↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒刀と瑠璃眼の少女  作者: あると


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/78

第38話 宿怨の野槌、そして山頂の決戦

烏山の社へと続く、果てしない石段を駆け上がる。

だが、その行く手を阻むように、左右に繁茂する鬱蒼とした茂みから、禍々しい妖気を放つ妖魔たちが次々と這い出してきた。

「九十九、来るぞっ!!」

「ああ、分かってるっ!!」

九十九の叫びと同時に――無数の異形が一斉に三人へ襲いかかった。

「そこをどけぇぇっ!!」

九十九は黒刀を鋭く振り抜く。

ザンッ!!

迫る妖魔の一体を一刀両断にし、刃を返す刃で次の敵を斬り伏せる。

だが――。

「くっ……こいつら……っ!」

斬っても、斬っても、地底から湧き出すように次なる敵が押し寄せてくる。

烏山を根城とする妖魔どもは、そこいらの雑魚とは訳が違った。一匹一匹が重厚な妖気を纏い、骨皮が異常に硬い。

次第に腕が重くなり、激しい息切れが九十九を襲う。黒刀を振り抜く速度が急激に落ち、とうとう足を止めざるを得なくなった。

「こいつら……一匹一匹が強すぎるっ!!」

「数が減らない……っ! 九十九、背中を合わせて!!」

葉月もまた錫杖を振るい、札を乱舞させながら叫ぶ。

着実に倒してはいる。だが、それ以上にこちらの体力の消耗が限界に達しつつあった。

『もぉぉ……クラマ! 時間稼ぎにしかならないけど、やるよっ!!』

クラマの体内で、水狐が困惑混じりに声を上げた。

次の瞬間――。

シューッ……!!

三人を取り囲む周囲一帯に、視界を完全に遮断する濃密で湿った霧が瞬く間に立ち込め、満ち渡った。

「くそっ、何も見えないぞ!?」

「九十九、私から絶対に離れないでっ!」

濃霧の向こうから葉月の叫びが響く。

足元をすくわれた妖魔たちが、突如奪われた視界に戸惑い、一瞬動きを止めた。

「でかしたぞ、水狐っ!!」

クラマが禍々しく口元を歪めた。

「――『放雷(ほうらい)』っ!!」

バリバリバリバリィィィッ────!!!!

山全体を揺るがすほどの暴虐な轟音が爆ぜた。

クラマを中心に、無数の青白い雷撃が八方へと爆破するように奔走する。

「ぎゃあああああっ!?」

「ぐわぁぁぁぁっ!?」

霧の中で重なり合う無数の悲鳴。

やがて風が吹き抜け、霧が晴れ去った後――そこには、黒焦げとなって石段に転がる惨絶な妖魔の群れが転がっていた。

「……すっげぇ……」

九十九が息を呑んで呟く。

「感心しておる暇などないぞ。さっさと行くのじゃ」

クラマは何事もなかったかのように爪を収め、悠然と歩み出した。二人は顔を見合わせ、慌ててその背中を追う。


石段をさらに駆け上がった、まさにその時だった。

「――やあ。久しぶりだね、クラマ」

不意に、ねっとりと鼓膜にへばりつくような声が上空から降ってきた。

クラマがピタリと足を止める。

見上げると、石段の頂上。古びた鳥居の柱の上に、一匹の異様な妖魔が不気味にしゃがみ込み、こちらを見下ろしていた。

蛇のように細長く歪んだ身体。顔面に裂けた巨大な口と、そこに浮かぶ不気味な嘲笑。

そして……人間や生半可な妖魔とは一線を画す、圧倒的な歴史の重みを孕んだ怪異の妖気。

クラマの口元が、危険な角度で吊り上がった。

「……久しぶりではないか、野槌(のづち)」

クラマはギリリと爪を伸ばした。

「また、わらわに千年前の時のように打ちのめされに来たのか?」

「野槌……?」

九十九が黒刀を構え直しながら聞き返す。

「あやつはわらわと同じ、千年以上を生き長らえる古の大妖じゃ」

クラマは一切振り向かず、九十九たちへ背越しに告げた。

「お前たちは先に行け」

「おい、冗談だろ!? 大丈夫なのかよっ!?」

九十九が眉をひそめる。

「あいつもお前と同じ『大妖』なんだろ!? 力を取り戻しきれてないお前一人じゃ――」

「わらわを誰だと思っておる?」

クラマは幼い胸を堂々と張り、ニヤリと可憐に笑ってみせた。

「九尾の王、クラマ様じゃぞ?」

そして、再び鋭い眼光を野槌へと戻す。

「それに、あやつとは千年前からの腐れ縁じゃ。わらわの戦い方はわらわが一番知っておる」

クラマは九十九をチラリと一瞥した。

「……鎌鼬の兄弟を頼んだぞ」

「……っ」九十九は短く息を吐き、強く頷いた。「任せろ!」

「うむ! ――『轟雷』っ!!」

ドォォォォンッ!!

直後、空から落とされた極大の稲妻が野槌の頭上へ向かって直撃した。

「今じゃ! 駆け抜けろっ!!」

「行こう、葉月っ!!」

雷撃によって巻き上がった猛烈な爆煙の中を、九十九と葉月は一気に突き進んだ。野槌の真横を疾風のごとく駆け抜けていく。

野槌は二人を追おうともせず、ただ口元を細く歪めて笑っていた。

「……やけに素直に見逃すのじゃな」

煙の向こうから歩み出るクラマが尋ねる。

「ふふ……あんな雑魚の人間なんて、僕の興味の外だよ」

野槌は狂喜に瞳を濡らし、細い身体をうねらせた。

「久しぶりに……あなた自身が、僕の相手をしてくれるんだもの」

野槌の瞳が細く、凶暴に収縮する。

「しかも……昔とは比べものにならないくらい、弱くなり果てて」

「……ほう」

クラマの眉がピクリと跳ねた。

「いたぶりすぎて――殺しちゃうかもしれないけれど、許してね?」

ズドドドドッ────!!

野槌の両腕から、無数の巨大なヒルのようなおぞましい触手が噴出し、石段を抉りながらクラマへ殺到した。

クラマは最小限の動作で横へと跳躍する。

着地点だった石段が触手によって一瞬で砕かれ、土煙が舞い上がった。

「ふっ……そう簡単にはいかんぞ」

クラマは牙を覗かせ、胸元へ語りかけた。

「おい、黒狐よ」

『……もう、やだよぉ』

クラマの身体の内側から、不機嫌そうな声が返ってくる。

『起きるの面倒くさいもん。勝手にやってよ』

「お前が寝ている間、耳元でずっとわらわの下手な歌を歌い続けてやろうか?」

『…………』

絶句する気配の後、ハァと深い溜息が響いた。

『もう……早く終わらせてよね』

シュアァァァッ……!!

漆黒の妖気がクラマの身体から爆発的に噴き出した。

それはクラマの身体へまとわりつき、瞬く間に重厚で禍々しい『黒の鎧』へと姿を変えていく。

「……ふふっ」

クラマは鋭い爪を交差させた。

「さあ――千年前の続きを始めようぞっ!!」

地を爆ぜさせ、黒き鎧を纏いし九尾の王が野槌へと肉薄した。


一方――。

九十九と葉月は、激闘の音を背に受けながら、石段の頂上へとたどり着いていた。

そこには、重厚な朱塗りの大門が聳え立っている。

「ここか……!」

九十九は門を押し開き、中へと躍り出た。

その先に広がっていたのは、驚くほど広大な石畳の広場。

そしてその奥には、山肌にへばりつくように建つ、禍々しい雰囲気を纏った巨大な大屋敷が聳え立ち、二人を見下ろしていた。

「……九十九、あれっ!!」

葉月が悲痛な声を上げる。

広場の中央。

そこに、血に染まり満身創痍となった二人の妖魔が、巨大な十字架に磔にされていた。

「あれが鎌鼬の兄弟かっ!!」

九十九は即座に駆け出した。

「待って、九十九っ!!」

葉月も後を追う。

だが――。

ドォォォンッ!!

突然、二人の目と鼻の先に凄まじい風圧とともに砂煙が巻き上がった。

「何者だ!! いかなる陰陽師の雑種が、大天狗様の御前に足を踏み入れたかっ!!」

大屋敷の重厚な縁側から、地の底から響くような怒号が轟いた。

九十九が顔を上げる。

屋敷の正面、重々しい座敷の中央に、数十体もの高位の天狗たちを従えた、異様な巨躯の天狗が座していた。

全身から放たれる凄まじい威圧感――それだけで周辺の空気が重く澱む。

「お前が……アラタかっ!?」

九十九は黒刀を鋭く構え直した。

「鎌鼬の兄弟を、今すぐ下ろせっ!!」

「ふふふふ……ハハハハハッ!!」

大天狗アラタは、心底可笑しそうに体を揺らして笑った。

「まさか、立ち入ることも許されぬ人間の羽虫が、ここまで死にに来るとはな」

アラタはゆっくりと、威厳に満ちた片手を上げた。

「良いだろう」

口元が残酷に歪む。

「明日の処刑を前に、余興が一つ増えたわ」

アラタの冷酷な視線が九十九へ注がれた。

「――窮奇(きゅうき)」

「ハッ」

バザァッ!!

直後、九十九の目と鼻の先で砂煙が大きく弾けた。

そこから姿を現したのは――尋常ではない巨躯を誇る、一匹の狂暴な鎌鼬の妖魔であった。

全身を覆う筋肉の鎧、研ぎ澄まされた巨大な鎌の爪。

そして、命を屠ることに悦びを覚える獰猛な三日月状の瞳。

窮奇は九十九を見下ろし、ニヤリと牙を剥いた。

「その男は好きにするが良い。細切れにせよ」

アラタは続けて、後ろに立つ葉月へと冷徹な視線を滑らせた。

「だが――その女は生かして捕らえよ」

「……えっ!? 私を……!?」

葉月の表情が恐怖に強張る。

「あの憎き吸血鬼カミーラを匿ってる女……八神千鶴の居場所を、その口から吐かせねばならんのでな」

アラタが邪悪に笑う。

「さあ――狂宴を始めよ」

窮奇が重々しい音を立てて、両腕の巨大な鎌爪を構えた。

九十九もまた、柄を握る手に全霊の霊力を込める。

刹那――広場全体を、逃れようのない絶対の殺気が支配したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。