第7話 《緊急》救出クエスト
冒険者組合長のショーンは、中庭で狼煙を上げさせ、城壁塔の守衛騎士に、非常事態を知らせる鐘を鳴らさせた。
騎士達が急ぎ中庭に集結し始め、街にいた冒険者組合員も大急ぎで中庭に集まり出す。
その中には、二日酔いで酒臭い息を吐くドワーフ族の重戦士グスタフや、熟年した精霊魔法使いのドルイドエルフのリーアム、そして甲冑に身を包んだ騎士トーマスらS級冒険者達も姿を見せた。
「騎士隊整列、番号!!」
『1、2、3、4、5、6、7、8、9!」
ショーンお抱えのベルンファースト騎士団も、中隊を編成し、小隊が三列縦隊で整列して領主の到着を待つ。
一方ショーンは魔力を使用して通信ができる魔法の水晶鏡で、王都ダブリンスにある王宮の侍従長に連絡をとっていた。
「魔王軍復活だと……まことかマクドネル伯?」
「はい、アーサー侍従長。我がベルンファースト城に突如魔王軍大幹部ワイドが出現し魔王軍復活を宣言! これをわたくしと新米冒険者が討伐いたしました」
ショーンの報告に、侍従長のアーサーは顔をしかめる。
その顔には、無断かつ面倒を起こした成り上がりの伯爵家の若造と、口に出さなくてもわかるくらい、拒絶めいた表情をしている。
「なぜ無断で討伐を? 聖王陛下のご聖断もなく」
「いえ、やらなければ私も領地も魔法で消されてしまうかもしれませんでしたので。教会にも今し方、報告を済ませております」
「わかった。それでは聖王陛下のご聖断を仰ぐゆえ、早馬で王都に参るが良い。直接陛下に卿が詳細を報告せよ」
通信が終わり、ショーンは苛立ちながら執務机を蹴っ飛ばした。
「クソジジイ!! 全世界の危機なんだぞ!! クソが、王宮のクソボケ共が!! 俺の方が爵位が下だからって下に見てきやがってクソ!!」
「ショーンちゃま!! 落ち着くザマス」
部屋で当たり散らすショーンに、母親でもあるマクドネル伯爵夫人がたしなめる。
出身はアイランド南部のボイル家の長女として生まれ、ハイランド聖王国貴族社交界の花とも呼ばれたが、30を過ぎて同じくプレイボーイとして名高いマクドネル伯爵と婚姻し、現在に至る。
「このハイランドでは、王家、公爵家、侯爵家、教会庁は絶対! 聖王陛下へ謁見するために準備するザマス」
「わかったよママ」
妹のアリスが水の入ったコップを手渡す。
「お兄様、きっと聖王陛下ならお兄様の話に耳を傾けてくれるはずです。外で皆様がお待ちです」
「アリスちゃまのいう通り、下々の者達に声をかけてやるのも、当主のお役目ザマス」
ショーンはコップの中身を飲み干すと、空のコップを侍従に渡す。
「ありがとう、行ってくる」
ショーンは転生後の家族を大事にしている。
今まで生きて来て父を知らなかった彼は、初めてこの世界で心の底から父親と呼べる存在。
自身をしてクソお世話になったという、今は亡きマクドネル伯をパパと慕い教えを受け継ぎ、自身の母を大事にして、年は離れているが初めて出来た妹を愛していた。
ショーンは剣を腰に差して、中庭に集まった騎士団や冒険者達の前に立つ。
「みんな聞いてくれ! 魔王軍が復活した!! 伝説の魔王アトムが率いた恐ろしい奴らだ!!」
集まった冒険者達や、騎士達はすでにことの詳細を目撃者達から聞いており、アイアンという新人冒険者の活躍も耳にしていた。
「それに聞いてくれ、みんな! 俺たちの仲間、冒険者3名がゴブリン達に囚われているという。だが、これは罠で、おそらくは伝説の魔王軍も待ち受けてるはず」
するとS級冒険者の戦士達は、魔王軍復活の報に心の底から嬉しそうに笑う。
「ほほう、伝説の魔王軍相手とは腕がなるのう」
「そのバトルアックスを持つ手震えてるぞ。酒の飲み過ぎか、武者震い、どちらだねグスタフ」
「ガッハッハ、武者震いじゃ。久しぶりにお前の剣技を間近で見られるのうトーマス」
ドワーフの戦士グスタフは、ゲルマニア聖騎士団領内のエルプ鉱山都市群出身で、父も祖父も鉱山を死守するために魔王軍に立ち向かい、戦死したという。
このため先祖の仇討ちと、100年前世界最強と呼ばれた魔王軍と戦えることに心が躍る。
「久々の大仕事だ。楽しませてもらおう」
「ガッハッハ!!」
S級の戦士達が、危機的状況でも豪快に笑い合うのを見たショーンはため息を吐きそうになる。
こっちは胃痛がし始めて、気が気じゃないのにと。
トーマスは聖王国のハイランド地域とデンランドの係争地、エジンバル出身の30歳になる凄腕の傭兵で、領主のショーンとはエジンバルで出会う。
その後、何度かショーンと手紙で交流したあと、傭兵稼業よりも冒険者になった方が儲かると口説かれ、冒険者になった経緯がある。
元々傭兵として有名だったため、わずか2年でS級冒険者となった冒険者組合トップクラスの剣士である。
「魔王軍ですか……長い間森で修行していたわたくしにはわかりませんが、それほどまで凶悪な相手というわけか」
「ぐっふっふ、森でぬくぬくと育ったエルフ出身のもやしっ子には荷が重いのではないか?」
「アル中一歩手前のあなたに、言われたくありませんね。それに私の方が900歳年上です」
見た目が20代の成人男性に見える、尖った長い耳が特徴的なエルフのドルイド僧リーアムが呟くように独り言ちる。
出身はアイランド島南西部に位置する、木々が生い茂る原生林が織りなす山岳地帯ギャランドゥール。
彼らエルフはこの国の森林地帯で暮らす、俗世間から離れたドルイドとも言われる。
エルフのドルイド達は神殿を構えず、森の奥の、しかも天体のよく見える地を選んで祭壇として、精霊に信仰を捧げているという。
彼はそのドルイドの中でも、最上位にあたる司祭だった。
なぜ彼が冒険者になったのかと言うと、500年前に人間を生贄にしたドルイドの儀式の一切をやめたことと引き換えに、その責任を取る形で、人間達の住まう街に追放された経緯がある。
彼は持ち前の知性と、ドルイドが使用する精霊魔法で多くに実績を積み、冒険者組合に加入。
国中に彼のもたらす、ドルイドの知識とエルフ達との橋渡し役として、聖王国よりS級冒険者の地位を与えられた。
こうしてこのベルンファースト冒険者組合には、G級のバーベンフルトを筆頭に、S級の冒険者が5人、A級冒険者50人を有し、ラティウム共和国首都の冒険者組合と双璧を成す、ナーロピアン最良の冒険者組合とも呼ばれる所以である。
そして冒険者組合のトップのS級達が、魔王軍との戦闘を楽しみに笑う中、組合長でもある同じくS級のショーンは胃痛がしながら集まった冒険者達を見る。
ーーこのS級のおっさんら、緊張感がまるでねえ。いいよなあ脳筋に生まれた連中はよお。繊細な性分で生まれた俺には理解できねえや。
「ベルンファースト騎士団!!」
「は! ショーン様」
「お前達騎士団は街の防備を固めろ。高い給料に見合った働きをしてもらう。それと……」
「話は弟子から聞いたぞ! マクドネル卿!!」
軽鎧のハロルドと共に、身長2メートルを超すスキンヘッドのフルプレート騎士が姿を現す。
「バ、バーベンフルトさん!!」
「私も弟子と共に行こう! 仲間を救い出すのだろう? 心配するな、私が冒険者全員の指揮を執る!! 組合長、報酬は!?」
ハンス・バーベンフルト。
伝説のG級冒険者にして、二つ名が竜殺しのバーベンフルト。
手にするのは、漆黒の龍鱗を重ね合わせて制作された大斧がつけられて長さ90センチはある龍の牙で作成された槍頭。
龍の脛骨で作成された柄の長さを入れると、全長5メートルにもなる、通称黒龍殺しのハルバード。
彼が身につけるは、漆黒の龍鱗鎧一式。
自身が討伐した黒龍の鱗を、カスタマイズした一級品の豪勢な装備である。
彼の偉業はドラゴン殺し以外にも、数々のモンスター討伐、数々の秘境踏破に加え、ゲルマニアとラティウムにおける地域間紛争の解決など、数多くの偉業を成した偉人。
その戦闘力はナーロピアン一の武術家とも呼ばれ、一国の軍団すらも退けると言われる。
冒険者になる前の経歴は一切謎に包まれており、バーベンフルトの名は偽名で、元はゲルマニア騎士連合国内の大貴族ではないかと言われる。
「おお、あなたが参加してくれるなら心強い! おい、用意したアレもってこい!」
ショーンが召使いに命じると、金銀銅貨満載の台車を侍従二人がかりで運んできた。
「クエスト参加は1人1000ダラー! 仲間を救助した代表者には1人につき5000ダラー! ゴブリン1匹あたり200ダラー! 10匹狩れば1000ダラーの追加報酬だ!! 一番多くゴブリンやった奴には金貨1枚、10000ダラーくれてやる!」
「うおおおおおおおお」
「さすがショーン様、太っ腹!!」
「よ! 組合長!!」
クエスト参加人数は、ギルドメンバー総勢1000人のうち、負傷者や任務で街を離れて不参加の者を除き300人。
金額的にかなりの出費だが、計算高いショーンはこれがいずれ領主の自分に返ってくるのを知っている。
ーーこれは投資ってやつだ。どうせこいつら、報奨金を両替したあと、公営ギャンブルや、飲み食い、装備品購入で使うから、巡り巡って税金って形で俺に全部返ってくるわけだ。そして今回の件が評判を呼んで、俺の街に人と産業が集まる。クックック、貴族チート最高だぜ!!
思いながらショーンは剣を抜いて空に掲げ、コースドロード方向に向けた。
「よおし、行って稼いで来い冒険者達!!」
「よっしゃあ!!」
歓声と共に冒険者達が街道に駆け出し、その様子を見ていた妹のアリスは兄の勇姿に頬を染め、マクドネル婦人も大きく頷いた。
「素敵です、さすがわたくしのお兄様」
「ええ、さすがはうちの子ザマス。かのご高名なハンス・バーベンフルトにも指揮を執る姿、ママも鼻が高いザマス。天国のパパが見たら喜ぶザマス」
冒険者達が仲間の救出作戦に乗り出した頃、コーストロード沿いを飛ぶアイアンは、街道からピカピカ光るモールス信号を確認する。
ーーん? ブツの引き渡しか。
人けのない街道には、吟遊詩人が日の光を鏡で反射させながら、アイアンを待っていた。
街道まで降下したアイアンは右拳を握り、吟遊詩人も右の握り拳をすっと前に出す。
「兄弟!」
「ご機嫌か兄弟」
二人が拳と拳を合わせる、フィスト・バンプ。
日本ではグータッチと呼ばれる挨拶をお互い交わす。
「早速だがブツをくれ」
「ああ」
吟遊詩人がギターケースを開けると、さまざまなマジックアイテムが中に入っており、そのほとんどがこの世界にはない代物だった。
「とりあえず、錬金霊薬4個。それと、なんかおすすめくれや」
アイアンが吟遊詩人に、金貨3枚を渡そうとする。
だがピシッと手を払われた。
「料金不足だ兄弟。広場の金貨1枚と今くれた金貨3枚の4000Gで、そんな高価なブツやれねえよ。10倍の40000G払いな」
明らかにこの世界の通貨単位ではない、Gの値段交渉を吟遊詩人とアイアンが繰り広げる。
「んだよ、ケチくせえこと言いやがって」
アイアンの悪態に、吟遊詩人はサッと彼の胸ぐらを掴む。
「!?」
するとアイアンを片手だけで引き寄せ、額に頭突きをくらわせる。
吟遊詩人は帽子とスカーフで表情全体はわからなかったが、アイアン顔負けの睨みを効かしていた。
「おい! こっちは危ない橋渡って、この世界にねえブツを密輸してんだ! てめえこそ、ケチくせえこと言ってねえで対価に見合った金寄越せ。いくら兄弟分でも金の関係でふざけたこと言いやがると、ぶん殴るぞ!」
アイアンと吟遊詩人が行なっているのは、神をも恐れぬ所業。
神々に無断で行う異世界間の密貿易は、発覚すると人の法律ではなく、神々の法律で裁かれてしまう重罪。
そしてそれが異世界の密輸品だと知りながら、使用目的で売買に関わるのもまた重罪である。
「悪かったよ兄弟。じゃあグレード落として、高級回復薬と魔力回復用の聖水くれね? あと新商品とかあるか?」
吟遊詩人はアイアンを掴んだ手をパッと離して、ギターケースから指輪を取り出した。
「これは卒業生限定品、超強力な召喚の指輪だ。ただしこいつは1個100万Gするし、召喚獣一回呼び出すごとに、最低でも5000Gかかる。それか対価に見合う魔力消費な」
「ケッ、あの学院……卒業生を食い物にしやがるのかよ。その指輪はノーサンキューだ兄弟」
「それじゃあ4000Gで、高級回復薬5個と魔力回復用の聖水2個だ。それとこれはサービス」
吟遊詩人は、アイアンにコードレスイヤホンを手渡した。
「これがあれば、俺が作ったビートを好きな時に色々再生できる。うまいこと使ってくれ」
「ありがとう兄弟」
「それとこの世界のダラーだが、うちらのゴールドと同じくらい価値が高い、他の通貨はカスだが。あともう一個、これもサービス」
アイアンは投げ渡されたメモ帳を受け取る。
中身は、アイアンが学院で修行していた間に経過してしまった100年後の国家、人種、組織、地理、文化風俗、伝説など。
アイアンよりも先に、この世界で吟遊詩人として各地の英雄譚や伝説的な逸話を世界各地で歌えるほど、彼はこの世界を熟知していた。
「サンクス、色々とすまねえ」
「別に構わねえさ。それと俺がサポートできるのも、限りがあることを忘れるな」
吟遊詩人の姿がどこかに消え、アイアンはポーションをローブの中の弾帯のようなベルトに挿したあと、魔力回復用の聖水を1本飲み干す。
その頃、冒険者組合ことベルンファースト城ではショーンが愛馬にまたがり、急ぎ王都ダブリンスへ向かおうとしていた。
「王都まで行ってくるよアリス。俺が戻るまで組合を頼んだ。あとママには一切、組合のことに関わらせるな。貴族が冒険者なんてやめろって、うるせえったらありゃあしねえ」
「はい、かしこまりました。行ってらっしゃいませお兄様」
侍従達を連れた妹のアリスが、馬小屋の前でお辞儀をして兄を見送る。
「ここから王都まで、早馬乗り継ぎながらだから1日か2日、いや下手すると3日はかかる。いくらこの世界の馬が丈夫っつっても、一度に走れるのは1時間が限界。こっちに戻るまで、まるまる一週間かかっちまう。クソ、これだから中世は嫌なんだ。バイクか車でもありゃあ2時間かかんねえのに」
「どうかいたしましたか? お兄様」
「いや、なんでもねえ。行ってくるぜ」
ショーンは街道に出て馬を走らせたが、途中で冒険者達が戦うコーストロード方向に馬の向きを変えた。
「へっ、行くなら俺の組合員共やバーベンフルトさん達に顔見せてからでいいや。王宮のクソボケ共なんか、待たせておけばいいのよ」
ショーンは、クエストまで走って行くC級冒険者達に振り向くと、早く行けと手で合図した。
その様子を、草場の影から黒いローブをまとった骸骨姿の男がジッと様子を窺う。
「くっ、あの貴族の小僧め、冒険者共と合流するとは知恵が回りおるわい。孤立したところをさらってシモベにしようとしたのに、気付かれたか」
魔王軍十三魔将ワイドの本体だった。
王宮に送り込んだ手下を通じて、ショーンを単独で誘き寄せて殺害後、死体を操ろうというワイドの立てた計画。
しかしショーンの気まぐれと、持って生まれた幸運で、本人も意図しないところで計画は阻まれた。
「それに……ああ、おいたわしや、坊っちゃま。あの極悪な勇者に洗脳されて……じいは悲しゅうございますじゃ。いや、アレは坊っちゃまを偽った勇者の策略かも……あの極悪非道な勇者ならやりかねない」
ワイドは独り言ちながら街道に出ると、身震いしながら骸骨の眼窩から血の涙を流す。
「恐ろしいあの勇者……我らはあの時、恐怖を魂に刻まれた。規格外の魔法に剣技。ワシら魔導士達や戦士達が手も足も出ず、我らの軍勢が……あの化物に……国ごと……」
100年前に現れた勇者による、魔王軍にもたらされた圧倒的な暴力と策謀の数々、魂に刻まれた恐怖の記憶。
生前のワイド率いる魔王軍の前に、勇者がたった一人で現れた記憶を思い出す。
「貴様、よくも坊っちゃまを人質に!!」
「うるせえぞ外道共、この俺様に喧嘩売りやがって。死ぬ覚悟はできてんだろうな?」
「黙れ! しかもワシの配下の従属国要人や魔将達を、闇討ちして戦力を削るなどなんと卑劣な!」
「うるせえな。俺をなめやがったから、一人ずつボコったあとでさらってヤキくれてやったぜ。そしたらベラベラ喋ってくれたわ、てめえらの非道を」
勇者は魔王軍幹部を拉致して拷問をくわえた結果、全ての陰謀を暴き出す。
「最後のチャンスをくれてやる。地べたに両手つけて頭擦り付けて、全員詫び入れた上で、今までの行いを悔い改めてケジメつけるなら、許してやってもいいぞ?」
「ぐぬぬ、かくなる上は坊っちゃまを上回る魔力、世界最強の魔法使い、レベル9魔法を全てマスターし、大魔導士と呼ばれしワシが率いる軍勢の力で貴様を倒し、坊っちゃまをお救いする!」
「ほう? 世界最強とはすげえじゃねえか? じゃあ俺も魔法使うわ」
勇者は極悪な笑みを浮かべながら、数千万本にも及ぶ無数の剣を上空に展開して、空を黒く染め上げて異形の怪物達に変化した軍勢に照準を定めた。
「……え!? なんじゃこれは……」
ワイドは次元そのものが違うレベルの魔法を目にして、詠唱もなしに、これほどの魔力剣を生み出した勇者の力に恐れ慄く。
「で、最強の魔法使いがなんだって?」
「あ、いや……なんだその魔法? 詠唱もなしに……そんな……無数の剣を創造なんて……まるでレベル9をも上回る魔法を……」
「あ? これでも抑えてるほうだぞ? 俺様が本気になれば一発で星もぶっ壊せるし、次元すらも両断できるし、時空に穴開けちまうブラックホールも生み出せんだ」
勇者の言ってることに理解が追いつかないワイドは、頭の中の整理が追いつかずにパニックになった。
すると勇者は、左手で魔法通信の水晶玉を手にして、何者かと通信を行う。
「ええ、こいつらが発端でした。ええ、例のガキを利用してたクズヤロー共のケジメも一通りは。ええ、わかりやした。そちらさんの威信だとか面子にかけて、徹底的にやれってことでいいんですね? ええ、じゃあ早速」
どこかと通信を終えて、勇者は手にした刀を掲げてワイド達に睨みを効かせる。
「残念だがてめえらの処遇決まったわ。二度と妖精王さんに逆らうことのねえよう、俺に力を示せってよ。ま、ぶっ殺しても金にならんがしょうがねえ。恨むなら、てめえらに殲滅命令出した妖精王さんを恨むこった」
「ま、待て!」
「誰が待つかコノヤロー! 死ねや外道共!! 洛叉斬棘」
無数の剣の雨が異形の軍勢に降り注ぎ、怪物達の首が一斉に飛び、体をバラバラにされる阿鼻叫喚の地獄絵図となる。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
ワイドの体は無数の剣で貫かれ、異形の軍勢の大半が文字通り地獄に堕ちた。
「チッ、雑魚共のくせにしぶてえなあ。転移魔法でかわしやがったか知らねえが、まだ生きてやがる奴らがいるぜ」
勇者の姿が、六本腕の悪魔のような怪物に変化する。
「ひっ、ひえッッ!」
「どうせ地獄の懲役に行ったら、たっぷり味合うやつもいるだろうし、せっかくだから今、この場で地獄の業火受けてみるか?」
垂直浮遊した勇者が空中で六つの手を合唱し、組んだ手を腰溜めにして体内の魔力を掌に集めつつ、溜める。
「地獄の業火」
勇者が手を前方に突き出した瞬間、眩い青白い光がピカッと光った瞬間が、ワイドが見た生前の最後の記憶だった。
圧倒的な勇者の力を思い出して、アンデッドなのに目眩を起こし、思わず膝をついて両手を街道に付く。
「こうなってしまった以上、魔将達と新たな策を練らねばなるまい。魔王軍復活宣言は、ワシにしては早計じゃった。今度は洗脳された坊っちゃまや、あの恐怖の勇者と妖精共に気付かれず、慎重に慎重を重ねて……ん?」
「ゲフーイ、邪魔じゃあああああ、どけどけどけい!!」
左手で手綱を握り、右手でウイスキーの入った徳利をあおるドワーフ戦士グスタフが操縦する馬車が、ワイドのすぐ後方から迫って来た。
馬車の中に乗るS級冒険者達の、魔術師ファーティーマとエルフドルイドのリーアムが、強烈な追い風の魔法を起こして蹄の音すら立てず、まるで風のように街道を駆け抜ける。
「馬車!? 速っ!! 依代に魔力を与えすぎて防御力が……ぐあああああああ!!」
気付くのが遅かったワイドは馬車にひかれ、酒酔い運転するグスタフは、何かひいたかもと小首を傾げる。
「魔力増幅のピアスと、スクロールを忘れたと取りに戻ったにしては、幾分時間がかかったなファーティーマ。そういえば君の化粧がいつもよりのってるではないか? 香水の香りも増して」
「あら? 女性のおめかしに気付けるなんて素敵よトーマス。お礼にあなたへ愛のファイヤーボールをプレゼントしたいけど、いいかしら?」
「女性には色々あるのです、野暮なこと言うもんじゃありませんトーマス」
「ガッハッハ魔王軍討伐じゃ! 楽しみじゃのう!!」
馬車にひかれたワイドは、もうお前らに討伐されたとでも言いたげに、地面に同化するかのように姿を消した。
ベルンファーストの主力冒険者達が集結したところで、次回に続きます。
それと飲酒運転ダメ絶対




