52 ジェイム君、空島に現れる
ベティシアの弟ジェイム君が現れます。
カズヤ達に海皇国への援軍をお願いするようです。
Side 天樹の空島
パルメとの風呂騒動の疲れで、ぐったりと部屋で休んでいた俺の元にテンジュが現れた。
部屋のドアが開いた気配はなかった。さすがは妖精、神出鬼没だ。
「カズヤ、何者かがこの空島に転移してくるわ。 敵意はないようだけど気を付けて。」
「転移? この島のどこに?」
「どうも、ベティの所みたいよ。」
俺とテンジュは、大急ぎでベティの部屋に向かった。
「ドンドンドン! ベティ!起きてるか?」
カズヤがベティの部屋のドアを強くノックする。
「誰? カズヤ? どうしたの?」
「ベティ! 入るぞ! 何者かがここに転移しようとしている! 気をつけろ!」
俺とテンジュはベティの部屋に入る。
ベティは突然のできごとにびっくりしているようだ。『一緒に風呂に入る約束をする』という先ほどのやり取りから大して時間が経ってないので、緊急事態にもかかわらず、もじもじしている。
その時、ベティの近くの空間に、何者かの存在感が膨れ上がった。
ベティもようやく異変を感じ取ったようだ。
「え?何? 何が起こっているの?」
空間が揺らぎ、何もなかった空中に青い魔法陣が浮かび上がる。魔法陣からは、立派な鎧を身に付けた人物が浮かび上がってきている。何者だ?…でも、ちっちゃいな。子ども?
「ジェイム! ジェイムじゃない、どうしたの?」
ベティの部屋に突然現れたのは、海皇国第3皇子のジェイム・バリト・マーリンだった。
「ああ、ベティ姉さま!」
ジェイムは、ベティに駆け寄り抱き着いた。もう二度と会えないと思っていた、大好きな姉との久しぶりの再会だった。
部屋の中で抱き合い、涙を流す二人。あっけにとられて二人を見つめているカズヤに、ベティがジェイムを紹介する。
「カズヤ、この子は私の弟、第3皇子のジェイムよ。今、10歳だっけ?」
「はい、姉さま。 こちらの男性は?」
「この人はカズヤ・サクラザカ、私の命の恩人よ。」
すると、ジェイム君は涙を拭き、俺に対して膝をつき、頭を垂れた。
「カズヤ・サクラザカ様、私はマーリン海皇国第3皇子ジェイム・バリト・マーリンです。私の姉であるベティシアをお救い下さり、ありがとうございました。本日は、わが父、海皇国皇帝ポセイドンの使いとしてこちらに参りました。」
すごくしっかりした子だな。まだ子供なのに…。
「頭をあげてよジェイム君、座って話を聞くよ。ほら、一度立って。」
俺は、ジェイム君を立たせて場所を移し、応接間の椅子に座らせた。
エルミアが、甘くした紅茶を持ってきてくれた。
「我が海皇国は、魔大陸の軍勢から攻撃を受けています。」
「うん、知っているよ。 で、今、どんな状況なの?」
「状況は悪いです。海皇国は負けるかもしれません…。」
ジェイム君は悔しそうにつぶやいた。
「え?海皇国が負ける? どうして?」
疑問を投げかけたのはベティである。
「攻めてきた魔皇軍の大軍勢に対し、海皇国はスラニム兄さまを総大将として、アルザム兄さまと共に出陣しました。それに、四天王もすべて集結し、迎撃に向かいました。」
「戦いの天才と言われるアルザムに、無敵の四天王すべてが出撃したのね。」
「はい、そうです。ですが、誰も帰ってきませんでした…。」
「だれも?スラニム兄さまとアルザムはどうなったの?」
「打ち死にいたしました…。」
「そんな…、ヒュドラを従えるアルザムまで?」
「はい、…そうです。」
あっけにとられるベティ、それはそうだろう。兄と弟二人の死を突然知らされたのだから。
「僕は、父様から使命を受け、宝玉を使っててここに来ました。神の使徒であるカズヤ様と天龍クエレブル様に助力をお願いしろと、援軍としてお二人を連れてきてくれと!」
さすが海皇国皇帝、こちらの情報をかなり詳しく持っているようだな。海皇国はそんな切羽詰まった状況になっているのか…。
「カズヤ様、お願いいたします!海皇国を救ってください!」
「ジェイム君、海皇国は今、どんな状況なんだい?」
「敵は、海皇国の首都を守る結界の周りまで来ています。結界を強力にして、今のところはすべての攻撃を防いでいます。街の中への侵入はまだありません。」
「その結界って、どのくらい持つの?」
「父様が言うには、もって3日だろうって…。」
「敵の数はどのくらい?」
「はい、魔大陸の軍にはシーサーペント〔プレシオル〕、グリフォン〔オピニュクス〕、リッチロード〔ドラウグル〕の3魔将がいます。」
「えっ!魔大陸6魔将の内、3魔将もそろっているの?」
と、ベティ。
「はい、兄さまたちは、3魔将に打ち取られたみたいです…。」
「それぞれの軍の数や規模はわかる?」
「敵兵はシーサーペント30頭以上、グリフォン50頭以上、リッチの率いるスケルトン部隊が乗った船100隻以上です。」
「大軍勢ね…。」
「これでも、兄さまや四天王のおかげで、だいぶ減っているそうです。」
「その大軍勢に、今まさに皇都を取り囲まれて攻撃されているんだよね。」
「はい、激しい攻撃が絶え間なく続けられています。僕はお城にいたんだけど、ドーン、ドーンという音が、遠くからずっと響いていました。」
まっすぐなジェイム君の眼と、その隣に座るベティのすがるような目が俺に向けられている。
当然、選択肢は一つ!きっと、これが世界を救う第一歩だ。
「よし、わかった。助けに行く。クエレブルもテンジュも協力してくれるよな。」
クエレブルも、テンジュも当然とばかりに大きくうなずいた。
「本当ですか? やった! ベティ姉さま、やったよ!」
「やったわね、ジェイム! よかったね。 カズヤ様もクエレブルもすごいのよ。魔皇軍なんてちょちょいのチョイよ!」
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