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8月8日(土):数え玉そろえの日

 とある世界では今日は『玉を指で動かし、数を目に見える形へそろえる道具に親しむ』日。アルメリアでは『数え玉そろえの日』として、数え始める前に試しの玉を払い、一つの玉が何を表すのかを決めてから記録する日。


 朝食のあと、フィオナは居間の学び机へ季節観察札を広げた。


 裏面には、昨日書き足した一文が残っている。


『同じ条件で、風向きが変わった回数を数える。置き方を確かめる試しは、回数に含めない』


 結び目一つの細紐は東窓。二つは台所戸口。三つは床格子。三本とも平たい紙へ巻かれ、湿りも絡みもない。


 アストルは工房の記録棚から、木枠の算盤を持ってきた。仕入れ帳へ部品の個数と代金を写すときに使う、店の普通の数え道具だ。玉は中央の梁から離れ、零の位置にそろっている。


「使う前に、動きを一度見ておけ」


 フィオナは一の桁の玉を一つ梁へ寄せ、引っかかりなく戻ることを確かめた。すぐに零へ払い、季節観察札の端へ『試し一回・総数外』と書く。


 レオンが算盤を横から見た。


「試した玉が残ってない。これなら本番の一回目と混ざらないね」


「ためし、ばいばい。ここから、いち」


 クリスも梁から離れた玉を指した。


 ルミナは玄関小棚の『家の段取り』から家息札控えを出した。東窓は指二本分。西小窓は半分。台所戸布は下を少しだけ空け、床格子の前には物を置かない。昨日と同じ条件にそろえるための札で、今日の風向きを決める答えではない。


 アストルが窓の留め具を確かめる。ルミナは戸布の隙間を昨日と同じ幅へ戻した。レオンは床格子の前に籠や工具がないことだけを見て、風道から離れる。


 フィオナは床格子、台所戸口、東窓の順で三本の細紐を置いた。家族は居間の壁側へ下がり、十息待つ。


 最初の向きは昨日の終わりと同じだった。東窓から入った風が台所戸口を抜け、床格子へ下りている。


 次の十息で、東窓の紐が外側へ返った。台所戸口の紐も続き、床格子の紐は一度持ち上がってから横へ向いた。三本が、ほとんど同じ間に変わった。


 フィオナは一の桁へ玉を三つ寄せた。


「東窓で一回、台所戸口で一回、床格子で一回」


 クリスは三本の紐と三つの玉を見比べた。


「かぜ、ひとつ。たま、みっつ?」


 フィオナの指が止まった。


「三か所で変わったから、三回でしょう」


「でも札には、紐が動いた数とは書いてないよ」レオンが言った。「家の風道が一度向きを変えて、三か所がそれを見せたなら、一回とも読める」


 ルミナは季節観察札を机から持ち上げず、三つの欄を指した。


「見た場所と、数えたい出来事が同じとは限らないわね」


 そこへ、玄関脇の灯り文箱で受け取り刻印が淡く点いた。セラフィナからの短文札だった。


『私は一回。三本が同じころに変わったから、家の風が一度変わったと書いた。フィオナは?』


 同じ朝、同じ課題、よく似た変化。それでも、フィオナの算盤には三つ、セラフィナの札には一つと残っている。


 グレゴールは算盤へ手を触れずに言った。


「数の違いを、先に間違いと決めるな。一珠が何の一回かを決めず、それぞれ別のものを数えたのだ」


 フィオナは三つの玉を零へ戻した。観察札へ二つの読み方を並べる。


『場所ごとの反応を数えるなら三回』 『家全体の風道の変化を数えるなら一回』


 最初の試しは、そのどちらにも入れない。


「セラフィナの一回を三回へ直す前に、課題の一回を確かめます」


 フィオナは二つの読み方を短文札へ写し、王立魔法学院分校の課題担当へ送った。返事を待つあいだ、算盤は零のままにする。三本の細紐に変化があれば、場所と続いた息数だけを紙へ書き、まだ玉は動かさない。


 床格子の紐だけが一息ほど浮き、元へ戻った。


「これは、一回?」


 クリスが聞く。


「起きたことは書く。でも、何の一回か決まるまで玉にはしない」


 フィオナは『床格子のみ・一息・元へ戻る』と記した。


 ほどなく課題担当から返事が届いた。


『主欄では、家全体の風道が一度変わったまとまりを一回とする。どの場所が反応したかは三つの場所欄へ記す。一か所だけの短い揺れは余白へ分け、主欄へ加えない。試し読みは総数外』


 セラフィナへ同じ内容を送ると、すぐに返事が来た。


『分かった。私も、玉一つは家全体の変化一回にする。場所は丸で残す』


 二人の数をどちらかへ押しつけたのではない。一珠の意味をそろえた。


 フィオナは細い札へ『家全体の風道変化』と書き、算盤の一の桁の上へ置いた。最初の変化は一珠。季節観察札の東窓、台所戸口、床格子の欄には、それぞれ丸を一つ付ける。


 観察を続けると、風道はもう一度だけ変わった。東窓の紐が内側へ戻り、台所戸口も続き、床格子の紐が下へ落ち着く。十息のあいだ同じ向きが続いたことを確かめ、二つ目の玉を寄せた。


 先ほどの床格子だけの短い揺れは、消さずに余白へ残す。主欄の玉には加えない。


「おおきい、かぜのへんか、ふたつ」


 クリスが二本の指を立てた。


「三か所を二回ずつ数えたわけじゃない」とレオンが続ける。「家全体は二回。どこが動いたかは札の丸。数を減らしたんじゃなくて、玉の役目を決めたんだね」


 フィオナはセラフィナへ結果を送った。返ってきた短文札にも、『家全体二回・床側の短い揺れ一回』とある。同じ言葉で記録を比べられるようになった。


 観察後、三本の細紐は結び目を残して平たい紙へ巻いた。季節観察札には、窓と戸布の幅、待った十息、家全体の変化二回、場所ごとの丸、床格子の短い揺れ、試し一回は総数外と記す。


 算盤の二つの玉を梁から離し、すべてを零へ戻す。『家全体の風道変化』の仮札も外した。木枠と玉に異常がないことをアストルと確かめ、仕入れ帳の横へ戻した。


 フィオナは『数え玉そろえ札控え』へ書いた。


『試しは総数へ入れない。一珠が何の一回かを先に書く。総回数と場所ごとの印を混ぜない。数が違ったら、見た事実を消さず、単位を確かめる』


 控え札は玄関小棚の『家の段取り』へ加えた。


 それからフィオナは居間棚の下段から前半箱を出した。六月までの写し札を、参照できる形で休ませている箱だ。蓋を開けると、白柱戻し札、映り札、住み角札の間に、静名札控えの写しがある。


 明日の朝に使う手順を確かめるため、静名札控えだけを取り出した。前半箱は残りの札の角をそろえて閉じ、居間棚の下段へ戻す。静名札控えは、季節観察札や算盤の数とは重ねず、学び机の左端へ一枚で置いた。


 今日そろえたのは、一珠に込める一回の意味だった。けれど、明日静かに思う名は、数をそろえるようには扱わない。


 スノーが梁の上から、零へ戻った算盤と白い札を見下ろした。「玉は役目を決めてから弾け。数え終えたら零へ戻せ――だが明日、胸へ置く名まで勘定の列へ並べるな」


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