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51 海皇国軍は壊滅した

魔皇軍の攻撃が本格化します。

スラニム達の迎撃は成功するのでしょうか?

 長く続いスラニムの軍とグリフォン軍の戦いだったが、その均衡はグリフォンの数の力の前に、長くは持たなかった。

 アスピドケロン戦艦の結界が限界を迎え、割れて無くなったとき、海皇国の兵士たちには、すでに敵の攻撃を防ぐすべがなかった。


 そこから始まったのは一方的な蹂躙である。

 結界の消えたアスピドケロン戦艦に無数のグリフォンが乗り込んでくる。

 その爪が、その嘴が海皇国の兵士たちを切り刻んでいった。


「おのれ!薄汚い魔獣どもめ! 俺は負けんぞ!お前らをすべて倒し、英雄になるのだ!」

 叫ぶスラニムの体を、グリフォンの王オピニュクスの爪が引き裂いた。

 間もなく、1万5千の防衛部隊は全滅した。


 スラニムがグリフォンたちと戦っていた頃、少し離れた海域では、第2皇子の3方包囲作戦が展開されていた。

 3つ首の魔獣ヒュドラを従えるアルザム第2皇子と武装したイルカンに乗った第1軍の兵士が、魔皇軍の主力であるシーサーペントの群れに右側面から突っ込む。

 左側面からは、こちらも高い攻撃力を持つハーデンの第2軍が突っ込んだ。

 

「オラオラオラ! 醜い蛇どもめ! 爆ぜろ!」

 水の暴虐の異名を持つ四天王の一人ハーデンは、爆発の魔法を使う魔導士である。

 ハーデンが水中で起こす爆発は、その衝撃がシーサーペントの硬い鱗を貫通し、体内に直接ダメージを与える。この攻撃には、強靭な鱗を持つ魔獣も血を吐き、次々に動きを止めていった。

「うおおおおおおーーー! ハーデン様に続けーーー!」

 第2軍の兵士たちは、ハーデンの活躍に引っ張られるように、強敵と戦った。


 第1軍も士気が高く、強敵であるシーサーペントを次々と撃退していった。アルザム皇子もヒュドラと共に先陣を切って戦った。勇猛な皇子である。

 ヒュドラの3つの頭から放たれる水のブレスは強力で、シーサーペントのブレスをはね返したうえで、その体を切り刻んだ。そこにアルザムの魔法が止めを刺すという魔獣と人魚族との連係プレーが、その攻撃をより強力にしていた。

「アルザム様に続け―――! 第1軍の誇りを見せろ!」

 兵士たちも、見事な連携攻撃で、強敵シーサーペントを次々に屠っていった。


 しかし、体力にも魔力にも限界があり、敵の数は膨大だった。

「ちくしょーー!倒しても倒しても数が減らねえ!」

「こりゃあ、キリがねえぞ!」

 敵はシーサーペントだけではない、ただでさえ厄介なシーサーペントに加え、クラーケンやサハギンなどの海の魔獣、スケルトンを満載した水中船なども、次から次へと押し寄せてくる。

 ここまで善戦した兵たちだったが、だいぶ疲れが見えてきていた。

「ここが踏ん張りどころだ! 俺たちの背には、祖国や家族がいるのだぞ!」

 実際、海皇国の兵たちは、よく戦った。


 しかし、その均衡も長くは続かなかった。

「ヒュドラごときが生意気な! 引き裂いてくれる!」

 シーサーペントの魔将プレシオルが、その漆黒で巨大な姿をアルザムの前に現した。


「プレシオル! 貴様を倒す!」

「フン、面白い! やってみよ!」

 プレシオルが、その強力なブレスをアルザムとヒュドラに放つ。

 ヒュドラからもブレスが放たれ、2つのブレスは交差し、海水を爆発させる。

 ヒュドラのの背から突撃するアルザムの槍が、プレシオルの硬い鱗に当たり硬質な音を立てる。

「お主たち、なかなかの強さだな! しかし、これで終わりだ!」

 プレシオルから、黒い電撃が放たれる。この電撃はプレシオルだけが使える固有魔法だ。

 数万ボルトの電流が海中を進み、ヒュドラとアルザムを捉える。電撃は、ヒュドラとアルザムを守る結界を突き破った。

「ギュオオオオオオオン!」

「ぐわああああああっ!」

 ヒュドラの雄叫びと、アルザムの叫びが重なる。


 ヒュドラもアルザムも、その電撃に何度か耐えた。それは、祖国を守るという強い責任感が成した奇跡だった。しかし、すでに結界は破れ、ヒュドラの鱗も、アルザムの防具も激しい電撃攻撃で無残に炭化していた。すでに、二人は虫の息だった。

 数十体ものシーサーペント達が、ヒュドラに乗った満身創痍のアルザムに向けてブレスを放つ。もう2人には、抵抗する術はなった。

 相棒のヒュドラと共に、アルザム第2皇子は15年の短い生涯を閉じた。 


 海皇国軍は、壊滅した。

 そして、皇都の守りは、残り少ない兵と都を守る結界だけとなった。



 無数の魔獣や海中船が、皇都の結界を取り囲む。

 都を守る結界を砕こうと、魔獣たちから激しい攻撃が放たれた。

 日々皇都を守っている魔道具に加え、1000人もの魔導士たちが自分の魔力を上乗せして張る結界は、普段の結界の10倍以上の強度を誇る。

 その結界は、激しい光を散らしながら、すべての攻撃をはね返していた。

 

 海皇国第3皇子〔ジェイム・バリト・マーリン〕は、皇城で、父ポセイドン皇帝に呼ばれた。普段は入ることのない、皇城の奥の奥の小部屋だ。

「ジェイムよ、心して聞け。 今、この海皇国は滅亡の危機に瀕している。」

「父上! そんなことはありません! スラニム兄さまとアルザム兄さまが、もうすぐ敵を倒し、ここに帰ってきてくれます! 皇都の結界だって敵の攻撃をすべてはね返しているじゃないですか!」

「スラニムもアルザムも…二度と帰ってこないのだ。」

「どういうことですか!?」

「二人は、敵に敗れた…。攻撃隊は全滅…帰ってくることは、無い…。」

「そんな……。 あんなに強かった兄さまたちが簡単に死ぬわけがありません!」


「皇家の一員である我らは、どんなことになろうともここから逃げるわけにはいかん。海皇国の民を守ることが、皇家たる我らの責務だからな。」

「ぼくも、父上と一緒に、この国を守ります! 僕だって戦えます!」

「ジェイム、それでこそ我が国の皇子だ。頼もしいぞ。 しかし、お前には別の使命を与える。」

「どんなに難しい使命でもやり遂げて見せます!」

「うむ。その意気や良し。 お前はベティシアの元に向かえ。」

「どういうことですか? ベティシア姉さまは国家反逆罪で追われていて、どこにいるのかもわからないって聞きました。」

「ベティシアは、空に浮く世界樹の島で、神の使徒と龍と共に暮らしておる。 お前は、一刻も早くベティシアの元に行き、使徒と龍に援軍を頼むのだ。」

「おっしゃる意味がよくわかりません…。」

「仔細は、お前の眼でしかと確かめよ。 事態は一刻を争う。 この宝玉でお前をベティシアの元に飛ばす。 準備せよ!」


 空間移動の宝玉は、皇家に伝わる財宝だ。強いイメージの持てる任意の場所へ、一度だけ対象者一人を瞬時に跳ばすことのできる魔道具である。家族であるベティシアの元にならば強いイメージで確実にジェイムを跳ばすことができる。

 カズヤに対するポセイドンからの書状や、皇家に伝わる宝剣などを持たされたジェイムが青く光る魔法陣に包まれる。


「お前の肩にはこの海皇国の未来が乗っている。頼んだぞ、ジェイム! きっと連れてきてくれ!」

 ジェイムが大きくうなずくと、魔法陣と共にジェイムの姿がかき消えた。

なかなかブックマークや評価は増えませんが、

訪れてくれる読者数は順調に増えています。

ありがとうございます。それを励みに書いています。

低評価でもかまいませんので、評価をしてくださると嬉しいです。

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