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きみの……名前は……?

ふっかーつ!です!

じゃじゃん!

 推しとのお茶は、結局かなうことはなかった。




 理由はめちゃくちゃシンプルだ。

 涙とか鼻水とかいろんな液体で顔をべったべたにしたちびが飛び出してきたせい。


 ちびをみて「今回はお茶はお預けだねえ」と苦笑したアリーシャちゃんの言葉を聞いて思い切りちびを睨みつけたてしまったのは言うまでもない。


 寮まで送ってあげるね、と歩くアリーシャちゃんの後ろを数歩離れて歩く。



 今気づいたのだけれど、アリーシャちゃんは意外と背が高い。


 身長が161cmというのは知識として知っていたけれど、靴の高さもあるし、実際見ると印象が変わるものだ。


 ……セレスティーナの背が低すぎるだけかもしれないけど。と、さっき抱きしめられたときに頬にあたった感触に顔を赤らめる。


 いやでもあれは私が膝がくがくでしっかり立ってなかったからっていうのもあるし……。




 ……とにかく、アリーシャちゃんは、画面越しに見るのとだいぶ印象が違った。


 まるい瞳につやつやのほっぺたにぷっくりと色づいた唇に、だいたいのパーツが丸みを帯びているアリーシャちゃんは童顔の部類に入るし、カードもわりと高めの位置からの構図が多かった。

 それに、高くて舌っ足らずになりがちな甘い声が彼女を幼く見せていた。


 それが、実際はどうだろうか。


 容姿や声の甘さと、それに高い位置で結われたハーフツインテ。スイーツみたいな彼女の攻撃は力強く、心配を前面に出すまなざしはお姉さまと呼びたい衝動に駆られるくらいのおおらかさを感じられた。



 甘いだけじゃなくて、かっこいい。



 ほわぁ、と恍惚の息を吐く。


 それに、私が一番すきなところは全然まったくしっかりとそのまま彼女に備わっている。そんな予感がした。














「シノノメ、セレスティーネ。すまなかったのじゃ」


学園に戻ると、ビスクドールちゃん……いや、校長がぽろぽろと涙を流して私たちを迎えた。

 アリーシャちゃんは次の要請を受けて、さっそうと去ってしまった。私は、アリーシャちゃんがくれた名刺をしっかりと握りしめる。


 ひっどい顔だ。


 いや、校長先生の顔自体ははちゃめちゃに美しい。


 泣きすぎて上気した頬も、大きな瞳からこぼれる涙も、震える小さな唇も、美術館に飾ってもいいくらいの完成度だ。



 ――――頭のてっぺんからつま先まで、しっかりメテオの血液に染まっていなければ。


 ひっくひっくとしゃくりあげる様はまるでロリだ。見た目年齢がロリなだけで実は結構年行ってるんじゃないかと思っててごめんなさい。私は真のロリであった校長に謝罪の意をたっぷり込めた視線をプレゼントした。


 校長の後ろには、朝私とちびを案内してくれた男と、そいつと同じ制服を着た無表情な男がもっさりとたたずんでいた。


 二人はきれいなものだ。某顔加工アプリでも通したかのようなつるすべの頬には汚れ一つなく、思い思いに持っている武器らしきものの先端のみが少しだけ緑に染まっていた。


 その後ろから、おもむろに一人の少女が駆け寄ってくる。




「も~!おいていかないでくださいよぉ!」




 ばいんばいんと、揺れる。

 何がとは言わない。言わなくてもわかるだろう?

 彼女は実に立派な装甲を持っていらした。


「ナナリーちゃん……」


 思わず声が洩れる。

 私の思考は一気に動きを鈍らせた。


 すさまじかった。

 穏やかそうなたれ目も、ゆるふわウェーブのかかった黒髪も、あまりにも「おっとり」という言葉が似合う。そんな彼女は長い髪をポニーテイルにまとめ、汗ばんだ頬に黒い髪がしっとりと張り付いていた。


 えっちだ。


 しかも、しかもだ。服装が制服ではない。

 ……正しくは、制服を気崩しているという範囲をオーバーする程度にアレンジしていた。が正確だろう。


 シャツは制服そのまま、通常の黒いプリーツスカートではなく動きやすそうなショートパンツに着替え、露になった白いふとももには短剣が刺さったベルトをこれまたえっちに着用している。


 えっちだ。えっちだ。


「あれぇ?あたしのこと知ってるんですかぁ?」


「えっ……あ、偶然ちょっとだけ話を聞いたことがあって」


「ほえぇ……なんだか嬉しいですぅ」



 めちゃくちゃのんびり間延びした声にずきゅんと心臓を打ち抜かれる。

 推しがいなかったら危なかった……!


 ほっと胸をなでおろす(というにはセレスティーネは絶壁すぎるけど)私に、ナナリーちゃんはほわほわとほほ笑んだ。


「えへへぇ、仲良くしてくださいねぇ。あたしたち、寮のお部屋、隣なんですよぉ」


「そうなんですか?嬉しいです!」


「さっそく行ってみましょお~、お風呂もあるんですよぉ?」



 実際目にしてみると、ゲームで見知っていたよりも不思議なテンポを持っているなあ、という印象が強まる。


 意外と力強く私の腕をつかむと、ナナリーちゃんは泣き続ける校長とその後ろで某うぃずびーのような雰囲気を醸し出す男二人を置き去りにして、私をずるずると引きずり始めた。



「ええええええ……えええ……」


「あ、グルーシアくん、おはようございますぅ」


「もう夜だけどね~、おっは」


「えええええ……」



 私を引きずりながら、同じ学園の制服を着た通りがかりのイケメンと軽く挨拶をかわし、慣れた手つきで私をぽいぽいと風呂に放り込んだ。



「一緒にお風呂にはいりませんか~?」

「もう入ってない……?」

「えへへぇ、その通りですぅ」


 うわぁでかい。


 一瞬だけ湯けむり越しの肢体に呆然とした私だったけど、すぐにとあることに気づいて眉をひそめた。



 おかしい。

 明らかにゲームと剥離している部分がある。


 例えばさっきの、人がガチャにいない現象。あのようなものならわかる。あれは悔しいけれど、必要な改変だと思う。


 けれどこれは違う。





 朝案内してくれた高身長。

 ちび。

 高身長の隣にいた無表情男。

 さっきすれ違った謎のイケメン。





 4人だ。




 4人、いやだから?と思われるかもしれないけど、この数字に引っかかったのは訳がある。



 このゲームでは、一つの高校につき3人しか男がいない。

 モブは?と思われるかもしれないが、モブは作画が違いすぎるのだ。


 おそらくゲームキャラだと思われる男が4人。3人しかいないはずのところに4人いるのだ。





 つまり、一人多い。


 女の子しか覚えてなかったから全然気づかなかった。

 私は風呂に顔を沈め、ぶくぶくと息を吐いた。



 一人多い、それが何を示すのか、一向にわからない。

 誰が多いのか、なぜ多いのか。







「誰……?」



 私は目をつぶり、勢いよくお湯に沈み込んだ。


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