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ドキッ☆涙まみれのプロローグ

 

 綺麗なアーチを描く噴水、謎の板が埋め込まれたレンガ造りの建物、さんさんと降り注ぐ太陽。いつの間にか金色に染まっていた上にどぅるんどぅるんに伸びた髪の毛が耳元で揺れる。


「……はぁ……?」

 いつの間に着替えていたのか、首元までしっかりしまったシャツには汗が滲むし、くるぶしまでのロングスカートが足にまとわりつく。

 なんぞ……?と現実を受け入れられず空を仰げば、ふわりと浮かぶのはふたつの太陽、そして派手な音を立てて校舎の窓が爆発四散した。虹色の煙とともに。

 手の込みすぎたドッキリに半目になった私に、背の高いいやにきれいな肌をした男が歩み寄ってくる。

「チェンジで……」



 ◇ ◇ ◇


 彼女に彼氏ができた。


 楽しげなサウンドエフェクトを響かせる携帯の画面に指を滑らせながら、私はだばりと涙を流した。

 恋人に振られた私がメイクも落とさずみじめにも起動したのは、大好きなソーシャルゲーム。魔法学園で恋しよっ♡と銘打たれた知る人ぞ知る男性向けクソゲーだ。

 流れるように表示したガチャのトップ画面に表示されているのは、大好きだった彼女に似た美少女。異世界の魔法学校という設定をガン無視してバレンタイン限定!と銘打たれたそのカードは眩暈がするくらいに、それはもう可愛かった。いつもはハーフツインテ―ルにしている髪がなんとポニーテール。桜色のほっぺたに飛んだチョコレートがあざとかわいすぎて凶器になりそうだ。白いニットを萌袖にしたままボールをつかんで、泡だて器片手に恥ずかし気に浮かべるのは照れ笑い。しかもこのゲーム、最高レアリティのカードを入手するとなんと

 ……ホームで推しが限定衣装を着る。限定台詞付きだ。


「うぇっ……かわいいぃ……」


 一旦携帯をローテーブルの上に置き、顔を覆ってため息を吐く。


 彼女が去年のバレンタインにチョコをくれたことを思い出してしまった。


 ふわふわの苺ムースとチョコレートムースが2層になったプチケーキを作ってきてくれたんだっけ。重くて上に乗せられなかったの、と顔を赤くしてケーキの横に添えてくれた苺はサンタの形をしていて、クリスマスじゃないのに、と笑ってしまったことを覚えている。私は一か月頑張って練習した最高のホットチョコレートと、ホワイトチョコレートとラズベリーのマフィンを翌日彼女にプレゼントした。


 推しの可愛さと彼女との思い出とが同時に襲ってきて気が狂ってしまいそうだ。


「去年はあんなに幸せだったのに……」


 涙でべたべたになって頬を服のすそで拭って、にじむ視界の中ガチャを回す。

 こんな最低な気分の日だからこそ、逆に出るかもしれない。限定の推しが……!


 しゃららん。最高レア演出なし。スキップスキップ。

 しゃららん。最高レア演出なし。スキップ。

 しゃららん。最高レア演出……なし……

 しゃららん。演出とは……?

 しゃららん。

 しゃららん。

 しゃららん。

 しゃら……

「あっれぇ?」


 とりあえずとぶち込んだマネーと80連が一瞬で溶けた。

 ドブじゃん……。けれどここで止まるわけにはいかない。なぜなら私は今とてもかわいそうで、いいことが一つくらいなきゃやってられないからだ。

 勤める会社はドブラックで、日々の癒しといえばたまの休日に彼女とデートすることと、満員電車の中で笑顔を向けてくれるこの娘だけなんだ。彼女を失った今、残ったのはこの娘だけ。もうやだ……。

「結局「私レズなんだ!」っていうやつほどすーぐ彼氏ができたとかほざくのよ……」

 今回こそは、って何回思っただろう。それでも最後には男ができたと振られるのだ。

 私に何が足りないんだ?筋肉か?竿か?わからない。彼女たちは私の何が不満だったっていうの……?おっぱいならあるんだよ?

「浮気しやがってえぇぇ」

 追加で万札を溶かしながら十連ボタンを連打する。こない。こない。こない。


 今更だけどとても大切なことを思い出した。とても、とても大切なことだ。――――





 ―――このゲームには、天井がない。

 いくらつぎ込んだら来てくれるのかしら愛しのあの子は!!

 脳裏をよぎるのは半年前の水着ガチャ。十万くらいつぎ込んだっけ……?だって白のフリルとか買うしかないじゃん?谷間がぷるぷるでおへそが最高だったからつい……。

「ああもう……もう一回だけ……」

 ヤケになってぶち込んだラスト10連。くるくると回りだす高レア確定エフェクト、が、ゆがんで、広がって……?


 私、酒飲んでたっけ?


 思わず手元を確認したその体制のまま、私は画面から飛び出してきたピンク色のエフェクトに飲み込まれた。







 そ し て 冒 頭 に 戻 る 。








 いや……えっ、何?

 頬をつねる。痛い。キレそうだ。

 明らかに異世界とわかるセッティング、ハーフの俳優でも起用したのか?と思うほどきらきらしい顔面の男、どうやったかわからないが服が変わっていたことといい、ベテランのスタッフが裏にいるに違いない。


「やあ、初めましてレディ。今日から君たち二人はこの学園の生徒と――」


 まあそんなこと今はどうでもいいんだけどね!!!気になるのはガチャの結果だけさ!!!!!


「おーい、レディ?お嬢さん?」


 さすがに携帯という貴重品まで勝手に取り上げることはできなかったらしい、手に握ったままだったスマホの電源ボタンを連打、スリープモードだっただけで、割とすぐに明るくなった画面に素早くパスワードを叩き込むッ!

 さっきの演出、確実に最高レアが出るやつだ。確信を持って言える。

 再起動する画面に少し焦る。もしかして十連がなかったことになっている……?確認した石はきちんと減っていて、安心しながら所持カードの一覧に飛ぶ。


「ああ、なんてこと……!」

「……あの、君?」


「アリーシャちゃんじゃねえのかよぉぉぉぉぉおぉぉッッッ!!」

 画面に映し出されたNEW!のマークがついた最高レアのカードは、八重歯が似合う元気っ娘のアリーシャちゃんじゃなくて……そもそもアリーシャちゃんと同じ学園のキャラクターじゃない、ライバル校の金髪ロングのクーデレ娘、セレスティーネの恒常カードだった。

 意識が遠くなる。いやセレスたんも嫌いじゃないけどやっぱりさぁ……ねえ……?


「あの、どうして泣いているのかな、レディ……レディ・セレスティーネ?」

「は?」


 耳に心地よい低い声、私の彼女を奪った憎い男の声に似たその男をぎりりと睨みつけ、睨みつけたままじわじわととある気づきが私を襲う。

「セレス、ティーネ」

 今出たカードは誰だったか。

 くるぶしまでの重いロングスカート、首元の白いスカーフを、どこかで見なかったか。

 こちらを気遣うように眉を下げた男の瞳に移っているのは、私と全く違う、白く浮き出すような顔だ。

 そもそもその男の顔にも見覚えがなかったか?秋のイベント上位報酬あたりで軍服が実装されていなかったか?

 男キャラのイベントは全放置していたからピンとこなかったけど、そういえば某SNSでフォロワーがやっべえことになっていた記憶がある。

 てことはもしかして私ドッキリでコスプレさせられてる?服もしっかり準備して?

 上層部はヤクでもキメてるの?やばいな……。



「とりあえず寮と……スクールカウンセラーに紹介しよう。君は少し疲れているようだしね」

「お兄さんも大変っすね……」

「君が奇行に走らければもっと簡単だったんだけどね……」








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