その後の冒険者としての日々 ⑤
魔法使い殺しを倒した後、私たちは少し寄り道をしながら帰ることにした。行きの道中は、これから魔法使い殺しと戦うのだ……と緊張でいっぱいだったけれど、今は倒した後なので気持ちが大分軽い。
「あの魔物、私たちが倒すね!」
「私たちがやるからシィ姉様は休んでいてね!」
道中で見かけた魔物は、そう言って張り切るミレーナとアレーナが倒してくれた。
魔法使い殺しとの戦闘は、私の我儘で私だけで倒させてもらった。だから二人とも暴れたりなかったみたい。魔法を使って魔物を倒す二人を見ながら、本当に冒険者になったばかりの頃と比べると二人とも強くなったなとそんな風に思った。
「二人とも以前より強くなったよね」
「ええ。とても誇らしいわ」
「ケーシィも随分強くなったと思うけどね」
「ソル君にそう言ってもらえると嬉しいわ」
ソル君が私のことをみとめてくれていることも、妹分たちのことを褒めてくれることも嬉しい気持ちでいっぱいになる。
こうやって私たち四人で少しずつ冒険者として実績を積むことが出来ていることもとても嬉しい。
「あ、ソル君。あれ見て」
こういう森の中は、不思議で溢れている。
私が見たことがないものが沢山あったりする。
前世とこの世界では違いが沢山あるからこそ、余計に色んな場所を見て回ると楽しいなとそんな気持ちになるのだ。
「不思議な跡が岩についているわね。あれはなんなのかしら?」
「魔物とかが着地した後とかかな?」
「よっぽど勢いよく着地したのね」
岩の大きなへこみの跡。硬い岩があんな風になるなんてよっぽどだと思う。もし本当にあれだけ勢いよく着地したというのならば、その魔物もただではすんでいないのではないかと思った。
「実際にどうかは分からないけどね。あくまで予想だよ」
「他にどんな理由があるのか、考えるのも楽しいわよね」
一つのものを見て、どうしてそれが出来上がったのかなんて考えるのも楽しい。
私が想像もしないような理由がそこには待っていたりして、こうやって冒険者として冒険するのは本当に楽しい。
冒険者って体が資本の仕事だから今のうちに色んな所に行けたらいいなと思っている。でもソル君は十一歳の頃から世界を歩き回っているけれど、冒険者をやめたいと思ったことなどはないのだろうか?
「私、こういう街で暮らしていたら見られないものが沢山見られるのが冒険者としての醍醐味だと思うわ。騎士とかとはまた違う楽しみがあるわよね」
やっぱり冒険者をやっていないと見られないものや経験出来ないことは沢山ある。
様々な職業があるけれど、その中で冒険者というのは特に自由な職業だと私は思っている。
ランクが上がれば制約がないわけではないけれど、それでも基本的に冒険者は自由である。
「そうだね。俺もそう思うよ。冒険者をしていたからこそ、ケーシィに出会えたしね」
ソル君の言葉にそれもその通りだと私は思った。
ソル君が冒険者として飛び出していたからこそ、私はソル君と出会うことが出来たのだ。
何か一つでも掛け違えば、それぞれの傍に別の人が居た可能性も高いのよね。そう考えると私も、冒険者として生きていく選択肢を取ってよかったと思って仕方がない。
ソル君と会話を交わしていたら、周辺の危険な魔物の相手をしていたミレーナとアレーナが戻ってきた。
「シィ姉様、ソル君、ただいま!」
「全部倒してきたよ!」
にっこりと笑ってそういうミレーナとアレーナに、私たちも自然と笑顔になる。
それからしばらく森の中を目的もなく歩き回って、ギルドへ戻った。
顔なじみの受付の女性に「なかなか帰ってこないから心配しました」と言われて、先に連絡を入れていればよかったと少し反省した。
魔法使い殺しはそれだけ危険な魔物なのだと再認識した。私たちが魔法使い殺しを倒したことはすぐにその街に広まって、街を歩いていると以前よりも視線を向けられるようになった。
「なんだか少し落ち着かないわ」
「慣れた方がいいと思うよ。ケーシィはこれからもっと凄い冒険者になるだろうから」
「なんだか確信しているみたいな言い方ね?」
「ケーシィも、ミレーナもアレーナもきっともっと有名な冒険者になるって俺は確信しているから」
それはソル君からの信頼の言葉のようで、なんだか嬉しかった。
「そのためにもっと依頼受けないとね。ソル君に置いていかれないようにギルドのランクもあげたいし」
私がそう言ったら、ソル君は笑ってくれた。
私たちは、これからも冒険者として世界の各地を見て回るだろう。そしてその中できっと気持ちを高揚させるような楽しい発見も沢山溢れている。
――そう思うと、私はこれからのことが楽しみで仕方がない。




