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断罪の夜会4 乙女通信号外!

「……何故」「いやあぁぁっ!」


コールが呆然とし、ミリアは絶叫する。

先程の満願の高笑いから一転。


ざわざわとミリアとダンブルグ公爵から、周囲がジリジリ遠のく。


係累と思われないように。


「あれ?どうしたの?

シャロンは抱きついただけで多情なんだろう?

じゃあ、これは、どう形容しようかなぁ」


呑気な何時ものヴィルムの口調だが

((絶対怒ってる!目が据わってる!))

と、おとつーは思う。


階段を降りた王子はシャロンに寄り添った。

「マルグリット嬢は、私の初恋。

私にとって、妹の王女と同列だ。

その、〈妹〉を君はなじった」


「殿下!

これは何かの間違いです!

ニセの私を仕立てた誰かが!」


「何を仰るの!

私こそデタラメですわ!

誰かが変装して私と謀って」


コールとミリアが、ヴィルムに弁明する。


この場面反転に、気持ちがついていってなかったシャロンがようやく正気になって、

「……ミリアのホクロ……右の頬に。

コールの手…指輪……私があげた印章の……」

と、大写しを指さして、告げた。


「あっ」ミリアか頬に指を当てる。

「くっ」コールが印章をはめた薬指握る。


それを見て、ほっと息を吐いたシャロンは、気が抜けたのか、

ガックリと、意識を飛ばした。

「おっと、役得」


ヴィルムは気を失ったシャロンを横抱きにして

「ほら、君たちだとシャロンが証明したよ」

「嘘よ!」「その女が捏造したんだ!」


二人は王子に対して、礼儀を忘れてがなる。


ダンブルグ公爵は、愛娘に

「お前……」と狼狽えると

ミリアは涙ぐんでふるふると首を動かす。



「ふうん……」

王子が、薄い目をして、

「そうだよねえ。ミリア嬢。

これが本当に貴女だったら、兄上を裏切った事になる」

「……殿下、私は、決して!」

プライドの高いミリアが膝をおり、胸の前で指を組む。祈りのように。


「決して、ねえ」


はらり


はらりはらり


「天井から……何?」


はらりはらりはらりはらり


「……何だ?」

「紙が……」


ばさ ばさばさ

ばさばさばさばさばさ


「なんだ?この紙」

「……?」「書いてありますわ」

「あそこからだ」


大天井に最も近いバルコニーから、紙が雪の様に降って舞い落ちる。


拾い上げた紳士淑女が見たものは…


「乙女、通信?」

「まっ!あの写真ですわ!」


ザビーネが叫ぶ。

「乙女の乙女による乙女のための!」

「「乙女通信 号外!

ミリア嬢 夜の逢瀬 お相手はローラン!」」


ビアンカと合唱して、二人でポーズ。

(怖いものなしだな)

オージエが呆れて笑う。


(さて、アンリを起こすか。

連れてきてくれ)

と、警護に指示した。


貴族の紳士淑女たちは、それぞれ号外を手に、

「まだあるぞ」

「まっ。着衣ですけど絡み合って……」


(……え?……嘘……何?)

ミリアは見慣れた乙女通信のロゴをぼんやり見遣る。


「何何?……深夜二時、王都のダンブルグ公爵別宅にて、公爵のご令嬢ミリア嬢(16)と、ローラン子爵家子息のコール(17)が目撃された。

二人は19時頃に別宅に到着。

人払いをしたのち、ずっと二人で過ごした模様……ほお」


「どのような仲なのか、我々の特派員が潜入捜査した結果、上の様な証拠写真を入手出来た」


「ミリア・ダンブルグ公爵令嬢は、何と第一王子の婚約者でありながら……」



(い、いやっ……言わないで言わないで言わないで!)

「いやぁァァァッ!!」

ミリアの絶叫が轟く。


床一面の乙女通信の中で、へたりこんだミリアの絶叫が。


「うおー!快感」

「絶景ねえ〜感動ねえ〜

乙女通信を王宮でばら撒くなんて

快挙だわっ!」

(キャロライン!あんた、やるわね!)

手に手をとって喜ぶザビーネとビアンカ。その喜びようがコールの視界をスパークさせた。


「おのれ、ザビーネ!ビアンカっ!」

コールが血走った目で二人に飛びかか


…ろうとして、抑え込まれた。


マルグリット伯爵に。

「女を殴る奴は、許さん」


伯爵は娘が独りで立ち向かった相手をごりっと床に擦り付けて、

「ザビーネ、ビアンカ嬢、ありがとうな」

と、ウインクした。


……だから、何でザビーネだけ名前呼び……


ビアンカのはてなは、周囲の喧騒に溶けてしまう。


圧巻である。片刷りの乙女通信号外は、会場のあちらこちらで拾われ、手渡され、読まれ、伝えられる。


(ミリア嬢の淫行……)

(次代の王太子妃が……ダンブルグはどうするつもりだ)


「お父様っ!こ、こ、こんなのシャロンの陰謀よ!わ、私を批判して、エルンスト殿下と逢い引きしてたのを隠すつもりなのよ!」

ミリアは父にすがり付いて、泣き叫ぶ。


「殿下!殿下と、あの女!会ってたのよっ!

王妃の間でっ、あ、逢い引きを……

シャロンがっ!」


「私はマルグリット嬢と逢い引きなどしていないよ」


カツン、と靴音がして、その穏やかな声に、辺りは次第に静まる。

「エルンスト殿下……」


「神に誓って、私はマルグリット嬢とは王宮でお会いなぞしていない」

「いえっ!私は、私は見ました!

写真だって、イージエに撮らせて!」


「貴女が見たのは、私です」

姿が見えなかったキャロラインがエルンストの後ろから登場した。


(……えっ?)

「まさかシャロンと間違えるなんて。変装がまずかったわ。

ゴメンなさいね?」


「……あ、れは……キャロライン……なの?」


「ええ。オクタビア先生の助手として。未婚の女が出入りして、殿下の御名に傷がついては、と、変装したのだけれど、裏目にでたわね」


「……のれ、キャロライン

何処まで私を馬鹿にするの!

こんなこんなこんな通信をばら蒔いて!

殿下、殿下は、あんたに笑っていたわ!優しいお顔で!

私に向けないお顔で!

何であんたなんかに!

シャロンといい、あんたといい、何で私の大事なものを奪うのっ!」


「通信を書いてくれと要求したのは私だ」

「えっ」

「こうでもしないと、貴女は目が覚めない。

こうでもしないと、貴女を切る事はできない。

私は自由になりたいんだ、ミリア嬢」



力の抜けた令嬢は、床にへたりこんだまま、腕をすら床につけた。


それでも、エルンスト殿下を見上げて見つめる。

見上げた先の王子は、凛とした静かな佇まいで、けれどその瞳にミリアを映してはいなかった。


「殿下」

「もういいだろう。

ミリア・ダンブルグ公爵令嬢」

「殿下、どうか……」


エルンストは頭を振った。そして、

「皆に伝える!

私、エルンスト・デル・エラントは、ミリア・ダンブルグ公爵令嬢との婚約をここに

破棄する!」


うおぉぉぉ…という感嘆と衝撃と歓喜とが混ざった人の声が響く。


「殿下!殿下の一存ではなりませぬっ!この婚約はっ、エラント王家とダンブルグ公爵家とのっ!」

「一存で結構。

この一連の騒ぎは、私に責任がある。責任は私がとる!」


ダンブルグ公爵の強い視線にも、エルンストは揺らぎなく受けて立つ。

そこに、この数ヶ月の脆さや弱さは微塵もなかった。


「ミリア嬢を不安にさせ、淫行に走らせたのは、私にも非がある。

そして、このような形で、婚約者を辱め、その地位を微塵に砕いた写真も通信も、全て私の采配である!

……ミリア。済まなかった」


穏やかな声に、ミリアは滂沱の涙で、唇だけで応える。殿下、と。


伸ばしかけた手をエルンストは取らない。


「花を……下さったのに……香水も……その身に纏えと……殿下、やはり、私は、貴方を、お慕いして……」


「月桂樹の花の香水……花言葉は『裏切り』

貴女は気が付かなかったね」


「……殿下」

ミリアの顔が苦悩で歪む。



「貴女はやりすぎた。

私が辛い時悲しい時、貴女は何をしていた?

貴女は欲しがる一方で、人に与える事を知らない。いつでも自分の欲求を叶える事しかない。

挙句、マルグリット嬢への妬(ねた)み嫉(そね)み。

およそ、国母となる資格など、欠けらも無い。それを自身で証明してしまった今、貴女を救済するすべはない」


エルンストの声音が、固く、厳しいものになる。


(どこで間違えたの?

私はエラント一番の淑女

王妃となる貴婦人

なのになのになのに……!)


ガックリと項垂れ、ついにミリアは床に突っ伏し号泣した。

ダンブルグ公爵は呆然とその様を見るとも見ないとも分からない表情である。すでに思考が止まっている。


「潮時だ。


王妃殿下!」


エルンストはホールから、王族の席に向かって、その声を張った。


座の中央に、ゆったりと座る黒衣の王妃。御歳65歳。


会場は、ざっ、と、王座に集中する。

王太子が即位する明日までは、

王妃が絶対の権威を有する。


「タリア・デル・エル・エラント王妃殿下」


中央に進み出て、エルンストは跪いた。敬意を払いながら、続ける。


「本日の騒ぎと、婚約破棄の暴挙の責任を取り、私、エルンスト・デル・エラントはどんな沙汰も受ける所存です」




王太子妃がかすかに息を吸った音以外、王族に動きはない。


やがて、

「それ程の覚悟。応えねばならんの」


王妃殿下がゆっくりと腰を上げ、錫(しゃく)をドン、と打ち鳴らした。


エルンストは、左の胸に手を当て、

頭を下げる。

そして、


「王妃殿下。

私を廃嫡して下さい」


と、静かに伝えた。








さあっ!加速じゃ!

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