第15章 背水の陣:座礁艦隊の反撃
「ダウンフォール作戦」加速の報が「いずも」の作戦室を重苦しい雰囲気で満たす中、沖縄本島シュガーローフの戦線では、米軍による再攻撃が開始されていた。濃い朝霧の中、米軍は戦車と火炎放射器を先頭に、丘陵の側面から日本軍の防衛線への突破を試みていた。
「敵、前進開始!戦車部隊、側面ルートを侵攻中!」
第32軍司令部の地下壕に、緊迫した報告が響く。牛島満大将は、山名三尉から提供された最新の偵察情報と、自らの判断に基づき、冷静に命令を下した。「よし。全線、警戒を厳にせよ。座礁艦隊、定刻通り攻撃開始!」
その瞬間、海岸線に座礁させた軽巡洋艦「矢秡」の副砲が火を噴いた。轟音が朝霧を切り裂き、その巨弾が米軍戦車部隊の予想進路に正確に着弾する。 砂煙と炎が上がり、先頭を進むシャーマン戦車が吹き飛ばされた。続けて駆逐艦「朝霜」と「霞」の主砲、副砲も連動し、米軍の歩兵集結地点を狙い撃つ。
「艦砲射撃、確認!目標に命中!」
座礁艦隊の各艦に設置された観測班からの報告が、陸軍司令部にも届く。座礁した艦艇が、まさしく「陸上要塞」として機能していた。海自のF35Bが上空からリアルタイムで着弾観測を行い、正確な射撃修正指示を座礁艦隊に送る。これまでの勘と経験に頼る射撃とは全く異なり、データに基づいた砲撃は、米軍に甚大な被害を与えていく。
米兵たちは、海岸線の動かない鉄の塊から飛来する、正確無比な砲弾に恐怖と混乱を覚えた。彼らが視界に捉えられない場所から、次々と正確に撃ち込まれる砲弾は、彼らの士気を著しく削いでいった。
「敵歩兵、混乱しています!突撃します!」
座礁艦隊から上陸し、丘陵地帯に隠蔽されていた旧日本海軍の陸戦隊が、その隙を逃さなかった。彼らは、海自のドローンが事前に特定した米軍の脆弱な背後へと回り込み、奇襲攻撃を開始した。 艦艇を失いながらも生き残った彼らの目には、死地で得た新たな「希望」が宿っていた。
密集した米軍部隊の側面から放たれる小銃弾と擲弾筒の雨。そして、意図的に敷設された対戦車地雷が、米軍戦車の進路を阻む。 米軍は、陸上からの予期せぬ攻撃と、海岸線からの座礁艦艇による正確な砲撃の挟撃を受け、完全に足止めされた。
「敵、後退を開始しました!」
長参謀長の声が、地下壕に響き渡った。米軍の再攻撃は、開始からわずか数時間で頓挫した。海岸線には炎上する戦車と、散乱した米兵の亡骸が累々と横たわり、座礁艦艇からの黒煙が空に昇っていた。
牛島大将は、机に広げられた地図の上の、米軍の撤退を示す印を静かに見つめた。この勝利は、常識を覆す大胆な作戦の融合によって初めて掴み取られたものだった。