48 デスキンの背に乗って、天樹の空島視察です
意外にフレンドリーな炎帝一家です。
炎帝はいまだに少年の心を失っていないようです。
食後のコーヒーを、シフォンケーキと共に楽しみながら、話題は海の皇国の話になった。
「実はな、海の皇国に、魔大陸の軍勢が攻め入ったらしい。」
「本当ですか?」
と、ベティ。
「我が国の誇る諜報部隊〔虎の眼〕による報告だ、確かな情報だろう。 かの皇国の北領ボルシアで戦闘が始まっているようだ。 敵軍勢への迎撃部隊の総大将は、第1皇子のスラニムだ。第2皇子と四天王も集められたらしい。」
ベティに追っ手を放ったスラニムか…。
「それで、今、どのような状況なのですか?」
「詳しい戦況は、さすがにわかってはいないな。 今、虎の眼に調べさせているところだ。 今はまだ、遠い地の小競り合い程度だが、我が国にもいつ飛び火してくるかわからんからな。」
追われる身とはいえベティは海皇国の皇女である。国が心配なようだ。
「これから忙しくなるやもしれん。 この天樹の空島から帰ったら、次にゆっくりできるのはいつになるかわからん。 今日は、泊まっていくぞ。 よいか?」
やっぱり泊まりか…、そんな予感はしていたんだよね。
「はい、もちろんです。 炎帝にお泊りいただくにふさわしい部屋かどうかはわかりませんが、ご用意してありますよ。」
「それは、よかった。 カズヤ殿、よろしく頼む。」
「シンノウ様、食事の後は、どうされますか?」
「うむ。我は、この天樹の空島を視察に来たのだ。 これから、この島を見て回りたいのだが、案内を頼めるか?」
「はい、もちろんです。 俺が、責任を持って案内します。」
「もちろんあたしも一緒に行くわよ。」
とテンジュ。テンジュが一緒に来てくれるのは頼もしい。
ソフィア様を除く4人が、天樹の空島視察(探検)に出かけることになった。
皇后のソフィア様は、屋敷で待っているそうだ。その接待役にはベティとエルミアを置くことにした。
皇帝の護衛として、近衛竜騎兵が100騎ほどついてくるらしい。さすが皇帝。
視察の邪魔にならないように、少し離れて空からついてくるようだ。
騎士の皆さんには、魔獣を攻撃しないように念入りに申し入れている。理解してもらうのにたいへん手間取ったが、炎帝の一喝で、しぶしぶ納得した。もちろん狩りも禁止した。この山の獣も魔獣も、みんな俺の家族なので…。
まずは、世界樹を見に行った。
屋敷自体、世界樹の近くにあるので、世界樹の荘厳な姿は屋敷からでもよく見える。
しかし、もっとそばで見たいという炎帝の願いで、世界樹に触れられるところまで近づいた。
「荘厳だな。 圧倒されるような存在感だ。 こうして触れているだけで、世界樹の力をわが身にもらっているようだ。」
炎帝は、しばらくの間、その巨大な幹に触れながら世界樹を見上げていた。
「テンジュ殿、世界樹の葉は世界樹の主以外には採ることができぬと聞いている。 我が試してみてもよいか?」
「もちろんよ。 試してみるといいわ。」
炎帝は、するすると世界樹に登って行った。さすがの身体能力だ。きっと、魔法も併用しているのだろう。俺もテンジュ達と念動力で浮き、炎帝についていく。
ある程度まで登ると、世界樹の葉に手が届くようになる。
炎帝は、一枚の葉を手でつかむと、軽く引いてみた。
「ん? なるほど、本当に採れないな。 どれ、力を入れてみるか…。」
炎帝は、両手で葉をつかみ、力いっぱい葉を引っ張った。
「おう! ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ! 採れん!」
葉は揺れるものの、全く採れる気配もなく細い枝に付いたままだった。
「テンジュ殿、ちと、魔法を使ってみてもよいか?」
「ええ、あなたの気が済むまでどうぞ。」
「我は炎帝シンノウなり。炎の精霊の力によりて、何物をも貫く力を我に与えよ〔熱線〕!」
シンノウの指先から、一条の熱線が放たれる。その熱線は、世界樹の枝に当たるが、すべてはね返されているようだ。枝が熱くなっている気配もない。
「おいおい、今の魔法は岩でも鉄でも貫く〔熱線〕だぞ! なんで、木のくせにこんなに強いんだよ。」
俺はそばで見ていたが、恐ろしい魔法だった。まさにビーム、熱が俺のところまで届いてきた。こんな攻撃にも耐えるんだ…、すごいな世界樹。
「カズヤ殿は、葉が採れるんだよな。 採ってみてくれるか?」
俺は近くの葉を無造作に引っ張った。プチンと軽い音を立てて、簡単に葉が採れる。
「おお、本当に採れるんだな…。 さすがは神の使徒といったところか。」
「シンノウ様、これ食べます? 生で食べても、ものすごくおいしいですよ。」
「おう、いいのか。 じゃあ遠慮なく。 ぱくっ、ぱりぱりぱり。 おおう、美味い! これは美味いぞ! 」
もう一枚くれ…というので、数枚の葉を採ってシンノウに渡す。「いや~、うまいな~」などと言いながら世界樹の葉をぱりぱり食べている。
「しかし、不思議なもんだな。 この葉っぱ、木に付いているときには俺が全力を出しても傷一つつかないくせに、こうやって食べるときには、ちょうどいい硬さになっているんだよな。 すぐ噛み切れるし…。」
世界樹の葉をうまそうに食べる父の姿を、3人の子どもたちは羨望のまなざしで見ていた。
「みんなも食べる?」
と、俺が聞くと、「「「食べます!!」」」ということで、数枚づつ、葉を渡した。
「シャコシャコシャコ…うんまああああああい!」
「な、美味いだろう。 びっくりするほどうまいよな。」
父の顔をしたシンノウが微笑みながら、夢中で世界樹の葉を食べる3人を見つめていた。
そのころ、テンジュはというと、近衛騎士の隊長に
「みんなで分けて食べなさい。」
と、人数分の世界樹の葉を渡していた。
美しい世界樹の妖精に大量の葉を渡された隊長は、しどろもどろにお礼の言葉を言っていた。
葉を渡された隊員の中には、「この葉1枚で、白金貨1枚以上の値段がする」という世界樹の葉の価値を知るものがおり、それを聞いて驚愕するものや、叫びだすものまでいたらしい。ほとんどの騎士が、その場で食べずに大切に持ち帰ったのは炎帝には秘密である。
「クエレブルの住んでいた【白き泉】を見に行きたい。」
という炎帝の申し出で、森の中を通って白き泉に向かうことになった。
竜騎士もいることだし、空を飛んで行った方が早いと言ったのだが、どうしても森の中を通り、その様子を見たいらしい。
飛竜は、空を飛ぶことに特化した生き物である。
空を飛ぶのは上手だが、陸上を走ることは苦手である。森の中を移動することには向かないのだ。その背に乗って陸上を走らせたら、1kmもいかないうちにへばってしまうだろう。
だからと言って、ここから徒歩で泉まで行ったのでは日が暮れてしまう、というより、今日中にたどり着けない
そこで、デスキングコブラのデスキンを呼び、その背に乗せて運んでもらうことにした。
デスキンだけでは全員が乗ることができないので、デスキンの仲間を連れてきてもらった。体長10mほどもあるデスキングコブラが4頭も並ぶと、なかなか壮観である。
「これは、これは、信じられない状況だな。」
シンノウが、俺に撫でられて嬉しそうにしている4頭を見てため息を出す。
デスキングコブラは、脅威度Sランクの魔獣である。もしも戦おうと思ったら、1個小隊50人が必要になる。
護衛の兵士達は、額に大粒の汗を垂らしながら、刀に手を掛けたり、魔法詠唱の準備をしていた。
「じゃあ、皆さん、2人1組で背中に乗ってください。」
デスキンたちは、俺たちが乗りやすいように、体を低くして待っていてくれている。
シンノウは当たり前のように、そして、3人の子どもたちは、おっかなびっくりといった様子でデスキングコブラの背に乗った。
「意外とさらさらとしていて触り心地がいいのね。 それに、嫌な臭いも全くしないわ。」
フレイヤは大丈夫そうだ。
さあ、森探検に出発だ。
「こんな山の中のでこぼこの獣道を走っているのに、座っているところが全く揺れないよ。」
蛇特有の動きで、4頭のデスキングコブラは、俺たちを乗せながら道なき道を猛スピードで移動していく。段差を超えても俺たちの乗っているところは、全く動かない。乗り心地最高である。
「強いし、速いし、よく見るとかわいいし、この子たち最高ね。 ぜひとも1頭ほしいわ!」
興奮した様子のフレイヤが言う。みんな、うんうんと頷いている。わかるよ~その気持ち。
途中、見つけた桃の実やブドウを採って食べたりしながら、白き泉に向かった。
様々な獣や魔獣が、その姿を隠すことなく、こちらを見つめている。敵意は全く感じない。炎帝は狩りがしたくてうずうずしていたようだが、俺の願いを聞き入れて、獣たちに手を出すことは決してしなかった。
しばらくして、一行は白き泉に到着した。
【白き泉】は、水が白いわけではない。その水はどこまでも澄み完璧な透明である。透明度が高すぎて、水底の白い色が浮き出上がって見えるため白く見えるのである。
”泉”と呼んでいるが、これは湖であろう。泉と呼ぶには大きすぎる。富士五湖の山中湖ほどの大きさがあるのだ。一周10kmはあるだろう。
「美しい泉だ。 クエレブル殿は、ずっとここに住んでおられたのか?」
クエレブルにシンノウが聞く。
「そうだ、この泉こそ我が家であり、安らぎの場所である。」
とクエレブル。
ここで、ボルグ皇子がクエレブルに質問した。
「小さいころ、おとぎ話で『この泉の底には宝石や財宝がたくさん眠っている、でも、白き龍が守っているので、誰もその財宝を手に入れることはできない』と聞きました。 本当に泉の底には財宝が隠されているんですか?」
「財宝? そんなものはない。 湖の底にあるのは、愚かにも我に戦いを挑んだ者たちが持っておった剣や装備だ。 そういったものを持ち帰らせるとまた向かってくるので、毎回剣や装備をはぎ取って、湖に沈めていたのだ。」
…クレエブル、それが財宝だよ…。
「なんだ、そんなものに興味があるのか? 主殿よ、欲しかったらいくらでも持っていくがよい。 我にとっては只のガラクタである。」
うん、また今度ね。お金に困ったら取りに来よう。炎帝は、それらを返せとは言わなかったが、ご先祖様が戦いに持ち出して湖の底に沈められた皇帝家の宝剣を、買い取らせてほしいらしい。クレエブルさえよければ、もちろんオッケーである。
白き泉探索を無事終えた俺たちは、屋敷へと戻った。
自分が乗っていたデスキングコブラと気持ちが通じあったようで、ボルグ君が離れ難そうにしていた。 お礼を言いながらずいぶん熱心になでなでして、お別れしたようだ。
50話が見えてきました。我ながらよくここまで書いたなあ。
でも、4つの皇石のうち、まだ1つしか登場していません。
上手く登場させられるかなあ。




