第38話 遅すぎた到着
西京都上空(ユウ視点)
俺は特急で薄野に向かっていた。
闇竜翼が唸る。
バサァァァ!!
片手には携帯を持ち、
反対の手でナツの腕を掴んでいる。
風圧が顔を叩く。
ナツが叫ぶ。
「おいユウ!!」
「なんだよ急に!!」
ナツは竜化(弱)を使うが、
俺は引っ張り続ける。
俺は前を見たまま言った。
「……カナとレイナが危ないんだよ…」
一瞬。
ナツの呼吸が止まった。
「……は?」
風の音だけが響く。
ナツの声が震えた。
「おい……」
「嘘だろ」
「カナが……?」
俺は答えない。
代わりに携帯を耳へ当てた。
「鷹宮」
数秒。
沈黙。
やがて。
〔……悠さん〕
声は弱かった。
呼吸が荒い。
「状況を言え」
〔……米澤組が……〕
咳き込む。
〔襲撃……されました……〕
「それはもう聞いた!」
「誰にだ!!」
〔……日輪政府です……〕
その言葉に。
俺は動揺しながらも思考を巡らす。
「政府だと?」
〔はい……〕
鷹宮の声は震えていた。
〔覚醒者を使った……強襲です……〕
「覚醒者って誰だ!!」
短い沈黙。
そして。
〔……石田毅〕
その名前と同時に。
遠くで雷鳴が鳴った。
ゴロォォ……
俺は歯を食いしばる。
「今どうなってる」
〔橋本さんと麗奈さんが……戦っています……〕
息が荒い。
〔……佳奈さんを……守って……〕
手に力が入る。
「くそ……!」
俺は続けて聞く。
「鷹宮」
「お前はどこにいる」
少し。
間が空いた。
それから。
静かな声。
〔……私は〕
〔瓦礫の……下です……〕
俺は冷や汗が止まらなかった。
〔……助かりません……〕
その言葉を、
鷹宮はあまりにも静かに言った。
風の音だけが続く。
やがて。
鷹宮が言った。
〔……悠さん〕
〔日輪は……もう……〕
咳き込む。
〔神崎さんも……藤堂さんも……〕
〔消されました……〕
俺の眉が動く。
「何?」
〔政府は……完全に……〕
言葉が途切れる。
呼吸が苦しそうだ。
そして。
鷹宮は続けた。
〔私は……これから〕
〔悠さん達が……何をするのか……〕
〔分かりません……〕
沈黙。
風が唸る。
〔でも……〕
〔今言えるのは……〕
〔信用できるのは……〕
〔悠さんの……親友の方達だけです……〕
鷹宮の声が、
さらに弱くなる。
〔悠さんが……〕
〔後悔の無いように……〕
〔生きていけることを……〕
〔私は……願って……〕
その瞬間。
バリバリバリ!!
通信が乱れた。
「鷹宮!」
ドォン!!
遠くで爆発音。
ノイズが走る。
〔――――〕
「おい!!」
〔……〕
そして。
ツー……
ツー……
通話が切れた。
俺は携帯を握り潰しそうになる。
ナツが叫んだ。
「ユウ!!」
俺は答えない。
ただ。
翼をさらに広げた。
バサァァァァ!!
速度が上がる。
雲を突き破る。
やがて。
北の大地が見えた。
北幌の街が遠くに見えた。
その時。
ドォォォォォォォン!!
巨大な雷が落ちた。
北幌の中心に。
ナツが叫ぶ。
「……今の!」
俺は前を睨む。
「薄野だ」
さらに加速する。
空気が裂ける。
数秒後。
俺たちは薄野の上空へ飛び込んだ。
街は静まり返っていた。
焦げた匂い。
瓦礫。
雷の焼け跡。
ナツが息を呑む。
「……なんだよ…これ…」
その時。
ナツの動きが止まった。
「……おい」
俺も気付く。
事務所があった場所。
そこに一人の男が倒れていた。
身体は、
黒く焼け焦げている。
多分、橋本さんだった。
背中の昇り竜に見覚えがあったから…。
動かない。
完全に。
ナツの声が震える。
「……嘘だろ」
そのすぐ近く。
二人の女が倒れている。
レイナ。
血を流し、
倒れている。
頭の奥が焼けるように熱い。
そして。
カナ。
ナツの呼吸が止まった。
ナツはカナの直ぐ側に着地し、
急いで駆け寄った。
「……カナ?」
返事はない。
ナツがカナを抱きかかえた。
手が震えている。
その時だった。
バチ……
雷が弾けた。
瓦礫の向こう。
一人の男が立っていた。
制御しきれずに、
雷が身体から漏れている。
腕は鷹の翼に変異し、
足は鉤爪になっていた。
石田毅。
その目が、
ゆっくりとこちらを向いた。
俺は殺意を抑えられない。
視界が、赤く染まる。
「………殺す」
「お前だけは…、絶対に…」
「…俺が殺す!!!」
薄野の空に、
俺の声が鳴り響いた。




