第20章 アニメ風
沖縄戦線は、一時の静けさを取り戻していた。
大和と座礁艦隊が叩き出した戦果は、常識を覆すほどのものだった。
だが――旗艦「いずも」の艦橋に漂う空気は、勝利の熱気とは程遠い。
緊張と不安が、計器の光と混じり合って重く沈んでいる。
士官たちの胸を占めていたのは、目の前の戦況ではない。
「自分たちは未来へ帰れるのか」という、根源的な問いだった。
電子戦士官の三条律が、端末に視線を釘付けにしていた。
座標データを繰り返し確認する。その指先は止まらない。
「律。座標は安定しているか」
片倉の声が響く。静かだが、部下を落ち着かせるための必死さが滲んでいた。
律は深く息を吸い、吐き出した。
「……不安定です。介入の影響で、パラドックスの発生確率は上がっています。この規模の歪みなら、避けられません。残した技術の痕跡が、未来の発展を加速させるかもしれない。あるいは、全く別の方向へ捻じ曲げるかもしれない。最悪の場合――我々の知る“日本”そのものが存在しない未来に変わる可能性もあります」
艦橋に沈黙が落ちる。
歴史の改変。それは過去の修正に留まらず、彼ら自身の現在、そして未来をも蝕む刃だった。
「つまり……戻れないかもしれない、ということか」
神谷一佐が低く呟いた。
律は目を伏せる。
「断言はできません。ただ、その可能性は高まっています」
通信機から声が割り込んだ。潜水艦「そうりゅう」の艦長、竹中二佐だ。
「艦長。我々は初めから覚悟していたはずです。動かなければ、彼らは沈む。記録にしか残らず、海に消えるだけになる。だから共に戦うと決めた。未来への影響など、承知の上で」
片倉は頷き、全員を見渡した。
「竹中艦長の言う通りだ。我々の戦いは過去への介入ではない。未来を守るための“歴史の修正”だ。救った命、変えた戦況――それこそが、我々の使命だった」
言葉は力強かった。
だが、その裏に潜む影を彼は振り払えなかった。
本土への爆撃の激化。米軍の進化の加速。
自らの行動が呼び込んだ負の連鎖――。
「……未来へ帰る術はあるのか」
神谷が再び問う。
返事はなかった。
作戦室にはただ、機器の電子音だけが響き続けていた。