断罪の夜会3 暴かれた二人
お盆なので。
短いです
白い壁をスクリーンに、映し出されたアンリに、顔を寄せるシャロン。キョトンとしたシャロンの表情と、覗き込まれて目を見開くアンリ。
(いやっ!)
シャロンが羞恥の余り、顔を覆って涙ぐむ。
(さかさにしても、親密だわね)
(本人達が全く気がついてないんだけど、そうだわね)
ザビーネとビアンカがささやき合う。
「それから、これ」
カシャ、と画面が切り替わり、
「……まあ」
と、わざとミリアが声を上げる。
次の写真は、
アンリの胸に顔を伏せて、抱かれるシャロンが大写しになった。
(あの時の!)
「……違うの!違います!」
「何が違うんだ?他の男にしがみついて、ほおら、お前の手は男の胸板にへばり付いて居るじゃないか」
「あ、あなたが!」
「私が、何?」
「あなたが、私を」
「だから、私がお前に何をしたの?言ってごらん、満座の中で、さあ」
シャロンは絶句する。
打たれた。
でも、この社会で男が結婚する女を打ったからと、他の男にすがってよい理由にはならない。婚姻を結ぶ女は男に貞淑を求められるから。
襲われた。
それこそ、言えない。
シャロンが悪い訳では無いのに、恥ずかしくて言えない。婚約者の〈行為〉を受け入れられない不出来な女。しかも、それを理由にアンリにすがるなど。
騒ぎの相方のアンリはオージエに羽交い締めにされていた。周りは写真の少年だとざわめいている。
「は、離して下さいっ!けっ、けっ」
「決闘でも?大丈夫。今君が騒ぎ立てると筋書きが狂うからね」
そう優しい声と裏腹に、オージエの拳がアンリのみぞおちに当てられた。
不意打ちに崩れ落ちるアンリをサッと護衛が隠す。
(さあ、思う存分、どうぞ)
オージエは王族の列へ、目線をやって、微笑んだ。
形勢は、断然シャロンに不利である。
どう足掻いても、不実なのはシャロンだと、あの写真が証明してしまった。周りの警護もヴィルムも切り取り、無かった事にしてしまった写真。
「それに、お前、まだ不足があったらしいなあ!」
「何?」
カシャ
「……何これ」「頭巾に、白衣……眼鏡は……御令嬢の、よねえ」
三枚目は
白衣、頭巾、眼鏡、と、髪と顔を隠した若い女。
そして、女の手をとる男の肩から下が写っている。
「上質な上着ですわね」
「場所は王宮の……廻廊だ」
「あの令嬢、王宮の官僚あたりに手を出したのか?」
既に、寄り添う写真だけで、シャロンが言い寄った事になっている。
(ちょっと、あれ)
(ええ)
おとつーが分からないはずがない。
((キャロライン))
「何だろうねえ、変装までして王宮で逢瀬を楽しんだってか?何処まで、多情なんだか!」
「こ、これ、私ではありません!」
「何を言ってる!
こんな眼鏡でうろつく女など、お前しかいないじゃないか」
((いや、本当にシャロンじゃないけど))
ザビーネとビアンカは、
およ?と、キャロラインを探す。
キャロラインがいない。
「殿下」
侍従がエルンスト殿下を気遣った。
「控え室へ参りますか」
「いや、いい」
エルンストは微笑んで断る。
(想定外の余興だけど、おかげで……)
「は?」
「いや、何でも。あれも、様子見で」
「了解しました」
「これで!証拠は揃った
改めて言わせて貰おう!」
コールが今一度声を張った。
「シャロン・アネット・マルグリット!お前のような多情な女など、こちらから棄ててやる!
この婚約は、破棄するっ!」
腕を伸ばし指をさして、コールは得意満面である。
シャロンは蒼白になりながらも、扇を握りしめ、独りで耐えた。
ほほほ……
ミリアの高笑いが響いて、周囲は令嬢を振り返る。
「シャロン嬢。王家が貴族を労うこの夜会に、お前みたいなはしたない女は不要」
そう言って、前に進み出る。
「殿方を渡り歩いて、愛想を振りまいて、ちょっと可愛くなったからと、チヤホヤされて舞い上がって!
お前みたいな下品な女、学園にも置いておけせんわ!」
「私なら恥ずかしくて、いきていけませんわぁ」
「こんなに大勢の貴族の方々に、その本性を見せたのですものねえ!」
勢いづいたご友人も、口々に罵る。
ミリアは扇で口元を隠しながら、嗤っていた。
(やったわ!
シャロン、ここから逃げて、田舎へ引っ込みなさい!
修道院でも、農園でもいいわ。
二度と、王子や未来のある男達には顔を見せられない所へね!)
胸のつかえが落ち、晴晴とした気持ちで勝利を味わうミリア。
そして、目配せをコールと交わし、
シャロンの青い顔に恍惚とした気分になった。
ダンブルグ公爵が、頃合とばかりに告げる。
「おお、これだけ揃ってしまえば、仕方無いこと。ご令嬢宜しいですな?伯爵にも、この騒動の責任を取っていただ」
「まだ、見て欲しいんだけどなあ」
呑気そうな甘い声が、ホールに響いてダンブルグの声を遮った。
皆が辺りを見回すと、
「……ヴィルム殿下!?」
大階段の踊り場に、ヴィルムが立つ。光源を落としてあるのに光沢のあるグレーの夜会服が浮き上がる。その胸に、深紅の薔薇をさして立つその姿に、若い女の声がザワつく。
「シャロン、お待たせ。
さあ、反撃の時間だ」
ヴィルムは階下のシャロンに微笑んで、右手を高くあげる。そして、気障な仕草で指を鳴らした。
と、同時に大写しになったのは……
「まあっ!」「貴女いけませんわ、見てはいけません!」
「ほお?これはまた扇情的な」
「……下品な」
「ええ、確かに今喚いた子爵の息子と、相手は……」
((やり〜!!))
ガッツポーズのおとつー。そして
(………えっ)
呆然とする、
ミリア・ダンブルグ。
壁に大写しになっているのは、
コールとミリアが
大胆な口付けを交わしている
まさに濡れ場であった。
写真はこの世界では、まだ高価極まりない道具だと思って下さい。
この40年後あたりが、「魔鏡人生相談」の時代という繋がりになりまする。
ちら、っとおとつーとフラットが出てきます。
それにしても。
ヴィルム。君は、タキシード仮面か?
山崎育三郎だな?




