燕1
飛べない鳥、燕の話 その1
「空を飛びたいと、初めて願った」
「奏君、まだ学校から帰ってこないの?」
何処かの部屋の一室。
その部屋の中は暗く、電気がつけられていない。部屋の中から聞こえたその声は、どこか人の声とは質が違うような、だけど優しく儚い少女のような、そんな綺麗で透き通るような声だった。
「まだだろ。今日は遅くなるって言ってたし」
先程とは違う、こちらの声も人とは違う声質で。こちらは物凄くか細く弱々しいような、だけど、無邪気でどことなく底辺には強い力強さも感じるような少年のような声。
「迎えに行こう」
バサッと羽ばたく音がして先の二つとはまた違う淡々とした、だけれど急いてもいるような、そんな少女のような声がした。
その声の主を慌てて止めるかのように、優しく綺麗なあの声が暗い部屋に響き渡る。
「駄目だよ。奏君が勝手に家から出たら駄目だって言ってたし。そもそも私達、奏君なしで外に出たことないじゃない」
「鴉、俺もやめといた方がいいと思うぞ。奏はそのうち来る。大人しくしてろ」
「……わかった」
鴉と呼ばれた少女のような声の主は、不承不承といった感じで頷く。
「雀君、ありがと」と、優しい少女のような声の主は少年のような声の主に礼をいい窓辺に近付く。
ここから見えるのはココとは違う外の世界。外はしとしとと静かな雨が降っていた。だけど雨の音が部屋の中にいても聞こえてくる。ずっと降り続けるこの雨は一体いつ止むのだろうか。
明日だろうか。明後日だろうか。
それとも今日だろうか。
「燕、奏は見えるか?」
鴉と呼ばれた者が窓辺に近付き、問いかける。
燕と呼ばれた者は首を振り、また視線を外へと戻す。雨で曇って外の景色は見えにくい。
「…………」
歯痒いな、と燕は思う。
自由に飛べない私達。魂を一つしか持たない私達。鳥なのに飛ぶことが出来ない私達。
もう一つの魂ははこの世界のどこにいるのだろうか?本当にこの世界にいるのだろうか?見つかるのだろうか?
暗い部屋には三匹の鳥。
魂を一つしか持たない飛べない鳥達。
この部屋の中は鳥籠のようだと、燕は思う。『奏』という飼い主に飼われている哀れな飛べない鳥。奏がいなければ外の世界へも出ることのできない。何もできない憐れな鳥。
最初に半身を探したいと、飛びたいと言ったのは鴉だ。燕と雀はそれに便乗しただけだった。
でも、この世界に来て燕の気持ちも変わった。鴉と同じように、飛びたいと思うようになった。自由に空を。あの空を。あの大空を。
燕は空を見上げる。
「…雨が降る」
この世界の人間も、鳥と同じように空を飛べると奏に聞いた。それは『ひこうき』という物であったり、『へり』という物であったり、『じぇっとき』という物であったり。
様々な道具を用いて、鳥のように空を自由に飛ぶと言う。羨ましかった。凄いなと思った。
涙が出た。
空を飛びたいと、初めて願った。




