[3-25] 結論と行動
12/9~12/14にかけて
この内容が[3-24]として投稿されていましたが、
投降内容がズレていた事に気が付きましたので
12/14に旧[3-24]は修正しました。
12/9~12/14にかけて[3-24]に目を通して頂いた方は申し訳ございません。
ギルスが治療に使った魔術は過去改変であり、オリバーを騙していたという推理。未だ真実が明らかになった訳ではないが、仮にその推理が合っていたとしたら、ギルスは今後どう行動するのか。
「逃げるつもりなのか?」
最初から約束を守るつもりは無く、事が済めばマリルを連れて逃げるというのが真っ先に考えられるが、この予想もまたヴァネッサの予想とは違っていたようだ。
「そうならいいけどね、まあフィアンセがどこまで動けるかわからないから、フィアンセが目覚めた直後はあまり荒っぽい事はしてこないと思うけど、フィアンセの体調が万全になったらどうなるかな」
日頃からギルスの事を疑っていたヴァネッサは最悪の展開を想定しているようだ。
「俺達と戦う事を想定してるって事か?」
マリルが目を覚ましたとしても、治療が終わった直後だ。動けるかどうかは分からない。だが全快し動けるようになったらどうなるか。
「その可能性もあるよ。そうなったらどうするつもり?」
「それは…」
すぐには出てこない。仮にギルスが非を認めたとして、その後どうすればいいのか。
「にーさんは帽子のやった事間違ってると思てるんだよね?」
「ああ」
これは断言できる。あの治療が過去改変なら、それは間違いだと思っている。
「じゃあどうするの? 朝になればまたギルスと顔を合わせるよ。それにフィアンセが目を覚ませば何をするか分からない。それとも見て見ぬ振り?」
「見て見ぬ振りはできない。最低でもあれが過去改変だったかどうかは確かめる」
あれが過去改変だったかどうかは、状況からくる仮定の話であり、まだ事実と決まった訳ではない。それはせめて確かめたい。
「確かめるってどうやって? 帽子に直接問い詰めるの? 帽子が本当の事を話すと思う?」
「それは、聞くしかないだろ。他に方法が無い」
今までギルスが隠し事をしていたとして、急に真実を語るとは思えない。とはいってもそれ以外に確かめる方法が無い以上は本人に聞くしかない。
「認めたらどうするの? 死を以って償わせる?」
「それは、やりすぎだろ」
仮に認めたとしても、命を奪うつもりにはならなかった。
「世界を危険に晒したのに?」
さきほどオリバー自身が言った言葉が返ってくる。世界を危険に晒した代償を償わせるとうのであれば極刑でも足りないだろう。しかしそれではまるで悪魔憑きに処刑宣告をするやり方と同じだ。
自らが悪魔憑き認定されているオリバーがそれと同じ方法を採るというのは、悪魔憑きを処刑にするというやり方を肯定してしまうのではないか。
「殺すつもりはない」
だから、たとえあの魔術の正体が場所を繫ぐ魔術ではなく、時間を繫ぐ魔術だったとしても、殺すという選択肢は無かった。
「じゃあ許すって事?」
そうなると当然許すのかという話になってくる。
「それは…」
フィアンセを助けるために周りを危険に晒す。フィアンセを助けたいと言う気持ちは分かるが、危険に晒された側として、その行為を何のお咎めもなしに許すというのは出来ない相談だった。では何を以って償いとさせるかは直ぐには決められない。
オリバーの迷いを察したのか、ヴァネッサは答えを待たずに話を進める。
「気が付かなかったって事にするのも手だよ」
それも一つの方法としてある。ギルスが行ったのはただの治療であり、過去改変など存在しない。マリルがおかしなことを口走ったとしても、それは病気の後遺症か、治療の副反応による一時的な記憶の錯乱。
そういう事にすれば、ギルスとマリルとは波風を立てずに済む。
「それは出来ない」
だとしても、今のオリバーに、その選択肢を選ぶ事は出来なかった。
「どうして?」
「都合の悪い事から目をそらしても解決にはならない」
起った事は変わらない。あの魔術が何だったのか。その真相から目を背けたところで問題の先延ばしでしかない。少なくとも魔術を使用したギルスが居るのであれば、本人に話を聞けば何か分かるかもしれない。そうであるならば、ギルスと話が出来るうちに、話を聞いておくべきだ。
「はっきりさせない方が良い事もあるよ」
余計な事を聞かなければ、ギルスとの確執は発生せずにこのまま仲間としていられるかもしれない。
「だとしても、真実が変わるわけじゃない。リリアの再生スキルの正体を知ったら、知った方が良かったと思った。だから俺は、少なくともギルスには真相を聞かないといけない」
しかし、リリアの過去を知った今となっては、疑惑に気が付いていながら、そこから目を逸らすという事はできなかった。
「じゃあ、過去を変えたって言われたらどうするつもり?」
ギルスが本当の事を言うかどうかは分からない。あの魔術が本当に過去を変える魔術だったかどうかもまだ予想の範疇を出ない。それでも、本当にギルスが疑惑を認めたらどうするのか。
「まだ分からない」
ギルスはもちろん、マリルはどうすればいいのか。簡単に答えの出るはなしではない。
「それが決まらないなら、帽子とは話をしない方がいいよ。必ずそういう話に行きつくだろうから」
仮にギルスが自分がやった事を認めたとしても、その後の扱いを決めていないというのは、何とも間の悪い状況だ。ギルスに話を聞くと言うのであれば、どのような対応をするか予め決めておいた方がいいだろう。
「何もせずに許すのは無理だと思ってるけど、何をさせれば許せるかって言われると具体的な事は思いつかない」
それが正直な気持ちだった。今すぐに何かいい案と言われても出てこない。
「まあ、今日は向こうも何もしてこないと思うから、今日はもう寝てもいいと思うけど」
治療が終わったとはいえ、マリルは目を覚ましてはいない。ギルスが本当にマリルを助けたいと思っているのであれば、今のタイミングで行動を起こす可能性は低い。
「そうか、じゃあそろそろ寝るかな」
そう聞いて若干心に余裕が出来たオリバーに対し、ヴァネッサは釘をさすようは発言をする。
「フィアンセが起きるまでは帽子も無茶な事はしないと思うけど、フィアンセが目覚めたらどうするかは分からないよ」
それは暗にフィアンセが目覚めるまでに考えを決めろという事か。
「ああ、明日にまでは決めるよ」
ギルスは、マリルが起きるまでには数日かかると言っていた。もちろん今のオリバーはそれも嘘ではないかと疑ってはいたが、それでも今日は一日色々な事があり過ぎた。最悪の展開となり、ギルスと事を構える事になったとしても、今夜仕掛けるのは得策ではない。
「じゃあ、頑張ってね」
ヴァネッサも言いたいことは一通り話終わったのか、そう言って、部屋を出て行こうとする。
「なあ、どうやってこの部屋に入ったんだ?」
それをオリバーは呼び止める。前からあった疑問。今ならばヴァネッサは答えてくれるのではないかという気がした。
「知りたい?」
いつのもの調子で答えるヴァネッサは、本当にその方法を教えるつもりがあるのだろうか。
「ああ」
とはいえ、いつの間にか部屋の中に侵入されている経験を何度もしているオリバーとしては、これを機にその方法を知っておきたいところだ。
「じゃあ、まず部屋に鍵をかけて。」
言われるがままにオリバーは、部屋の入り口の扉の鍵をかける。扉から確かに鍵のかかる金属音が聞こえる。
「こうか?」
それはほんの一瞬だった。オリバーが鍵をかけるために扉に向かい、ヴァネッサから視線を外した。それだけの間だった。
部屋のどこを見ても彼女の姿は無かった。
鍵か掛かる音以外は、物音一つしなかったというのに。
●
翌朝、目が覚めたオリバーは個室から出て、居間のような広い部屋に来ていた。特に打ち合わせたわけではないが、目が覚めたら皆ここに来るだろうと思っていたからだ。オリバーが来た時には誰も居なかったため、他の者はまだ寝ているのだろうと思いここで待つことにした。
昨日寝る前に考えたが、それでもギルスに話を聞くという結論は変わらなかったし、ギルスの返事によってどのような対応をするかも決めていた。最悪ギルスと一戦交えるかもしれない。そう考えると、一人でギルスの元へ向かうのはいささか危険を伴うような気がしていた。せめてヴァネッサとリリアが起きて来るまでは待った方がいいという考えもあった。
「あら、起きてたの。早いわね」
最初に来たのはリリアだった。後から同室で寝ていたヴァネッサもやってきた。どうやら二人で来たようだ。
「ルーベルとギルスを見たか?」
オリバーの知る限り、あの二人はまだ居間には来ていない。
「見てないわ」
「あたしも」
最初にリリア、次いでヴァネッサが答えた。
二人とも見ていないという事は、まだ部屋で寝ているのだろうか。
「まさか逃げたりしてないよな」
オリバーの頭に、嫌な考えがよぎる。
「魔力を感じるからマリルも入れて三人ともいると思うけど、どうして私達から逃げる必要があるのよ」
魔術師として、魔力の探知が出来るリリアは、三人の魔力を感じており、まだ三人はこの家に残っている事が分かるようだ。
昨日のヴァネッサと話がまだオリバーの頭に残っていたため、オリバーは二人が逃げた可能性を危惧したが、あの場にいなかったリリアには何の話か分からないようだ。
「話してないのか?」
オリバーはてっきりヴァネッサからリリアに話が通っていると思っていた。オリバーは意外そうな目でヴァネッサを見る。
「あたしから話すことじゃないでしょ」
しかし、そうでは無いらしい。確かに夜も遅い時間帯に話した事だ。あの後言わずに寝てしまっても無理はない。それともヴァネッサの性格上、オリバーの口から伝えるべき事だと考えたのだろうか。
「何の話?」
本当に何も聞いていないのだろう。リリアは話についていけないと言った様子だ。
「昨日の治療についてだ。最悪ギルスと戦う事になるかもしれない」
オリバーは最悪の場合を想定して、リリアに結論を先に伝えた。
「おもしろそうな話ね」
幸か不幸か、そこにルーベルがやってくる。オリバーに緊張が走る。ルーベルはギルスの協力者であり、新しい体となるホムンクルスを提供している。真実を知らずに協力しているというのは考えにくい。
オリバーが視線を向けると、そこにはルーベルの姿はあったが、ギルスの姿は無かった。楽観的に考えるならば、一人で来たという事は事を荒立てるつもりはないのかもしれないが、悲観的に考えれば、ギルスを逃がすために足止めとして一人で来た可能性もある。
それでもオリバーは、昨夜の内に決めていた。当人に向かって事実確認をするという事を。それにギルスが逃げればリリアが気が付くはずだ。ルーベルが一人で来た事を好機と捉えて、今は話を聞くべきだ。
「昨日の治療の正体は過去改変なのか?」
オリバーが疑いを持っている事を聞かれてしまったのでは、こちらの考えを今更隠す必要もないだろう。オリバーはまずはルーベルに話を聞く事にした。
「どうしてそうなるのかしら?」
オリバーの考えが見当違いなのか、ルーベルのからは肯定の言葉は出てこなかった。オリバーがそう考えた理由を聞いて来るのは研究者としての好奇心なのか。あるいはこちらが証拠をつかんでいるかどうか確かめようとしているのか。とにかくまずオリバーは自分がそう考える理由を話す事にした。
「夜中に治療する事に、否定的だったのは何故だ?」
昨晩治療を始める前に、マリルは治療に否定的だった。ホムンクルスの体を作成するという協力をしていたにも関わらずだ。
「戦闘直後の疲れた状態でやりたくなかったのよ」
状況的に、ルーベルの説明は嘘ではない。それでもオリバーには別の理由があると思っていた。オリバーはそれを口にする。
「門の向こうは昼だった。あれはこっちとは違う時間の世界だ。あの魔術は遠距離との場所を繫ぐ魔術ではなく、過去と今を繫ぐ魔術だったんじゃないのか? だから夜に門を繫ぐ魔術を使うと、向こうが昼である事に不信感を抱く可能性がある。だから出来れば昼間に使いたかった。違うか?」
ルーベルとしても過去改変が露見するのは避けたかったが、一刻も早くマリルの治療をしたいギルスが事を急いた。さらにオリバー達があの場に居たために、夜に門の魔術を使うと、門の向こうが昼である事を説明する事が出来なかった。
あの場でルーベルが強硬に反対の態度を貫くと逆に不自然になってしまために、ルーベルは渋々あのタイミングで治療する事に合意したのだろう。それがオリバーの予想だった。
オリバーはルーベルがおかしな動きをしないか注視しながら彼女の答えを待つ。
「私は姉さんの治療をしただけよ」
あの魔術が過去を変える魔術なのか、肯定も否定もしない微妙な回答だ。仕方なくオリバーはさらに踏み込んだ質問をする。
「目が覚めたマリルに話を聞けば真偽は直ぐに分かる。そうだな?」
オリバーの予想が正しければ、ギルスは治療の話をマリルにしていない。つまりマリルに話を聞けば、彼女ははぐらかしたりはしないだろう。
「姉さんは人間が嫌いだから、やめた方がいいわ」
一般的なエルフは人間を嫌っている。ギルスからも聞いた話だ。
「魔族なら?」
こちらにはリリアとヴァネッサがいる。二人とも魔族だ。人間が嫌いと言うならば、二人に話を聞いてもらえばいい。
「魔族も嫌いなのよ」
直感的に、オリバーはこれは嘘だと感じていた。ギルスはエルフが人間が嫌いだと言う話はしていたが、魔族についての話はしなかった。エルフが魔族に対してどのような感情を持っているのかは知らないが、嫌っているという事はないだろう。
「治療に手を貸したのに、顔も合わせないつもりか?」
少し恩着せがましい言い方な気もしたが、オリバーは鎌をかけてみる事にした。
「そこまで言うつもりはないけど、姉さんは人見知りなのよ。病み上がりに見知らぬ相手にいきなり会わせられないわ」
さすがにここまで言われると、話が胡散臭くなってくる。
「それは、あの治療に協力者が必要だったって事も知らないって事か?」
治療を受ける当事者であるマリルが、あの治療には協力者が必要である事を知らなかったという事がありえるのだろうか。
「そうよ」
ルーベルはそのあり得そうもない話を認めた。それはあの魔術が過去と繫ぐ魔術だったからではないのか。オリバーは内心そう思いながらも話を進める。
「じゃあ、起きてすぐでなければ会えるのか?」
いくら人見知りとはいえ、治療に手を貸した相手を、全く会わせないというのはあまりにも不自然だ。まさか容体が安定した後でも会わせられないというつもりだろうか。
「そうね。直ぐでなければ会ってもいいわよ」
完全に会わせられないという訳ではないようだが、それでも直ぐでなければ良いという条件には不安があった。
「その間に口裏を合わせるつもりじゃないのか?」
オリバー達に会う前に、何かよからぬ事を吹き込まれたら本当の事を聞けなくなってしまう。しばらくしたら会わせるというのは許容できなかった。
今までのルーベルの態度を見るに、やはりオリバーが持っているあの魔術は場所と場所を繫ぐ魔術では無く、過去と現在を繫ぐ魔術だったのではないかという疑惑は、当たっているのではないかという思いが強くなってくる。
「誤魔化すのは無理みたいね。」
ルーベルが観念したようため息をつく。その言葉に含まれる言外の意味に、オリバーとリリアが身構える。
その二人をオリバーが手で制しながら、言葉を続ける。
「本当の事を話してくれ。」
昨日会ったばかりとはいえ、一度は共通の敵を倒すために共闘した相手だ。オリバーとしては出来れば戦いたくないというのが本音であり、可能な限り話し合いで済ませようと思っていた。
「ギルスが過去を変えたとしたら、どうするつもりなの?」
ルーベルは、本当の事を話したら、オリバー達が危害を加えて来る事を心配しているようだ。それは裏をかえせば騙した事に対する罪悪感を覚えていると取る事もできる。
「君とマリルをどうこうするつもりは無い。ただギルスとは直接話をしたい」
元々約束をした相手はギルスであり、ルーベルではない。ましてや治療対象であったマリルでもない。よってオリバーとしてはその二人を同行するつもりは無いが、かといってギルスを何もせずに済ませるかと言われれば、それは事の真相を見定めてからになるだろう。
ギルスがオリバー達を騙すつもりだったのか、この後どうするつもりなのか。それをオリバーはギルスの口から聞きたかった。
「本当に話だけで済むのかしら?」
ルーベルがギルスの身を案じるのも無理もない。元々人間には懐疑的だったし、ギルス側に負い目がる。一度共闘したことにより、オリバー達の戦闘能力も知っている。
「それはギルス次第だ」
オリバーは殺すつもりは無いが、今の時点で手を出さないという事を保障する事は出来なかった。
「だったら、ここは通せないわね。」
ルーベルは、ここに来て明確に拒絶の意思を示した。オリバーとしても今は強硬手段を取るつもりはないが、かといってマリルが目を覚ました後では、真相が確かめられなくなる恐れもある。
ギルスに話を聞くまでも無く、あの魔術が過去変える魔術であった事は確定だろう。そう考えると、今は強硬策でるよりもギルスが部屋から出て来るのを待った方がいいのかもしれない。
オリバーがそんな事を考えていると、ここまでの話の流れで状況を理解したのか、リリアが口を開く。
「あなた、いい加減にしなさい。今は三対一なのよ。こっちは無理矢理押し通ってもいいんだからね」
リリアとしては待つよりも強硬手段を取る事を考えているようだ。
しかし、リリアが得意とするのは火属性の魔術だ。この隠れ家の中で戦闘になったとしてもうかつに使うことは出来ない。今はマリル以外にもミランダとその仲間らしき魔術師が寝ている。ガエラと戦った時のようになってしまっては困る。
「そうね。私一人であなた達と戦っても勝機は薄いでしょう。ここは私の家よ。ゴーレムはいくらでもある」
ルーベルはこの家に住んでいる以上、この四人の中では一番この家の事について詳しいだろう。オリバー達の知らないところにゴーレムを隠している可能性は捨てきれないが、オリバーにはそれがハッタリのように思えた。
「使えるゴーレムが、そんなに余ってるなら、昨日の空賊との戦いで使ってただろ。でも昨日使ったのは召喚して呼び出した一体だけだ。それも壊れた。無理するな」
昨日の状況で、使えるゴーレムを隠していたとは考えにくい。今になって実は使えるゴーレムがどこかに隠してあったなどというのはあまりにも都合が良すぎる。
「戦うかもしれない相手に手の内を全部見せると思う?」
だったら見せてみろと言いたいところだが、それを言ったら本当に戦いが始まってしまうだろう。それはオリバーの望むところではない。
ルーベルがすぐさま強硬策に出ないということは、まだマリルは寝ているのだろう。ならばまだ時間はある。
「分かった。じゃあ、俺たちがマリルにもギルスにも会えないとしたら、どうすればいいんだ?」
急ぐ必用は無いと考えたオリバーは、一度引いてルーベルの要求を聞く事にした。
「大人しくここで待ってなさい」
やはりルーベルとしては今の状況でオリバーがギルスに会う事は快く思っていないようだ。
「いつまで?」
まさかこのままずっと睨み合いを続ける訳にもいかないだろう。
「姉さんが目を覚ますまで」
ルーベルとしてもマリルの安全は確保したいようだ。
「目を覚ましたらどうするんだ? 人間嫌いだから、会えないんだろ?」
人間嫌いだから会わせられないというのであれば、目を覚ましたところで会わせてはくれないだろう。むしろ、マリルが寝ている間にギルスと話を付けた方が穏便に済む可能性もある。
「それは私たちが姉さんと話して決めるわ」
それは暗に、マリルが状況を把握していないといっているようなものだ。つまりマリルはギルスが過去を変える魔術を使う事を知らなかった可能性が高い。
「一方的過ぎないか?」
確かにギルスとの約束は治療を手伝う事であり、治療が終わったあとどうするかまでは決めていなかったが、治療を行った相手に会わせないというのは一方的過ぎるようにかんじられた。
「貴方たちが余計な事に気が付くからこうなったんでしょ」
最早ルーベルはあの魔術が過去を変える魔術である事を隠すつもりはないようだ。
「気が付いてなかったら会わせてくれたのか?」
「そうなっていたでしょうね」
もはやその場しのぎのために適当な事を言っているようにしか聞こえない。かといって今後の事を考えれば、ここで戦うのは得策とは思えない。ルーベルが譲る気がない以上、ここで待つしかないのだろうか。
それではギルスが逃亡する可能性も否定できない。いくらなんでもルーベルをおいてギルスとマリルの二人で逃げるのは無いだろう。そうすると、このままルーベルから目を離さずに待つのがいいだろうか。
そんな事をオリバーが考えていると、今度はヴァネッサが口を開く。彼女はゆっくりと歩いてオリバーとルーベルの間に入りながらこう言った。
「今あたし達は三人だけど、あのエルフが目を覚ましたら、エルフは全部で三人になる。そっちにはゴーレムもいる。数ではそっちが上になる」
先ほどルーベル自身が言った事だ。ルーベルには動かせるゴーレムがまだあると。
「それが何なのよ」
ルーベルはヴァネッサの言わんとする事が分からなかったが、オリバーにはその意図は理解できた。そしてヴァネッサはその予想通りの言葉を続けた。
「戦うつもりがあるのは、そっちじゃないの?」
つまりは、マリルが目覚めたら、エルフ三人でオリバー達を倒そうとしているのではないかと言う話だ。
「あなた達と一緒にしないで」
否定するルーベルに対して、なおもヴァネッサは煽るような言葉を続ける。
「あのエルフが起きれば、そっちは心置きなく戦えるもんね。でもこっちには女騎士と連れの魔術師を守らないといけない。一気にこっちが不利な状況になる。だから時間稼ぎをしてる」
その言葉を聞いて、オリバーは自分が重要な事を見落としていた事に気が付いた。この隠れ家にはミランダとその仲間がいて、今もまだ寝かせているという事。ギルスが本当を持っているとしたら、あの二人を利用する事は十分に考えられる。




