32/2015

第14章　アニメ風

沖縄本島での抵抗を一時的に押しとどめたその頃。

東シナ海――海上自衛隊旗艦《いずも》の作戦室には、別の緊張が張り詰めていた。

大型モニターに映し出されるのは、無数の赤点。

それは日本本土へ向かうB-29の大編隊だった。

「艦長、異常な数です。グアム、サイパン、テニアンから次々と発進。

目標は日本の主要都市。特に九州、本州沿岸部への攻撃が集中しています」

電子戦士官・三条律の声は硬く、抑揚を欠いていた。

彼女が指し示す地図上、日本列島に爆撃地点を示すアイコンが点滅を繰り返す。

史実よりも早く、規模も大きく――。それは本土への絨毯爆撃の始まりを意味していた。

片倉大佐の表情が、報告を重ねるごとに強張っていく。

「……ダウンフォール作戦の加速、か」

彼の胸に浮かんだのは、介入の代償という重苦しい予感だった。

沈黙を破ったのは、情報幕僚の山名三尉だった。

「艦長……これはつまり、沖縄で我々が米軍に与えた損害が、逆に戦争終結を早めるための苛烈な手段を選ばせている、ということでは？」

山名の声にはためらいがあった。

沖縄での勝利が、本土にさらなる悲劇を呼び込んだのではないか――。

その疑念が、作戦室に重く漂った。

通信士官が記録を読み上げる。

「東京、大阪、名古屋。連日の大規模空襲により壊滅的被害。

福岡、長崎、広島……九州各地への爆撃激化。市民の死傷者、未曽有の数との報」

報告を聞くたび、作戦室の空気がさらに沈んでいった。

炎に包まれる都市。夜空を焦がす焼夷弾。

海自の士官たちの目に浮かぶのは、変えることのできない“歴史の抵抗”そのものだった。

「……我々が救った命は確かにある」

片倉はモニターを見つめたまま、静かに言葉を絞り出した。

「だが、それは時代の奔流の中で泡のように消える小さなものかもしれん」

そのとき、三条律が新たな報告を告げた。

「艦長。米軍のレーダーが強化されています。低高度機の探知能力が向上。さらに新型の偵察機が投入され、我々のミサイル軌道を解析。電磁波妨害――ECM能力が強化されている模様です」

作戦室にざわめきが走る。

本来ならもっと先の時代に現れるはずの電子戦機。

それが、今、戦場に姿を現そうとしていた。

片倉は唇を噛んだ。

「……我々の介入が、米軍の技術を進化させている」

その言葉は、作戦室の全員の胸を締めつけた。

未来を守るはずの行動が、逆に未来を脅かし始めているのではないか――。