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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン27

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第4部 第4章:氷下の神経回路



エウロパの地表に吹き荒れるのは、凍りついた情報の断片データ・ダストだ。美しき幻影である「新・東京」の街並みが、地殻の震動に合わせてノイズのように明滅している。その中心で、3人は「アウグストゥス」から引き出した巨大な穿孔用ユニット――MCUマイクロ・コンストラクターの重出力形態と対峙していた。


「ジェネット、座標は固定したわ。深度四十キロ……この氷の底にある『心臓』まで、一気に風穴を開けるわよ!」


藤代エレンの声は、ヘルメット内に響く凄まじい電磁波のバズ音にかき消されそうだった。高槻の「同期」が加速するにつれ、エウロパという衛星全体が巨大な演算機へと変質し、空間そのものが物理的な質量を持って彼らを押し潰そうとしていた。


「任せなさい! この程度の氷、私の『根性』でバターみたいに溶かしてやるわ!」


天野ジェネットがMCUの制御グリップを握りしめる。彼女のハプティクススーツは、機体と物理直結されたことで、氷層からの反発係数をダイレクトに彼女の骨格へと伝えていた。 「ランス、ナノマシンの出力を最大に! 構造材を分子レベルで引き裂くわよ!」


「了解。……ですが、この下には高槻が張り巡らせた『神経系』が密集しています。穿孔を開始した瞬間、衛星そのものが我々を『異物』として排除しにかかるでしょう」


神崎ランスが分析端末を氷面に叩き込み、同期を開始した。 「カウント、三、二、一……穿孔開始!」


ジェネットがトリガーを引き絞った。 MCUの先端から放たれた超高周波の崩壊波が、エウロパの硬質な氷を瞬時にプラズマ化させ、闇の中へと突き進む。白銀の世界に、直径五メートルの巨大な「傷」が開かれた。


「降下! 振り落とされないでよ!」


3人は、MCUの反動を推進力に変えた降下用ケージと共に、垂直の穴へと身を投じた。 落下の加速と、穿孔時の衝撃が、ハプティクススーツを通じて全身を苛む。 視界からは太陽の微かな光が消え、代わりに現れたのは、氷の壁面に張り巡らされた「神経」の輝きだった。


それは、高槻がYAMATOのメインコンピュータと自身のDNAを融合させて作り上げた、赤黒い結晶の網目だった。氷の壁の内部を、血管のように、あるいは光ファイバーのように、膨大な情報が流動している。


「……何よ、これ。まるで生き物の胃袋の中に落ちていくみたいだわ」


ジェネットが呟く通り、降下するにつれ、氷の壁面からは結晶の触手が芽吹き、3人のケージを捕らえようと蠢き始めた。高槻の意志が、エウロパの地殻そのものを動かしているのだ。


「エレン、見てください。この結晶の網目……すべて高槻の『感覚野』です。我々が壁に触れるたび、彼は我々の位置、体温、そして心拍数までも正確に把握している」


ランスの警告と同時に、巨大な震動がケージを襲った。 氷下の海に近づくにつれ、重力慣性が狂い始める。上と下の感覚が消失し、ハプティクススーツは「存在しないはずの重圧」を彼らの四肢に刻み込む。


『……エレン……なぜ、そんなに急ぐんだ?』


高槻の声が、氷壁の結晶から直接放射される超音波となって響いた。 『この氷層は、僕の皮膚だ。君たちが穿孔するたび、僕は痛みを感じる。……でも、それももうすぐ終わる。海へおいで。そこには、君が一生かけても読み解けなかった、真実の歴史が沈んでいるんだ』


「高槻、あんたの言う真実なんて、ただの『死体』のコレクションよ!」


エレンは、降下するケージの縁を強く掴んだ。 指先から伝わる結晶の拍動は、10万年前の住人たちが感じた「肉体の喪失」という恐怖そのものだった。 深度三十キロ。周囲の氷は、もはや無機質な水ではなく、高槻の神経と一体化した「有機的な石」へと変貌していた。


「ジェネット、最大出力! 氷の底をぶち抜いて!」


「地獄の底までノンストップよ! ――死ぬ気で掴まってなさい!」


MCUが最後の一撃を放った。 氷層が砕け散り、3人の視界に広がったのは、漆黒の、しかし燐光を放つ結晶の糸が幾千にも交差する「暗黒の海」だった。


エウロパの深海。そこは、高槻という名の神が支配する、情報の揺り籠であり、人類の墓場だった。 3人は、重力の枷を振り切り、その冷たく不気味な深淵へと吸い込まれていった。

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