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AGGRESSION  作者: TIGER
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第2章 第7話 意地と実力

まぁ前の話からだいぶ時間がたってしまいましたが…………いつもですよね、すいません。

今回はザックとマッドのお話からです。

では、はじまりまーす。

時間は少し戻って数分前。



『……さっきから逃げてばっか……どういうつもりだよ』

『まぁ……他のやつらを巻き込みたくないからな……』

ザックは口元を緩めて答えた。

『……フン、で?ホントの理由は……?』

『ハハッ、するでぇやつだな。』

マッドは、全てを見透かしたかのように尋ねた。

『そんなの決まってんだろ。……やられんのを……負けんのを……みんなに見られたかねぇからな……』

マッドが、なぜか弱気である。

『おめぇの強さは大体わかってる。もちろん、俺の勝てる相手じゃあないこともな。まぁだからってみんなに助けを求めるのもなんかヤだし、あんま見られねぇとこで戦えばいいかな、なんて思ってんだよ。』

マッドが、足に力をこめた瞬間、すでにマッドの足はザックのこめかみに向けて放たれていた。

『くっ……』

ザックはなんとかよけた。が、なぜ自信をなくすかわからないほどのキックで、彼は確実に動揺していた。


速すぎるっ…………!


『だからこそっ……!』

マッドは叫ぶように、訴えかけるように、声を荒げてしゃべりはじめていた。

『だからこそお前を少しでも弱らせてみんなに……!』


ゴッ…………


言い終わらぬうちに、ザックの膝ではなく足が、マッドの顔面に炸裂していた。

『いくらそんなことを訴えかけられても容赦はしない。ただ……』

ザックが歯軋りした。

(なぜだ……勝てる気があまりしない……?)

『正々堂々戦うことだけは約束しよう。』

極悪非道でも、裏切り者でも、清い心は持っているようだ。

『フン!クソが!』

そう言うと、マッドは拳を地面に叩きつけた。

するとどうだ、地面が一気にひび割れ出したのだ。

『んなバカなっ……!』

今度はマッドの膝蹴りがザックの顔面に直撃した。マッドは、なんとか持ちこたえた。そしてそのまま、"宙返り蹴り"俗に言う"サマーソルトキック"をマッドの脳天めがけてぶち込んだのだ。

『うぉらあぁぁっ!』

マッドは吹き飛び、十数メートル先で倒れ込んだ。

異常なまでの身体能力である。

だがまだ終わらない。いつの間にか、一瞬のうちにザックの姿はマッドの真上に現れていた。


ドスッ……


『ゴフッ……!』

勢いよくザックに踏みつけられたマッドは、血反吐を吐いて、くるしんだ。ザックは、かなり息を荒くしている。

『ハァッ、ハァッ、終わりか……』

ザックが立ち去ろうとして、後ろを向いたときだった。


ザッ……


(……な……そんなはずは……)


慌てて後ろを振り向く。マッドが立ち上がっている。

『ど、どこにそんな力が……』

『ヘヘッ……』

『くっそ……!』

風を切る音とともに、瞬時にマッドの目の前に移動したザック。

これは、彼の能力だ。




アオイの能力、ゴキブリは、かなりの速さ、瞬発力を誇る。それは、人間大になおすと"一歩目から"時速三百キロで走り出すという。

ザックの能力は、そのゴキブリと同じくらいの大きさであるにも関わらず、走って捕える生物。

ゴキブリハンターである、アシダカグモである。




『うぉらっ!』

ザックは、マッドにむかってパンチを繰り出した。


ブッ……


『……バ……カな……』

マッドは、しゃがんでそのパンチをよけていた。




実は、マッドの能力もまた、ゴキブリハンターなのだ。

ゴキブリを駆除するため、本来は益虫に分類されるが、その異様な外見から、不快害虫として扱われることもある、ムカデによく似た生物。


オオゲジという生物だ。


ゴキブリを主食とし、動きが素早く、ゴキブリハンターであることは共通している。

では、この二種はなにが違うか。


それは、他でもない、"狩りのスタイル"だ。


アシダカグモは、待ち伏せ型なため、持久力が高いとはいえない。それに対してオオゲジは、真っ向からスピード勝負を仕掛けるのだ。その分、アシダカグモよりはスタミナが勝っていると言えるだろう。





その強靭な左足で地面を踏みしめ、右足でザックの脳天に目掛けて、蹴りを繰り出した。

『うおおぉぉぉぉっ!』





ただし……














それはあくまでも、小さな蟲の話である。



彼らは蟲ではない。



"人間"である。




ブンッ…………


『なっ……』

ザックは腰を落としてそのキックをくぐった。

『残念だったな。俺は、お前には負けない。』

ザックは右手の拳を固く握り締めた。

『トドメだっ……!!』

彼の全力のパンチは、マッドの腹部に食い込み、その体を勢いよく吹き飛ばした。

『…………今度こそ……終わりだ……』

ザックはマッドに背を向けて、歩き出した。



ザッ………………



『なっ…………!?』

再び慌てて後ろを振り向くザック。

『ま……まだ……だ……』

そこには、傷だらけで、ボロボロで、それでも立ち上がろうとするマッドの姿があった。

『まだ…………おれ……は……』


ドサッ…………


そこでようやく力尽き、マッドは倒れ込んだ。

『……あっぱれだな…………』

ザックは、倒れ込んだマッドのそばにしゃがみ、語りかけるように呟き始めた。

『勝てないとわかっている相手にそこまで立ち向かう勇気、いくらやられても立ち上がろうとする根性、そして、絶対負けないという強い意志、全てが尊敬するに値する。』

そう言うと、ザックは立ち上がり、マッドに背を向けた。

『お前なら人類を救える……その命、大切にするんだな……』






トリコテセンは、たしかに視界が歪むのを感じた。

(……なんだ?)

横でトーパは倒れている。どうやら絶命しているようだが……

(俺は……大丈夫か……?)

そう思った刹那、再び彼の視界が歪む。

(あ…………ヤバ……)


ドサッ……


トリコテセンは、その場に倒れた。


『てやあぁぁっ!』


ズバァっ!チンッ……


『ふぅっ、大丈夫?トリコテセン』

イズミがベルチャーウミヘビ型のビットを斬りつけた。

『おいっ、大丈夫かトリコテセン』

今度はウルズが歩み寄ってきた。

しかし、返事がない。

『おいトリコテセ…………っ!』

気がつくと、トリコテセンの拳がウルズの顔に直撃していた。

『ちょっ、トリコテセン?何してる…………っ!』

続けざまに、イズミの腹部にひじ打ちを入れる。

『おいっ!トリコテセンどうした!』

ウルズが立ち上がりながら大声で尋ねた。

そこに立っているのは、黒いはずの瞳を、紅く染めた彼だった。







『おいヘラ、お前ならどうする?』

ヴァンパイアがヘラに尋ねた。軍長という呼び方ではない。もう敵としての接し方である。

『……仲間という抵抗はあるかもしれないが…………』

ヘラは、薬を討ちながら、ゆっくりと質問に答え始めた。

『俺なら全力で倒しにかかる。EDF本部ここに来た時点でもう死ぬ覚悟はしてくれているはずだからな。』

『そうか。』

『おそらくあれはベルチャーウミヘビの神経毒によるものだろうな。』

『おそらくな。』

『まぁ普通のベルチャーウミヘビの毒じゃああんなことにはならねぇ。むしろもうとっくに死んでるだろうな。てことは……』

ヘラが、拳を強く握り締める。

『お前以外の……"誰か"の手が加わってるってことか……』

『フッ……そういうことだな。』

よりによってトリコテセンを……

トリコテセンは、もともとの運動能力がとても高い。口にこそ出さなかったが、ヘラはかなり焦っていた。







『くっそ……!コイツ……』

ウルズは右手を支えにして立ち上がろうとする。

『つ……強すぎんだろ……』

イズミはほぼ戦闘不能、ウルズも左腕をちぎられて、右手だけの状態だ。

『おらっ!』

ザックが乱入した。

『なんだお前ら、負けてんじゃねぇか。』

言い終わるが早いか、ザックの体はトリコテセンの拳一つによって大きく吹き飛ばされた。

『くっ……』

即座にトリコテセンの足の裏がザックの顔面にめりこんだ。

(はや……すぎる……)

ザックは、トリコテセンの動きに反応すらできなかったのだ。

(OTCはカエンタケのはず。ならこの速さは……AMSO?いや……)

ザックは後ずさり、少し距離をとった。

(こいつ自身の運動神経のうりょくかよ……!)

頭へ向けての蹴り。なんとか腕を出したが、その威力は計り知れない。防いでも無駄だと言わんばかりにトリコテセンは足を振り切った。

『くっそ……!』

だが、反撃するスキなど全く与えてはくれない。地面を踏みしめると同時に、トリコテセンの全体重をのせた左拳は、ザックの腹部に炸裂していた。ザックの体は二十メートル近く吹っ飛び、彼はその場に倒れ込んだ。


ズギュウゥゥゥゥ……ドガアァッ!


『よくも……ザックを……』


だがその蹴りは、手一つによって防がれていた。それどころか、トリコテセンは全く怯む様子もなく冷静に蹴りを繰り出した。


(かかった……!)


ヴァンパイアの思惑どうりに事は進んでいた。

彼は、トリコテセンの足を掴んだ。


(よしっ、このまま……)


だが、思惑どうりに進んだのはここまでだった。


トリコテセンは、即座にその足を引いた。


カキン!


ヴァンパイアの指と指の当たる音だけが響いた。

(くっ……体制を……)

だが、敵はそんな暇など与えてはくれない。

『ウゴっ……!』

背中に猛烈な衝撃がはしる。それと同時に彼の体はザックと同じぐらいの場所まで飛ばされた。


『……くっそ……てめ……』

ウルズが立ち上がってくる。トリコテセンは、蔑むような目で彼らを見下ろしていた。

ウルズは、OTCの薬をうつと、即座に左手で殴りかかった。トリコテセンは、これを受け流し、ウルズの腹に肘うちをいれた。だが、ウルズはびくともしなかったのだ。

『そんなんじゃ俺は倒れねぇぞ?……フンッ!』

ウルズの全力パンチがトリコテセンに炸裂した。彼に食らわせた初めての攻撃だ。

『俺の筋肉と"殻"はそんなんじゃ壊せねぇな。』




"甲殻類"─────────

外骨格、俗に殻と呼ばれるものをもち、中の繊細な肉を守っている。強度は種によっても様々だが、共通してもちろんかなりの強度をもつ。


ウルズは、その中でも上位の強度をもつ者─────

"カニ"である。

カニは、その硬さに加え、"防衛自切"というわざも使う。

自らの身に危険が迫ったときなど、緊急時に、彼らは、自ら腕や足を切り、そして"再生する"ことが可能なのである。


まして、その能力を使うのはウルズである。

外骨格で身を守るだけでなく、その身すらも相当な強度をもっているのだ。この相当な強度を破ることなど、ほぼ不可能に近い。普通の人間ならば、だが。






ザッ…………


『おっ、立ち上がるか。流石だな。なら、もいっちょいくぞ!』

ウルズは再度、全力パンチを繰り出した。

完璧なフォームで、的確に相手を狙っている。もし仮に反撃されたとしても、ダメージを受けることはほぼないだろう。




…………ただ、一つ誤算があった。トリコテセンは………………








"普通の人間"ではなかった。





ドッ、バギイィッ!


ウルズは、自分でも何が起きたのか、理解ができなかった。

一瞬のうちに、"折れないはずの"自分の腕が、目の前にいる細身の男に…………

(バ…………カな…………)

ウルズはその場に倒れ込んだ。

トリコテセンの腕にはしっかりとウルズの左腕が握られていた。


『……おうおうおう、すごいね、よくやってくれたね』

ヘラだ。彼の腰からは、どこか見覚えのある、太い"触手"のようなものが、四本生えていた。

『……………………』

トリコテセンは何も喋らなかった。

『そりゃ喋らないか、操られてるんだもんな。』

彼は、拳を強く握り締め、こう続けた。

『すまないな、トリコテセン。悪いが、容赦はできない。お前の強さはよくよく見させてもらった。相当な強さだ。本気でいかなきゃ俺もヤベェ。というわけで、わるいが本気で…………』

長い説教はいらない、とばかりに殴りかかった。その拳は、ヘラの顔面を直撃した。だがヘラはピクリともしない。やがて、触手のうち一本が、その拳を捕らえた。ヘラは、何事もなかったかのように",OTCの"薬を取り出して射った。

『焦ってもいい事はねぇゾ?』

トリコテセンは、気にせずに、もう片方の拳を振り上げた。だが、それはヘラの素手によって防がれ、またも触手に捕らえられた。

『物覚えがワリぃ野郎だな。』

ヘラは、大きく息を吸いこんだ。


ブウウゥゥゥッ…………


ヘラの口から吐き出されたのは……


"墨"─────────────!?


『墨は目潰しにも使えんだ。補助として使わせてもらったぜ。』


残った触手二本、そしてもともとの足二本、合わせて四本が、同時に地面を強く踏みしめる。そして、右拳に満身の力をこめて、それをトリコテセンの腹部めがけて打ち込んだ。


『終わりだッッッ!!!』







サメが、海のギャングと呼ばれるのは皆さんしっているだろう。だが、サメが海で最強な訳ではない。このサメを、"食べる"生物がいる。

彼らは、鋭いキバやツメがあるわけでもなく、毒を使うわけでもない。ただ、その"八本の触手"の"吸盤"と"筋力"だけを使って、サメを捕獲するのだ。

この我々にも馴染み深い海の軟体動物、その名も…………






『ミズダコ…………それが俺の能力だ。』

トリコテセンは、吹き飛ばされ、壁に激突し、倒れていた。

前回に引き続き、次の話に続きます。

さて、次の投稿はいつになるでしょうねえ。

まぁ、気長にお待ちください。

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