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いざゆけ!乙女通信

長らく毎日投稿して参りました おとつー も、最終回を迎えました。何だか、まだまだ続けたい気持ちになってしまいます。




誤字報告ありがとうございました!

そして、感想を下さった方々、ありがとうございます!読む度に、次の活力が湧きます。

皆さんの読書傾向も知りたいので、是非感想をお願いします。


花嫁の衣装は、縫い込まれた純白の絹の薔薇が咲き誇る白のシルクタフタのドレスだ。ベールには、エラントを代表する花々が編み込まれたレースで、床に波打っている。


「うわあ!……凄い……」

「綺麗なんて安っぽくなるくらい綺麗よ、シャロン」


シャロンは小さな顔を綻ばせた。

「キャリー、ビアンカ

お忙しいのにありがとう」

「「何言ってるの!おめでとう!」」


今日は、ようやくシャロンとアンリの結婚式である。


この二人が結局おとつー関係者最後の挙式となった。

ヴィルム殿下は、王太子式と同時にサマルカンドの姫と婚姻を結んだ。

どれだけ仲がいいのか、毎年王子王女がご誕生している。

本日のシャロンのベールは、その王太子妃からの贈り物だそうだ。何しろ夫ヴィルムの〈最愛のシャロン〉は、自分にとって、姉のようなもの、と成すあたり、賢妃と言えよう。


おとつーでは、ザビーネが3年待って結婚。とは言うものの、3年間折々に王都にくる元伯爵とは、飲み歩いてよろしくやっていたらしいけど。

領地では、亡くなったエイダ夫人を慕う者が多いが、まったくタイプが違う破天荒で身分関係なく、荒仕事も水仕事も喜んで飛び入りする後妻が受け入れられるのに、時間はかからなかった。

そうかと思うと、来客や社交では、フイッセル仕込みの貴婦人っぷりを発揮する。

この不思議な美人の変人は、夫も領民も魅了した。適応力バツグンである。


「ねえ、ザビーネは?」

ビアンカがシャロンにストロー付きの炭酸水を渡す。化粧が落ちると困るから。

「父が私を見て号泣しちゃって。別室で宥めています」

「あー。想定内。バージンロード歩けるのかしら」

一同苦笑い。


開いたドアのノック音が響く。

「キャリー。君、カメラを忘れているよ」

「あ、エルンスト、ありがとう」

「まあ、リシュリュー様、お久しぶり」

キャロラインの夫は、シャロンに

「やあ、これは見事な花嫁だ。

王太子が見たら、確実に泣くね」

と、端正な顔を崩した。


「うふふ。東の城でベールと合わせた所にいらして、既に涙は戴きました」

「しょうがないね。あれの初恋だもの。僕達エラントの男の執着は相当だからね」


そういうエルンストも、互いの留学と進路をものともせず、キャロライン一筋を貫いて、学業の次にキャロライン、というマメさを発揮し、キャロラインのいるアズーナに通った。

そして帰国し、法務庁に勤め始めるなりキャロラインと結婚。

今もキャロラインは侯爵夫人と勤務医を両立させて働いている。

キャロラインやシャロンのような生き方が、この頃ようやく認められつつある。


「ビアンカは、もういいの?」

「ええ。息子も乳母に懐いているし、体も随分戻ったわ。今日に間に合ってほっとしているの」


ビアンカは中等部を卒業し、商才を発揮した。商会の役員である夫が諸国の買い付けで浮気しないよう、小悪魔ロリのスキルを駆使して夫をつなぎ止めている。ザビーネ様々である。その甘々夫婦に長らく子宝に恵まれなかったのは、若旦那が溺愛しすぎなのでは、と従業員に噂されたが、ようやく長男を授かった。


リシュリュー侯爵を含め、ワイワイと歓談していると、再びのノック音に皆が振り向いた。


「………」


ブラウンの髪と瞳の、白いタキシードの若者が、ぼう然と立ちすくんでいる。


(あらあら)(おやおや)

(まあ想定内)


「……シャ、シャ、シャ」

「アンリ」


輝く花嫁は、社交界で〈北の貴婦人〉と称される宝石眼を輝かせて愛しい花婿に笑顔を綻ばせた。


「さて!会場に参りましょ、皆さん」

「エルンスト。殿下にご挨拶して参りましょう」


はいはい、後はおふたりで〜と、三人はとっとと退出した。


残った花嫁は、後でね、と手を振り、花婿は真っ赤に染まっていた。


この花婿は、シャロンと共に切磋琢磨の学園生活をおくり、王太子教育を施されるヴィルムの補佐を両立させ、卒業後は順当に王宮の管理官から王太子付執務室長に登っている。

コール騒ぎの『お姫様抱っこ』を根に持ち続けたのか、鍛錬を積み重ね、筋肉質な頭脳派と称されている。


「シャ、シャロン。凄く、その、いつもだけど、あの……綺麗だ」

「ありがとう。アンリはいつも、私を褒めて下さるわ」


シャロンは逢瀬を重ねてそれなりに大人の付き合いをしている婚約者の手をとった。白い手袋と白いレースの手袋が重なる。


「思えば、瓶底メガネでガリ勉の私に、敬意をもって向き合ってくれたのは、アンリが初めてだった。

図書館での誓いの通り、二人の道にバイパスを繋げるのは時間がかかったけれど、その間10数年、貴方は揺らがない信頼と愛情を下さったわ。

これからも、互いを尊敬し合える二人でいたい。ねえ、そうでしょう?」


……こんな言葉を花びらのような唇から発する花嫁をどう否定しろと言うのか。


「シャロン。君の名前を図書館で知った時から、私の運命は決まっていた。泉のように湧き出す新しい君を受け入れるばかりの私だが、夫婦として君を守り君に沢山の愛を返していくよ。

これから宜しく。私のシャロン」


「……ああ。……もう、沢山の愛を頂いているのに、泣いちゃうわ」

「おい、まだ式はあげとらん。花婿、部屋へ帰れ」


戸口に花嫁の父が仁王立ちしている。復活したらしい。


「あらあ、アンリ、式の前に花嫁に会うのは御法度なのよ?はい、出る出る〜」

ザビーネ夫人がアンリを追い立てる。

(父娘、最後の逢瀬くらい我慢しなさい)

(あ……)


パタンと扉を閉めて、ザビーネは廊下に立った。室内に二人を残して。


「……えーと。……さっきは、すまん……心の、な」

「お父様」

ポリポリ頭をかく父親の前で、花嫁が淑女の礼をとる。


「娘」

「お父様。マルグリットの大地で私は育ちました。そして、お父様に北の住み方を教わりました。

王都に出ても、お父様の愛情は変わらず、いつも私を私そのものを溺愛して下さいました。

その愛情がどれほどのものであったか、伯爵として執務し始めて、ようやく身にしみましてございます。

お父様はエイダお母様を尊重し、今の家庭を築いていらっしゃる。そんな男性に私は未だ出会ったことがございません。

お父様は、父としても夫としても、いいえ男性としても、

私の理想でございます。

どうぞお身体を大切にお過ごし下さいますよう」


「……」


ぐ、ぐす、と鼻を鳴らす音がしたので、ザビーネは慌ててドアを開いて、

「はい、お二人さん!

時間時間!

貴方、鼻かんで。シャロン、動かないで、ちょっとアイメイク直すわ。

はい、できた。さあ、式場へレッツGO!」

と、二人を追い立てた。


(ザビーネ。ありがとう。貴女が義母で幸せ♡)

(こら、こんな所で人たらし発揮しないの!泣かないでイーライと歩いて頂戴ね!)

そういう夫人も涙目である。


カクカクと緊張気味に歩く夫と腕を組む義娘の後ろ姿が潤む。

そんなザビーネの肩をそっと抱くのはキャロラインとビアンカ。


「……思えば、乙女通信に抗議にきたシャロンを泣かせたのが始まりだったのよね……」

「ザビーネは初めっからシャロンを可愛がって。あの素直で公正で、どんどんと成長するあの子と過ごすのは楽しかったわ」

「みんなして婚約破棄経験者になっちゃって!」

「まっ、私はしてません。

……でも、あの子と出会ったことが、今に繋がるのよね。恋をして、生き方を見つけて……」


三人は、運命の不思議さ、今の幸福を噛み締めて、思わず手を取り合った。


「さあ!時間よ!

乙女通信、結婚式と披露宴の取材開始!」

美人の変人、ザビーネ・マルグリット夫人。


「学園のおとつー後継者に話は通してあるわ。今日の結婚式の記事は高等部にも撒くからね」

精神科医にして侯爵夫人、キャロライン・リシュリュー。


「侯爵と女伯爵の結婚なんて、前代未聞ですからね!

参りましょ。復活のおとつー!」

エラント有数の商会の若女将。ビアンカ・アズーロ。



いざ行かん。


それゆけ乙女通信!







Fin Thank you for reading!



如何だったでしょう。本格的に青春して見たのですが。魔法もモフモフもチートも、ファンタジーですらないのですが、お読み下さった事に深く感謝します。

出来ましたら、評価をお願いします。

ご意見も受けております。お願いします。



次の作品でお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気読み出来たので、少なくとも私的には読みやすくて面白い作品でした。 で、おとつー号外はどこ行けば見られますか結婚式写真みたーい(*´∇`*)
[一言] とっても楽しく、一気に読ませてもらいました!素敵な物語を、ありがとうございました!
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