第89話 風の銃弾
オニキス 裏門前 深夜(ナツ視点)
ドォンッ! ドォンッ!
夜の静寂を切り裂く轟音が響き渡る。
裏門では、プテラノドンの群れが防御結界に向かって次々と攻撃を仕掛けていた。
「やっぱり、もう囲われてるな……」
俺は空を見上げながら呟いた。
正面だけじゃない。
プテラはオニキスを包囲するように各方向から押し寄せている。
「ナツ……私たち、勝てるかな?」
隣にいるカナが、不安そうに俺を見つめていた。
無理もない。
目の前にいるのは、
巨大な翼を持つ恐竜の群れだ。
しかも、結界への攻撃を見る限り、
一体一体が相当な力を持っている。
俺はカナを安心させたい。
「大丈夫さ……カナ、俺が付いてるから」
「練習のつもりでやってみな?」
俺はそう言って、カナの手を握った。
指を絡めるように、恋人繋ぎをする。
カナは一瞬驚いたように目を丸くしたあと、
ゆっくりと頷いた。
「うん……やってみる」
その表情から、少しだけ不安が消えた。
カナは前を向き、右手に意識を集中させる。
「武器具現化……」
魔力が集まり、
カナの手の中に黒いハンドガンが顕現した。
HK45。
橋本さんがかつて使っていた銃らしい。
カナは銃を構え、
結界の外側にいるプテラノドンへと銃口を向けた。
パンッ! パンパンッ!
乾いた銃声が夜空に響く。
放たれた弾丸は、
狙い違わずプテラの身体へと向かった。
しかし。
キィンッ! キンッ!
弾丸は硬い鱗に弾かれ、
空しく夜空へ散っていった。
「普通の弾丸だと、やっぱり通らないね……」
俺は敵の様子を観察しながら呟いた。
カナは銃を下ろさず、小さく頷く。
「うん……。次は魔力を乗せてみる」
カナの身体から魔力が溢れ出す。
その魔力が銃へと流れ込み、
銃身を淡く輝かせた。
カナは呼吸を整え、再び引き金を引く。
パンッ!
魔力を纏った弾丸が夜空を駆け抜け、
プテラの胴体へと着弾した。
ギャアアアッ!
敵が苦痛の声を上げる。
確かな手応えはあった。
だが、プテラノドンは一瞬怯んだだけで、
すぐに翼を広げて攻撃を再開した。
身体には裂傷が刻まれているものの、
致命傷には程遠い。
「……まだ足りない」
カナは呟き、銃を握り直した。
そして、大きく深呼吸をする。
焦る必要はない。
俺は口を挟まず、カナを見守った。
カナは銃を構え、
今度は魔力を一点に集中させていく。
銃身を包む光が徐々に強くなり、
周囲の空気が震え始めた。
「これで……!」
カナが引き金を引いた。
ドォンッ!!
銃口から放たれたのは、
先ほどまでの弾丸とは比べものにならないほど巨大な魔力弾だった。
光を帯びた弾丸が夜空を一直線に駆け抜ける。
ズドォォンッ!!
プテラノドンの頭部に直撃した。
敵の頭部が吹き飛び、
巨大な身体が力を失って地上へと墜落していった。
俺は思わず声が出た。
「やった!」
「頑張ったな、カナ!」
カナは銃を構えたまま、
荒い呼吸を繰り返していた。
「はぁ……はぁ……」
「でも、今の私だと……あと一発しか撃てない……」
「十分だよ」
「初めての実戦で、あれだけの威力を出せたんだから」
俺はカナの頭を優しく撫でた。
カナは少し照れたように笑う。
「……ありがとう、ナツ」
「残りは俺に任せて」
俺は空を見上げた。
「春嵐」
《じゃあ、行こうか》
相棒の声が頭の中に響く。
その直後、別の声が俺たちの意識に届いた。
『私も力を貸しましょう』
『受け取りなさい』
シルフィの声だった。
身体の内側へ、清らかな魔力が流れ込んでくる。
風が頬を撫で、周囲の空気が渦を巻き始めた。
竜化(弱)。
背中に竜翼が顕現する。
武器具現化。
片手剣と盾を顕現させた。
片手剣の刀身に、
シルフィから受け取った魔力を纏わせる。
風が刃に沿って流れ、淡い光を帯びた。
「カナ、行ってくる」
「うん」
「気をつけてね」
俺はカナに顔を近づけ、優しくキスをした。
「……すぐ戻る」
そう告げて、俺は竜翼を広げた。
バサッ!!
一気に上昇し、プテラノドンへと突っ込む。
敵がこちらに気づき、
巨大なくちばしを突き出してきた。
俺は盾で攻撃を受け流し、
その勢いを利用して懐へと潜り込む。
「ここだ!!」
片手剣を振り抜いた。
ズバァッ!!
風を纏った刃が、
プテラノドンの首を一刀両断する。
巨体が傾き、そのまま地上へと墜落していった。
「よし……! 切れ味が上がってる!」
《その調子》
《でも、もっと力を抜いていいよ》
春嵐が楽しそうに言った。
「はいはい」
「わかってるって」
俺は苦笑しながら、次のプテラへと視線を向ける。
シルフィの魔力が、風となって身体を包んでいた。
これならまだまだ戦える。
俺は竜翼を大きく羽ばたかせ、
次のプテラへと突っ込んだ。




