28 ベティシアへの追っ手が迫っているようです
追っ手の皆さんも、相手がカズヤとベティシアでは大変でしょうね。
****Side【海の皇国】第1皇子の諜報部隊〔千の影〕********
ベティシア捕縛の命を受けた諜報部隊千の影は、天樹に乗って飛び去ったベティシアを追って、ボダーラ山の近くまでたどり着いた。 1000kmもの道のりを20日かからずに走破するのだから、高い力量を持った偵察部隊であろう。
彼らの目に映ったのは、上空に浮く巨大なボダーラ山と、その頂上にそびえ立つ、高さ1kmはあろうかという世界樹の姿である。
「なんだ、あれは・・・・・・?」
「なぜ、山が宙に浮いているのだ・・・・・・・?」
「俺たちは、夢を見ているのか?」
「あの山にベティシア様がいるのか? どうやって山にたどり着けばいいのだ? 山に登らなければ捕縛はできないぞ・・・。」
空に浮く山天樹の空島は、上空1000mほどのところに浮かんでいる。
この世界で、上空1000mの場所にたどり着くためには、魔法で飛ぶか、空を飛ぶ魔物に乗って行くしかない。
どちらも、実現可能な者は非常に少ない。
〔千の影〕の魔法使いが、追っ手のリーダー親衛隊副隊長トビアスと行動を共にしている皇室一級魔法使いのコルネリアに連絡を入れた。
「コルネリア様、千の影の先遣部隊長ロホスよりご報告いたします。」
「そちらはどんな様子? ボダーラ山にはたどり着いたの?」
「はい、ボダーラ山を目視できる場所までたどり着きました。」
「そう、で、これから山に向かうのね?」
「いえ・・・・・・それが・・・・・・」
「どうしたの?何か問題でもあったの?」
「ボダーラ山が、空に浮いています。」
「は? どういうこと? 山が空を飛ぶはずが無いじゃない!」
「私たちも、自分の目と正気を疑いました。しかし、事実です・・・・・・。」
「幻惑魔法にかかっているんじゃないの?」
「その可能性も考えましたが、どうも違うようです・・・。」
「ロホス!あなたの視覚情報を私に渡しなさい! いい! 行くわよ!」
コルネリアは、部下の視覚を乗っ取る形で、部下の見ているものを見ることができる。
「なっ! 何よ、あれは・・・。あり得ないわ・・・。確かに、巨大な【ボダーラ山】が空に浮かんでいるわ。それに、山の頂上にある木・・・、リーベの町から飛び去った大樹の情報よりも数倍大きいじゃない・・・。あれは・・・世界樹? 鳥の目を使って、もっと近くまで調べる必要があるわね。ロホス!次は、鳥の目を私に渡しなさい!」
「はっ、わかりました。鳥をご用意いたしますので、少々お待ちください。」
「トビアス様、不測の事態です・・・。」
「コルネリア、通信は無事すんだのか? で、何が起こった? まさか、ベティシアを見失ったか?」
「見失ってはいないのですが・・・、ベティシアが逃げ込んだボダーラ山が空を飛んでいます。」
「はあ?何を馬鹿な!・・・・・・本当なのか・・・・・・。」
「はい、真実です。私も影の目を使い、この目で確認いたしました。」
「なんと非常識な! 木に乗って飛んでいったと思えば、今度は山ごと飛んでいるだと! どうするんだコルネリア!」
「今から<鳥の目>を使って、山の様子を詳しく調べます。」
「わかった、やれ。」
コルネリアは、偵察部隊が用意した鳥の目を借りて調査を始めた。このような遠距離からの操作は、普通の魔法使いではできない高度な技である。コルネリアの魔法技術の高さが伺われる行動である。
コルネリアが目を借りている鳥は、空高く舞い上がり、天樹の空島の山頂を目指した。
近づいてみると、山頂の大樹はとてつもなく大きく、存在感に溢れている。
少しでも気を抜くと、大樹に意識を奪われそうになる。
大樹の根元に、小さな長細い家が見える。
いた!ベティシアだ!
ベティシアと共に、人族の青年が二人と、エルフの少女がいる。
と、そのとき、背の高い方の人族の青年の視線がこちらに向いた。
「使い魔か・・・・・。失せろ。」
鳥の目から強制的に意識を戻されたコルネリアは、部屋の中でがたがたと震えている。その姿を見たトビアスが、震えるコルネリアに声をかけた。
「おい!コルネリア! どうした? ベティシアはいたか!?」
「は、はい、ベティシアは発見しました・・・・・・。 確かに、山頂付近にいました・・・・・・。」
「そうか、よくやった!コルネリア! 後は、捕らえるだけだな。」
「無理です・・・・。」
「何だと!なぜ無理なのだ?」
「龍がいました・・・。」
「は?龍だと?」
「はい、・・・あれは間違いなく龍です。人の姿をしていましたが、・・・龍です。ベティシアと親しげに話をしていました。そして、私の目に気づき、私の魔法を破壊しました。」
「なっ! ベティシアは、龍を従えたというのか!」
「従えたかどうかはわかりません。 しかし、共にあるということは、ベティシアは龍の庇護下にあると考えるのが妥当です。」
「おのれ・・・ベティシアめ! 次から次に面倒な!」
「ベティシアの捕縛はあきらめましょう・・・。」
「馬鹿をいうな!第1王子様の信頼に応えるのが、我が親衛隊の存在意義だ!依頼を途中で放り出すことなどできぬ!」
「しかし、無理なものは、無理でございます。ベティシアと行動を共にしているのは、海賊討伐の英雄カズヤ・サクラザカです。理解不能な力で100人もの海賊を、たった一人で無傷で捕らえています。しかも、強力なエルフ魔法を使う女に、龍までその仲間に加わっています。それらの戦闘力は国を滅ぼすほどのものだと考えるのが妥当です。 そんなものどもに手を出したら、逆に、我が国が亡ぼされかねません……。」
「しかし、俺たちには無理でした、などと、国に逃げ帰ることなどできぬ……。諜報部隊〔千の影〕まで使って、女一人捕まえられない無能者の烙印を押されるだろう・・・。」
「……追跡を続けましょう。いつか、ベティシアを捉えるチャンスが訪れるのを待って。」
「そうだな……、空に浮く山をこの目で見たいしな。行くぞ、コルネリア。」
「はっ。」
***** side 空島 *****
一方、追手が近くまで迫っているとも知らず、ベティたちは暢気なものだった。
ミールニ領でも、当然ボダーラ山の異変は目撃され、領主アウレリア・ティゲスに伝えられていた。
その異変は、騎士団長ライムントにより、朝一番に伝えられた。
「アウレリア様、ボダーラ山に異変が起こりました!」
「騎士団長直々の報告とは……、異変とはどのようなことだ?」
「ボダーラ山が空に浮かびあがりました。」
「バカも休み休み言え。山が飛ぶか?」
「それが……、私にも信じられないのですが、目撃者多数で信頼できる情報です。」
「山が飛ぶ?どういうことだ? 偵察は出したのか?」
「はっ、朝一番で、竜騎士による偵察1個小隊を出してあります。」
「うむ。それでよい。」
敵魔法使いが、少しだけ活躍できました。




