艶街(いろまち) 前編
月と星が地上を照らす。しかし昼間のような明るさは無い。
そんな闇の中で、淡く光を放つ町がある。 遊郭だ。
女達が街に立ち、あるいは家の窓から、男達に視線を送る。
着物からはだける白いうなじが、男達の欲情を掻き立てる。
「やっとこの日が来た」
三十歳位の男が呟いた。その前を提灯を持った老婆の姿が見える。
男はふらふらと老婆の後を歩く。仕立ての良い着物を着て、品よく見えるが、目のぎらつきに粗暴さを感じさせる。
「これだけ待たされたんだ、今晩は散々可愛がってやる」
男は賑わう通りから、路地へと入っていった。
路地の向こうに朧気な明かりが灯っている。
男は明かりの方へと、ふらつきながら歩を進めた。
表通りの賑わいが届かない静かな通りに、薄い明かりが灯る屋敷が見える。
「着いたか」
男はぎらついた目で屋敷の門をくぐった。
玄関の前に違う老婆が立っている。
「約束は守ったかえ」
「ああ」
老婆のくぐもった声に、男は答えた。
老婆は男に視線を送り、静かに頷き、玄関の戸を開け中へと導いた。
長い廊下が見え、脇に置かれている灯篭が、男の行き先を示すように灯っている。
男は雑に草履を脱ぐと、目的の部屋が分かっているのか、わき目も振らず、一つの部屋の前に立った。
「来たぞ!」
中からの返事を待たずに襖を開ける。
布団が敷かれた部屋の奥に、女が座っていた。
女は赤い寝間着で、はだけた着物から白い脚が見え、艶っぽい太股が男の欲情を掻き立てる。
顔は幼く見えるが、ゆるく着ている着物から覗かれる胸元の豊満さが、さらに男の欲情を掻き立てた。
「約束は守ったかえ」
老婆と同じ質問が女からでた。しかし老婆のようなくぐもった声ではない。妖艶な声。その声で耳元に囁かれたなら、何振りかまわず、女を押し倒してしまうだろう。
「一か月、女を抱いていないぞ」
「自慰もかえ」
「当たり前だ。お前を抱くためなら、全てを我慢する」
男は話しながら、自分の着物を脱いでいき、全裸になった。
女は男の前に近づき、男自信を優しく撫で口元に笑みを浮かべた。
女が自信の着物を脱ぎ、布団へと男を誘う。男はためらう事なく女の布団に入り込んだ。
男が女の愛撫を受けるだけで何度も昇天を迎える。何度も何度も。
やがて男は快楽の中、意識を失っていった。
男は消えていく意識の中で天井叩く雨音を聞いていた。
「先程まで月が出ていたのに雨か・・・」
快楽の中、男の意識が途絶えた。
翌日、遊郭に近い河川敷で男の遺体が発見された。
男の遺体に目立つ外傷が見つからなかった。ただ一つ、男の陰嚢内の睾丸が無くなっている事以外は。
「殿の様子はどうなんじゃ」
城内の一室で 小濱藩家老の山江康之右が、部下に声を掛けた。
「はっ、普段と変わらないように見受けられますが」
「そうではない、側室を迎えておるかという事じゃ」
「・・・その件でしたら、ここ二十日位は迎えていないかと」
「むむむ」
部下の返事に山江は顔をしかめた。藩主の酒井忠園は今年で三十を迎えるというのに、世継ぎがまだいない。正妻との子はあきらめ、側室からでも子をと考え、色々な女子を側室に入れていたのだが、先日視察と称して見回った艶街から帰って以来、側室との行為を拒んでいるという。当然正妻との行為も行われている様子はない。
「このままでは後継問題でややこしい事になるぞ」
「・・・そういえば」
「なんじゃ」
「殿が時折、城の中を徘徊していると報告が」
「徘徊?」
報告によると、見回りの途中で兼久がふらふらと廊下を歩いていて、声をかけると我に返ったように、自室の戻るという。
「それは妙な・・・ 何かの病か?」
「いえ、昼間は職務を普通にこなしておりますゆえ、病ではないかと」
「他に変わった事は?」
「徘徊の時に、「もうすぐだ」とぶつぶつと呟いていたそうです」
「もうすぐ? 何がだ?」
「わかりません」
山江は顔を顰め、天井をあおいで大きく息を吐いた。
世継ぎ、世継ぎと忠園をせかし過ぎたのかもしれないと山江は思い、部下に下がるように命じ、夜の見回りの人を増やし、殿の行動に注意するように命じた。
「ご隠居、そろそろ宿に落ち着きましょうか」
「そうですね、中々賑やかな町なので、見入ってしまいました」
「それだけ藩主酒井様の政が上手いのでしょう」
「忠園殿は努力家で有名ですからね」
三人連れの旅の者が宿を探し始める。水戸光圀公と佐々木助三郎、渥美角之進の三人だ。
賑わいのある町に入り、生き生きとする人々、活気のある町を見て、三人の顔に笑みがこぼれる。
「おめー、まだ次のめのうが出来ねぇのか!」
人の往来が多い通りに面する店先で、怒鳴り声が聞こえた。
「そんな職人はいらねえ! 出ていけ!」
若い男が店から放り出された。助と角が男の元に走り、身体を支える。
「大丈夫ですかな」
光圀が支えられて起き上がる男に笑みを見せた。
「誰だ、あんたら」
店の前で白髪混じりの初老の男が光圀達を睨んだ。
「いえいえ、私達は旅の者で、越後のちりめん問屋の隠居、光右衛門ともうします」
「旅の人には関係ない話だ、向こうに行ってくれ」
初老の男は光圀達をあしらうようにした後、若い男を見た。
「清吉、お前にめのう細工の職人は無理だ」
「お、親方・・・ お、俺は・・」
清吉は角と助に頭を下げた後、初老の男の前に跪いた。
「親方、すみません。作業に集中できていなかった俺が悪いんです。もう一度お願いします」
「・・・・」
清吉の言葉に初老の男は黙り込んだ。本気で彼を追い出すつもりはないように見受けられる。
「親方さん、様子を見てやってはどうですかな」
光圀は親方が許しやすいように言葉をかける。店から清吉を叩き出した手前、許しにくかったのだろう。
老人の言葉に静かに頷き清吉を見た。
「親方さん、よろしければ私達にめのう細工を見せて貰えますかな」
「あんたらめのうに興味があるのか?」
「はい、若狭のめのうは有名ですから、以前から若狭に来れたら拝見したいと思っておりました」
自分のたづさわる仕事に興味を持っていたと聞き、親方は光圀達に心を許し、店の中へと案内する。
親方は自分を清兵衛と名のった。店内にはめのうで作られた動物や、茶器が並べられている。
「見事ですな」
光圀はその出来栄えに感嘆の声を上げる。
「ははは、気にいってもらえたようで何よりです」
清兵衛は光圀達の反応に頬を緩め、めのう細工の説明をはじめた。
「これは清吉が作ったものです」
「ほう、立派な茶器ですな」
「そうなんですよ、しかしここの所、こいつが作るものは酷い物だらけで」
「それで先程のような事に」
親方が清吉の方を見た。清吉は項垂れながら店の奥へと引っ込んで行った。
「艶街に行ってから、色ボケしやがって」
「艶街ですか」
「いやいや、こちらの話ですよ。明日で良かったら工房の方をお見せしましょう」
「よろしいのですかな」
光圀のめのうに対する興味津々さが嬉しいのと、弟子との仲を取り持ってくれた事もあるのか、親方は光圀達に泊まっていくように声を掛けた。
用意された部屋で寝ていた光圀は、微かな妖気なような物を感じて目を覚ました。
「ご隠居、どうかされましたか?」
光圀の動きに助と角も起き上がり、辺りを伺う。
ガタ!
店の方で物音がした。
三人が店の方へと向かうと、清吉が虚ろな目をしながら、店の外に出ようとしていた。
「もうすぐだ」
清吉が呟いた。
「清吉さん」
助が清吉の肩をつ掴んだ。
清吉は、ハッとしたように我に返り、助三郎へと振り返った。
「何がもうすぐですか?」
「え? 何がですか?」
清吉は訳が分からない顔をして光圀達を見た。
「清吉、またか!」
清兵衛が物音を聞きつけたのだろう、店内へとやって来ていた。
「ご隠居さん達すみません。こいつ寝ぼけてるんですよ」
清兵衛が清吉を部屋へと連れていく。清吉の後ろ姿を見つめながら光圀は顎鬚をなでた。
翌日、清兵衛のめのう細工の工房見学した。清吉は傍から見ても分かる位にそわそわと集中力がない。そんな清吉を無視して清兵衛はめのう細工の説明を終えた。本来なら旅立つ予定だったが清吉の様子が気になり声をかけた。
「清吉さん、何がそんなに気になるのですかな?」
「ご隠居さま・・」
清吉は首を項垂れ、黙り込んだ。
「すみません、ご隠居さん。こいつには後で言って聞かせますので」
清兵衛もせっかくめのう細工を真剣に見てくれる客人に失礼と思い、光圀達に頭を下げた。
「清吉さん、ひょっとして、ある女のために自慰を我慢していますか?」
「な、何故それを?」
清吉は顔を赤らめ、上げた顔を再び下に向けた。
「清兵衛さん、彼は呼ばれているようです」
「呼ばれている。 …誰にですか?」
「人ではありません。狐です」
「狐!」
清兵衛は訳が分からない顔で光圀を見た。光圀は以前知人に同じような事があったと自分の正体を隠し、清吉の肩に手を置いた。
「清吉さん、艶街で何があったか教えてください」
清吉は項垂れながらも口を開く。
「先日、初めて艶街に行きました」
清吉は艶街での出来事を語り始めた。初めての艶街で、舞い上がってしまい、訳が分からず歩いていると、老婆に手を引かれ町から裏通りへと連れて行かれた。そこには屋敷があり、中で一人の少女に出会った。少女と呼ぶには豊満な身体と溢れる色気を醸し出し。実際の年齢は分からなが、幼く見える顔が妖艶の笑みを浮かべ、体中から発せられる色気に、すぐさま欲情を掻き立てられたという。
「私を抱きたいかえ?」
女は問うてきた。清吉はすぐに首を縦に振った。
「なら、一月は溜めらんにゃんせ」
「一月・・」
「その間、他の女を抱いてはなりんせん。自慰もです」
「そしたら俺の相手をしてくれるのか」
女がスーと滑るように清吉に近付き、唇に彼女の指をあてた。それだけで清吉は逝きそうになった。
彼は堪えるために目をつぶった。目を開けると、艶街から離れて河川敷に立っていたという。
「それからです。あの女の事が頭から離れず、作業に集中できないんです。親方、すみません」
清吉は唇を噛みしめ涙を流した。よほど清兵衛の期待に応えられない自分が許せないのだろう。
「親方、俺はどうしたら?」
「・・・ こういう時は陰陽網に」
「しかし、今から陰陽網に伝えても、間に合わないかもしれません」
陰陽網を口にした清兵衛に光圀は助言する。清吉が艶街に行った日からもうすぐ一月になる。陰陽網からの使いが間に合うかどうか微妙な所だ。
「清兵衛さん、知人が狐に呼ばれた時、私達も立ち会ったのです。少しは知恵があります。ご協力しましょう」
光圀は逞しい角之進と凛としている助三郎を交互に見、我々が力になりますと安心できる笑みを見せた。そして同じように狐に呼ばれている者がいる可能性が高い事を告げ、陰陽網に報告してもらうように促した。
いつの間にいたのか、黒い猫が光圀の足元で鎮座している。光圀が頷くと黒猫は一鳴きした後、町の奥へと姿を消した。
闇が支配する中で月が夜を照らす。
月明かりの中、揺れる光が一軒の家の前に止まった。 清兵衛の店の前だ。
清吉 清吉 迎えにきたえ
頭に届く声で清吉は布団から出て玄関へと向かう。
コトリ!
かかっていた閂が外れ、床に落ちた。
清吉がふらふらと玄関に向かうと、滑るように戸が開き、夜の風が店の中に入ってきた。
風と共に異質な気、瘴気が店へと侵入していく。
瘴気が清吉以外の人を深い眠りへと誘う。
清吉が外に出ると、薄い明かりを放つ提灯を手に持つ老婆が立っていた。
「やっとこの日が来た」
清吉の目が欲望でギラついている。
「我慢できたようだね」
老婆が嫌らしい笑みを浮かべ、導くように清吉の前を歩きだす。
「そこまでです」
老婆の前に白髪の老人が、ゆっくりと立ちはだかった。 光圀だ!
光圀は懐から葵退魔銃を取り出し、素早く引き金を弾いた。
老婆は提灯を地面に落とし、右側に飛び退く。とても老婆の動きではない。
葵退魔銃の銃弾が地面へと消える。老婆の落とした提灯の火もゆっくりと消えていった。
薄い月明かりだけの中を闇が支配していく。老婆は自分の位置を悟らせないため、わざと明かりを捨てたのだ。
濃い闇の中、光圀は用意していた呪符を手から離した。呪符は淡いガスの炎に包まれている。
呪符は風にのるようにゆらゆらと闇の中へと飛んでいく。
グェーーーーー
闇から悲鳴が聞こえた。悲鳴というより、獣の雄たけびのようだ。
月明りの中、頬に呪符を貼り付けた老婆が、赤い目を光らせ、苦しそうに光圀を睨む。
グォー!!! グゥーーー
老婆は顔の肌と一緒に呪符をはがす。はがした個所から赤い血が流れ、白い骨が見えた。
ギャワーーーーー
老婆が大きくなっていく。鼻が飛び出し鋭い犬歯が顔の皮を破る。着物も破れ、獣毛が身体を覆う。
老婆だった者は四つん這いになり、二メートル近い大狐へと変貌していく。
大狐の頬は血だらけで歯茎かむき出しとなっている。しかしそこからのびる犬歯は鋭い。口から垂れる唾液が地面に落ちた。
「俺の邪魔をするなー!」
清助がぎらついた目で光圀に殴りかかってきた。
大きな影が光圀の前に立ち、清助に当て身をくらわす。角之進だ。清助はその場で倒れこんだ。
グォーーーーーン!!!
大狐が角に飛びかかる。角は素早い回し蹴りで、狐の横っ腹にヒットさせた。
ドサ!
狐は地面へとたたきつけられた。角のひと蹴りで内臓が破裂して動きにくくなっているのだろう。
それでもよろよろと四つ足で起き上がり、赤い目で憎憎しく光圀を睨んだ。
「助さん!」
助が狐の前に立ち、妖刀暁宗で大狐の首を一振りで切り落とした。
ギャコーーーーーーン!!
地面に落ちた首が放つ最後の遠吠えが、闇の中で響いた。
「これで終わりなのでしょうか?」
朝、清兵衛は店の前の血だまりを見て、腰を抜かしそうになった。
大狐の遺体は、助が暁宗に妖力を吸わせると、骨となり、もろく崩れて風に運ばれたようだ。
事のあらましを聞いた清兵衛は、血だまりに水をかけながら不安な顔をしている。
「いえ、狐の縛りが取れたわけではありません」
「えっ! 狐を倒したのでは?」
「倒したのは、使いの狐です。まだ大元の狐が清吉さんを狙っています」
「ど、どうすれば」
「まずは清吉さんの縛りを解かねばなりません」
「はあ・・ ・・」
不安な顔のまま清兵衛は光圀を見た。
「ご隠居様は、一体何者なのですか?」
「はははは、私はただの世話好きの爺ですよ」
一通りの片付けを終えた光圀達は、寝かされている清吉の部屋へとやってきた。
角の当身で気絶した清吉は、起きる気配がない。角の当身が原因ではなく、狐に魅入られているのが大きな要因のようだ。
「助さん、変わりはありませんか?」
「はい、時々うわ言のように「もうすぐだ」と繰り返しますが」
「やはり縛りは解けていませんね」
ドンドンドン!
光圀達が話していると、店の戸を叩く音が響いてきた。
清兵衛が対応の為、席を立ち店へと向かった。
「すみませんが、今日は休ませていただいております」
清兵衛が戸越しに声を掛けた。
「町奉行所の者だ!」
「奉行所!」
清兵衛が慌てて戸を開けると、役人達がなだれ込むように店の中に入ってきた。
「清吉はおるか!」
「せ、清吉ですか・・ 清吉が何を?」
役人の勢いに押されながらも、清兵衛は訳が分からず尋ねる。
「清吉には、めのう細工盗作の罪が掛けられたのだ」
「盗作!? そんな馬鹿な!」
先月に行われた、藩主主体の品評会に確かに清吉に出品させたが、盗作なんてあり得ない。
「何かの間違いでは」
「藩主酒井様直々の命だ! 清吉を連れて行く!」
「せ、清吉は今病で寝ております、無理です」
「関係ないは!」
役人達は土足で清吉が寝ている部屋まで上がり込んできた。
「やれやれ、乱暴なお役人様ですな」
白髪の老人が静かに呟いた。その横に座る、角が静かな殺気を放つ。
「なっ! 何奴じゃ!」
角の圧にを跳ねのけようと、役人が大声でどなった。
「大きな声は病人に悪影響ですよ。私は清吉さんの病気を診ている者です」
光圀の言葉で、役人が初めて清吉を見た。
「確かに病のようじゃな。しかし上様の命令だ上様の。清吉は連れて行く」
役人は角の顔を伺いながら、上様の命令という言葉を繰り返した。
「わかりました。それでは私達も付いて行きます」
光圀、角之進、助三郎が立ち上がった。
「そ、それは・・・」
役人は拒むように呟いたが、角の頭上からの睨みで、すぐに了承した。
「この二人は私の助手です。ご同行よろしいですな」
光圀は角と助を交互に見て、役人に笑顔を見せた。
渋々役人は了承し、目覚めない清吉を板の上に乗せ店から出ていく。
「ご、ご隠居様・・・」
「心配はいりません。私達に任せてください」
不安気な清兵衛の肩を叩き、光圀達は役人と共に店から出て行った。
清兵衛は何も出来ない自分の不甲斐なさと、光圀達に申し訳ない気持ちをかかえながら、三人の背中を見送った。
光圀達は奉行所ではなく、直々に城へと連れて行かれた。
「何故、お城なのですかな?」
城への道中、役人へと尋ねる。
「う、上様から城に連れて来いとの命令じゃ」
普段なら平民ごときの質問に答えるはずもないのだが、角の睨みで素直に応える。
「ほう、上様の。上様の行動におかしな所はないですかな」
「な、何を言っておる!」
角の睨みでも、城内での噂は話す事はできず、役人は少し狼狽えながら足を速めた。しかしその役人の狼狽が表すように、城で何か起きていると光圀は確信した。
城の門をくぐる時、光圀の視界の端に、一瞬だが確かに老婆の姿が見えた。
光圀は素知らぬ顔で門をくぐり、城の中へと入っていく。
役人達が城に入り門が閉められる。閉ざされた門の内側に揺らぎが現れ、ゆっくりと老婆の形になった。老婆の赤い目が光圀の背中を刺すように睨む。やがて老婆の姿がぼやけていき、赤い目だけが霧のような瘴気の中に残っていたが、それも静かに消えていった。
太陽が少し傾き、陰りを見せ始めていたが、雨雲の姿はみえない。しかし、城内を歩く光圀達の足元を、小さな雨粒が濡らしていた。




