表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

09 伝説

留守の間、宇宙船の間取り調査は進んでいたが、やはり解析には至っていない。

ドアのロックの様に、簡単に解体しても代わりがきく物とは限らないからだ。

現地の映像と解体した扉のサンプルを元に、本国ではネジ回しやスパナの様な道具を試作させている。

『壊す』ではなく『分解』する為だ。


扉を次々と開いて行き、居住区の様な場所を見つけては、やっと解体してみるが、重要区画と思われる場所との共通点が少なかった。


唯一の発見は、証明のスイッチが判った事だが、現状のエネルギー事情が不明な為に、無闇に点灯できないでいる。

長期間、使用してきたであろうエネルギー源に、急に負荷を増やして停止されては、目もあてられない。

データが消えたり、カプセルの生命維持に支障がでては困る。


ベネディクトが、今回持ち込んだのは、主に充電式の照明と、測定器だ。


システムに手が出せないお陰も有って、宇宙船内の見取り図は捗り、半径五百メートルの円型で、およそ七層から成るらしい事が解っている。



解析が進まない理由の一つに、構造材などに使われている、素材があった。


エイリアンから供給されたセンサーでも、この宇宙船の壁は調査出来ず、扉を閉めると通信すら出来ない。


謎の金属で、多くが作られていた。


「地下深くにも、同じ金属の反応がある。地質探索の結果から判断すると、この大陸が出来た原因となる隕石を加工して、この船は出来ている様だ。」


ディの調査による、この報告を聞いた地球人の一人が、ある伝説の金属の名を呼んだ。


「オリハルコンか?」


アトランティスの都市を彩ったとされる、この大陸だけの素材。

エイリアンであるディ達ですら知らない、この金属の出所デドコロは、別の銀河か?別の宇宙か?

ベネディクトは、最悪の状況を想定してみる。


「場合によっては、物理法則か科学技術が、この銀河の常識から逸脱している可能性も有る。当然、文化様式も異なるだろう。」

「ベネディクト隊長。これは下手にいじるより、使用者の蘇生を優先した方が、安全じゃないでしょうか?」


ディの判断に、皆が同意する。


カプセルから発見されたエイリアンは、地球人に似たヒューマノイドだが、身長が高い。

カプセルを開けなくては分からないが、三メートルクラスの者も居そうだった。


「今、出来るのは、各部屋の状況を把握する事だけだろう。」


ベネディクト達は、見取り図の完成を急いだ。


何度かの休憩や交代を挟み、画像データを集めたり、問題の無さそうなサンプル回収を進めていく。


そうやって、いつもの様にポイント1で進行状況を監督していたベネディクトだが、ある事に気が付く。


「扉の解体した残骸が、減ってるな。」

「・・・・・・」


無線で流れた彼の声に、無言の反応が返ってくる。


「因みに、オリハルコンと言っても、現状では少し硬いだけで、魔物を倒せたり、エネルギーを発したり出来ないからな。」

「金属だから重くて、邪魔になるだけで、ろくに加工も出来ないですからね。」


無線で流したベネディクトの忠告に、副官が加える。


「そもそも、出所を聞かれても、信じてもらえないでしょう?」

「あぁ、ベネディクト隊長。ディですが、我々はサンプルを少し貰っていますよ。」

「了解です。あなた方くらいしか、持ち帰るメリットは無いでしょうからね。」


一時帰国の時に、ベネディクトも資料として研究所へ持ち込んでいるが、それにしても現場では減りすぎていた。

ベネディクトは少し思案して、無線を飛ばす。


「現場を整理するのは感心だが、どこにでも投棄されても困る。ベースキャンプに廃棄箱を用意するから、邪魔なゴミは、そこに廃棄する様に。」


出来心を叱るのではなく、波風立てない様に処理するのも、現場監督の重要なスキルである。





休憩中の隊員達は、話し合っていた。


「これが伝説のオリハルコンかぁ。」

「オリハルコンったって、ただの金属だろ?」

「いや、これで勇者の剣が作れるだろう?」

「確かに硬いけど、それ以前に、加工が出来ないんじゃないのか?」

「・・・・・お前は、夢が無いなぁ。」

「必死に隠して持ち帰って、倉庫で眠っていたり、結局は燃えないゴミで出すのが、夢なのか?」

「でも、アトランティスって、オリハルコンのお陰で、栄華を極めたんだろう?アフリカ大陸にまで勢力を広げたとか?」


「いや、オリハルコンの記述は、建物にしかなかったはずだし、アトランティスの強さは、むしろ、地理的な防御力にあるんだろう。」

「防御力?」


「アフリカ方面から、船で攻めて行くとして、お前も体験した、あの南緯50度付近の大海流を乗り越えた先に、大船団が待っていたら、お前は闘えるか?」

「無理だな。ゲロや胃液を吐いた上に、弱音しか吐けない。」


渡航中の隊員が、『24時間ジェットコースター』と呼んだ、荒海の揺れは、天地が引っくり返る程の物だった。


「アトランティスが攻めに行っても、慣れた荒海だし、乗り越えてから敵船団に遭遇するまでに、立ち直る余裕があるからな。」

「そう言えば、お前は、あの50度を越えた後も、元気だったな?」

「隊長に申告して、特殊スーツを着込み、慣性制御を使っていたから、無重力状態で安眠出来たよ。」

「ズッコイなお前は!」

「でも、そのせいで、南極に着いてから皆が寝ている間に、引継ぎやら説明やら担当させられたがな。」

「ノーリスク、ノーリターンだな。」

「個人でオリハルコンを持ち帰るのって、リスクしか無い様に思うのだが?」

「隊長の言う様に、廃棄箱に入れるのが、妥当か・・・・・」




◆◆◆◆◆




内部の探索が、ある程度終わったので、宇宙船の周辺部を探索する事になった。


エアロックを見付ける為に、あからさまに壊した石壁なども有ったが、これからは、可能な限り、当時の状況を保存して、宇宙船解明のヒントになる物を探す。


壁と思われる物を薬剤で堅め、氷と土砂を取り除いていく。


地下1キロメートル近いので、氷の天井や壁面が壊れない様に、鉄製の柱や壁で強化する。


一番の問題は、狭い坑道と、人手不足だ。

機密性を高める為にも、人員の増加は望めない。

重力制御などを使い、大量の資材をマンパワーだけで運び、組み立てていく。

重機などを持ち込むと、直ぐに沈むし、酸欠でエンジンはかからない。

エイリアン技術を使った建設重機と言うものは、今のところ無いし、今までは必要も無かった。


諜報部員や科学者である彼等は、畑違いの作業ばかりをやっていた。

そんなある朝のミーティングで、ベネディクトが中間発表を行った。


「途中経過を述べよう。遺跡についてだが、正直に言って、よくわからない。」

「・・・・・」


隊員達の顔には、あからさまに『はぁ?』という感情が現れている。


「遺跡だと思っていたら、エアロックや、コールドスリープカプセルが有って、宇宙船の様に思えた。」


隊員達が、一様に頷く。


「しかし、周囲を発掘していくと、原始的な住居や施設があり、それが宇宙船を飲み込む様な形で、存在している。」


そう。宇宙船は、街が邪魔をして、飛び立てないのだ。


「宇宙船が、完全なオーパーツやモニュメントとして使われたなら兎も角、複数あるエアロックは通路として使われ、内外に共通の日用品も存在した。」


「客観的には、宇宙船を城として流用していたとしか思えないが・・・・この状況に、他の見解を持つ者は居るか?」


ここまで、ベネディクトの独壇場だが、実際には、何人かの部下の意見を纏めたに過ぎない。

一度、少人数での検討会を経ての報告だ。


「隊長!」


皆の意見を聞こうとしていた彼の背後から、呼び掛ける声がした。


ここの外壁は、電波を通さないので、ベネディクトか誰かが、このポイント2で外部のベースキャンプとの、中継を行っているのだが、無線では足りない報告の様だ。


「どうした?」

「たった今、コンテナ基地から届いた報告です。」


コンテナ基地からと言う事は、12時間以上前の報告だ。

ベネディクトは、部下から情報パッドを受け取ると、目を見開いた。


「隊長?特別な指令ですか?」


様子の変化を感じた部下が、彼に問いかけるが、ベネディクトは、少し考えて情報を整理している様だった。


「あぁ、済まない。研究所からの報告で、コールドスリープのシステムが判明た。基本システムの特長と、蘇生の目処メドがついて、準備をしているそうだ。近々、専用の工具も届く。」

「おぉ!これで、やっと解析がすすむ。」


特に喜んだのは、ディだった。


「それから、運び出した遺体だか、通路に有ったのは地球人で、カプセルに入っていたのは、地球人の亜種か、別種とのハーフであると判明した。」


物のサイズや使い方は、同型の生物であれば類似する。

隊員の間にも、納得な表情が流れる。


「本国からの報告は、こんな所だ。皆、無理をしないで、安全な作業に心かけてくれ。」

「「「はい!」」」


一斉に作業に入った配下達を横目に、ベネディクトはエイリアン二人組を呼び止めた。


「お二人には、別にお話しが有ります。有線通信に切り替えて下さい。」


ベネディクトは、ヘルメットからコードを伸ばす。

傍受される無線通話で話せない事は、有線で繋いで秘匿性を保つのだ。


「カプセルから発見された、地球人の亜種なのですが、特別な遺伝子をしておりまして・・・」

「特別?」

「標準的な地球人は、23本の遺伝子を二組で、46本の遺伝子を持っているのですが、あの遺体は、24本の遺伝子を三組持っていたのです。」

「それは、別種ではないのか?形状は酷似していたが。」


ベネディクトは首を横に振る。


「地球人の中にも時おり、遺伝子の数が多かったり、部分的に組数が多いトリソミーと呼ばれる者が居ます。身体の巨大さは、トリソミーに有りがちな特長です。それに、遺伝子配列も、現存人類と酷似し過ぎています。」

「そう言った地球人の一種だと?」

「いいえ。ここまで酷いと、誕生すら有り得ないのです。」


地球人の生態に詳しくないエイリアン二人は、更に首を捻る。


「ベネディクト隊長。君の所見を聞かせてくれ。」


「地球の宗教上の存在に、人間と交配可能な巨大人類の記録があります。更に、彼等の名前は72文字とも言われているのです。」

「合計72本の染色体。君は、あれが地球の『神』だと言うのか?」

「アトランティスを支配していたのは、ポセイドン神と、その子孫です。あながち、的外れとも言いがたい。」


ギルガメッシュ叙事詩でも、ギルガメッシュは三分の一が神だとかかれている。

一般には、肉体、霊、命の内の一つと思われているが、遺伝子がトリソミーならば、頷ける。


「宇宙人が地球に飛来し、環境や人類を作って、支配していたと?確かに、それならば、この遺跡の形態も理解出来るが・・・・神父である君が、そんな見解を持っていて、大丈夫なのかい?」

「だから、お二人だけにお話ししているのです。今は宗教関係の仕事をしていますが、大学カレッジでは生物学を専攻していたので。」


ディ達は頷いて、有線を解除した。


「ディさん。エルさん。この件はプライベートな相談なので、御内密に。」

「確かに。了解した。」


「作業員各位。研究所から届いた、システム概要のデータを転送する。充分に理解してから着手する様に。」


ベネディクトは、無線を終えると、情報パッドのデータファイルを、皆に転送した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ