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次回!主人公死す!

優に8メートルはある体躯を持ちながらも、メテオは一切の音を立てなかった。




もしかしてものすごく軽いのでは?とメテオの足元に視線を移す。しかしそこには30㎝ほど地面にめり込んだヤツの脚があった。


地面はコンクリートではないけれど、しっかりと踏み固められた赤土でできていた。

地面に埋もれてしまうほどの重さがどれほどか、だなんて、考えるだけでぞっとする。しかもその重さを持つはずの大きな身体は、まるで体重などないかのような、そんな動きをしているのだ。


さて、敵について考えよう。

メテオがメテオであることを示す特徴はたったの二つ、塗りつぶされたような黒であることと、流れる血が緑であること、だ。それ以外は、形や重さなんかも決まっていない。


でも、チュートリアルを始めたばかりのプレイヤーがであえるメテオなんて、小さな鳥の形であったり、大きくても1メートル台のクマ型がせいぜいだ。こんなに大きなメテオは、上位ランカーでもないと無理である。



今回は考え得る限り最悪のパターン。




重さ、大きさ、そして機動性。すべてにおいて貧乏くじを引いてしまったようなものだ。



「……ちびくん。きみ属性なんだった?」

「……か、かいふ……くぅ」


メテオに気が付いたことがバレないように、不自然だとはわかっているけれど地面に視線を固定する。



「属性以外のカードは使えないっていうのはわかってるよね?だから私はきみに私の手持ちの回復カードを全部渡す。きみの魔術カードと、できれば交換したい」



震える指でカードを引っ張り出して、ちびの胸元に押し付ける。



「あと、できれば攻撃カードは預かっといて。応援の人が来たらその人に渡してくれる?」


「わ、かった……!」



ちびの指も震えている。

二人で震えながらカードを交換して、じわじわ近づいてくる濃密な殺意に唇を噛み締めた。



メテオが長い、腕のようなものを振り上げたのが視界の端に移る。





「回復は任せた」



歯を食いしばって、ちびの胸元をつかみ、後ろに投げる。







ぐじゃり。






























どん、と耳元で花火がはじけた様な轟音がして、私は()()()()

一瞬の間に体を駆け巡った激痛に、体が大きく痙攣した。



「い……っ」


「せれすでぃーなざん!!!!よがっだぁ……生き返ったんでずね……」

「へ?」

「よかっだぁ……せれすてぃーなざん……」

「ち、ちびくん……」


虹色の紙くずを握りしめたちびが泣いている。

頬まで届く前髪が内側から濡れて、すだれみたいになっている。



そうか、と腑に落ちた。


私は、一度死んだのか。




「あ、りがとう……そうか、回復のレア5……」


虹色の輝きに小さく息をつく。


「援護は、来た……?」

「き、きてない……です……。とりあえず、あの……岩の陰に、慌てて、隠れて……でも、も、もうバレると思います」


ごめんなさい、僕のせいで。


自責の念に駆られていますと大きく油性ペンで書いてでもあるような顔をしているちびのほっぺたを思い切りつねる。


「申し訳ないと思うんだったらさあ、この戦いを無事に切り抜けたられたらさ、かわいい女の子紹介してよ」


だんだん呼吸が整ってきた。


レベル5の回復カードはやっぱりさすがとしか言いようがないくらいにしっかりと体の隅々まで治してくれていて、だからこそ、この世界が今までいた場所とは明らかに違うということが浮き彫りになる。どっきりではない。現実だ。



ふぅ、と息をついて、手持ちのカードを確認する。



自引きカードはワンダードリーマーのみ。

ちびからぶんどった魔術カードは3枚だけ。


レア3の盾カード、レア2の花火のリアルめな映像が流れるだけのカップル用カード。そして、マスマティックスという、点AとBの間を点Pが高速移動する謎のネタカードだ。マスマティックスはその謎さと、なぜかレア4という立ち位置であること、何度アプデしてもローマ字表記にならないダサさが人気を博したカードである。


悪くない。




「じゃあ、またよろしくね」


「はい……!!」



足音はしなくても、大きなものが動き回る気配は意外とわかるものだ。

メテオらしき気配が確かに近くにいることを把握した私は、チビから少し離れたところでワンダードリーマーのカードを噛みちぎった。




「『幻想を夢見るものよ(ワンダードリーマー)』発動。選択、『サーカス』」




ゲームでは何度も使ったことのあるカードだけど、生身の自分が使うのは初めてだ。

緊張して全身が震える。悔しくて空いている片手を強く、強く、握りしめた。



ワンダードリーマーは、バトルフィールドを強制的に変更するカードである。


ぱたぱたと空がめくれて、裏返って、赤黒い夕焼けへと移り変わっていく。

勢いよく万国旗が周囲を囲み、いたるところに鮮やかな色調のテントが並ぶ。


もちろんゲームのセオリー通り、万国旗の上も、テントの上も、足場として使うことができる。それを狙ってのワンダードリーマーだ。


万国旗を釣る紐にさえも謎の引力が働いて、想像以上にしっかりと足場として機能している。確認して、その上に飛びあがった。


ゲーム補正さまさまだろう。

少しジャンプが足りなかったはずなのに、私は不安定に見える足場の上にしっかりと立っていた。


後ろを軽く振り向き、いくつもあるテントの一つにちびが潜りこんだのを確認する。


「『マスマティックス(マスマティックス)』『点A固定』」


つぶやいて、できるだけ早く走り出した。





















「……ぐ、ぅ」



走っても走っても、自分の周りだけ時間がゆっくりと流れているような錯覚に陥ってしまう。

セレスティーナは、私よりはるかに身体能力が高い。けれどもそれはあくまでも人間としての常識の範囲内に収まる程度でしかないのだ。



点Aと決めたポイントがメテオの巨体に隠れたのを確認してから点Bを同じように設置する。



「『花火よ、永遠を(ファイアフラワー)』」



ちぎり飛ばしたカードがメテオの横面ではじけて、美しい花火を移す。



メテオが声を発することはないけれど、びくりと体がかしいだのが見えた。



「『マスマティックス(マスマティックス)』『点P移動』」



間髪いれずに点Pを動かす。

メテオの体を挟むように設置された点Aと点Bの間を、そこそこのスピードで点Pが進み、その勢いのままメテオに食い込んだ。


メテオが身をよじり、宙に浮かぶ万国旗を纏めて握る。ぐん、と引かれたそれに巻き込まれないよう、勢いよく飛び降りた。



「……ったあ……」


無理に着地した足が痛む。目に涙が浮かぶ。

でも走らないと死ぬ。


メテオが怒り狂っているのがしっかりと伝わってくる。

ちびがいる方と逆に走りながら、地面にいくつも設置されたテントのあいだを縫うようにして、できるだけ攪乱できるように走った。


赤、青、黄色、白、黒に紫に緑色に、いろんなテントの横をすり抜けて、それでもメテオとの距離は縮まらない。



「っづああああああああ!!」


痛い、と感じる前に転んでいた。

顔から地面にダイブして、頬を思い切りすりむいてから気づく。



さっきの足だ。

着地したときにひねったんだ。


ぐるんと空を見上げれば、メテオがゼロ距離ともいえる近さに佇んでいる。



「っひ、『(シールド)』ぉっ!!」


震えるというか、涙交じりというか、もはや泣き声だったと思う。


ここはゲームの世界で、だから死んでも大丈夫だとか、そんなことは頭に浮かびすらしない。

死にたくない、怖いという気持ちだけで動いていた。



ガッ、と音がした、と思う。


慌てて構えた盾がぶつかってきて、疑問に思う間もなく私は宙を飛んでいた。




ああ、今度こそ死ぬんだな。

最後にアリーシャちゃんを一目でいいから見たかった。






重力に引かれて地面がぐんぐん近づいてきて、それ以上に早くメテオの拳が迫る。



壊れたみたいに涙を流したまま固まる私の肩を、温かい何かが優しく受け止めた。


目の前の真っ黒な拳が、白くて細い何かに貫かれて砕けて飛び散って、緑色の液体が滝みたいに流れる。




「……え?」


「初めまして!入学おめでとう!」



つやつやのハーフツインテ。希望に満ち溢れたくりくりの猫目。

薔薇色のほっぺたに飛んだ血をぬぐう腕は華奢で白くて、緑色の液体でべとべとに汚れていた。



「よく、頑張ったね」



それ以上に、その、さくらんぼのような唇から紡がれた声には聞き覚えがある。ある。ある!





「君をね、助けに来たよ!」




()()()()()()()()()()()()()()()()







次回!!!!主人公死すッッ!!!!!

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