31 カズヤは神の使徒よ! Byベティ
カズヤとベティは、領主の理解を得られるのでしょうか?
俺たちは、<4つの皇石>を集めているという部分だけは秘匿したまま、領主に情報を開示するということを、事前に相談して決めていた。
「カズヤは神の使徒なのよ。」
と、ベティ。
「我がマーリン海皇国皇家は、神の使徒を手助けするという使命を、代々持っていることはアウレリア様もご存知よね。」
「はい、ベティシア様。存じ上げております。」
「だから私は、神の使徒であるカズヤと共にいるわけ。と、言っても、何の力にもなれず、助けてもらってばかりなんだけどね。えへへ。現在、国家反逆罪で逃亡中の身だし……。」
「カズヤ様が神の使徒であるという証拠はございますか?」
「証拠なんて必要ないわ。 カズヤの行動が表しているから。 世界樹の主となり、天樹の本当の姿を取り戻し、龍をも従える。 これが神の使徒でなくて何なわけ?」
何だか気恥ずかしい。ベティさん、その位でいいにして! ほら、アウレリアさんも団長さんも黙っちゃったよ。
「カズヤ殿、本当にカズヤ殿は、神の使徒なのか?」
・・・アウレリアさん、俺に直接聞いてきたよ・・・。
「えーっと、たぶんそうじゃないかな、と思っています。『滅びに向かっているこの世界を救え』って、神様に直接頼まれたから・・・。そして、その時に神様にもらったのが、あの天樹と、この力です。」
俺は、敷地の中にあった巨大な岩を念動力で持ち上げた。
「「「「おおーーーっ!すごい・・・・・・。」」」」
「「なんという力だ! あの岩を動かそうと思ったら、皇宮魔術師が10人は必要だぞ・・・。」」
「それに、この山にいる魔獣たちは、すべて俺に従属しています。テイムされた状態だと考えてください。 適当に呼んでみますか?」
「あ、ああ、呼んでみてくれ。」
俺は、部屋から出て、適当な方角に向かって大きな声で呼びかけた。」
「おーーーーい! 俺の声が聞こえたらー! こっちに来ーーーーい!!!」
ドドッ・・・、ドドドッ・・・・・・、ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
うわあ、想定外・・・。こんなにたくさんの魔物が近くにいたの? あいつら耳がいいからな・・・。それにしても、この数は・・・。
俺の目の前には、リスのような小さな獣から、イノシシや鹿のような大きな獣、見たこともないような4本足の魔獣や、体長10m級のデスキングコブラや下級竜まで集まった。移動速度が遅い芋虫のような魔獣が、皆から遅れながらもえっこらえっこら急いでこちらに向かっているのがかわいらしい。100を超す獣や魔獣が集まった。
「おい、あれ、ライトニングフェンリルじゃないか?」
「デスキングコブラもいるぞ・・・。これ全部テイムしたってことか?」
領主の護衛で付いてきていた騎士たちがざわめいている。ライトニングフェンリルもデスキングコブラも、伝説級の魔獣である。もしも、街に現れたら、全騎士団が出撃して、何とかなるかどうか・・・、という脅威度ランクSの魔獣である。
「みんな、集まってくれてありがとう。」
俺は、呼びかけに応え集まってくれた獣や魔獣たちを一撫でし、その労をねぎらった。魔獣たちは、俺に撫でられると、うれしそうな仕草をする。かわいい。俺に一撫でされるまで帰ろうとしない魔獣が多かったので、あらかた撫でるのに、10分以上もかかってしまった・・・。
「おい、デスキングコブラやライトニングフェンリルが人に撫でられてゴロゴロ言ってるよ・・・。」
「この光景は夢か?」
「カズヤ殿が神の使徒かどうか・・・は、私たちだけでは判断できません。 皇国として教会の判断を待つこととなります。 まあ、この光景を見せられては、疑うべくもないのですが・・・。 気になるのは、カズヤ殿が神から言われたという『滅びに向かっているこの世界』という部分です。 これは、皇国を揺るがす大事件です。しかし、私には、そのような兆候は全く感じられていません。」
と、騎士団長のライムント。
「そうですよね・・・。 実際、俺も、この世界が滅びに向かっているとは全く思えません。 ほら、神様って、長生きでしょう。だから、神様のスグって千年後かもしれませんよ。」
「そうであればよいのだが・・・。 一応、警戒はしておくに越したことはないな。」
この世界では、それぞれの皇国で神5柱が信仰されている。
マーリン海皇国では(水の神)エギル神を
陸の皇国では(火の神)ソル神を
魔大陸では(地の神)デュール神を
世界樹を守るエルフなどは(天の神)バルドル神を
そして、この世界を造りし創造神アイテール
各地に教会があり、神々の教えを広めているのだ。人々の神への信仰は厚く、教会は大きな力を持っているそうだ。
ちなみに、先日会った、ベティの友達、フレイヤ第二皇女は、ソル神殿の聖女でもあるらしい。
「さて、素晴らしい会談になった。 テンジュ様感謝いたします。」
「あら、お礼なら私じゃなくてカズヤに言ってよ。 カズヤが私の主なんだから。」
「そうですか。 カズヤ殿、感謝します。」
「いえ、こちらこそお騒がせして申し訳ありません。 領地の大事なボダーラ山を引っこ抜いちゃってすみませんでした。」
「ははははは、山を引っこ抜くか・・・・・・。 愉快な表現をするものですな。 すべては世界樹の意思のままに。 気にしないでいい。」
・・・話のわかる領主さんで良かった。この国の領主さん、みんなレベル高いな。
「改めて、皆さんを私の街に招きたいと思うのだが、いかがかな?」
「喜んで伺うわ。」
とテンジュが即答した。
「では、後日、改めて招待状をお送りしよう。では、帰るぞライトムント!」
「ハッ。 では、皆様、失礼いたします。」
領主一行は、来たときと同じく飛龍に乗って帰って行った。
城に残された者たちは、領主の帰りを今か今かと心配しながら待っていた。
「領主様がお帰りになられたぞ! 使節団も全員無事だ!」
「良かった~。 本当に良かった・・・。」
領主の帰りを、涙ながらに出迎える者も多かった。
そのくらい、天樹の空島は畏怖の対象だったのだ。だいたい、〔死の山〕と呼ばれている山なのだから当然であろう。
「あの空飛ぶ山のことは、今後【天樹の空島】と呼ぶこととする!」
領主の隣に立つ騎士団長が、声高らかに宣言する。
「天樹の空島への手出しは一切禁止とする。現在我々とは友好的な関係であるが、下手に手を出し相手の逆鱗に触れれば、この国が滅ぶと思え!」
続けて領主アウレリアが事務官に向かって指示を出した。
「あの天樹の空島に住む者たちを、我が城に招待する。準備を整えよ!」
カズヤ一行は、無事領主と友好的な関係を結べたようです。




