[3-19] 不思議な感情
里を追われたからには同族は信用できなかった。同じ目的を持つギルスが唯一信頼できる相手だった。そのギルスですら、信頼する理由は同じ目的があるからであり、それ以外の理由で信頼することは無かった。
同族であるエルフですら信用できないというのに、種族の異なる人間を信頼するのは無理な話だった。実際に、この隠れ家に住んでから、ゴーレムが人間と何度か戦闘になった。人間がルーベルの居住区域内に侵入しようとしたからだ。
人間の中には侵入を試みるだけでなく、ゴーレムを破壊しようとする者や、森にある資源を持ち去ろうとする者もいた。
ルーベルの隠れ家がある事は、人間達にとっては知る由も無い事であることはルーベルも分かってはいたが、かといって放ってルーベルの居住区域に侵入してくる人間を黙って見ている気にはなれなかった。
この森に棲む以上、この森の自然を人間に壊されるのを見ているのは気分が悪かったし、万が一にもルーベルの隠れ家まで人間がたどり着いてしまったら、何をされるかわからない。
そう考えるとゴーレムを使って人間を追い払うという行為は、自分の身を守るために必要な事であった。
そう割り切ってはいたものの、度々人間と起きるトラブルに、ルーベルの中での人間に対する感情は悪化していった。
自然を壊す人間やゴーレムに戦いを挑む人間をあまりにも見過ぎた結果、ルーベルにとって人間とは暴力的な種族であるという認識になっていき、森に一人で暮らす彼女がその認識を変えるような出来事は、今まで起きなかった。
それが今、目の前で起きている。
この二人の関係性。人間と魔族。防衛戦争末期、人ならざる存在であり、人間に加勢した存在がいる事はエルフも分かってはいた。よってルーベルもまた魔族の存在は認識していた。
魔族が空賊を撃退したにも関わらず、人間は魔族と空賊の区別がつかずに、一つの敵勢力だと思い込んだ上で、魔族と空賊の戦いは仲間割れを起こしたと認識しているという事はギルスから聞いていた。なぜ魔族がそのような行動を取ったのかは、ルーベルにとっては分からないが、人間と魔族は相容れる存在では無いのだろうと、ルーベルは考えていた。
しかし今目の前にいる人間と魔族の関係。これはルーベルが考えていた人間は信頼できないという認識、魔族は人間とは相容れない存在という認識は間違っているのではないかと言う気がしてきた。
少なくともリリアがオリバーを敵視している様子は無い。むしろその逆だろう。先ほどリリアが見せた行動は、この二人は人間と魔族であるにもかかわらず強い絆で結ばれている証拠なのではないか。
そう考えてみると、この二人の関係性は向こうで繰り広げられているゴーレムと空賊の戦いに勝るとも劣らない、好奇心の対象となった。
だからルーベルはあえてこういう言葉を言ってみる。
「そういえば、オリバーはヴァネッサに血を吸わせてるの?」
その言葉はオリバーに向けられた物ではあったが、その実リリアの反応を見るための言葉でもある。先ほどからのリリアの変化は、ヴァネッサが話に出たのがきっかけであり、リリアにとってヴァネッサという魔族が、ただの仲間ではないことは察するに余りある。
「まあ、そうだな、ヴァネッサは吸血鬼だからな」
ルーベルはオリバーの言葉を聞きつつ、視界の端でリリアの様子を伺う。彼女の様子に変化はない。今のところは。
「それは毎日?」
吸血鬼が血を吸うという話はルーベルも知識としては知っているが、実際の吸血鬼が血を吸う現場を見た事はない。もしかすると、防衛戦争の際に見た事はあったのかもしれないが、相手を吸血鬼として認識したうえで会話をした相手はヴァネッサが初めてだ。
吸血鬼の何たるかについては多少の興味があったものの、当のヴァネッサはあまり協力的な態度ではなかったために、彼女とはあまり話をできていない。
協力的な態度を取っているオリバーとは、空賊に関する話はしたがヴァネッサに関する話は聞いていない。この機会にヴァネッサの事を聞き出すことにした。
「毎日ではないな」
どうやら吸血鬼というのは小食のようだ。
「最後に血を吸われたのはいつ? 今日?」
ルーベルは吸血鬼に対して、毎日血を吸っているような印象を持っていたために、オリバーの答えは少し意外であったがそうなると、どの程度の頻度で血を吸うのかが気になるところだ。
「いや、今日はまだだ」
それはとても含みのある言い方であり、ルーベルは詳細を問い質したくなる衝動に駆られ、ルーベルはその衝動に逆らう事なく聞き返す。
「今日は?」
まるでオリバーの返事を遮るかのように、爆発が起きた。それは長による攻撃ではなく、リリアが闇夜に紛れている空賊に対して攻撃をしたことにより起きた現象だ。
爆発の音に釣られ、二人はその爆心地を見ると、確かに焼け焦げた空賊の残骸のようなものが見え、その周辺には空賊が数匹、爆炎に照らされていた。
闇に紛れた空賊の姿が目視出来ないルーベルにとっては今一実感が無かったが、リリアが言った通り本当に複数の空賊が接近してきていた。
それを唯一目視できるリリアが火の魔術で攻撃しているのだ。
決してルーベルの発言に対して怒っていたり、会話を妨げるような趣旨で魔術を使っている訳ではない。
「あ、いや」
オリバーが余計な事を言ってしまったというような反応をした。そこから考えられる意味は一つだ。
「今夜ご予定があるって意味かしら?」
またしても爆発が起こる。
ルーベルの発言の直後に、二回連続でリリアが魔術を使ったのは、きっとただの偶然だろう。
今日はまだやっていないという事は、裏を返せば、今日これからやる予定があるという事である。
さらに何故かオリバーはそれを隠そうとしている。
それは今露骨に機嫌を損ねているリリアを警戒しているのか、それとももっと別の理由があって言いたくないのか。
オリバーが質問に答えるよりも先にリリアが口を開いた。
「あるの?」
それはオリバーに対する追及の言葉であった。この反応を見るにリリアは今夜のオリバーとヴァネッサの予定を知らないらしい。
「リリアはあの時いたよな?」
そう思いきや、この話はルーベルが知らなかっただけで、リリアは既に知っている話だったらしい。
そしてまた、リリアの魔術による爆発が起きる。いままでの爆発よりも、爆発音が大きく聞こえた気がした。
「あの時って?」
一方のリリアはあくまで知らないという態度を取っている。果たしてどちらが正しいのか。ルーベルからしても、あの時が何を指しているのかは分からないため、ルーベルが合流するまえの事だろうとは予想しているものの、折角リリアが話し出したのでここは余計な口を挟まずに様子を見る事にした。
「いや、気のせいだ」
一転してオリバーが自分の意見を取り下げた。しかしそれはただこの話題を終わらせたいようにも見える。
「それって、私の見てないところでヴァネッサと何かあったって事?」
リリアはオリバーが間違いを認めた事だけでは満足せずに、何故この話が出てきたのか追及するつもりらしい。
「そういう意味じゃない」
ではどういう意味だったのかぜひ聞ききたいところだが、それはルーベルが聴く必要は無いだろう。
「じゃあ何が気のせいだったの?」
案の定、リリアは更に質問を重ねる。
ルーベルとしてもオリバーが何の話をしているかは分からないため、この質問の答えには興味がある。その思いが届いたのか、オリバーがしかたないといった感じで口を開く。
「昼間ヴァネッサが使い魔のスキルを使った時に、後で血を渡せって言われたんだよ。その時リリアも居たから聞いてたと思ったんだけど、聞いてなかったんだろ?」
ここまで具体的な事まで、覚えているという事は、やはり先ほどの気のせいという発言は、単純にこの話題を終わらそうとしたのだろう。その思惑は外れてしまっているが。
オリバーが言う使い魔が何を言っているのか、ルーベルには分からなかったが、ここは一度我慢してリリアとの会の観察を優先する事にした。
「聞いてたわよ」
リリアはオリバーが言った「あの時」が何の話だったのか分かっていたようだ。
では一体リリアは何に対して怒っているのだろうか。
ヴァネッサはルーベルに対しては非協力的な態度ではあったが、ヴァネッサとリリアが不仲であるようには見えなかった。
それでもヴァネッサの名前に反応するという事は、いや、オリバーの口からヴァネッサの名前が出る事に対して反応するというのは、最早答え合わせは済んでいるのではないか。
「いや、いま戦闘中だろ? こういう話をしてる場合じゃない」
オリバーもまた、リリアが何故怒っているのか察したのか、再度この話を止めようとする。
「もう終わったわよ」
言われてみれば、いつのまにかリリアは魔術を使うのを止めている。
「終わった?」
オリバーもリリアに言われるまでは気が付かなかったのだろう。夜目が効くリリア以外には、空賊の姿は見えていないので、リリアの言葉を確かめるのは難しい、このタイミングでリリアが嘘を付く必要はないため、彼女が終わったと言うのであれば、相手を全滅させていたのだろう。そうはいっても依然として 空賊とゴーレムがすぐそこで白兵戦を繰り広げている。これを戦いが終わったと評するの正しいのだろうか。
ふとオリバーがルーベルに視線を向けてくる。オリバーもまた同じことを考えたのだろう。
ルーベルはオリバーが何を言わんとしているのか察した上で、このリリアとオリバーの観察を優先する事にした。
「ご心配なく。こっちは一人で大丈夫よ。続けて」
ゴーレムは最初の不意打ちが成功して以降、一方的な優勢な戦いを進めている。相手の体が硬いとはいえ、それはゴーレムも同じである。
召還型の特殊なゴーレムを使った事もあり、本来の能力値としても上回っているのかもしれない。
もう少しこのゴーレムと空賊の長の戦力の違いについては、色々と試して調べてみたいところではあったが、今はオリバーとルーベルの話を聞く事を優先させている。
「護衛を倒し終わったのなら、三人で一気に長を倒した方が良いんじゃないのか?」
そもそも何故このような状況になっているのかと言えば、夜目が効くリリアを先行させて長を発見し、後を追うようにしてオリバーとルーベルが合流したのだ。
三人が揃い、長の護衛である護衛を全滅させたのであれば、ルーベル一人に長との戦いを任せておく必要は無い。早く決着をつけるべきというオリバーの考え一般的な考えとして正しいのだろう。
「あー、今は話しかけないで。気が散って、ゴーレムの制御を間違えて大変な事になるかもしれないから」
ゴーレムの行動には手動とオートがあり、余程特殊な行動をさせる時以外はオートで動かしている。
今の長との戦闘もその例に漏れず、ルーベルは最初に戦闘を仕掛ける指示をしていこうはほぼ見ているだけであったのだが、そんな細かいゴーレムの操作方法はオリバーは知らない。
「まだ私の話は終わって無いわよ」
リリアを放置してルーベルと話を進めようとしたことで、さらに機嫌が悪くなったような感じがするリリアの声がした。
もちろんその声はオリバーに向けられたものだ。
「なんの話だっけ?」
やはり、オリバーはリリアが何故怒っているのか察しているのかヴァネッサの名前を出そうとしなかった。
「ヴァネッサよ。この後血を吸わせるの?」
残念ながら、リリアは話を止めるつもりは無いらしい。
「それはあいつが使い魔を使ったから、その分血を補充するってだけの話だろ。そもそも話を聞いてたなら、ここまで説明しなくてもいいだろ?」
オリバーとしてもリリアの怒りの原因がヴァネッサである事までは分かっているのだろう。
とはいえ、リリアはヴァネッサが吸血鬼である事を知っているし、吸血鬼が血を吸う事も知っているのだろう。だとしたら吸血鬼に血を吸わせるという事に一体何故怒るのか。オリバーはそれが分からないようだ。
「私もスキル使ったんだけど」
それでようやく、オリバーはリリアが何故怒っているのか察したのだろう。
それはルーベルも同様だった。ルーベルもリリアがミランダの治癒をする場面は遠くから観察していたし、それが魔族特有のスキルであるという話も聞いていた。話の流れから察するにスキルを使うと何かしらの代償があり、吸血鬼はその代償が、吸血行為になるのだろう。つまりは、リリアはサキュバスであるということを考えれば、その代償が何なのかは皆まで言わずとも、察する事ができた。
ヴァネッサにはスキルを使った代償を払っているのに、リリアに対してはスキルを使った代償を払っていないという現実。
更にその不公平さに、スキルを使わせたオリバー自身が気が付いていない。恐らくリリアはオリバーの方からこの事実に気が付いて欲しかったのだろう。
「それって…」
オリバーもまたリリアが何を言わんとしているのか察したのだろう。しかしその先をオリバーは自分で口にする事を避けた。
「何よ?」
それでもリリアはまだ不機嫌だ。どうやらリリアもまた、この先を自分の口で言うつもりは無いらしい。
この後どうするつもりなのか、オリバー自身の口から言ってもらいたいようだ。オリバーは半ば根負けしたように、解決策を口にする。
「じゃあ、リリアも来ればいい」
その言葉が今のオリバーが言える精一杯なのだろう。ルーベルが見ているせいかどうかは分からないが、オリバーもまた、明らかに直接的な表現を避けている。
そうなるとルーベルは自分の予想があっているのかどうか気になってしまい確かめたくなってくる。
このまま黙っているかどうか迷ったが、ついにルーベルは口を開く事にした。
「人間って、吸血鬼とサキュバスの相手を同時にする事って可能なの?」
ルーベルからすれば、その質問に対して答えるのはオリバーとリリアのどちらでも良かったのだが、生憎と答えが返って来ない。
答えに迷っているという事は、今の段階ではオリバーは二人の相手をまとめてしたという経験が無いのだろう。少々間を置いて、その言葉に返事をしたのはオリバーだった。
「いや、今日はヴァネッサが来るから、余裕があるなら明日以降にしてくれるか?」
リリアが、再生スキルを使用する事でどの程度消耗するのかはルーベルには分からない。しかし、ヴァネッサが使い魔のスキルを使ったら吸血が必要になるという事は、リリアも再生スキルを使ったのであれば代償となる行為が必要になるのだろう。
「じゃあ、明日以降でいいわ」
あっさりとリリアは引き下がった。
それがどれほど急いで必要なものかどうかは分からないが、明日以降でもいいという事は今すぐ必要な行為という訳ではないらしい。
リリアに対してもスキルを使った代償が必要という事に気が付いたという事で、今は満足しているのだろう。
そうなってしまうと、恐らくこの話はここで終わってしまう。その前にルーベルにとって確かめなければならない事がある。
「それって一人で二人の相手をするのは厳しいって事?」
オリバーの反応を見るに恐らくは同時に二人の相手をするという経験はないのだろう。それに対して挑戦するという姿勢ではなく、あえて避けるという行動を取るという事は一人の相手をするだけで消耗するという事なのだろうか。
吸血鬼とサキュバス。二人に対して代償が必要であるというのであれば、一緒にやってしまった方が良い気がするのだが、それは出来ないと言う意味なのだろうか。
「まあ、そうだな」
オリバーの返事からは、何となく事を荒立てたくないといった意図が感じられたが、同時にそれは事実を曖昧なままにしてしまっている。
それは目の前に不機嫌なリリアが居るからかもしれないが、真偽をはっきりとさせたいルーベルからすれば曖昧にされてしまっては困る。
よってルーベルは事の真相を確かめる事にした。
「ちなみに、血を吸うところを私が見に行ってもいいかし」
「ダメよ」
リリアがルーベルが言い終わるよりも早く否定した。
「どうして?」
ルーベルが、ヴァネッサの吸血行動を見る。それに対してリリアが反対する理由があるとは、ルーベルには思えなかった。
「見世物ではないわ」
一旦機嫌が直ったかにみえたリリアがまたしても不機嫌になっているように見える。やはりヴァネッサの話題になった所為なのだろうか。
「あなたが決める事では無いと思うけれど」
今夜に限って言えばオリバーとヴァネッサの問題であり、リリアが口出しする事では無い気がしていた。
「ヴァネッサだって見せびらかしたいとは思ってないわよ。だから夜に人目を避けてやってるのよ。そうよね、オリバー」
同じ魔族というところで、何か暗黙の了解でもあるのだろうか。しかしそれだと人間であるオリバーに対して同意を求めるのはおかしい気がする。
「え、ああ、そうだな」
そしてオリバーも何か微妙な反応をしている。ヴァネッサとしては別にみられても構わないと思っていると、少なくともオリバーはそう認識しているのだろうか。
だとしたら何故わざわざ二人きりになろうとするのか。ルーベルは学者肌であり、疑問があったら確かめたくなってしまう。
「もしかして、吸血というのは、二人きりになる口実で、他に何かやってるんじゃないの?」
ふと思いついた仮説を口にすると、オリバーがあっけにとられていたが、絞り出すようにして、こう言い返した。
「いや、気のせいだ」
その返しは、会話として成立しているのだろうか。明らかに動揺している、
「吸血以外、何かするつもりなの?」
これにはリリアも予想外だったのだろう。再度オリバーに対して追及を始めた。
「何もしない」
オリバーは何かを隠している。ルーベルにはそう見えた。
「この前吸血させた時は、何も無かったの?」
リリアにもそう見えたのだろう。前回実績の開示を要求し始めた。
「吸血をさせたついでに、話をしただけだ」
話をしただけ。便利な言葉である。もちろんそんな言葉でリリアが納得するはずもない。
「話って?」
リリアの様子は、浮気の有無を問い詰めているように見えてしまうのはルーベルの錯覚なのであろうか。
「二人してずっと黙ってるほうがおかしいだろ」
吸血にどれだけの時間を要したのかは不明だが、確かにヴァネッサが黙々とオリバーから血を吸うという光景は不自然である会話の一つや二つはあってもおかしくはない。
「じゃあ、この前血を分けた時は何を話したの」
だとしても、その中身が気になるのは当然の流れだろう。
「他愛もない話だ」
その言い方は、話したくないと言っているように聞こえる。
「それはここで話せない内容なの?」
リリアもまた、同じように感じ取ったようだ。
「二人で話した事を本人の居ない所で言いふらすのは、あまりいい気がしないだろ」
オリバーの言い分には一理あるような気がする。
「つまり、何を話したかは覚えてるのね。他愛もない話なのに」
それでも、隠そうとしたという点でリリアは不信感を持ったようだ。それに対してルーベルは解決策を提示する事にした。
「気になるなら、今夜立ち会えばいいじゃない」
それが最も単純な解決方法のような気がした。
「あなたも来るつもり?」
すかさずリリアが、真意を確かめに来た。
「ダメかしら?」
これならば、ルーベルとしては見たいものがみれる上に、リリアは見たいものが見れる。誰も損をしないはずである。
「見世物ではないと言ったはずよ」
オリバーの疑惑を確かめるよりも、自分が精気を吸うという行為を他人に見られたくはないらしい。
「もしかして、周りに見られると恥ずかしいとかあるの?」
一体何故みられる事を拒否するのか。それもまた、気になる疑問の一つであった。
「なっ…」
怒りと困惑が入り混じった微妙な声を上げる。それは明らかに、ルーベルの質問が図星だった事を示している。
「あ、ごめんなさい。とりあえず、この話はもう止めましょうか」
ルーベルは直感的にこれ以上触れたらまずい話題だと理解した。
リリアは何も言い返さない。ルーベルの言葉を認めたくないのかもしれないが、かといって否定する事もできない。そんなところだろう。
「ゴーレムの制御は大丈夫なのか?」
オリバーが恐る恐る助け舟を出してきた。リリアに問い詰められていたオリバーとしても、早くこの話題を終わらせて、長との戦いに決着を付けたいのだろう。
完全に放置していたが、少し向こうではゴーレムと長が戦闘を繰り広げている。戦局はゴーレムに有利なままだが、相手の体が硬いせいか、相手を倒しきるまでには至っていない。
「え、ああ、そうね。それじゃあ、そろそろあれを倒しましょうか」
これ以上深入りすると、今の協力関係に亀裂が入る恐れがある。そう判断したルーベルは大人しく長の討伐を行う事にした。
先ほどの会話を鑑みるに、この人間とサキュバスは、仲間以上の関係である。それが分かっただけでも大きな収穫である。
次話は11/11に投稿予定です。