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肉食系ヒロインに食べられました  作者: 月ノ裏常夜


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[3-7] 帰り道

 ミベラの森の中で、ギルスを先頭に追尾針を頼りにルーベルの元に向かっていたオリバー達一行の耳にその音が届いた。

「今の聞こえたか?」

オリバーは他の三人に、自分が聞いた音が勘違いで無い事を確認する。

「聞こえたわ」

 そう言ったリリアに続き、ヴァネッサとギルスも肯定の言葉を続ける。

「また誰かが戦ってるのか?」

 自然の森の中で聞くにしては不自然な、金属同士がぶつかるような音。先ほどに続き今日はこれで二回目だ。

「かもしれないわね」

 リリアもオリバーとは同意見であるようだ。とはいえ音が聞こえただけであり、それ以上詳しい事は分からない。

「追尾針の向きは?」

オリバーの問いに、ギルスは追尾針を取り出して向きを確認する。

「近いけど、一致はしないね」

「じゃあ、この音の発生源はルーベル以外の誰かが戦ってるって事でいいのか?」

 もしも戦闘にルーベルが巻き込まれているのだとしたら、今すぐにでも助けに向かった方が良い。しかしルーベルが居る方向と音がした方向が違うと言うのであれば、今はルーベルの元に向かうことを優先した方がいいだろう。

「まだそうと決まった訳じゃないけど、その可能性が高いね。追尾針が射してる方角が近いから、ルーベルの元に行ったら、この音の発生源に遭遇するかもしれないけど。」

 音がした方向と、ルーベルが居る方角が違うと言う事は少なくとも音の発生源はルーベルではない。とはいえ比較的近い方角であるためルーベルと合流するまえに音の発生源と遭遇するかもしれない。

「じゃあ今、音がした方向に行く?」

 そうなると、このままルーベルの元に向かうか、それとも音の発生源に向かうかと言う選択が必要になる。リリアは音の正体が気になるのか、音の発生源に向かう事を提案してきた。

「でも騎士団とゴーレムが戦っていたとしたら面倒になるよ」

 一方のヴァネッサは現場に行く事に消極的だ。確かに今の状況で騎士団と鉢合わせしたら、面倒になる事は間違いない。

 音がした現場に行くのと、このままルーベルと合流するのはどちらが正しいのか。現場に行けば騎士団に遭遇する危険がある。しかしルーベルの居場所は追尾針で終えるが、音の発生源は何者かであるかは分からないし、今行かなければその正体は分からないままになる。無害な相手ならば良いが、ルーベルと合流してから、遭遇する可能性もある。先に音の発生源の位置が分かっている今の内に、その正体を突き止めるという考え方も、間違いとは言えない。

 迷っているオリバーに対して、ヴァネッサが続けて口を開いた。

「ルーベル自身は戦闘能力があるの? 一人で暮らしてるなら、そうそう簡単には死なないんじゃないの?」

 その質問はギルスに向けられた物だ。ルーベル自身に戦う能力があるならば、救援は必要ないだろうと言いたいのだろう

「確かに彼女はゴーレムを使って戦う能力があるね。でも僕は音がした現場にいくよりもルーベルに合流した方がいいと思ってるよ。彼女が遠出するって事は何かあったんだろうし」

 今音が聞こえた事とは別に、ルーベルが遠出した事事態に、何かしら別の背景があるとすれば、早めに合流してその事情を聞きたいと言うのがギルスの考えだ。

 オリバーはヴァネッサとギルスを交互に見て、こう言った。

「ヴァネッサ、この前の偵察道具出せるか?」

ヴァネッサは吸血鬼であり、使い魔の蝙蝠を呼び出し、蝙蝠と視界を共有する事で偵察が可能である。とはいえギルスには吸血鬼である事をまだ伏せているため、それをそのまま言う事は出来なかった。

「出せるけど、見てこいって事?」

 それだけでヴァネッサには通じたようだ。

「ああ、できるなら」

 使い魔の蝙蝠であるならば、全員で歩いていくよりも早い上に、万一騎士団に見つかったとしても追跡される可能性は低い。

「あとで対価をもらうからね」

 ヴァネッサが言う対価というのは、スキルを使って消耗する分、血を貰うという事だろう。

「え? 嬢ちゃんに行かせるのかい? でも僕と別行動したら。ゴーレムと会った時に襲って来るよ」

 事情を分かっていないギルスが、的外れな事を言った。行かせるのはあくまで使い魔の蝙蝠のみであり、ヴァネッサ本人を直接行かせるつもりはない。

 ヴァネッサもそれは分かっているのだろう。それをギルスに説明するかどうか。少し迷った結果、ヴァネッサはギルスの前で堂々と使い魔を一体呼び出した。

 呼び出された蝙蝠がふらふらと飛んだかと思うと、ヴァネッサの腕に停まった。

「え? そんな事できたの?」

 その光景を初めてみたギルスは驚きの声を上げた。エルフであるギルスの常識としても、蝙蝠の使い魔を召喚するという事は普通では無いようだ。

「偵察させて来るから、ちょっと待って」

 そう言うとヴァネッサは腕を振って蝙蝠を飛び立たせる。

 ヴァネッサは、あくまでギルスに事情を説明する様子はないようであった。

「え? 君達これ知ってたの?」

 ヴァネッサが説明する気が無いのを見て、ギルスはオリバーの方を見る。全く驚く様子が無いオリバーとリリアの反応を見れば、この事をオリバーとリリアが事前に知っていたのは明らかであり、隠す必要も無いだろう。

「ああ、一応な」

 オリバーはそう答えつつも、当人のヴァネッサが何も話す気が無さそうであったため、それ以上の事は言わなかった。


 ●


「隊長が警戒しすぎてただけで、簡単な任務だったじゃないですか」

 任務を達成し、来た道を引き返している間、自分が手柄を立てた事が嬉しかったのか、アランは軽口を叩いていた。

「たまたま相手が手負いだっただけだ。」

 目的を達成したとはいえ、今は任務中。しかも森の中ではいつ魔物に遭遇するか分からない。あまり余計な会話はしたくはないのだが、どうやらアランはしゃべっていないと気が済まないような性格の用だ。

 ミランダは仕方なく、アランの行動を咎めるような事を言うが、アランが態度をあらためるような様子は一向にない。

「おかげで簡単に俺たちはゴーレムを倒したっていう手柄が出来ましたね」

 手柄を立てられた事もあり、アランは上機嫌だ。ミランダは相手が万全の状態であれば勝てたか分からないと言いたかったのだが、別の解釈をしているようだ。

「今回は勝てたから良かったものの、指示に従わないのは、あまり褒められた事ではないぞ」

 騎士というのは団体行動をする頻度も多い。上官の命令を無視して個人行動に走るような者は組織の一員として歓迎されることは無い。ローベルグからアランは転属頻度が多いと聞いていたが、この性格が原因ではないのかと疑い始めていた。

「隊長はそうでも、団長は評価してくれますよ。結果を出したんだから」

 ミランダはローベルグと直接話す機会ができたのはつい最近であり、ローベルグの事を詳しく知っているとはお世辞にも言えない。それでも騎士団長の座に就くような人物が、命令無視をするような行動を評価するとはとても思えない。

 ミランダからは行動を咎めるような事ばかり言われたとしても、ローベルグならば評価してくれるというあまりにも都合の良い解釈をするアランに、これ以上は話しても無駄だろうとミランダが思った辺りで、視界の端に何かが入った。

「アイリーン、魔力を感じるか?」

 アランと話していた時の調子とは一変して、低く抑えた声に、何かがあったのかとアイリーンはいつも以上に緊張しながら、それでいて小さい声で返事をした。

「い、い、いえ、この周辺からは、魔力が感じられません」

 生き物には少なからず魔力が宿っており、魔術の修行を積んだ魔術師であればある程度の魔力を感知できるようになる。先ほどゴーレムの大まかな居場所を言い当てたように。

 アイリーンが魔力を感じないというのであれば、先ほど見た影はゴーレムでは無いのだろう。

「ちょっと脅かさないでくださいよ」

 アイリーンの言葉を聞いて、警戒する必要は無いと判断したのかアランが軽口を叩く。それでもミランダは警戒を解くことは無く、ただこう言った。

「ゴーレムはなぜ負傷していた?」

 そこまでいえばアランにも分かったのだろう。

「ああ、もしかしてゴーレムを手負いにした奴かもしれないって事ですか?」

 アランもその考えに至ったようだ。

「可能性はあるが、今は帰還が優先だ」

 アイリーンが魔力を感知できないという事は、別のゴーレムや、ゴーレムの製作者ではないし、野生動物という事も無い。

 そうなるとゴーレムと戦い、足を負傷させた存在という可能性が高い。そのような存在に対してこちらから接触をするべきなのだろうか。

 ローベルグは情報を持ち帰る事が重要と言っていた。既にゴーレムを一体倒している。それだけで十分な成果だ。これ以上深入りする理由は無い。

「またそれですか。姿を見るぐらいはした方が良いんじゃないですか?」

 案の定、アランは接触を試みるようだ。先ほどの様子を考えれば、そのまま姿を見るだけで引き下がるとは到底思えない。そのまま戦いを挑むつもりだろう。

 確かに手負いのゴーレムは倒せた。だからと言って、今未知の相手とあえて戦いに行く必要があるのだろうか。

 手負いのゴーレムと同等の戦力であるならば、こちらが勝つのが道理だが、それはあくまで相手が手負いのゴーレムと同等という前提が正しければの話だ。先ほどミランダ自身が言ったはずだ。ゴーレムが万全の状態であったのであれば、勝てたかどうかは分からないと。そのような相手が出てきたら、今度こそこちらが無事では済まないかもしれない。向こうから仕掛けてこないのであれば、このまま帰還をした方が良いのではないか。

「じゃあ俺が見てきますよ」

 悩んでいるミランダに痺れを切らしたのか、アランが言葉と同時に足を動かす。

「待て!」

 当然のようにアランはそれを無視して先に進む。

 まだ相手が本当に魔物かは決まっていない。ただの見間違いかもしれない。

 ミランダは自分の事を不安げに見ているアイリーンを一瞥し、アランの後を追った。

アイリーンは無言でその後を付いて来る。

 それを目にするまでにそう時間は掛からなかった。

「何か変な奴がいますね」

 アランですら、それを見て直ぐには戦闘を仕掛けようとしなかった、アランの目からしても異様な存在に見えたのだろう。

それは、ゴーレムではなかった。

恐らくゴーレムと戦っていた相手なのだろう。なぜならその体はゴーレム同様負傷しており、つい最近戦闘を行った事を物語っているからだ。

 そして、ミランダはその存在に見覚えがあった。

 四本足で歩いているその姿は、一言で済ませるのであれば、狼に似ているが、ゴーレムとの戦闘の結果なのか、一部の皮膚が傷ついている。いや、体が窪んでいると言った方が正しいのか。それはあれが狼型の魔物だとするとおかしな事だ。アレではまるで毛皮の下は筋肉ではなく、形状を固定する鎧のような骨格があり、それが変形したかのようだ。さらにその窪んでいる場所は表面の皮膚がはがれていて、その下には金属のような物が見えている。

 それはこの前ローベルグに店われたあの死体の特徴に一致する。

「まさか、あの同類か…?」

 あの時見た光景が蘇り、思わずその言葉が口から漏れる。

 向こうはまだこちらに気がついていない。しかけるべきか否か。

 しかし偶然なのであろうか。あの死体を見せた後の最初の任務であの死体と同型の魔物に遭遇する。ローベルグはこのことを知って、あえてあの死体を見せたのではないか。

 あの奇妙な窪みも、あの時見た死体と同じ体の構造をしているというのであれば納得がいく。

 傷の影響なのか動きはぎこちない。向こうは万全の体制ではないように見える。だとすれば好機なのではないか。

「ど、どうしますか? ミランダさん」

 アイリーンにも、あの奇妙な魔物が見えたのだろう。指示を促してくる。

「いや、あの魔物は…」

 ミランダの中に迷いが生じていた。先ほどのゴーレム同様今回も倒せるかもしれない。倒せば悪魔憑きにかかわる手掛かりが手に入るかもしれない。しかしあの正体不明の魔物に戦いを挑んで無事で済むだろうか。

 あれが生きて動いていると分かっただけで十分ではないのか。

「手を出すべきではない。このまま帰還するぞ」

 ミランダとしては情報を持ち帰る事を優先する決断を下した。

「あれがゴーレムより危険だと分かるんですか?」

 アランは不服そうに声を上げる。

「見て分からないのか? 明らかに変だろう。普通の魔物じゃない」

 狼の形状をした魔物というのはそれほど珍しくはないが、体の一部が金属でできているというのは見た事も聞いたことも無い。あの魔物が普通ではない事はアランにも明らかだろう。ミランダは平静を装い取り繕いながらそう言ったが手遅れだった。

「では先ほど言った「あの同類」とは?」 

 思わず口にしてしまったその言葉を、アランは聞き逃していなかった。ローベルグに口止めされている以上、全てを話すことは出来ない。

「噂を聞いただけだ」

 苦し紛れにミランダはそう答えた、

 今更言った事を否定できない。かといってすべてを話す事はローベルグからの信用を失う事になる。加えて、目の前に生きた遺物が存在している。ここは下手にごまかすよりも。話せる範囲で話す事にした。

「どんな?」

 当然それで引き下がるようなアランではない。さらに詳しい情報を聞こうとする。

「あれに似た魔物の目撃情報を噂で聞いただけだ」

 まさか、あの死体をローベルグから見せられたなどとは間違っても言えない。いえるとしてもこれが限界だ。

「誰から?」

「そこまでは覚えていない」

 かなり苦しい言い訳だが、それでもここで全てを話すよりはいいとミランダは考えていた。

「当てましょうか。ローベルグ団長でしょう」

 どうやらアランは勘が働くようだ。ミランダの弱みを握ったと思ったのか、アランはより一層上機嫌になっている。

「覚えていないと言っているだろう」

 内心図星ではあったが、それを認める訳にはいかない。極力それは表情に出ないように、ミランダはそう答えた。

「あれを倒せば特別な手柄という事ですか?」

 しかしアランは自身の予想が合っている前提で話を進めようとしている。

 ローベルグはミランダだけにあの死体を見せた。あの魔物を倒して持ち帰れば、何かしらの手柄にはなるだろう。しかしそれを今ここでミランダが認めてしまえば、さらに面倒な事になるのは簡単に予想できた。

「魔物を討伐した点では評価されるだろうな」

 ローベルグは、最終的には騎士団が魔物の討伐を行う事を考えている。騎士が魔物を討伐したという実績を作れば、今後騎士が魔物を討伐する事に対して、異を唱える者は減るだろう。その意味で、ローベルグが魔物討伐を評価する事はあるだろう。

「では、あれを倒して団長がどう判断するか見てみましょうか」

 そういってアランが剣を抜き、戦闘態勢にはいる。

「今度はゴーレムとは違う。情報がほとんどない魔物だ。下手に手を出すとどうなるか分からない。ここは放っておくべきだ」

 例え、ローベルグが騎士による魔物の討伐を考えているとしても、今目の前にいる魔物が未知の相手である事に変わりはない。既に今回の任務を達成している状況で、任務とは関係の無い魔物を追加で討伐する事を評価するだろうか。

「またですか? ゴーレムだって倒せたんだ。あれも倒せますよ」

 そして、アランは自身が敗北する事を全く考えていない。

「しかし…」

 ゴーレムを倒したという実績から、対魔物用の戦闘に自信が付いているのは分かる。しかし得体のしれない魔物というのは何をしでかすか分からない。本当にここで戦ってよいのだろうか。


次話は8/19に投稿予定です。

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