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猛毒を飲み干して  作者: 榎本あきな
1【ミックスジュースを飲み干して】
6/6

6.協力プレイ

 いつでも動けるように、ピオが態勢を低くする。


『手順は、さっき説明したとおり。ゴーストの居場所は私が指示、或いは無理やりひっぱる。お前はただひたすら走り続けて、それ(・・)を指定した墓標にかけろ。いいな?』

「ああ! 準備万端ばい!!」


 気合の入った言葉に、私は頷き返し、前を見据える。結界にはヒビが入っており、今にも壊れそうだ。

 未だにゴースト達の猛攻は続いているが、ここを抜けなければ目的は果たせない。

 ピオが、右手に持った小瓶をしっかり握りしめると、見えないはずのゴースト達に、視線を向ける。


 ヒビが大きくなっていく。

 ゆっくりと、結界の光が弱くなっていく。

 次第にそれは強くなっていき……



 パリンッ!



『今だっ!! いけっ!!!』


 結界が砕け散り、ゴーストがその風圧で弾かれると共に、ピオが駆け出した。

 走って走って、墓地の端まで向かう。

 餌との壁がなくなったゴースト達が、全方位から襲いかかってくる。


『右斜め前!!』


 私の声に反応して、速度を落とさずに半身になると、紙一重のところでゴーストを躱していく。まるで見えているかのような鮮やかさだ。

 断続的に続ける私の掛け声に、一つの間違いもなく避けていく。ギリギリの状況で、私も次第に目の前のことに集中していく。

 神経が、研ぎ澄まされていく。


 墓地の端まで走って来ると、ピオは右手に持った小瓶の蓋を片手で開けた。

 四つ角の一番隅にある墓石とすれ違うと同時に、乱雑に小瓶の中身をぶちまける。

 墓石が、僅かに光を帯びる。



 あと、三つ。



「うあっ!?」

『っ!!』


 一つ目が終わったことで油断したのか、僅かに足がもつれる。それを私が無理やり上へと引っ張る。

 なんとか体勢を立て直し、礼を告げることなく再び走り始める。背後までやつらが迫っているのに、礼を言っているような悠長なことなど、私もピオも、していられない。

 今はただ、目の前の目的に向かって走っていくまで。


 最初に転びかけた以外は、順調に二つ目、三つ目にも小瓶の中身をかけていく。再びあの失敗をしないように、気を引き締め直したようだ。

 しっかりと次の墓石へと視線を移していく。

 あと一つ。

 ……だというのに。


 私の目の前で、ゴーストが増えていく。


 動揺を抑えて、集中する。

 一旦止まらせるという手もあるが、そうするとこいつの集中が切れる可能性がある。そもそも、見えないものを避けろと言っているのだ。普通だったらとっくに集中は切れてどうにかなっているころだろう。

 それをここまで無理やり引き伸ばしている。私の迂闊な発言で途切れさせるのは愚考だろう。

 それに、この呪文はかけた液体の鮮度によって成功率が変わる。今立ち止まり鮮度を落とすのは、悪手だ。


『右、左、左斜め前、前、左…………』


 淡々と続けていく。こいつに声が、正確に伝わるように。

 数が増えたことに気づいているだろうが、何も言わずに、何も言えずに従うこいつに応えるために。

 この世界で初めて、私を信じたバカに、応えるために。


 突如として、下からゴーストが湧き上がった。


『っ!!!』

「う、わぁっ!?!?」


 伝える間もなく、ピオを上へと引っ張る。

 走っていたピオは、突如離れた地面に驚き空中で態勢を崩す。

 手から、小瓶が離れる。


 小瓶は、ゆっくりとその液体を零していく。


「____浮遊せよ(ウィングライ)っ!!!!」


 態勢を崩したまま空中にいるピオが、咄嗟に杖を取り出し、小瓶をピタリととめる。

 傾いたせいで零れた液体が、宙を舞う。

 中身は、あと僅か。


「うぉおぉ…………、らぁっ!!!」


 そのまま杖を乱暴に振りかぶり、最後の墓石に小瓶を叩きつける。

 僅かに残った液体が、割れた小瓶の破片と共に墓石に降りかかる。

 墓地の四隅が、光を帯びる。

 これで準備は整った。


『真ん中まで走れ!!!』

「言われんでもわかっとるばい!!!」


 ゴロゴロと転がりながら無様に着地したピオは、すぐさま立ち上がり走り出す。

 振り返ることはしない。もう私たちには、前しか見えていない。

 迫り来るゴーストの音も、どこか遠い。

 ピオが、真ん中に手を伸ばす。


 そして、届いた。


『悪意のある怨霊達よ!!』

「悪意のある怨霊達よ!!」


『我が鎮魂歌にて再び眠たまえ!!』

「我が鎮魂歌にて再び眠たまえ!!」


『「永久の眠りの鎮魂歌(スパイラルレクイエム)!!!」』


 私の後に続けて詠唱をするピオ。浄化の呪文が、完成した。

 墓石が一斉に光だし、結界のようにそれぞれが光の線で結ばれる。その線が震えると同時に、ゴースト達がゆっくりと静かになっていく。

 私たちには聞き取れない音色が、あの光の線から奏でられ、鎮魂歌になっているのだ。

 次第にゴースト達は消えていき、残るは私とピオだけになった。


「………………せ、成功、ばい?」

『……ああ。終わった』

「…………………………や、」


「やったーーーーーーー!!!!!!」


 ピオは大声をだして両手を突き上げたあと、ぱたりと地面に倒れる。

 服や顔は、着地に失敗したのもあるからか、泥だらけで、鼻からは血が出ている。

ところどころに擦り傷も見える。


「うぁ……安心したら、めちゃくちゃ痛いばい…………」

『そうだろうな。アドレナリンが切れたんだろう』

「もう1歩も動けなかー!」


 だらしない格好をしているピオ。

 一番難易度が高い鎮静を選んだのはピオだが、無理をさせたのは私だ。せめて何も言わないでおこう。

 今は休ませる時だ。


 先ほどのの騒々しさが嘘のように、墓地は静かになった。

 ゴーストたちも全て、眠りについたようだ。雰囲気は不気味な墓地のままだが、嫌な気配は全て消え去った。


 まさかこうまで成功するとはな……。一歩間違えればゴーストに乗っ取られるところだった。

 ピオが乗っ取られたら、背後霊である私にも、何か影響があったかもしれない。

 もしかしたら、私もゴーストの意志に押しつぶされて消される……なんて未来も、あったかもしれない。


 そういったリスクが高いのに、私は浄化を選んだ。

 全ては、あの瞳だ。


 アズラにどこか似通っているあの瞳。別にアズラと同じ瞳をしたものなど、いくらでもいるというのにな。

 なんだか似ていて、否定の言葉を告げれなかった。

 思えばアズラも、信頼だけを宿した瞳で仲間に頼みごとをしていたな。そうして、頼まれた人間はそれに全力で答える。

 もしやピオは、アズラと似たような人種なのかもしれない。

 そうして、寝ころぶピオを見る。


「おぼぼぼぼぼ~~~づがれだが~~~~~~。おあ~~~~~~」


 泥にまみれながら、寝ころぶピオ。

 口をだらしなくあけながら、意味の分からない声をあげている。


 …………さっきまで考えていたこと、訂正していいか?


 アズラとは似ても似つかない人種だ。

 アズラと同じだと認めると、アズラもこんなバカだということになってしまう。

 こんなバカに私が負けたとはぜっっっっったいに認めたくない。いや、私の名誉のために認めるわけにはいかない。


 どうあがいても不細工な面を晒しながら五体投地するピオを上から眺めながら、私はピオが立ち上がるまで考察に耽るのだった。

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