霧雨の天使たち プロローグ
プロローグ
ベランダからの風が、腰まで伸びたゆるやかなウエーブの髪を揺らし、その度にきらきらと光らせている。つややかに光る髪とは対照的に、少女は物憂げな顔をしていた。四ヶ月程前に届いた一通のハガキを手にし、少女はぼんやりとそれを眺めていた。
『返事を送るのが随分と遅れてごめんな。俺はやっとこっちの仕事が終わって戻ってくる事になった。三月からは二年ぶりの地元だ。そういえば叔父さんと叔母さんはまだ海外赴任中だったな。姉妹二人だけど頑張ってやってるか? 特にお前は体が丈夫じゃないから心配だ。困った事があったらいつでも連絡してくれ』
そのハガキが送られてきて以来、何度手にして見たか分からない。
二年間、少女は彼の帰りを心の底でずっと待ちつづけた。ずっと会いたくて仕方がなかった。
しかし、今となっては会ってしまうと心が揺らいでどうしようもない状況になっていた。。
それでも、彼の顔を一度でもいいから見たいと願う。
会いたい気持ちを理性で押さえながら、少女は今日も月明かりだけの部屋で一人、溜め息をついた。
部屋の隅では二年前の彼の写真が彼女に向かって微笑みかけている。