5話
家庭教師の黒崎翔蓮が紹介されてから1週間が過ぎ去りましたが、あの方、鬼ですわ。あんなに難しいことをこんな子供に教えますの?高校生レベルを教えて子供がついていけるわけありませんもの。あの方が他の子の家庭教師でなくてよかったと思う日が来るなんて思ってもみませんでしたわ。
「お嬢様、考え事中申し訳ありません。旦那様がお呼びでございますわ」
「おとうさまが?わかりましたわ」
私が思考に没頭しているときは邪魔をしないように話しかけてこない詩緒理が珍しく話しかけて来たと言うことは急ぎの案件であると言うことですわね。あまり気は進みませんが行くことにいたしましょう。私は行きたくない気分である重い腰を上げ、お父様の部屋へと向かいました。
お父様の部屋に向かうとお父様の横に1人の少年が立っていることに気づいた私は思わず固まってしまいました。その少年は整った顔をしており、茶色がかった髪でその瞳はまるでアメジストのような素敵な紫色をしておりました。
「すてき・・・アメジストみたいですわ」
「えっ・・・」
「しつれいいたしました。わたくしはれいかともうしますわ」
思考の海に飛び込んでしまっていたようでして、無意識に何か失礼なことを言ってしまったようですが、必殺話すり替えーるでなんとか誤魔化しました。
「ぼくは、あつやです。おねがいします」
「敦也は、私の弟の息子だ。・・・この間の事故で弟夫婦がなくなってしまったため、引き取ることになった。仲良くしてやってくれ」
「わかりましたわ。わたくしのことをほんとうのあねのようにおもってくださいませ」
「は、はい」
お父様の弟夫婦の話は聞いていましたし、一人息子がいたことも前世の記憶もあり覚えておりましたが、実際に対面をしてしまうとなんと声をかけたらいいのかわからなくなります。私がもしその立場であったとしたら同情はいりません。ですが、嫌われるのは嫌ですわ。ですから私は受け入れる言葉を選びました。
挨拶を済ませた私たちは、まだ仕事のあるお父様の部屋を後にしました。まずは、私の部屋に敦也をご案内すれば雅久が少し拗ねたような表情を浮かべていました。
「お嬢様、雅久の事は気にしないでくださいまし。お嬢様を他の者に取られたと拗ねているのですわ」
「まぁ、わたくしはまさひさのこともだいじですわよ」
「うれしいおことばです」
拗ねている雅久に本音を伝えれば照れたような表情を浮かべて喜ばれてました。それをどう接すればいいのかわからない敦也は戸惑った表情を浮かべていました。
「あつや、このやしきにはたくさんのしようにんがおりますわ。このふたりはしおりとまさひさ。わたくしのしようにんけんごえいですの。なにかありましたらふたりにつたえていただければすぐにわたくしにつながりますわ」
「わかりました、おねえさま」
おねえさまと呼んで照れたように笑顔を浮かべる敦也を見て私は必ずこの子と家族を守り抜こうと誓いました。