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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン25

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第46章 第4章:志村教授の失態と科学の罠


1. ナント電磁気研究所への遷都

パリから西へ約380キロメートル。一行は、フランス屈指のハイテク都市ナントにある「国立強磁場研究所」へと移動していた。セーヌ川での騒動後、志村次郎教授が「第2のディスク」の破片から『未知のエネルギー波』を検出したと豪語し、より精密な測定装置が必要だと主張したためだ。

「いいかね、ラファエル警部。私の物理学的な勘が告げている。あのネブラ・スカイ・ディスクの破片には、アインシュタインも驚愕するような**重力波(Gravity Wave)**の干渉痕跡が残されている可能性があるのだ!」


> 【専門用語解説:重力波(Gravity Wave)】

> 巨大な質量を持つ物体が加速運動する際に、時空のゆがみが波として伝わる現象。2015年に初めて直接観測されたが、志村教授はこれを古代の青銅器が発しているという、およそ非科学的な主張を展開している。

>

志村教授は、ナントへ向かう高速列車(TGV)の中でも、自著『どんと来い、超常現象』を熱心に読み返していた。その隣で、アストリッド・ニールセンは列車の振動と走行音に耐えるため、ノイズキャンセリングヘッドホンを深く装着し、目を閉じていた。

「アストリッド、大丈夫? もうすぐ着くわよ」

ラファエルが心配そうに声をかけるが、アストリッドは小さく「……振動周波数が 50Hzから 60Hzへ変化しました。……電源の切り替え地点です」とだけ答え、意識を内側の論理へと集中させていた。

「ちょっと、志村教授! ナントってとこに行けば、私のマジックを高く買ってくれるパトロンがいるって言ったわよね? 嘘だったら、あんたを箱に入れてセーヌ川に流すからね、エヒャヒャヒャ!」

奈美子が、車内でトランプを弄びながら教授を脅す。

「山田君、君は夢がないな! 科学の進歩こそが、最大の報酬なのだよ! Why don't you do your best!」



2. 傲慢な実験:磁束密度の暴走

ナントの研究所に到着するやいなや、志村教授は現地の研究員を「私は日科大の志村だ!」と押し切り、巨大な**超電導マグネット(Superconducting Magnet)**を備えた実験室を占拠した。

「アストリッド君、見ていたまえ。この破片に超強力な磁場をかけ、**核磁気共鳴(NMR)**を測定する。そうすれば、古代人が隠した『分子レベルの暗号』が浮かび上がるはずだ」


> 【専門用語解説:核磁気共鳴(NMR: Nuclear Magnetic Resonance)】

> 強い磁場の中に置かれた原子核が、特定の周波数の電磁波と共鳴する現象。医療用のMRIや、化学物質の構造解析に広く利用される。

>

アストリッドは、志村教授が装置の出力を上げようとするのを見て、鋭い警告を発した。

「……待ってください、教授。その破片の組成は、通常の青銅ではありません。……**強磁性(Ferromagnetism)**を持つ微粒子が不規則に混入しています。急激な磁場の変化は、レンツの法則による強力な反作用を引き起こし、装置を物理的に破壊する恐れがあります」


> 【専門用語解説:レンツの法則(Lenz's Law)】

> 電磁誘導によって発生する誘起電流は、磁束の変化を妨げる方向に磁場を作るという法則。急激な磁場変化は、予期せぬ巨大な物理的負荷を生む。

>

「ハッハッハ! アストリッド君、君は心配性だ。物理学とは、未知への挑戦なのだよ! スイッチオン!」

志村が強引にレバーを引いた瞬間、実験室全体に凄まじい「ウーン」という低音が響き渡った。



3. 桂刑事の受難:カツラ・マグネティック・ショック

「おい! 何をやっとるんじゃ、志村ぁ!」

実験室のドアを蹴破って現れたのは、再び「手柄」を横取りしようと追いかけてきた桂健一刑事だった。

「わしを置いてナントに来るとは、いい度胸じゃ。この事件は公安が引き取る……ぐあぁぁっ!?」

次の瞬間、桂刑事の体に異変が起きた。いや、彼の「頭部」に、だ。

桂刑事が愛用している「最新式の頭髪カツラ」には、固定を強固にするための「金属製の微細なクリップ」が埋め込まれていたのだ。

志村教授が暴走させた強力な磁場が、桂刑事のクリップを猛烈な勢いで引き寄せた。

「わ、わしのアイデンティティがぁぁ!」

桂刑事の「頭髪」は、彼の頭から強引に剥がれ、空中を高速で飛行。実験室の中央にある超電導マグネットの巨大な円筒に、ペタリと吸い付いた。

「猿渡! 早く取れ! 早くわしの宝を回収せんか!」

「警部補、無理です! 磁力が強すぎて、近づけません!」

「ひえぇぇ! 幽霊の次は、空飛ぶカツラか!」

志村教授はパニックになり、制御パネルの下に潜り込んだ。

「エヒャヒャヒャ! 傑作ね! 志村教授、あんたの実験、マジックの演出としては最高よ!」

奈美子が笑い転げる中、事態は深刻化していた。

磁場と破片が共鳴し、実験室内の精密機器が次々と火花を散らし始めた。アストリッドは、激しい不快音と火花の光に震えながらも、脳内で波形を解析し続けた。



4. アストリッドの解析:隠された「信号」の正体

「……警視。……志村教授を……止めて……いえ、私がやります」

アストリッドはパニックを必死に抑え、志村が投げ出したキーボードに向かった。彼女の指先は、まるでピアノを奏でるように正確に、制御プログラムを書き換えていく。

「……志村教授が検知した『未知のエネルギー波』は、重力波ではありません。……これは、**ヘテロダイン(Heterodyne)方式で隠蔽された、特定の高周波(Radio Frequency)**信号です」


> 【専門用語解説:ヘテロダイン(Heterodyne)】

> 異なる二つの周波数を混合し、その差の周波数ビートを作り出す技術。ラジオの受信機などで広く使われるが、ここでは情報を隠すためのカモフラージュとして使われていた。

>

アストリッドは、磁場を特定の周期で**パルス(脈動)**させた。

すると、壁のモニターに、意味不明なノイズの代わりに、一連の座標データと、ある紋章が浮かび上がった。

「これは……ナチスの紋章ではありません。……現代の科学財団のロゴです。……志村教授、あなたが『偶然見つけた』と言っていたあの破片は、最初からこの研究所の磁場に反応して、**バックドア(不正な通信路)**を開くように設計された『トロイの木馬』だったのです」

「な、なんだと……? 私は利用されていたというのか? この天才物理学者の志村次郎ともあろう者が!」

アストリッドは、モニターのデータを指差した。

「……犯人の狙いは、この研究所のメインサーバーにある、フランス全土の**送電網スマートグリッド**の管理データです。……彼らは、ネブラ・スカイ・ディスクを『鍵』にして、現代のパリを完全に停電させる、物理的なハッキングを計画しています」



5. 科学の罠:オーバーヒートする真実

「残念だよ、アストリッド・ニールセン。そして日本から来た道化師諸君」

実験室のインターホンから、聞き覚えのある声が流れた。それは、第3章で逮捕されたはずのレオン監察官……を裏で操っていた、ナント研究所の副所長、デュポン博士だった。

「ヴァロワ教授は気づいていた。古代のディスクが持つ『星の配置』が、現代の送電網の『磁気ノード』と完全に一致することにね。……今、志村教授が磁場を最大にしてくれたおかげで、全ての準備は整った」

実験室のドアが電磁ロックされ、密閉された。

「冷却用の**液体ヘリウム(Liquid Helium)**が漏れ始めている。あと数分で、この部屋の温度は絶対零度近くまで下がり、君たちは……『凍りついた歴史の証人』になるだろう」


> 【専門用語解説:液体ヘリウム(Liquid Helium)】

> 沸点が約 -269^\circ\text{C} という極低温の液体。超電導マグネットの冷却に不可欠だが、気化すると酸素を追い出し、窒息や凍傷の危険を引き起こす。

>

「ひえぇぇ! 凍死は嫌だ! 私はまだ、通信教育で習った『志村流・熱血解凍拳』をマスターしていないんだ!」

「ちょっと志村教授、そんな技ないでしょ! アストリッド、どうすればいいの!」

アストリッドは、部屋の隅にある消火用の**二酸化炭素(Carbon Dioxide)**ボンベと、壁の配線に目を向けた。

「……警視。……**熱力学(Thermodynamics)**を利用します。……液体ヘリウムの気化熱を、特定の方向へ逃がす必要があります。……志村教授、あなたのその……重厚なコートを貸してください」

アストリッドは、志村のコートを二酸化炭素で凍らせ、それを特定の配線に叩きつけることで、強制的に**短絡ショート**を引き起こした。

「……ジュール熱を発生させます。……冷却システムを、局所的な加熱で『騙す』のです」

火花が激しく散り、実験室の温度上昇が始まった。エラーによって電磁ロックが解除され、一行は極寒の実験室から、命からがら廊下へと転がり出した。



6. 消えたカツラと残された謎

廊下に出た一行を待っていたのは、静まり返った研究所の風景だった。デュポン博士はすでに姿を消しており、サーバーのデータも一部が消去されていた。

「警備員! 早く追え! ……あ、それと、わしの……わしの頭髪を回収してこい!」

桂刑事が、頭をタオルで隠しながら部下に怒鳴り散らしている。

ラファエルがアストリッドの肩を支えた。

「アストリッド、大丈夫? 相当無理したわね」

「……はい。……ですが、一つだけ収穫がありました。……志村教授が暴走させた磁場のおかげで、ディスクの破片から『第4のディスク』の周波数が検出されました。……それは、パリではなく、北欧の……ストーンヘンジに近い磁気特性を持っています」

「ストーンヘンジだと? よし、次はイギリスだな! 山田君、パスポートはあるか!」

「あるわけないでしょ! あんたが家賃払わないから、更新料も払えてないんだからね! エヒャヒャヒャ!」

志村教授は、自分のコートが焦げ、桂刑事のカツラがマグネットに貼り付いたままの惨状を見つめ、最後にもっともらしく言い放った。

「……フン、全ては私の計算通りだ。……科学とは、時に痛みを伴うものなのだよ。……Why don't you do your best、イギリスの星空よ!」

アストリッドは、遠く北の空を思い浮かべた。

3600年前の星空が示す最後の舞台。そこには、現代の科学をもってしても解き明かせない、「光の純粋な幾何学」が待っていた。

第5章:ピレネーの迷宮と言霊ことだまの書へ続く。


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