7月4日(土):芯皮分けの日
とある世界では今日は『みずみずしい甘い実を分け、丸い実りに感謝する』日。アルメリアでは『芯皮分けの日』として、甘い実を割る前に、食べる実と芯と皮、刃を休ませる場所を分けてから食卓へ出す日。
土曜の夜、フレイメル家の台所には、町の果実市から借りてきた冷やし籠が置かれていた。
昼の灯路広場では、早い夏の果実を並べる小さな市があった。雨が降ったり止んだりしたせいで、籠の底布は少し湿り、返す札の角も丸まっている。外の灯路はもう淡く光り、台所の床には7月1日に置いた足元の紐が細く伸びていた。
籠の中には、丸い水甘実が6つ入っている。皮の薄い、甘い実だ。井戸水で冷やされていたので、表面に細かな水滴がついていた。
クリスが椅子に手を掛け、目を輝かせる。「まるい。あまい?」
「甘いと思う。でも、まだ持たない」
「まだ?」
「まだ。昨日、スノーが言ったでしょ。甘い実を割る前に、芯と皮の置き場所を見るって」
アストルが包丁を取りに行こうとして、足を止めた。「父さん、今のは言われる前に止まったぞ」
フィオナが冷やし籠の札を持ち上げた。「札が湿って読みにくい。『実皿』と『皮皿』がくっついてる」
ルミナが浅い皿を三枚出した。「似た皿に、似た札を置いたら混ざるわね」
レオンは頷いた。「割る前に全部分けよう。食べる実、芯、皮。それから刃を置く場所」
「刃も?」クリスが少し小さな声で聞いた。
「刃も。使っていないときの場所がないと、手が迷う」
レオンは小さな紙を5枚切った。
『実』 『芯』 『皮』 『刃置き』 『待つ手』
クリスが自分の手を見る。「わたし、まつて?」
「うん。水甘実は丸いから、転がる。手で追いかけると危ない」
「おいかけない」
まず、実皿を食卓側へ置いた。食べるものなので白皿にする。芯皿は小さな深皿。皮皿は台所側の広い皿。刃置きには乾いた布を二つ折りにして敷き、台所小机の奥へ置く。クリスの手が届かない高さだ。
フィオナは濡れた札を乾いた布で押さえた。「湿った札を皿に立てると倒れるから、今日は横に置いた方がいい」
「横でも、皿の前なら読める。立てることより、混ざらないことが大事」
ルミナは水甘実を一つ取り、底を布で拭いた。丸い実は、乾いた布の上でも少し動きたがる。
「支えがいるわね」
レオンは昨日の冷渦札を思い出し、台所引き出しから布輪の型を出した。昨日使った布はもう乾かしてしまってあるので、今日は新しい布を巻く。
「冷たい渦と同じ。支えは使うけど、布は替える。匂いと水気が移るから」
アストルが感心したように覗く。「冷たい渦の支えが、今日は丸い実の支えか」
グレゴールが地下室の扉から顔を出した。「丸いものの敵は、速度ではない。止まり場の不足だ」
「おじいちゃん、今日は短い」
「転がすな」
「もっと短い」
クリスが真似をした。「ころがすな」
家族が小さく笑った。
最初の水甘実は、ルミナが切ることになった。レオンは横から手を出さない。フィオナは実皿を受ける。アストルは皮皿を押さえる。クリスは待つ手の札の前で、両手を膝に置いた。
ルミナが実を布輪に置き、上からそっと押さえる。皮は薄いが、水気で少し滑る。刃は急がず、まず上を少しだけ落とし、置ける面を作った。
「先に平らな面を作るんだ」
「丸いまま切ろうとすると、刃も実も動くからね」ルミナが答えた。
上と下に小さな平らな面ができると、実は落ち着いた。皮は細くむき、皮皿へ。芯の近い固いところは芯皿へ。白い実だけを、実皿へ置く。
「きれい」クリスが言った。
「まだ食べない。人数分できてから」
「まつ。あまいの、まつ」
二つ目の実には、小さな打ち跡があった。水滴に隠れて、籠の中では分からなかったらしい。
アストルが眉を寄せた。「これは外すか?」
「全部じゃない。傷んだところだけ分ける。食べられるところまで捨てたら、実がかわいそう」
フィオナがもう一つ小さな皿を出した。レオンは『傷み』と書き、芯皿の横へ置いた。
「芯と傷みは同じじゃない。芯はもともとの真ん中。傷みはあとからできたところ」
「分ける理由が違うのね」フィオナが言った。
クリスが皿を見比べる。「まんなか。あとから」
「そう。真ん中と、あとから」
傷んだところを小さく外すと、残りの実は十分きれいだった。ルミナが薄く切り、クリスの皿には小さめの一切れを置く。冷たい実は、灯りを受けて淡く光った。
三つ目からは、家族の手順が落ち着いた。ルミナが切る。フィオナが実皿を見る。アストルが皮皿を空けすぎないよう整える。レオンが札の向きを直す。クリスは一切れずつ数える。
「お母さん。お父さん。お姉ちゃん。お兄ちゃん。わたし。おじいちゃん」
地下室の扉のそばで、グレゴールが軽く咳払いした。「呼ばれたなら、出席しよう」
「おじいちゃん、みずあまみ、いる?」
「いる」
アストルが笑いをこらえた。「父さん、返事が早いな」
「甘い実は待たせすぎるとぬるくなる」
皿がそろうと、包丁は刃置きへ戻した。皮皿は台所側。芯皿は奥。傷み皿は小さくまとめる。実皿だけを食卓へ運ぶ。湯の道、箸の道、冷渦の支え。ここ数日の札が、台所のあちこちで役に立っている。
クリスは自分の一切れを持ち、そっとかじった。
「しゃり。あまい」
その声で、台所が少し明るくなった。
レオンも一切れ食べた。冷たくて、甘くて、少しだけざらりとした歯ざわりがある。丸い実の中には、皮も芯も傷みもあった。でも、分けたから、食べるところはちゃんと食卓へ来た。
「全部を一緒に置いていたら、どれも落ち着かなかったね」フィオナが言った。
「うん。食べるところだけを大事にするんじゃなくて、食べないところの場所も大事だった」
ルミナは皮皿を見て頷いた。「皮はあとで庭の土へ戻しましょう。芯は種を見てから」
「種も?」クリスが聞いた。
「今日は見るだけ。植えるかどうかは、また別の札」
「べつのふだ」
「うん。今日は分ける日」
食後、レオンは芯皮札を書いた。
『丸い実は、支え輪で止める』 『実、芯、皮、傷みを同じ皿に置かない』 『刃は使わないとき、奥の布へ戻す』 『食べないところにも置き場所を作る』
フィオナはその札を読んで、玄関小棚の右端を少し空けた。「また札が増えるね」
「でも、半箱札があるから大丈夫。入れる前に空きを見る」
麦穂印の紙片は、乾き皿から水宛名札用箱へ戻した。支え輪の新しい布は外して乾き棚へ。布輪の型は台所引き出しへ戻す。芯皮札の控えは、長麺札と冷渦札の隣へ置いた。
夜の灯路は、雨上がりの石畳を細く照らしている。甘い実を食べ終えたあとも、台所にはみずみずしい匂いが少し残っていた。明日は、光る器を出す日になる。丸い実とは違う、透明で割れやすいものの置き場所を、きっとまた考えることになる。
梁の上で、スノーが芯皮札を見下ろした。「甘い実は丸い顔で油断させる。芯と皮と刃の休み場を分けてから、やっと家族の皿に乗る。……明日は光る器を急いで回す前に、切り口と影の向きを見ろ」




