軍服/軍
テーマは、軍服/軍です。
あまり戦争とか詳しくないです^_^;少し流血表現があります。
「また、こんなもん買ってきて!!散財すんな馬鹿!!」
目の前の恋人、遊莉を叱り飛ばした。こいつの収集癖にはうんざりだ。
「違うんだ!環。これは貰い物で、ロークだ!なんて素敵な軍服。愛しい…」
そう言って埃っぽい日本軍の軍服を抱き締める。
ロシア語混ぜやがって!ロークとは日本語で運命。何が運命だ!俺を口説いた時にも使いやがって!
俺は軍服か?!
クリッとした瞳に高い鼻。でも全体的に幼い印象の遊莉には、ロシアと日本の血が流れてる。
「とにかく!没収!!明日、返してくるからなっ、バカ遊莉!一回死んでこいっ!!」
そう言って俺は軍服を奪い、寝室へ入ってフテ寝した。
★
『くそっ!逃げやがった!』
『探せ!殺すんだ!』
心臓が、痛いほど脈を打つ。
この鼓動がロシア兵に聞こえるんじゃないかと不安で一杯になる。
戦争なんて嫌いだ…。
早く、逃げないと!
「うぐっ…」
歩けば傷が痛んだ。
弾を掠めた箇所から出血が止まらない…。圧迫に使った布はジットリと湿り気を帯び、重みを蓄える。
「はぁ…はぁっ…。」
日本へ帰りたい…父さん、母さん…!
死にたくねぇよ…っ!!
辺り一面白銀の世界。
血を溢せば命がない。
「ちきしょう…」
目が霞む。
寒さと貧血…そして極度の緊張と疲労が襲い、俺は意識を手放した。
―――
――――――
「ん…。」
天井が見える…。それに暖かい。
俺は死んだのか…?
ゆっくり体を起こし、自分の姿を見れば、綺麗な衣服に身を包み、傷つけられた箇所には包帯が巻かれて、出血は止まっていた。
「…起きましたか…?」
?!
慌てて自分の体を触り、武器を探すが無い!丸腰だ。
殺されるっ!
「うっ!!」
傷が痛んだが関係ない。
相手とは反対側へ、ベットから素早く降りて顔を見る。
「まだ、顔色が悪い。何もしません!ですから眠ってください。」
一瞬、息を飲んだ。
金髪碧眼。
まるで、おとぎ話から抜け出た王子様の様な容姿。
民間の衣服に身を包んているが、粉うことなきロシア人。
「き、貴様ロシア人だなっ?!俺をどうする気だっ?!に、日本語なんぞ使いおって!汚らわしい!!」
恐怖に震える体を制して、精一杯強がった。
「私は民間人です!あなたは、私の家の庭で倒れて居ました…だから、助けたのです。」
相手は慌てて答える。
「う、嘘をつくなっ!俺を捕虜にしようとしているのだろう?!」
「ニェート!違いますっ!こんなに幼い少年も戦争に駆り出されるなんてっ!っ…お願いします!絶対に貴方をロシア兵には渡しません!助けたいのです!」
なんと失礼な奴だ!
「ばっ、馬鹿にするなっ!俺は成人しているっ!大日本帝国ヒトイチマル部隊所属、初瀬川環だっ!…っ!」
腹に力を入れて叫んだら、傷が痛んで思わずしゃがみこむ。
「大丈夫ですかっ?!」
気づけばロシア人が近くに駆け寄り、俺の体を支える。
「っ…!!触るなっ…くっ!」
「タマキ…無理をしないで。」
そう言って、俺を軽々抱き上げベットへ戻す。
「き、貴様…名前は…?」
「ユーリ。」
ユーリは俺を抱き締めた。
「…怯えないで。」
人の温もりを感じて、今更孤独に震える…。
仲間は次々と息絶え、俺は看取る事も出来ず戦い…気づけば一人になった。
ロシア圏での日本語、そして自身の寂しさから、涙が溢れて止まらない。
「ユーリ…俺は…、日本に帰りたいんだっ!仲間の為にも!!っ…ううっ…」
俺はユーリにすがりながら泣いた。
「私が…お手伝いします。」
「っ…ほんとに…?」
目が合うと、ユーリは優しく微笑む。
金髪に見えた髪は近くで見ると、色素が失せたような白銀に輝き、瞳は日本で見た透き通る青空を思い出させた。
目が、離せない…。
そして、どちらからともなく顔を近づけ唇を合わせる。
「んっ…っ…。」
温かい。
俺は、この温かさを離したくなくて、体を許した。
☆
ユーリは毎日、甲斐甲斐しく俺の世話をする。
こんな満たされた時間を過ごすのは久しぶりで、心も体も満たされた。
でも、満たされれば満たされるほど、日本の事を思い出す余裕が出てきてしまう。
「ユーリ…、俺はここへ来て何日経った…?」
「ん…、一ヶ月かな?」
「俺は、いつ帰れるのだろう…。」
そう呟くと、ユーリは
「傷の回復が先だよ。私も機会をうかがう為に情報収集は欠かしていない。」
そう言って、俺の頭を撫でる。
傷に障るからと、あまり外の話を教えてくれない。
優しさ、なのかもしれない。…だが、俺にはある疑問が浮かぶ。
もしかして、ユーリは何か大切な事を隠しているんじゃないか?このまま誤魔化して、俺を裏切る気じゃ?
戦争は終わったのか?
今、どちらが優勢だ?
一体、どうやって俺を手助けするつもり?
この瞬間も部屋の扉が開いて、俺を兵士がつれて行くかも知れない…。
恐い…。
考えるほどに悪い事しか浮かばない。
「そう…。洗面所を貸して欲しい。」
「どうぞ。ふふっ、許可なんて要らないのに…。タマキは律儀だ。」
優しい笑み。でも、その表情は本物か?
俺は立ち上がり、部屋から移動した。
ユーリは、一人でこの家に暮らしている。そして、生粋のロシア人だろうに、日本語がとても上手い。
優しいし、綺麗だし…少なからず惹かれている…と、思う。
いや、もしかしたら、こんな状況下で好きと錯覚しているのだろうか?
自分の感情にすら自信が無くなってくる。
俺は、洗面所から、剃刀を持ち出した。
「タマキ…」
体が飛び跳ねる。
ゆっくり後ろを振り向くと、ユーリが扉の前に居た。
「ユーリ…俺は、日本へ帰れないんだろ…?」
俺は剃刀の刃をユーリに向けた。
「タマキ…手に持っているものを、私に下さい。」
困惑した表情をみせるユーリ。
その表情…演技でしょ?
「渡さない。俺は、自分の力で日本へ帰る。」
「どうやって?!まだ…傷も完治した訳じゃない。一人は危険だ。私は約束した!タマキを日本へ帰すと。だから、自暴自棄になるなっ!」
必死に訴えるユーリ。
喉の奥から、笑い声が漏れた…。
「くくっ…そうだな…。俺は無力だ…こんな知らない土地で一人、寂しさを粉らわす為に敵国の男と寝る事しか出来ないんだからっ。あはははははっ!!」
笑いが止まらない。
「…タマキ…。」
「来るなっ!!」
俺の威嚇も無視してどんどん距離を詰める。
目の前までやってきたユーリは剃刀の刃を手で握り力づくで奪う
「…私は…貴方を愛してました。」
―――刹那、ユーリは自分の喉元をかっ切った。
「ひっ!!」
スローモーションで、大量の鮮血が宙に舞い、直後踊る様に血液と肉体が床に沈む。
「ユーリ…!」
血が、止まらない…。
「ユーリ、ユーリっ!!」
俺は急いでシャツを脱ぎ、それを喉元へ当てて圧迫する。
しかし、それも虚しくシャツは真っ赤に染まって行く。
死んじゃうっ!!
静まり返った家のなかに、テレビのロシア語が耳に入った。
『勝利…終戦……ました…』
「うぁああああああ!!ユーリぃ…っ」
ユーリの体を抱き締める。
ごめんなさい、ごめなさい。
疑ってごめなさい!
俺も、ユーリを愛してたんだっ!!
★
「うわあぁああああああっ!!」
慌てて起き上がった。
「環?!どうしたのっ!?」
「ひっ!…遊莉…か。」
遊莉が俺の寝室へ飛び込んできた。
目の前の遊莉は、金髪碧眼じゃない事に安堵する。
汗で服はぐっしょり、手には…軍服が握られていた。
「つーか、遊莉…この軍服、誰に貰ったんだよ?!」
「ん?ひい祖父さん。名前が同じなんだぜ~。へへっ。」
と、得意気に言う。
「いっ、生きてるのかっ?!」
俺は遊莉に掴みかかった。
「ん、ああ…。ロシアに居た時、一度死にかけたらしいけど、病院に運ばれて一命を取りとめたって。」
実は、俺の曾祖父もタマキって名前なんだよね…。
おいおい…、今の夢はリアルなのか?
「生きてたんだ…。」
「うん。でなきゃ俺は、環に出会えなかった。」
そう言って、頬にキスをする。
「つーか、なんでひい祖父さん日本語上手いの?なんで一人でロシアに居たの?」
「…?!環は…エスパーか??ユーリじいさんは、日本語の教師だったんだ。体も弱かったらしくて…戦地へは駆り出されなかったみたい。」
「成る程な…。」
「なんだよぉ~?例え俺のじいさんでも妬けるぞっ!」
きゅっと抱きつかれた。
その温もりに安堵し、ユーリの死に様を思い出して身震いする。
「遊莉、さっきは…死ねなんて言って、わ、悪かったよ…。」
「環どーしたの~?やけに素直で可愛いじゃん♪」
遊莉がニヤニヤしながら俺の顔を見る。
「けど、この軍服は没収な!」
「え~!!ひどいよぉ~!」
遊莉は泣きそうな顔をして抗議する。
これは、俺の曾祖父に返そう。
ユーリは、生きてたんだよ…って。




