表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
肉食系ヒロインに食べられました  作者: 月ノ裏常夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/52

[3-17] 孤軍奮闘

 リリアが最も得意とするのは炎の攻撃魔術である。火とは熱だけでなく、光も放つため夜の森で使うのは自分の居場所を周りに教えているようなものである。

 だが討伐目標を目の前にした今、リリアはその存在を隠す必要が無くなった。それに先ほどの合図を目印にこの場所を目指しているオリバーとルーベルのためにも、この場所が分かる様に積極的に魔術を使った方が良いだろう。

 現れた長は、昼間と同様に、小さい固体を何体か連れていた。ルーベル曰く、あの長は負傷した小さい固体を搬送するためだろうとの事。そうなると連れている小さい固体は護衛役という事になるだろうか。

 合図はした。オリバーとルーベルはいずれ来る。だからと言ってこのまま黙って見ているつもりはない。

 ルーベルに事前に説明をされていた。

 相手は生け捕りも嫌っているが、恐らくは死体も隠そうとするだろうと。つまりは小さい固体を倒してしまえば、長はその死体を回収しようとする。よって周りに回収が必要な死体があれば長は逃げなくなるだろうと。

その読みを信じるのであれば、まずは露払いとして護衛用の小さい固体を始末する。

 火の玉の生成と射出を繰り返し、護衛用と思われる小さい個体に火の玉を次々に浴びせる。相手も棒立ちのまま受けたりはしないが、彼女が放った火の玉は一つではない。何発もの火の玉を続けざまに浴びせ続けた。

 夜の森の中を、熱と光を放出しながら複数の火の玉が横断する。

 ある個体は数発回避行動を取るものの数の多さに避け切れずに被弾し、さらにある個体は奇妙に曲がる火の玉が追尾するような動きに避け切れずに被弾する。

闇夜の中でどこからともなく飛来する火の玉に一匹、また一匹と数を減らす。

そして、リリアはふと気が付く。リリアが攻撃を開始してからある程度の時間が経つが向こうがこちらに反撃してくる様子が無い。位置を把握できていないのだろうか。リリアも自分の居場所が向こうに伝われば反撃される危険性は理解している。

よって火の玉の生成位置はある程度調整し、目視では向こうから確認できないようにはしている。

とはいってもこれほど魔術を使用すれば、相手が魔術に長けているのであれば、魔力の動きからこちらの位置を掴んでも良い頃合いだ。

にも関わらず、こちらを攻撃してこないのは、こちらの位置を掴んでいないのだろう。ルーベルは相手には知能があると考えていたが、魔術に関する知識が無いと言う事なのだろうか。何にせよ反撃してこないのであれば都合が良い。リリアはさらに攻撃を続け、長以外の個体を全て始末する。

 夜の森に似つかわしくない爆発音が何度も響き渡り、至る所で火の手が上がる。

 相手の様子を見るためにリリアは物陰から顔を出すと、大きな個体長のすぐそばにいた負傷した個体はもう見えなくなっている。

 ルーベルの読み通り、長は逃げようとしなかった。多数ある小さい個体の死骸の回収について考えているのだろうか。

 そんな予想をしながら、長の動向を観察していたところ長と目があった気がした。こちらの居場所に気が付かれてしまっただろうか。多数の火の玉を近くに居た小さい固体に浴びせたのだ。例え魔力の感知はできなくとも、火の玉の射出された方向からおおよその当りをつけていたのかもしれない。

この作戦の目的は空賊をルーベルの隠れ家から追い払う事。その目的を果たすためにあの長を倒そうとしている。

 つまりルーベルが来る前にあの長を倒しても問題は無いはずだ。そう考えたリリアは相手がリリは、相手が攻撃をしてこない今を好機と捉え、小さい固体を倒した後も攻撃の手を緩めずに長に対しても攻撃を行った。

 再び火の玉が生成され、残された長に向かって射出される。

 爆音が収まり、頃合いを見て相手を伺うが、相手の姿は健在であった。

「意外と頑丈ね」

 小さい個体は倒せた、しかし、大きな個体は揺れる炎の中で、四本の脚で立っているのが分かる。

 残念ながら小さい個体とは違い、通常の火の玉を数発当てた所でどうにかなるような強度ではないらしい。

 リリアの持ち得る攻撃手段としては、ファイアボールが最も隙がなく相手を攻撃する事ができるが、それに耐えうる相手となると、さらに強力な魔法を使うために詠唱が必要になる。

 魔術の詠唱には神経を集中させる必要があり、当然その間は隙が発生する。相手がこちらの位置に気が付いていないのであれば、魔術の詠唱に入っても良いが、こちらの位置が把握されていたとしたら、かなりの危険を伴う。

 あの長相手にその隙を見せてもいいかどうか。そこまでするのであれば、オリバー達と合流してからの方が良いのではないか。そう思った矢先、相手に変化が起きた。具体的にいうならば、背中に何かが生えた。

 生えたという表現が的確かは分からないが、犬が指に隠していた爪を生やすかのようおに、背中に二本の筒状の物体が生えた。

 筒は空賊の体と平行な向きをしており、その先端は空賊の正面に向けられている。まるで背中に二本の筒を括り付けているようにも見える。

 二本の筒はあの動作を見るに、元々体の中に収納されていた物体である。

 体の向きからして、相手は明らかにこちらを見ている。今は戦闘中だ。普通の魔物なら何かしらの攻撃態勢を取ったり、威嚇行動をしたりするだろう。魔物の一般的な威嚇方法としては唸り声をあげるという行動があるが、あの空賊からはそういった声は聞こえない。ただ見た目が変わっただけだ。それとも今の状態が、何か攻撃を準備している状態だとでもいうのだろうか。

 もしかするとあの背中に生えた不可思議な物体はこちらを攻撃するための手段なのか。

 狙われている。

 その可能性が思い当たった瞬間、リリアは咄嗟にその場から離れた。

 その直後に、爆発が起きた。リリアが魔術を使ったのではない。

 正確には、あの長が何かを射出し、それが先ほどまでリリアが立っていた場所を通り過ぎで、木に当たって爆発したのだ。

 闇夜を爆炎が照らし、間を置かずしてリリアを衝撃波が襲い、その場に押し倒す。

 その爆発の威力はリリアのファイアボールと大差はない。まともに当たったら死んでも不思議はないぐらいだ。

「どうやって…」

 驚きと困惑と恐怖が入り混じる中、リリアは頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出した。

 魔力の変動は感じなかった。あれは魔術ではない。しかし爆発が起きたのは事実だ。何かを射出したように見えたが、一体何なのか。

 いや、今は相手の攻撃方法を考えるよりも、同じ場所に居続けて大丈夫だろうか。このまま動かなければ安全か。位置的に相手の視界からは隠れている

 先ほどの攻撃は、相手はこちらの位置を掴んだと考えるべきだろう。この闇夜で、リリアの姿を目視したのだろうか。そうであるならば、このまま地面に伏せていれば、相手に再び位置を悟られることは無いが、本当にその予想は正しいだろうか。

相手の攻撃が命中した木は完全に折れている。

 もしも、相手が目視せずともこちらの居場所を掴むことができれば、このまま地面に伏せていたところで、攻撃の餌食になるのは時間の問題だ。

 多少の傷であれば、再生スキルで治す事は可能だが、果たしてこのまま隠れていたほうがいいのか、あるいは反撃に転じるべきか。

 それよりも、今この場にオリバーが来たらどうなるか。長の攻撃方法を知らないオリバーが、相手の視界に入り攻撃される。あり得る話だ。

オリバーがあの攻撃を受けたらどうなるだろうか。木一本をへし折る程度の威力がある。それを普通の人間が受けたらタダでは済まないだろう。リリアが持つ共有スキルと再生スキルを行使すれば、大抵の傷は治せるが、死んでしまえば蘇生する事はできない。それだけは避けなければならない。そのためにはどうするか。

「仕方ないわね」

 意を決してリリアは物陰から姿を見せる。

 長はこちらを見ていた。はやりこちらの位置はバレていたのか先ほどよりも距離を詰めている。こちらの死体を確認しに来たのだろうが、生憎とまだ死んではいない。

 長と目が合う。今は夜とはいえ、辺りにはリリアが放ったファイアボールと長が放った攻撃の影響で所々火の手が上がっている。並みの人間であっても、この距離であれば肉眼でリリアの姿が見えただろう。

 しかしいつまでも棒立ちという事はしない。すぐさま移動すると先ほど立っていた場所で爆発が起きる。

「まあ、攻撃はしてくるわよね」

 そう言いながら彼女は木の陰で立ち止まる。相手が続けざまに攻撃してこないところをみると、正確な位置は把握できていないようだ。攻撃で発生した爆発でこちらを見失ったのだろうか。

 かといって長い間木の陰に隠れていては、合流しに来たオリバーとルーベルに攻撃の手が向くだろう。

 リリア自身が長の注意を引き付け、オリバー達に攻撃が向かないようにする。そのためにはどうするか。

「もっと事前に話しておくべきだったわね」

 長を見つければ居場所を合図するという打ち合わせはしたが、相手が近づくのが危険であった場合に使うような合図は決めていなかった。

 長の攻撃による爆発音も、オリバー達からすれば、リリアの魔術であるかどうかの区別はつかないだろう。

 一旦隠れ家に戻ってオリバー達と合流する手もあるが、それではせっかくおびき出した長を取り逃がしてしまう。

 今になって悔いても仕方が無い。こうなってしまってはオリバー達が来るまで一人で戦い続け、その音でまだ戦いは続いていると知らせるしかない。そうすれば少なくともオリバー達が無防備に長の前に姿をみせるような事態にはならないだろう。

 具体的な方法としては姿を見せて攻撃を誘って回避するのを繰り返す。危険だがやるしかない。幸いにも敵の攻撃精度は高くない。一定の距離を保っていれば敵の攻撃を避け続けるのはそれほど難しくはない。

 とはいえ一撃があの威力だ。直撃すれば死ぬ危険性は否定できない。

このまま倒しき切れれば一番だが、相手の体は固い。無詠唱の魔術だけで倒すのは不可能であるのは先ほどの攻撃で証明されており、詠唱に集中している間にオリバーが来てしまえば、そちらに長の攻撃が向く危険が高い。

オリバーが死ぬことだけ避けなければならない。

「やるしかないわね」

 そう呟きながら、再度リリアは物陰から姿を現した。


 ●


「ちょっと待って」

 合図を目にしてから、それほど時間が経たないうちに、ルーベルがその足を止めた。

「どうした?」

 それを聞いたオリバーもまた足を止めた。

「リリアは炎の魔術が得意なのよね?」

 ルーベルも、日中にリリアが炎の魔術を使うところを見ているし、作戦会議の場でもリリアが炎の魔術が得意である事は説明済だ。

「そうだな。火の玉を撃ちだす魔術をよく使う」

 それはオリバーがよく見るリリアの戦い方である。何故今更その質問をするのか。

「じゃあこの爆発音はリリアが魔術を使ってるって事でいいの?」

 森の奥から何かが爆発する音が定期的に聞こえる。それはリリアが放ったと思われる合図のあった方向と一致する。という事はリリアと長が戦闘をしているという事だろう。

「そうだと思うぞ。合図のあった方向から聞こえるからな」

 この夜の森で、リリア以外の冒険者が戦闘をしているというのはあまりにも考えにくい。リリアと長が戦っていると考えるのが普通だ。

「爆発音が止まない事は、戦闘が続いてるって事よね?」

 合図が見えてからしばらくして、最初の爆発音が聞こえた。それ以降も爆発音は断続的に聞こえて来る。

「そうだろうな」

 リリアは冗談で魔術を使ったり、空賊の死骸に向かって魔術を使うような性格ではない。戦闘が続いていると考えるのが妥当だ。

「リリアの魔術の命中率は低いの?」

 ルーベルはリリアの魔術が相手に当たらないせいで、何度も使っている可能性を考えているようだ。しかし、リリアが戦闘している所を何度も見ているオリバーからすれば、その可能性は極めて低いことを良く知っている。

「いや、打ち出した火の玉の軌道修正も出来るから、外すって事はそうそうないと思うが」

 リリアは打ち出した火の玉を任意で軌道を変える事ができる。並みの魔術師よりも余程魔術の命中率は高いだろう。

「じゃあ、相手が魔術に耐えている?」

 ここに来て、ようやくオリバーはルーベルが言おうとしている事を察した。リリアと長の戦闘は何故長引いているのか。

リリアのファイアボールは早々外れたりはしない。それでも爆発音が続いているというのは相手が魔術を受けても耐えているという事になる。

「長の耐久力は高いのか?」

 オリバーは魔術に精通しているわけではないが、リリアが魔術師の腕が高いと言うのは見ていても分かる。あの火の玉を受ければ普通の魔物であれば倒されるだろう。あの長はファイアボールを一発受けた程度では死なないと言う事なのか。

「それはまだ分からないわ。私も長とは戦った事は無いし」

 残念ながらルーベルも長についてはそこまで詳しくないようだ。

 戦っているということは、リリアがまだ生きているという事の証明にはなっている。しかし、リリアの魔術に耐えうるような相手でもあるという事。

「でも相手が頑丈なだけなら、攻撃し続ければそのうち倒せるんじゃないのか?」

 何度も爆発音が聞こえるというのは、リリアが攻撃を続けているという事。いくら相手が頑丈でも、リリアの攻撃を何度も受ければその内倒せるのではないか。そのようなオリバーの楽観的な予想を、ルーベルは覆した。

「相手が反撃手段を持っていたら?」

今聞こえている。爆発音。この音がリリアの魔術ではなく、長の攻撃によるものだとしたどうか。二人に緊張が走る。

「急ごう」

 もしかすると、リリアが窮地に陥っているのかもしれない。そう考えてしまうと、一刻も早く、リリアと合流する必要がある。

「待って。そろそろ場所が近いから、このあたりでゴーレムを呼び出すわ」

 先ほどリリアが合図を送った場所にはかなり近づいている。し、なにより、爆発音が近くから聞こえる。リリアと空賊が戦っているのはもうすぐそこだろう。

「敵を見つけてからじゃ遅いのか?」

 ゴーレムの移動力は低いと聞いている。ゴーレムを呼び出すと言うのであれば可能な限り相手に近づいてからの方が良いのではないか。

「接敵してからやるのは隙が大きすぎるから、今がいいのよ」

 ルーベルが言うには近づきすぎるのは逆に危険らしい。確かにリリアと長が戦闘をしているのであれば、敵の間で隙を作ってゴーレムを呼び出すより、事前に呼び出しておいた方が良いだろう。

「そうか。でも呼ぶって近くに居るのか?」

 昼間森で見たゴーレムは隠密行動ができるようにも、素早く動けるようにも見えなかった。さらにここまで来るのにゴーレムが後から追ってきているようには感じなかった。あのゴーレムが追ってきているのならば足音の一つはするだろう。

 果たして呼ぶとはどういう事なのか。

「違うわよ。ゴーレムの使い方は二つある。一つは疑似魂魄を植え付けて常時活動させる方法。そしてもう一つは魔力を生命とした召喚獣として使う方法。こんな風にね」

 ルーベルが何かを唱え掌を前方の目線より上に向かってかざすとそこに地面と水平に光で描かれた魔法陣が生成された。

 召喚魔術。オリバーも聞いたことはある。通常は精霊や魔獣と契約し、呼び出して使役する。その契約相手を、自らが作ったゴーレムに置き換え、常に活動させるのではなく、必要な時のみ呼び出す。だからこそルーベルはゴーレム使いであるにも関わらず、ゴーレムを護衛に着けずに森の中を単独で行動していたのか。

 オリバーがそんな事を考えていると、さらに彼女が何かを唱えた。するとその魔法陣から二つの光が見えた。その光からそれぞれ一本ずつ足が生える。それがゴーレムの足だと気が付く頃には、その姿は腰まで見えており、まるで魔法陣から落ちて来るようにして、一体のゴーレムが現れた。

 着地と同時に膝を曲げる動作は、まるで人間であった。そしてこのゴーレムは昼間見たゴーレムと大きく違う点が一つある。

 それは手に大剣を持っている事だ。

「活動時間はあまり長くないから、早くいきましょう」

 見た事のない魔術にあっけにとられていたオリバーに対して、ルーベルは何事もなかったかのように歩き始めた。


 ●


 リリアは長の攻撃を避け続けていた。姿を見せては物陰に隠れる動作を繰り返す。幸いにして、まだ長の攻撃は直撃していない。

 彼女の近くで爆発が起こり、そのたびに爆発で飛ばされた土や枝を被ることになっていたが、それは些細な問題だ。

 この役割が自分で良かったと思っていた。再生能力を持つ自分であれば、多少の傷ならばすぐに再生できる。そう思った矢先に、ヴァネッサの顔が思い浮かぶ。彼女には再生能力は無いが治癒魔術がある。加えて今は夜だ。吸血鬼として本来の力を出せるようになったヴァネッサであれば、もっとうまく立ち回ったかもしれない。

「今はそんな事言ってられないか」

 とはいえ意図的に姿を見せて攻撃を誘っている以上、危険は覚悟している。しかし一方的に攻撃されるままになってしまうと距離を詰められ、さらに危険度が上がる。

 相手を足止めする意味でも、多少は反撃した方が良いのではないか。

倒しきる事は出来なくとも、攻撃の手を止める事は出来るかもしれない。

 炎が燃え盛る森のなかに佇む空賊の姿は、炎が逆光となり、シルエットが影となって不気味さを際立たせている。さらにその不気味さをより一層強調しているのが筒状の何かが背中に二つある事である。最初に遭遇した時には無かったものであり、体の内側から生えるようにして出てきた正体不明の物体。

「あれを使って攻撃してるって考えるのが普通よね」

 疑問感想が口から漏れる。最初の爆発が起きる前に起きた相手の変化。変形といってもいいのだろうか。背中に筒状の物体が生えた。この付近あの長以外の空賊は見当たらない。別の何者かがやってきてあの筒状の物体を取り付けたという事は無いだろう。こちらの攻撃を受けて。あの長が自力で姿を変えたと考えるほうが妥当だ。

 そんな考えを巡らせているリリアに対して、急かす様に近くで爆発が起きる。

「まあ、オリバーが攻撃されるよりはいいけどね。」

 リリアも魔術してあり、近くにいる者の魔力は感じる事ができる。しかしオリバー達はまだその範囲内には来ていない。

 今オリバー達がどこにいるかは分からないが、長はリリアを狙い続けている。

 呼吸を整えて、自分より少し離れた場所で火の玉を生成する。並みの魔術師であれば火の玉を生成するだけでも詠唱を必要とする。それを無詠唱で行い、さらに自分から離れた位置に生成するというのは高度な技術を要求されるが、それをリリアは苦もなくこなす。先ほどの攻撃の結果、森の中のあちこちで火が付いており、月明り以外にも光源が複数存在するような状態であったが、それでも唐突に生成された火の玉から放たれる光は充分に目立っていた。

 すると今度はその近くで爆発が起きた。

 それはリリアが起こした現象ではない。空賊の攻撃だ。

「光に反応してる?」

 火の玉を生成した直後に、その場所に向かって攻撃してきたという事は、光を狙って攻撃しているのだろうか。

 いや、先ほどまでリリアは明かりを所持しておらず、姿を見せたところで攻撃された。という事はあの時は光に反応した訳ではない。

今火の玉を生成したのは長から見て木の裏側であり、直接火の玉は見えていないはずだ。にも関わらず攻撃してきた。

一体何に反応しているのかは不明だが、生成した火の玉をリリアだと誤認しているのであれば囮として使うのには丁度いい。

 リリアは火の玉を制御して自分と相手の空賊を挟んで丁度反対側になるように移動させる。丁度長を円の中心として弧を書くように火の玉を移動させる。

 木にぶつからないように火の玉を移動させると、それに合わせて長も火の玉の近くに目掛けて攻撃してくる。やはりあの火の玉をリリアだと思い込んで攻撃しているようだ。

 火の玉の動作に合わせて爆発音が遠ざかっていく。

 攻撃の対象が自分ではなく囮の火の玉に移った事で、比較的冷静に周りの状況が見えるようになり、気が付いたことがある。

 爆発音が起きる直前、別の音が聞こえる。何かを射出する発射音ではないかと考えられるが、どうやら相手は自分の正面に対して攻撃しているようで、あいにくとこの場所からでは相手が攻撃する瞬間と言うのは見えないし、今は完全に相手の背後を取まで姿を隠し、後ろからの攻撃を行った方が良い。

 さらにもう一つ、一度攻撃を行ってからもう一度攻撃を行うまでにはかなりの間が発生する。リリアのように、連射する事は出来ないらしい。

 火の玉を追うようにして攻撃を繰り返している事から。それが囮だとはまだ気が付がついていないのだろう。

「知能は低いのかしら」

 そうは言ってもまだ油断は出来ない。相手の攻撃は一発で木をへし折るような威力があるのだ。直撃すれば致命傷となる。

 今はただ火の玉に向かって攻撃しているという事実があるだけだ。もしかすると今もリリアが居る場所を把握していてあえて背中を見せているのかもしれない。

 一度相手の様子を見て確かめる必要がある。

 丁度自分と対角線上に位置する場所に火の玉を移動させたところで、リリアは物陰から顔を出した。相手は背中を向けている。

「後ろからの攻撃には耐えられるのかしら」

 リリアは攻撃のために物陰から出る。

 手慣れた動作で火の玉の生成と射出を無詠唱でほぼ同時に三連続で行う。無防備な相手の背中に向かって三つの火の玉が一直線に進む。

 それが相手に直撃する直前に、長はその場から横に飛び、その勢いでリリアの方に向き直った。

「うそ」

 予想外の反応に思わず声が漏れた。

まさか、後ろも見えているというのか。

長と目が合う。放った火の玉の軌道を修正して攻撃するのを諦め咄嗟に物陰に隠れた。

その直後に爆発が起こった。

先ほどよりも強い衝撃と熱を感じながら、リリアは地面へと倒れ込んだ。あまりにも近くで起きた爆発に耳鳴りがする。すぐさまリリアは自身の体を確認するが正常に動く。どうやら致命傷は免れたようだ。

 どういう理屈かは分からないが、相手は背後からの攻撃にも反応できるようだ。そして今一人で戦って注意を引き付けている以上、ファイアボール以外の詠唱が要る強力な魔術は使えない。

 となると囮用の火の玉を利用した陽動に専念してオリバー達が到着するまでの時間稼ぎに専念する方がよい。そう考えた矢先に新たな問題が発生する。 

「まずい」

夜の森の中、こちらに接近してくる複数の物体を彼女は目視していた。

 人間のオリバーやエルフのルーベルであれば多少の魔力を感じるはずだ。それが感じられないという事は空賊という事だろう。それは敵の増援であるという事だ。

陽動に使っている火の玉の制御に気を取られていた事もあり、かなり近くまで接近されている。

危機感を覚えたリリアはつい反射的に火の玉を生成し迎撃の体制を取る。しまったと思った時には手遅れだった。生成された火の玉で辺りに光が漏れる、これでは長に自分の居場所を伝えているようなものだ。

生成してしまったものは仕方がない。すぐさま近くにいる空賊に向かって射出し、相手を撃破する。

同時にその場からすぐさま離れるように走り出す。

予想はしていた事だが、リリアの近くで爆発が起きる。長が攻撃してきたのだ。

それでもある程度場所を移動する余裕はあった。どうやら、あえて攻撃を連発していないのではなく、制約として連射は出来ないらしい。

それが分かれば、この状況下にも勝機はある。

今なら長に姿を見せても安全。そう思ったリリアはわざと物陰から飛び出して姿を見せる。

先ほど攻撃した直後だ。再度攻撃するには時間が必要。今であれば攻撃されることは無い。

さらに、リリアはあえて攻撃をしない。これは注意を引き付けるためだけの行動。

なぜなら、彼女は接近してくる魔力に気が付いていた。

次話は10/28に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ