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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン25

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第48章 第6章:偽りの錬金術とマジックの真実


1. 黄金の館と「賢者の石」の正体

ピレネーの地底から生還した一行は、ネブラ・スカイ・ディスクが示した最後の座標――パリ近郊、オート=ド=セーヌ県に佇む中世風の邸宅「サン・ジェルマン館」へと辿り着いた。そこは、世界的な大富豪であり、古代科学のパトロンとしても知られるジャン=ルック・ベルナール卿の私邸であった。

「いいかね、ラファエル警部。物理学的に見て、この館の磁場は極めて不自然だ。まるで巨大な**ソレノイド(筒状に巻かれたコイル)**の中にいるような違和感を感じるぞ!」

志村教授が、最新のガウスメーター(磁束密度計)を振り回しながら、仰々しく館の門を叩く。

「ちょっと志村教授、不法侵入で捕まったら、今度こそ私の手品のネタにして消してあげるからね! お母さん、この人からピレネーの案内料、今のうちにぶんどっておいてよ、エヒャヒャヒャ!」

「奈美子、あんたは相変わらず騒々しいね。……アストリッドさん、この館の空気、どう思うだい?」

里子の問いに、アストリッドは指先を耳に当て、微細な空気の振動を読み取っていた。

「……高周波のハム音が聞こえます。推定 15,000\text{Hz}。これは、精密な**誘導加熱(Induction Heating)**装置が稼働している音です。……警視。この館は居住用ではありません。ここは、巨大な『実験室』です」


> 【専門用語解説:誘導加熱(Induction Heating)】

> 電磁誘導を利用して、金属などの導体を非接触で加熱する技術。家庭用のIHクッキングヒーターの原理と同じだが、工業用では金属の溶解や精製に用いられる。高周波の磁場を発生させるため、周囲の磁気環境に強い影響を与える。

>


2. 現代の錬金術:同位体分離の罠

一行が強引に館の中へと踏み込むと、そこには中世の錬金術師の工房と、最新の粒子加速器が融合したような、異様な光景が広がっていた。

「素晴らしい。私の『聖域』へようこそ」

中央の壇上に立っていたのは、失踪していたホフマン教授の助手であり、実はベルナール卿の影のパートナーでもあった、クロード博士だった。彼の背後には、巨大な円筒状の装置がそびえ立ち、その中心に「第4のネブラ・スカイ・ディスク」が嵌め込まれていた。

「ディスクは、ただの天文盤ではない。これは、特定の放射線を干渉させ、物質の原子構造を書き換えるための**フォーカシング・グリッド(焦点格子)**だ。我々はこれを用いて、卑金属から黄金を生み出す……現代の錬金術を完成させたのだ!」

「馬鹿な! **核変換(Nuclear Transmutation)**で金を作るには、莫大なエネルギーが必要だ。コストが見合うはずがない!」志村が叫ぶ。

「ふふ、志村教授。あなたがピレネーで見つけたあの『地殻の歪み』……あれは、天然の地熱発電と磁気エネルギーを一点に集約するためのアンテナだったのだよ。ディスクはそのエネルギーを制御するための、3600年前の超古代コンピュータなのだ!」


> 【専門用語解説:核変換(Transmutation)】

> ある原子核が放射性崩壊や粒子との衝突によって、別の原子核に変化すること。理論上、水銀などから金を作ることは可能だが、莫大なエネルギーを消費するため、商業的な「錬金術」としては成立しないと考えられている。

>

アストリッドは、装置の周囲を流れる液体の色と、ディスクが放つ不気味な燐光を凝視した。

「……警視。……嘘です。……この装置は、金を作っているのではありません。……**同位体分離(Isotope Separation)**を行っています。……彼は、医療用、あるいは軍事用の希少な放射性同位体を精製し、闇市場で売却するための『精製工場』を、錬金術というオカルトでカモフラージュしているのです」



3. 山田奈美子の「見通し」:手品の種明かし

「ちょっとあんた、その『黄金』、見せてみなさいよ」

奈美子が、ベルナールの手元にある黄金のインゴットを指差した。

「あんたの言ってることは全部デタラメよ。マジシャンとして言わせてもらえば、その演出は三流以下ね」

「何だと……? 貧乏マジシャンに何がわかる!」

「エヒャヒャヒャ! 貧乏は余計よ! ……アストリッド、あんたの論理で、このおじさんの『種明かし』、手伝ってあげて」

アストリッドは、里子の持っていた「墨汁」を指差し、ラファエルに頷いた。ラファエルが強引に壇上へ登り、黄金のインゴットに墨汁をぶちまける。

「な、何をする!」

「……見てください」アストリッドが冷静に指摘する。

「墨汁が、黄金の表面で弾かれずに、特定の模様を描いて流れています。……これは**光電効果(Photoelectric Effect)**を応用した、薄膜コーティングです。……表面だけを金に見せかける、ナノレベルのメッキ技術です。……中身はただの鉛……いえ、**劣化ウラン(Depleted Uranium)**の廃棄物です」


> 【専門用語解説:光電効果(Photoelectric Effect)】

> 物質に光を照射した際に、電子が放出される現象。特定の波長の光に反応して物体の見え方や表面特性を変化させる技術に応用される。ここでは、特定の照明下で完璧な黄金の輝きを放つように設計された「光学的偽装」を指している。

>

「このディスクの星の配置は、プロジェクターのフィルターでした。特定の波長の光をインゴットに当てることで、見る者の目を欺いていたのです。……あなたは錬金術師ですらない。ただの『廃棄物処理業者』です」

「お前のやったことは、全部まるっとお見通しだ!」奈美子が、決め台詞と共に、トランプを装置の隙間に投げ入れた。カードが駆動ベルトに噛み込み、装置から凄まじい火花が散る。



4. 桂刑事の「公安流・科学捜査」

「おい! 盛り上がっとる間に、わしを忘れてもらっちゃ困るぞ!」

桂健一刑事が、猿渡を引き連れて、天井の通気口から(文字通り)降ってきた。その際、衝撃で彼の「頭髪」が再びズレ、半分剥がれた状態でベルナールの前に着地した。

「わ、わしのアイデンティティを……これ以上弄ぶ奴は許さん! 猿渡、確保じゃ!」

「警部補、カツラが……カツラが顔を覆ってます!」

「うるさい! これは『目隠し捜査』という高度なテクニックじゃあ!」

桂が目隠し状態で暴れ回る中、彼のカツラから飛び出したヘアピンが、装置の制御基板に突き刺さった。

「……警視。……**短絡ショート**です」

アストリッドが、耳を塞ぎながら叫ぶ。

「高周波電源が逆流しています! 装置が……**相転移(Phase Transition)**を起こします!」


> 【専門用語解説:相転移(Phase Transition)】

> 物質の温度や圧力などの外部条件によって、物質の状態(固体、液体、気体など)が急激に変化すること。ここでは、装置内の冷却液や高圧ガスが急激な状態変化を起こし、物理的な爆発を伴う危険な状態を指す。

>


5. マジック vs 物理学:極限の脱出

「脱出だ! 全員、伏せろ!」志村が叫び、いつものようにデスクの下に潜り込もうとした。

「逃がさないよ、ベルナール!」ラファエルがベルナールの腕を捻り上げるが、ベルナールは隠し持っていた煙幕弾を炸裂させた。

「……**昇華(Sublimation)**を利用したヨウ素煙幕です。吸い込むと呼吸器が麻痺します!」

「エヒャヒャヒャ! 煙幕なんて、私の十八番よ!」

奈美子が、自身のマジック用扇風機を懐から取り出し、逆方向に回転させた。

「志村教授、あんたのその……デカいコートを広げなさい! ベルヌーイの定理で、この煙を外に追い出すのよ!」

「よ、よしきた! 山田君、物理学者に計算を任せろ! ……Why don't you do your best!」

志村がコートをマントのように広げ、奈美子の扇風機とアストリッドが即座に計算した「気流の最適解」に合わせて動く。煙が渦を巻き、破壊された窓から屋外へと吸い出されていった。


> 【専門用語解説:ベルヌーイの定理(Bernoulli's principle)】

> 流体(液体や気体)の流速が速くなると、その場所の圧力が下がるという法則。これを利用して、部屋の中の煙を効率的に外部へと排出する「ベンチュリ効果」を即興で作り出した。

>


6. 3600年前の「安全装置」

爆発寸前の装置の前で、アストリッドは震える手でディスクに触れた。

「……まだ……止められます。……ネブラ・スカイ・ディスクのプレアデス星団……。この7つの星は、……**ヒューズ(過電流遮断器)**の役割を持っていました」

アストリッドは、星の一つを強く押し込んだ。すると、黄金の星が青銅の中に沈み込み、装置内の磁場が急激に減衰していった。

「……3600年前の人々は、このディスクが暴走することを予見していたのです。……彼らにとって、この技術は『神の火』であり、自分たちの手には余るものだと知っていた……。だから、この『沈黙』を最後に残したのです」

装置は、静かにその活動を停止した。

ベルナールは、桂刑事とラファエルによって完全に取り押さえられた。

「……終わりましたね、警視」

「ええ、アストリッド。……でも、一つだけ種明かしして。……あのディスク、本当にヒューズだったの?」

「……厳密には、熱膨張率の異なる金属を組み合わせた、温度感知式のバイメタルスイッチです。……科学は、……いつの時代も、人間を守るために存在すべきですから」

志村教授は、真っ黒に焦げたコートを脱ぎ捨て、最後にもっともらしく言い放った。

「……フン、全ては私の計算通りだ。……錬金術など、物理学の前では子供の遊びに過ぎない。……山田君、日本に帰ったら、この『コートを用いた流体力学的防除』について、特許を申請するぞ!」

「勝手にしなさいよ、この欲張り教授! それより、そのカツラ刑事から、迷惑料をきっちり徴収してよね! エヒャヒャヒャ!」

館の窓から、夕焼けが差し込み、ネブラ・スカイ・ディスクの黄金を静かに照らしていた。

3600年前の星空が、今、現代の強欲を浄化するように、穏やかな光を放っていた。

第7章:幾何学的な聖域の終焉と新たな旋律(最終章)へ続く。


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