不安と決意の朝
――翌朝。
サフィニアはいつものように、
まだ薄明るい6時に目が覚めた。
「ん……」
少しだけ目をこすり、
身体を横に向ける。
隣のベッドでは、ヘスティアが
小さく寝息を立てている。
「フフ……よく寝てる」
サフィニアは愛しげにヘスティアの
金の髪を撫でると、起こさないように
静かにベッドを降りた。
洗面台へ向かい、朝の身支度を終えると
鏡に映る自分の顔をじっと見つめる。
そこには、ナディア王女そっくりな自分の
姿が映り込んでいる。
(今日はアドニス様と一緒に先王陛下と
国王陛下に結婚の話をしに行く……。
この国の後を継ぐ王女になるのに
私との結婚を、お許しいただけるのかしら……?)
アドニスからのプロポーズは
天にも昇りそうなほど嬉しかった。
けれど、彼はミレア王国の王太子。
そして自分は、これからオケアリオン王国の
養女になる身。
(私のせいで、大きな問題が起きたら
どうすればいいの……?)
それに、やはり気がかりだったのは
エリーゼと宰相。
アドニスは何があっても2人から守ると言ってくれたものの、
それでも不安な気持ちが
拭いきれずにいたのだった――
****
――7時少し前。
着替えを終えて部屋に戻ると、
ヘスティアが慌てて朝の支度をしていた。
「おはよう、ヘスティア。
目が覚めたのね?」
「あ! サフィニア様!
申し訳ございません!」
「何故謝るの?」
「だ、だって私はサフィニア様の侍女なのに……
寝過ごしてしまって……」
俯くヘスティアにサフィニアは
笑顔で答える。
「いいのよ。気持ちよさそうに眠っていたから
起こさないようにしてたの」
「サフィニア様……本当になんてお優しい……」
ヘスティアが目を潤ませたその時。
扉の向こうからノックの音が響き、
メイドの声が聞こえてきた。
『サフィニア様、
お目覚めでしょうか?』
「私が行きます!」
ヘスティアは急ぎ足で扉へ向かい、
大きく開け放つ。
すると料理の乗ったワゴンを押した
城のメイドが
丁寧に頭を下げた。
「サフィニア様、
朝食をお持ちいたしました」
「ありがとうございます。
そこに置いてください」
ワゴンには焼きたてのパンにオムレツ。
美しい彩の温野菜にフルーツの盛り合わせが
並んでいる。
「ごゆっくりお召し上がりください」
お辞儀をしてメイドが退出すると、
ヘスティアは、いそいそと料理をテーブルに並べて
誇らしげに言った。
「サフィニア様、
朝食のご用意が整いました!」
「ありがとう、ヘスティア。
いただきましょうか」
「はい!」
2人はテーブルにつき、
サフィニアは軽く祈りを捧げると
ナイフとフォークを手に取った。
けれど、サフィニアの顔は浮かないものだった。
(……もし、アドニス様との結婚を
先王様と国王陛下に反対されたら……)
そう思うと、身体がわずかに震えた。
ヘスティアはすぐに様子がおかしいことに気づき、
心配そうにサフィニアの顔を覗き込む。
「サフィニア様……どうかしたのですか?」
「……い、いいえ。何でもないわ」
ヘスティアを心配させないために、
サフィニアは笑みを浮かべた。
「もしかして、結婚のことですか?
先王様たちに反対されると思ってるのですか?」
「え!? どうして分かったの?」
するとヘスティアはそっと手を重ねてくる。
「ヘスティア……?」
「大丈夫です。サフィニア様は、
どなたから見ても、恥ずかしくないほど素敵です。
反対なんか絶対にされませんから。
何の心配をする必要もありません」
「……ありがとう、ヘスティア」
無邪気なヘスティアに言われると、
少しだけ自信が湧いてくる。
「それじゃ、いただくわ」
気を取り直したサフィニアは食事を口に運んだ――
――9時
2人は食後の紅茶を飲んでいた。
「美味しい食事でしたね、サフィニア様」
「ええ、本当ね」
その時。
――コンコン
部屋にノック音が響き渡る。
「きっとアドニス様ですよ!」
「いいのよ、私が出るわ」
立ち上がろうとしたヘスティアを
サフィニアは止めると、代わりに
扉に向かった。
カチャリと開けると、朝日に照らされた
正装姿のアドニスが笑顔を向けて立っている。
「おはよう、サフィニア。
よく眠れたかい?」
「は、はい。おはようございます。
アドニス様」
今のサフィニアはアドニスを見つめるだけで
胸の鼓動が高まる。
「良かった……なら、行こうか」
アドニスが左腕を差し出した。
「はい、行きます」
その腕にそっと手を添えると
ヘスティアが2人に大きな声で言った。
「お二人とも、行ってらっしゃいませ!」
「ああ、行ってくるよ」
「行ってきます、ヘスティア」
2人は笑顔で手を振るヘスティアに見送られ、
国王の元へ向かった――




