大切にしたいひととき
唄物師と篠笛師なんかは他の町に居てもいいし物書きと一緒に配置しておくか。
チンピラの量産とかはちょっと後回しだな。
将軍になってからゆっくり町の整理がしたい、今から手を付けて後々手を加え治すのは面倒だからな。
賭博場と遊郭もそんな何処にでも作るもんじゃねえし、なら銭湯だな。
各町で銭湯を作っていつもの湯婆さんと子天狗の三助を配置してっと。
派手に暴れたが、将軍に目を付けられる事はないと確信している。
別に謀反を起こしたわけじゃねえからな。
それに一色重盛も約束通りに動いているだろうしな。
さて、雪之丞は今、代官暗殺の真っ最中だ。
となると、今のうちに……
俺は遊郭へと向かい、花魁の乙女太夫さんを呼びつけた。
遊女に扮しているであろう忍者達を躱し、乙女太夫さんを屋敷へと連れて帰る。
遊女から花魁にクラスアップさせたNPCだが、目の前にいるとかなりやばい。
まず、全然空気が違う。
圧倒的な存在感と底知れない美貌。
来ている物も綺麗だし、触れちゃいけないような圧力を感じる。
「ふ……触れても良いか?」
そう言うと、乙女太夫さんはスっと近づいてきて手を握ってくれる。
「緊張なされているのですね、私が解きほぐしてあげます」
カハァ!
ドキドキして来た!
交換日記から始めるくらいの距離感が欲しい!
だが俺も男だ!
悪代官だ!
落ち着け俺、まずは美しい舞でも見ながら旨い酒に舌鼓を打ってだなぁ……
ひょっ!
俺の胸元あたりに顔が!
そして香の良い香りが鼻孔を擽る!
「あの――舞を踊って欲しいんですが」
「御所望と在らば」
乙女太夫さんが可憐にスっと離れると尚更心臓がバクバクと脈打ち始める!
もうずっと頭の中は「うおお!」っと言うリフが木霊してやばい!
落ち着け!
まずは舞を楽しもう。
乙女太夫さんの舞は可憐かつ妖艶で、いつもなら大燥ぎしながら手を叩いて酒に舌鼓している所だが、ただただ見惚れていた。
なんて美しい舞だ……
舞が終わった時に初めて俺は手を叩き、素晴らしかったと大きな声で感嘆の声を投げかけた。
そして……同じく感嘆の声を上げている奴がもう一人。
「ショコラ、仕事はどうした?」
「えぇん?
今日のお仕事わぁ♪
ご主人さまのぉ♪
護衛でしょ?」
「うむ、もう診療所へ戻って良いぞ」
「だめだめぇ♪
もうお酒は入っちゃったしぃ♪
今日はここで飲み明かすのぉ!」
「はぁ……
ハァーーー」
「溜息おっきぃ♪」
俺はパンパンと手を叩き、忍者にもっと遊女を連れて来る様に頼み、しばらくすると遊女達がぞろぞろと部屋へと入って来た。
「宴じゃうたげじゃー!
であえであえー!」
もう祭りにでもしないとやってらんねえ!
屋敷にいた用心棒や忍者も一緒になってバカ騒ぎする。
酒の用意をしてくれた日葵も一緒になって遊女達の舞を見て楽しんだ。
そして、そのまま酒に溺れて俺はその場で眠りについた。
◇
はあー気持ちよう眠れたわい!
目覚めるとちゃんと布団の中に居る。
たぶん日葵がいつも変な場所で寝たら布団まで連れて行ってくれているんだろうな。
しかし、またチャンスを逃してしまったな。
ん?
布団の中にもう一人いるな、雪之丞でもあるまいし、誰だ?
恐るおそる布団をめくり上げるとそこには……
「お代官様……今しがたご挨拶にお伺いしたのですが……
その、お代官様から手を引っ張り上げ、強引に……」
「ほう、一つならば恥を欠かせるわけにはいかんな!
一つ試すとするか!」
「なんと!
寝ぼけてらしたのでは……
何卒、なにとぞご容赦を!
それだけは成りません!」
「冗談だ。
して、いつもの菓子は持って来ておるのか?」
「はい、どうぞご覧に」
やべー!
いつもの十倍くらいあるぞ。
昨日大暴れしたり、他の代官が襲われてたりするからな。
何かと効果あるんだろうな。
「ほほほう!
これは凄い。
お主もとことん悪よのう!」
「いえいえ!
お代官様程では」
二人して「ガッハッハ」と高笑いをした後、褒美にクラスアップさせてやった。
超越後屋から極超越後屋へと変わり、容姿がまた変貌する……イケメンっぽかったのにムッキムキになっちまったんだが?
こいつだけ進化のしかたなんかおかしくね?
「フシュルルルウ……
お代官様、この綺羅星惹夏流!
これまで以上に!
お代官様の為に働きとう御座います!
具ッ徐武我! 美馬綺羅星! フシュルルルウ!」
「声うるせえええ!
待てまてまて!
なんだお前、そのふしゅううって奴は?
それから、もうそのキメセリフは止めろ!
全くの別もんじゃねえか!
そうだな、これからは“堪忍袋の緒が切れました”と言って服をはち切れ!」
「お代官様の御命令と在らば!
フシュルルルウ……
この綺羅星!
参る!
堪忍袋の緒が切れました。
ぬうううん!」
越後屋は見事に着物をブチブチっと破り、腰に巻いた帯から上がはち切れた!
凄いインパクトだ!
これで行こう!
「見事だ!
励めよ!」
越後屋を帰した後、インパクトが強すぎて何をするのか頭からすっ飛んでしまったのでとりあえず朝飯にする。
パンパンと手を叩いて日葵に朝食を持ってきて貰う。
おお!
今日の朝ごはんは茶漬けと沢庵!
それに、しじみの味噌汁に冷奴か!
昨日浴びる程酒を飲んだからな。
茶漬けは出汁の香りが良い具合に食欲をそそり、大きな梅干しと炙った白身魚が食を進めてくれる。
これの魚……太刀魚か!
焦げた所が香ばしくて、身も塩味を際立たせていくらでも食べられる!
香りが強い所に沢庵が嬉しいな!
風味をリセットして今度は生姜たっぷりの豆腐をミョウガとネギの薬味を挟んで口の中へ放り込む。
この噛み心地良いシャキシャキと、薬味のツンとする感じが淡泊な豆腐の味にアクセントを加えて絶妙!
冷えた口の中を熱々のしじみの味噌汁が、貝の新鮮な風味と共に胃袋に流れていく……
微かに感じる砂の味と匂いが体中を巡りさっぱりとするな!
感謝の意を込めて「ご馳走様でした!」と伝えて頭の中をリセットする。
さて、今日も仕事に励むとするか!




