 。それは、復興という名の下に市民から奪われ、隠された天文学的な額の「YAMATO」だ 。

+2


「……源三さん。あなたは、この街をどうしたいんですか?」


凱の問いに、源三は盆栽の枝を愛おしそうに撫でながら答えた。


「再建とは、古い自分を捨てることではない。過去の残骸を土台にして、より強固な『檻』を築くことだ。日向、君もいつか分かる。この晩餐が、どれほどの犠牲の上に成り立っているかを」

+1


志藤のチームメンバーたちは、隅で静かに武器の手入れを始めていた 。源三の邸宅を包む贅沢な静寂は、今や破滅の予感に満ちていた。

+1


凱は確信した。志藤が自分をここに連れてきたのは、単なる紹介のためではない。これから行われる「生け贄の儀式」――自分自身の手を血で染め、二度と羊には戻れない狼の群れへと完全に引きずり込むための、最終試験の舞台としてこの場所を選んだのだ 。

+1


戦艦大和が流す「希望の歌」が、シェルターの壁を伝って微かに振動として伝わってくる 。その光り輝く象徴の真下で、かつての英雄たちは、瓦礫よりも醜い欲望にまみれた晩餐を続けていた。

+1


「さあ、日向。食え。これが、この街を支配する者が味わう、真の『正義』の味だ」


志藤が差し出したワインは、凱の目には、これから流される誰かの血と同じ色に見えていた。

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