第8章 陸上戦への介入と大和・海自の連携強化
海上自衛隊(海自)は、沖縄沖での劇的な勝利の後も、その介入を止めることはなかった。沖合の戦いが一段落したとはいえ、沖縄本島では米軍による上陸作戦が既に始まろうとしていた。しかし、艦隊司令官・片倉大佐の決断は明確だった。彼らは陸上戦にも介入する。だが、それは兵員を直接投入するような愚かな選択ではない。歴史のさらなる歪みを招く危険は冒せない。彼らが選んだのは、この時代の者たちには理解不能な**「情報」と「精密な支援」**という、極めて高度な介入方法だった。
「いずも」の広大な飛行甲板には、風を切る音もなく、最新鋭の無人機MQ-9Bシーガーディアンが静かに待機していた。夜陰に紛れるように、その機体は滑走路を滑り出し、音もなく暗い空へと舞い上がった。ブレードが回転する微かな駆動音は、この時代のプロペラ機とは全く異なり、やがて夜空に溶け込んでいく。シーガーディアンは、米軍のレーダー網を悠々とくぐり抜け、沖縄本島全域を偵察する。その高解像度カメラは、暗闇に隠された米軍の配置、火力陣地、補給路、そして兵員の細かな移動までも、手に取るように捉えていた。
得られた膨大な情報は、リアルタイムで「いずも」の作戦室へと送られてくる。モニターには、これまで誰も見たことのない沖縄の戦場が、鮮明な三次元マップとして展開されていた。片倉は、この未来の目を駆使し、最も効果的な支援策を検討する。この情報は、単に海自艦隊のためだけのものではない。中継器を介して、その一部は大和の艦橋、そして旧日本軍の地下司令部にも簡略化された形で届けられた。それは、当時の技術レベルで理解可能な**「敵の正確な配置図」や「進軍予測」**といった報告書として、紙に印刷され、渡されていく。
陸軍の司令官たちは、その情報の精度に度肝を抜かれた。彼らがこれまで頼ってきた航空偵察とは比較にならない鮮明さ、そしてリアルタイム性。それは、まるで未来を予見するかのようだった。「これは……空からの偵察か?しかし、これほど鮮明なものを見たことはない……」司令官の一人が震える声で呟いた。日本軍は、これまで経験したことのない正確な敵情報に基づいて防御陣地を構築することが可能になった。
特に、史実で激戦となったシュガーローフの戦いや首里城攻防戦において、この情報は決定的な役割を果たした。日本軍は、米軍の側面攻撃や包囲の動きを事前に察知し、奇襲に対する完璧な迎撃態勢を敷くことができたのだ。予測された米軍の進軍ルートには、周到に地雷が敷設され、伏兵が配置された。結果として、日本軍は予想外の粘りを見せ、米軍の進攻を大幅に遅らせただけでなく、その死傷者を跳ね上がらせた。
情報支援に加えて、海自は護衛艦の艦砲による精密な火力支援も行った。広大な沖縄の戦場において、日本軍の榴弾砲では届かない、あるいは精度に限界のある地点への砲撃を、海自の艦艇が代行したのだ。F35Bが上空から米軍の隠匿された迫撃砲陣地や兵員集結地点を正確に特定し、その座標を護衛艦「むらさめ」へと即座に伝達する。
これらの護衛艦は、史実では日本軍が持ち得なかった精度の砲撃を米軍に加えた。現代の砲弾は、ピンポイントで目標を破壊し、米軍の進軍を阻害する。敵の迫撃砲陣地を沈黙させ、集結した兵士の群れを正確に叩く。これは、日本軍兵士の命を救い、士気を高める一方で、米軍の士気を削ぐ重要な要素となった。米兵たちは、見えない場所から正確に飛来する砲弾に、恐怖と混乱を覚えた。
この一連の陸上戦支援作戦を通じて、戦艦大和と海上自衛隊の艦隊間の連携は、驚くべき速度で強化されていった。当初はぎこちなかった両者の通信も、簡易なプロトコルと中継機を介して、よりスムーズに確立された。両艦隊はリアルタイムで戦況を共有し、一体となって戦い続ける。
大和の砲術長・江島中佐は、海自の提供する高精度な目標情報(GPS座標に基づくデータ)と、ドローンによるリアルタイムの着弾観測を受け、史実ではありえなかった長距離精密砲撃を可能にした。これまでの経験と勘に頼る射撃とは全く異なり、データに基づいた砲撃は、水平線のはるか向こうの米軍艦艇や、沖縄本島内の米軍陣地を正確に叩き、甚大な被害を与えた。
海の底でも、見えない戦いが繰り広げられていた。海自の潜水艦「そうりゅう」は、史実で大和を沈めた米軍潜水艦の存在を事前に察知し、遠距離からの魚雷攻撃でこれを無力化した。静かな海中で放たれた現代の魚雷は、正確に目標を捉え、米軍潜水艦の動きを封じた。
また、F35Bは、米軍の補給船団や増援部隊の潜水艦護衛を事前に発見し、「そうりゅう」や海自護衛艦の対潜能力と連携して、米軍の海上補給線を寸断した。補給が滞り、増援が来ない米軍は、次第に沖縄戦線での優位を失い始めた。
この最初の6日間で、沖縄戦の様相は完全に塗り替えられた。