83 フレイヤ新領主就任歓迎の晩餐会
新領主就任歓迎の晩餐会は、フレイヤの到着から10日後に催された。
ブリスタンは、すぐにでも開催したいと申し出たのだが、フレイヤの指示でこの日になった。
用意周到なフレイヤは、ある程度の情報を集めてから晩餐会に臨みたかったからである。
その晩餐会には、領主代行フレイヤとその側近や上級兵たち。そして、グダニスク中の貴族と大商人が集まった。
「栄えある我らのグダニスクに、宝石のごとく輝くフレイヤ・フォン・ヴィルヘルム皇女が領主代行としておいでくださいました! この良き日を共に喜び乾杯いたしましょう!カンパイ!」
大臣ブリスタン男爵の発声で、晩餐会は始まった。
カメダインに代わり領主代行となったフレイヤには、貴族や大商人がひっきりなしに挨拶に訪れた。
これまで全く接点のなかった麗しの皇女殿下と直接言葉を交わし、美しい憧れのその人に笑いかけてもらえるのだ。貴族たちは夢中になってフレイヤに話しかけた。
フレイヤも、愛想よく貴族や商人の相手をした。若い貴族はフレイヤの結婚相手に選ばれるかもしれないという淡い期待も抱きながらこの場にいた。
事前調査と綿密な準備によって、この領地の代官や商人の情報を頭に入れていたフレイヤの対応は素晴らしかった。
がめつく横暴だった前領主から、人々の心をフレイヤへと移させるのに、そう時間はかからなかった。
フレイヤは晩餐会の後も、領地の視察や貴族や商人との会合を精力的にこなし、次々に味方を増やしていった。
そのように人気を獲得するとともに、フレイヤは皇国から連れてきた者たちによって、これまでの領地経営の査察や調査も精力的に行っていった。
今、フレイヤ領主代表の執務室を訪れているのは、オットー一級税務官である。
一級税務官は税・法・会計すべてに通じる税のスペシャリストであり皇国全土でも5人しか存在しない。ちなみに、このグダニスク領の税務官は、最高位で二級だ。
「フレイヤ様、領地の納税の流れと会計の概要を把握いたしました」
「早かったわね。さすがは『税の鬼』と呼ばれるオットー一級税務官ね」
「ははは、ご勘弁くださいフレイヤ様…。さて、まずは、この領地の総生産と納税の様子をこちらの紙にまとめました」
「ありがとう。さっそく読むわね。オットーはお茶でも飲みながら待っていて頂戴」
フレイヤは、細かい数字がびっしりと並んだ報告書を読む。
報告書を読み終えるまで、約30分。静かな執務室には、茶器の音だけが響いた。
「これ、こことここが合わないわね」
「さすがはフレイヤ様、ここにお気づきになりますか」
その報告書には、この領地での商品の種類やその流れ、鉱山の採掘量、働いている人数、それらに対する報酬、耕作地の面積や収穫量など、ありとあらゆるものが書かれていた。
報告書には、領の物流や生産に対しての報告額が明らかに少なすぎたり、使途が不明なお金の流れが大きくあったり、支払額と受け取る賃金が合っていなかったりと、おかしな点が無数にあったのだ。
報告書を一読しただけで、問題点を指摘できるフレイヤはどれだけ優秀なのだろうか。
「ここのこれって、国に治める税金をちょろまかしているってことじゃない?」
「ご慧眼恐れ入ります。その通りです」
本来ならば、国に治めるべき国税が明らかに少なく計算されているのだ。
それは、国に治めるべき金を、誰かが抜き取って懐に入れていることに他ならない。皇帝の懐から金を抜き取るに等しい大罪である。
「悪事を働いている者のめぼしは、既についております。後は、証拠を集めるだけ。・・・『虎の眼』が各所で証拠を集めております」
虎の眼とは皇帝直属の特殊諜報部隊である。実は、オットーも虎の眼の一員である。
「ふふふ、楽しみにしているわね。場合によっては、カメダインの修業期間が1年から無期限に変わるのかしら?」
「恐らくはそうなるかと・・・、まだ確定ではございませんが」
金の流れが真っ黒な貴族や商人は、日ごろの行いも悪く各所で恨みを買っているので、悪事の証拠を集めるのも比較的簡単なのだ。
フレイヤは、徹底的にこの領の洗浄をするつもりだった。
それは、炎帝シンノウから直々に言い渡された使命でもある。
「すべての責任は我が取る故、思う存分手腕を振るうがよい」
別れ際に、父が娘に掛けた言葉である。シンノウは、能ある故に爪を隠していたフレイヤの真の実力を知る者の一人だったのである。
一方、たるみ切っていたグダニスク軍では、突然やってきた皇帝騎士たちによって厳しい訓練が開始された。
皇都でも一二を争う剣の腕を持つ騎士ジークの実家の爵位は伯爵である。ジークは皇都の伯爵家の嫡男であり、このグダニクスにジークよりも高い爵位を持つものは存在しなかった。
それまでは、家柄の良さの上に胡坐をかき、大した実力がないのに訓練もせず、ただ威張っているだけの者が多かったのだが、ジークの命令を受けた騎士たちによってその悪習は強制的に断ち切られた。ある程度は家柄も考慮するものの、家柄重視の編成から実力重視の編成へと切り替わったのだ。
自分の家柄の良さを誇っていたもの達は、その家柄よりも上であるジークの命には決して逆らえなかった。ジークへ逆らうということは、自分への反逆も認めることにつながるからだ。
実力のない隊長や指揮官は、次々に罷免され、階級を下げられていった。
しかし、それまでは実力があっても身分が低いために昇進できなかった者たちが、続々と昇進し隊長や指揮官になっていった。




