第19章 沖縄地下陣地:見えざる要塞
ひめゆり学徒隊との邂逅を終え、山名三尉と田中中尉は、シュガーローフからさらに南西に位置する、より厳重に隠蔽された地下壕へと向かっていた。
そこは、第32軍司令部の、主要な防御計画が練られている場所だった。牛島大将は、山名からの情報に基づき、米軍の次の主要な上陸地点と進撃ルートを予測し、その対応策を講じていた。
地下壕の奥深く、薄暗い作戦室に足を踏み入れると、数名の陸軍工兵科の士官たちが、詳細な模型と図面を広げていた。そこには、これまでの日本軍の防御陣地とは、一線を画す異様な構造が描かれている。
「山名三尉、田中中尉、ご苦労であった」
牛島大将の声が響いた。我が軍の防衛体制を説明しておこう。
牛島は、模型の中央にある複雑な地下構造を指し示した。
「この陣地群は、首里を中心とした島の中央部、特に米軍が突破を図ると予測される主要な交通路や丘陵地帯の地下に、綿密に掘り進められた縦横無尽のトンネル網と地下壕で構成されている。これらは、単なる退避壕ではない。戦闘と生活、そして補給が一体となった**『地下要塞』**だ」
一人の工兵科士官が、模型を指しながら説明を始めた。「海自殿より提供された、米軍の地雷探知技術や火炎放射器、そして重戦車の能力を分析し、我々は従来の防御陣地を見直しました」
牛島大将は、さらに奥の模型に目を移した。「この地下要塞の中には、独立した砲兵陣地や機関銃座が、巧妙な偽装と共に多数隠蔽されている。これらは、米軍の航空偵察や艦砲射撃からは決して発見できないよう設計されている。
また、地下連絡通路を通じて、兵士は安全に移動し、米軍が地雷や火炎で足止めされた隙を狙って、側面や後方から奇襲攻撃を仕掛けることが可能だ」
「各地下壕は、強固なコンクリートと岩盤で補強され、直接榴弾砲の攻撃を受けても崩れない構造だ。内部には、弾薬庫、食糧庫、水源、そして簡易な野戦病院も設けられている。
我々の兵力は、各地下陣地に分散配置されており、一つの陣地が陥落しても、隣接する陣地が独立して抗戦を続けられる。主要な地下陣地には、独立混成第44旅団の主力や、第62師団の一部が配置され、約1万名の精鋭が籠城態勢をとる」
牛島大将が、静かに付け加えた。「これは、貴官らが提供した『情報』と、我々の兵士の労力、そして沖縄の地形が生み出した、新たな防衛策だ。これならば、米軍の強力な突破能力も、容易には通用すまい」