29 天樹の空島に、ミールニ領から竜騎士が来たようです
カズヤと陸の皇国とは、今のところ良い関係を築けています。
続けばよいのですが・・・。
【ミールニ領】から出された偵察は、竜騎士隊である。竜騎士隊は小型の下級竜である〔飛竜〕の背に乗り、空を馳せる騎士だ。
竜騎士隊は、1個分隊が5人グループで、小隊は分隊3つの計15人構成となる。これほどの竜騎士を、即座に偵察に出せるのは、このミールニ領が辺境であり、魔獣襲撃の危機に常にさらされているからである。また、情報を大事にするのは、有能な指揮官が存在している証明となる。実際、騎士団長のライムントは、非常に有能な指揮官であった。
騎士を乗せた飛竜は、空に浮かんでいるという報告のあるボダーラ山を目指して、半信半疑で空を駆ける。
「隊長!本当にボダーラ山が空を飛ぶなんてことがあるんですか?」
「わからん! それを確かめるために、俺たちは現場に向かっているんだろう!無駄口をたたかず、まじめに飛べ!」
「へ~い。」
竜騎士15騎は、美しい隊形を保ったまま、ボダーラ山を目指した。
ボダーラ山が目視できるところまでやってきた竜騎士たちは、空に浮かぶ山を見て、皆、言葉を失った。
「本当に山が浮いてやがるぜ……。」
「まいったな、こりゃあ……。隊長、これからどうしますか?近づきますか?」
「これから、山頂の巨木の周りを周回するコースをとる! 何があるかわからん、山に近づきすぎるな!」
「「「「「 はっ! 」」」」」
「住民発見! 住居もあります!」
「俺も確認した!第1分隊の〔カール〕〔オーラフ〕!俺に続け、山に着陸する!
カズヤたちは、テンジュとクエレブルの鋭い感覚によって、竜騎士の接近に気付いていた。
クエレブルからは「撃ち落とそうか?」という提案もあったが、【陸の皇国】の竜騎士を撃ち落としては、いらぬ争いになるので、平和的に出迎えることにした。もし攻撃されても、防御する手段があるしね。
「隊長! 長細い家の前に、4人の人影が見えます!」
「一般人のように見えます! 武器を構えている様子がありません!」
「よし、距離をとって、ゆっくりと着陸する! むやみに攻撃するな!」
緊張感なく、暢気に手を振る俺たちの前に、ずいぶん距離をとって竜騎士を乗せた飛竜が着陸した。飛竜から、警戒した様子の騎士3人が地面に降り立つ。
「私は、【ミールニ領】領主アウレリア様から、このボダーラ山調査のために派遣された、第1竜騎士小隊長の〔マックス〕だ。貴殿らは何者だ?どうして、死の山の山頂にいるのだ?このボダーラ山が空に浮かんでいる事情を知っているのか?」
「俺は、カズヤ・サクラザカ!ここに、【ハイデルベルグ領】領主ディートリヒ様から預かった証書がある!この証書を見てもらえれば、俺たちが怪しいものではないことがわかると思う!」
俺は、授賞式の際に領主ディートリヒさんからもらった証書を、マックスさんに渡した。マックスさんは、証書を竜騎士3人で、詳細に見聞した。
「確かに、これは正式な証書だ。カズヤ殿は騎士なのか?」
……騎士か。まあ、そういうことにしておこう。
「こんなところで立ち話も何だから、家に入ってくれ。」
俺は、竜騎士3人を居間に案内した。
「エルミア、お茶を淹れてくれるか?」
「はい、少々お待ちください。」
「座ってくれ。」
「こんな山奥にある家にしては、ずいぶんといい家だな。小さいがよくできている。このイスとテーブルも一級品だ。ああ、改めて紹介するよ。俺は、隊長のマックス、この二人は俺の部下〔カール〕に〔オーラフ〕だ。」
「「よろしくお願いします。」」
なかなか礼儀正しいな。騎士団ってもっと横柄で威張っているかと思っていたのに……。
「俺は、カズヤ・サクラザカ、特に所属はない。あえて言うならリーベの町からやってきた、かな。彼女はベティシア、彼はクエレブル、お茶を淹れているのがエルミアだ。」
「ベティシア? おいおい、反逆罪で追われている海皇国のお姫様じゃねえか!」
「なんだ、私のことを知っていたか。まあ、よろしく頼む。」
「とんだ大物だな……。で、そちらの御仁は?」
「彼は龍だ。」
「は? 龍?」
「うむ。我は天龍クエレブル。故あってカズヤ殿を主と定めている。」
「はあ?馬鹿を言うなよ……。なんか聞いたことがる名前だと思ったら天龍クエレブルっていやあ、50年前にボダーラ山に向かった俺らの国の万の兵隊を皆殺しにしたっていう伝説の龍じゃねえか……。」
「何だ、あの時のことを覚えているものがまだいるのか・・・。ニンゲンというのはしつこいものだな。我は、ボダーラ山の守り龍だからな。攻めてくれば返り討ちにするさ。」
「信じられねえ話だが、あんたらの様子を見ていると、あながち嘘とも思えねえ。お姫様も一緒だしな。こりゃあまいったな。姫様に龍か……。」
カールとオーラフは、冷や汗をだらだら流しながら話に聞き入っている。
「あんた、本当に龍なのか?」
「嘘を言っても仕方あるまい。」
「ところで、このボダーラ山はなぜ空に浮いているんだい? わかるなら、教えてもらいたいんだが。」
この状況で、きっちり質問してくるとは度胸があるな。
「それについては、私がお話ししましょう。」
部屋の中に光が集まり、そこからテンジュが姿を現した。
「ああ、テンジュ、ちょうどよかった。説明をお願いするよ。」
「私は、ここに有る天の世界樹天樹の妖精テンジュです。」
・・・あのでっかい木は世界樹なのか! 天樹っていやあ、今までその存在が謎だったおとぎ話の中の世界樹やねえか! そりゃあ大ごとだ! 龍に世界樹の妖精か・・・。とんでもないところに来ちまったな。
「私は天樹、天の世界樹よ。 ここにいるカズヤの力によって、この神山ボダーラ山にたどり着き、本来の姿を取り戻したの。 天の世界樹の本来の居場所は大空なのよ、だから、空に浮かんでいる子の状態が、本来の姿であり、正しい姿なのよ。」
「途方もない話だな……。団長と領主、俺の話を信じてくれるかなあ……。妖精様よ、もしよかったら、俺たちの領主と会ってくれないかなあ。」
「別にいいわよ。」
「本当か? そりゃあありがたい。 ぜひ、お願いするぜ。」
「ちょっと、ちょっと、隊長! 本当に妖精を城に連れて行くんですか? 大丈夫なんですか? 何かあったら、首じゃすまないですよ。」
「ばかやろう、おめえら、妖精様に失礼なことを言うな! わざわざ来てくださるって言ってくれてるんだぞ! 感謝しろ!感謝を!」
「隊長~。」
妖精様、領主の城まで、どのようにご案内したらよろしいですか?」
「そんなの簡単よ。この天樹の空島で城に向かうから、案内しなさい。」
「は?この山ごと移動できるんですか?」
「当然じゃない。空を飛べない空島なんてないわ。」
竜騎士隊の先導で、天樹の空島はミールニ領領主の居城に向かうことになった。
こりゃあ、移動要塞だ!すごいな。
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