髪が湧く
「では、そのときカエさんのことをお聞きになったので?」
ダイキチはうなずくと、じぶんでいれたお茶をあじわうようにすする。
「・・・そのころ先生は、この山のみっつほどむこうのお寺にお世話になっておったそうです。あちらにはつながっておらないようで、『水』はいかないが、こちら側では、あちらこちらからつながった山の『水』が湧いております。 ―― その『水』をみたとき、・・・水のなかに女の長い髪をみた、とおっしゃいました」
髪がほんとうに水といっしょに湧いていたわけではございません。 ただ、『女』の残した想いといっしょに、あちらこちらの《湧き水》に、からまりつくようにあふれておりまして。
―― その、いちばん『重い場所』が、どうやら、この池でございましょう、と『ヤオビクニ』は庭を示した。
その『水』にずっと根は浸かったままで、茎をのばし、葉をひらき、
―― 花を咲かせる 蓮 が、風にゆられ、池をおおいつくしている。
さては、ダイキチがみた《あれら》は、この目の前の女がしかけたものか、とあやしむと、「カエさんという方でございます」と、 その、悲しい話をはじめた。




