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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第186章 第7章:反転する巨像 —— 暇つぶしサークルにて


場所: 大学のサークル棟、「暇つぶしサークル」部室。


野本:(逆立ち健康器にぶら下がりながら、顔を赤くして喋っている)

「……部長。世界が逆さまです。血が頭に上ります」


橋本副部長:(漫画を読みながら)

「何やってんだよ野本。早く降りろよ」


野本:

「いえ、副部長。これはシミュレーションです。……深度三四〇メートル。戦艦大和の艦尾セクションは、完全に裏返し(キャップサイズ)になって沈んでいます。キールを天に向け、腹を晒して」


小宮部長:(キャンバスを逆さまにして眺めながら)

「逆転の発想ね。バゼラッツの『逆さまの絵』かしら。重力に対するアンチテーゼを感じるわ」


野本:

「いえ、単なる重心の問題です。……上部構造物が重すぎて、沈む途中でくるりと回ってしまったのです。想像してください。具を乗せすぎたピザトーストを落とした時、必ず具の面が絨毯に張り付く、あの絶望的な物理法則です」


橋本副部長:

「絨毯の掃除大変なんだよな、あれ」


野本:

「艦首と艦尾は一七〇メートルも離れていました。……まるで、喧嘩別れして、キャンパスの端と端に別れて座っているカップルのような距離感です」


小宮部長:

「物理的な切断は、精神的な断絶よりも深いのね……」


野本:

「スクリューのシャフトはねじ切れていました。一五万馬力の剛腕も、今では折れたポッキーのようです」


橋本副部長:

「お前の例え、いちいちお菓子が出てくるな」


場所: 大学の駐輪場。


野本:

「……そして、艦尾の最深部へ回り込みます。そこには決定的な証拠がありました。巨大な主舵メイン・ラダーです」


山田:

「舵か。デカいんだろ?」


野本:

「高さ五メートル。ワンルームマンションの壁一面くらいの鉄板です。……山田さん、その舵は真っ直ぐではありませんでした。『ポートサイド』に切られたまま、固まっていたのです」


重子:

「左? 左に行きたかったの?」


野本:

「はい。角度は三五度。一杯ハード・オーバーです。……これは、機械が限界まで踏ん張った角度です」


山田:

「へえ、三五度か。結構急角度だな」


野本:

「自転車で急な坂道を下る時、目の前に飛び出してきた猫を避けるために、全力でハンドルを切ったまま転倒した状態を想像してください」


重子:

「あいたたた。それ痛いやつじゃん」


野本:

「その『避けようとした意志』が、七〇年間、深海で凍結保存されていたのです。……アンリも言いました。『ここには特別な静寂がある』と」


山田:

「なるほどな。最期の瞬間のまま時が止まってるわけか」


野本:

「はい。左に切りっ放しのハンドル。……永遠に曲がりきれないカーブを、今も回り続けているのです」


場所: ファミレス「ジョリーズ」。


亀山:

(自分の肩を揉みながら)

「あー、痛い痛い。野本さん、ちょっと湿布貼ってくんない? 右肩が上がらなくてさぁ」


野本:

「亀山さん。それは五十肩による可動域の制限ですね。……大和の舵もまた、油圧ラムが押し出された状態でロックされていました」


亀山:

「やだ、戦艦と一緒にしないでよ。こっちは加齢よ、加齢」


富山:

「亀山さん、病院行きなよ」


野本:

「三五度の角度で七〇年間固定です。……亀山さんの肩の凝りとは比較にならないほどの強固な意志です。『取舵一杯』。それは生き残るための、最後の叫びでした」


亀山:

「叫びねぇ。私も叫びたいわよ。店長、時給上げてー!って」


富山:

「それは今言うことじゃないでしょ」


野本:

「……副舵サブ・ラダーは脱落していました。裏返しの世界では、何もかもが本来あるべき姿とは逆です。……まるで、忙しすぎて自分がホールにいるのかキッチンにいるのか分からなくなった時の私のようです」


富山:

「野本さん、しっかりして。今はホールだよ」


野本:

「はい。……野本と申します。こちら、ドリンクバーの氷を補充してまいります。……取舵一杯で急行します」


富山:

「ぶつからないでね」


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