34 魔大陸の軍勢による海皇国への侵攻が開始されるようです
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それは、数万にも及ぶ【魔大陸】の軍勢だった。
悠々と海上を進むシーサーペントなどの巨大な魔獣と、数えきれないほどの海の魔獣たち。大小の軍艦に乗った魔人、空を飛ぶ無数の魔獣、それらは、遠くの海と空を埋め尽くすほどの大軍勢だった。
トビアスたちは、念動力によって高高度の空を飛ばされ、抵抗できぬままに海に落とされた。乗り物に乗っていたわけでもなく、物のように海に落ちたので、運良く敵として認識されなかったのだ。
「コルネリア、大変だ! 魔大陸の軍勢のねらいは、我らがマーリン海皇国であることは疑いようがない。 皇国に危機を知らせることができるか?」
「はい、もちろんです。 ミールニ領では、世界樹の強力な結界で、満足に魔法を使うことができませんでしたが、ここなら、何の邪魔も入りません。 直ちに皇国に連絡を取ります。」
「伝達魔法が第一皇子とつながりました。トビアス様、スラニム皇子とお話になりますか?」
「うむ、そうする。皇子とつないでくれ。」
「わかりました。おつなぎします。」
「スラニム様、親衛隊副隊長トビアスでございます。急ぎ、ご報告したいことがあり、ご連絡いたしました。」
「おお、トビアスか。で、首尾はどうだ?ベティシアは捕らえたか?」
「…申し訳ございません。ベティシア様の捕縛は未だ果たせておりません。」
「まだなのか? たかが、小娘一匹に何を手こずっている。 千の影までつけてあるのだぞ。」
「申し訳ございません。このことにつきましては、どのような罰も覚悟しております。」
「では、何の用だ!」
「……魔大陸の大軍勢を発見いたしました。」
「……何!?どういうことだ? 陸の皇国に魔大陸の軍勢が攻め入ったのか?」
「いえ、魔大陸の軍勢が向かってるのは、我らが海皇国です。」
「バカも休み休み言え! お前は今、陸の皇国の果て、ミールニ領だろう!」
「いえ、今、私がいるのは、海皇国【ボルシア】の北方の海上でございます。」
「は? お前たち、つい先日ミールニ領から報告を送ってきたばかりじゃないか!」
「たった今、ミールニ領からボルシアまで飛ばされました……。」
「飛ばされた?」
「ベティシア様と行動を共にしている、カズヤ・サクラザカと名乗る正体不明の男の仕業です。」
「それは、瞬間移動か?」
「いえ、瞬間移動ではありませんでした。身動きできぬまま5時間ほど空を飛びました。そして、このボルシアの海に落とされたのです。」
「…そんなことが可能なのか?」
「はい、信じられませんが、この身で体験いたしました。」
「おい、コルネリアもいるのだろう。トビアスの言っていることは本当か?」
「はい、スラニム様、すべて真実でございます。」
「…わかった、お前たちは、魔大陸の軍勢の動きを見張れ。できるか?」
「はっ、この命に代えましても!」
「よし、何か動きがあったら連絡を入れろ!」
スラニムは、【マーリン海皇国】皇帝〔ポセイドン・バリト・マーリン〕への戦時緊急伝令を申し入れた。
戦時緊急伝令とは、国家の安定を揺るがすような重大な事態が起こったときに、皇帝が食事中でも、来客中でも、就寝中でも、いかなる時でも面会・報告することが許されるというものである。この伝令を発令するには、それ相応の重要性・緊急性が必要であり、くだらない理由で発動したときには死罪にすらなりうるというものである。また、この伝令は、宰相や近衛隊長であっても遮ることができないと規定されている。
事実、ここ十数年、一度も発令されていなかった。
スラニム第1皇子は、皇帝ポセイドンと皇帝の書斎で面会することとなった。
「マーリン海皇国皇帝ポセイドン様、戦時緊急伝令をお受けいただき、ありがとうございます。」
「うむ、スラニムよ、戦時緊急伝令とは…、驚いたぞ。 何があった?」
「魔大陸の大軍勢が、我が国に向けて進軍中であるという連絡が、我が親衛隊員より入りました。」
「それは、確かな情報か?」
「はい、私も耳を疑いましたが、魔導士コルネリア及び千の影たちにも確認させました。場所はボルニアの北の海上です。」
「ボルニアの警備隊からは、何の連絡も入っていないぞ?」
「申し訳ございません。ボルニアの様子についての詳しい情報は、まだ入ってきておりません。部下には、見張りの継続を命じておりますので、おいおい情報が集まってくると思います。」
「うむ、これは一大事だな…。スラニム、よくぞ敵の侵攻を早期に発見した。それに、戦時緊急伝令を使ったのもよい判断だ。…宰相! 情報を集め、敵軍勢を確認せよ!場合によっては住民の避難の指示をせよ! 近衛団長!空振りになってもかまぬ、街を守る結界の強化を進め、侵攻に向けて最大限の守りの準備を緊急で進めよ! スラニム!お前は、全騎士団を率いて敵を迎撃しろ!お前が総大将だ!」
「はっ、この命に代えましても、海皇国をお守りいたします。」
「よし、行け!」
にわかに慌ただしくなった海皇国であった。
見張りを続けるトビアスたちに、スラニム第1皇子から連絡が入った。
「トビアス、敵の動きはどうだ?」
「はい、先ほどから大きな変化はありません。 軍勢の攻撃目標は王都だと思われます。」
「そうか、目的地は、やはり王都か……。 俺は、今回攻撃隊の総大将になった。 今から、迎撃準備を進めるが、お前たちは、そこに留まりこのまま見張りを継続しろ。 それに、迎撃の準備のために敵の陣容をできる限り詳しく報告しろ。 報告先は、親衛隊長の〔イェルク〕だ。」
それにしても、俺は運がいい。まさか、ベティシアの捕縛に向かわせたやつらが、魔大陸の軍勢を発見するとはな…。父上の反応もよかった。戦時緊急伝令を使ったのも正解だったな。それに、念願の総大将にもなった。これで、敵を撃滅すれば、俺は海皇国の英雄となる!ついに、俺の時代の到来だ!
偵察部隊を放った宰相のところには、魔大陸の軍勢侵攻の情報の正しさを裏付けるような報告がもたらされた。スラニムから報告された魔大陸の海皇国侵攻は真実だった。
間もなく、魔大陸と海皇国との戦争の火ぶたは切って落とされようとしていた。
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