姫がさらわれた、らしい
俺が王国騎士隊に入隊したのは13歳の頃。
まぁ我ながら兵士としてはエリート街道を突き進んだ訳。
一般兵から始まって、15歳で隊長、18歳で部隊長とまぁ、順調に出世もしたさ。
んでな、こっからは二手に分かれるのよ、出世の方向性っつーのかな。
そのまま兵士として軍団をまとめる騎士団長を目指すか、王付きの近衛兵長を目指すか。
適当な性格を自覚してたしよ、礼儀だ血筋だなんだかんだのやり取りに興味もねー。
んなもんで、俺は現場主義といえば聞こえがいい、戦争が起こっちゃいない今は何でも屋とでも言えばいいだろうか、騎士団への方向へと舵を切ったのよ。
やー、でもなー。
あの頃の、20歳の俺にアドバイス出来るなら…。
いや、近衛兵を選んでも上と衝突してたか。
後悔はしてるけどな、選択の余地はなかったわ。
近衛兵ってのはあくまでも王の兵士な訳。
でも城には守らなきゃならねーやんごとなき人が他にも居んだろ?
ま、王太子とお姫様ってやつさ。
参ったわ。
俺だってそこそこ偉い家の一人息子だっつーのに、偉い人とあんまり関わりたくねぇから近衛を蹴ったんだよ。
なのに騎士団の仕事にそいつらのお守りが含まれてんだもん、嫌んなっちゃう。
しかもそのやんごとないお姫様っつーのがよぉ、「わがまま」だなんて4文字で軽く済ませちゃいけない様なクソお…おっと、失礼。
レディに優しく。
暴言はいけねぇやな。
クソでも上司どころか雇い主様なんだから。
えーと、淑女教育の失敗?
いや、まー、なんだ、破天荒…は女にゃあんまり使わねぇか。
とにかくそんな姫様に振り回されて4年もすりゃあ、なんだかんだと副団長まで昇進するってなもんよ。
したのはいいんだけどなぁ、そのすぐ後に魔王だかなんだかに姫が攫われちまったのよ。
いつも俺たちお付きを巻こうとしてな、あれこれ要らない工夫を凝らしてくれていやがるからよ、いつかこんな面倒な事になるだろう事は分かっちゃいたけど…。
その日がいよいよやって来たってこったな。
分かっていたなら対抗策でも立てて置けって?
当たり前だよ馬鹿野郎。
面倒に繋がりそうな事は報告済みじゃ。
俺の責任にされてたまるかってんだ馬鹿野郎。
偉い人より偉い人の王様に根回しは済んでる。
お陰で謹慎だの罰だのは何にもねーよ。
あ、普段の仕事と別に対処しなきゃいけないことが増えたのが罰といえば罰か。
副団長って忙しいのよ?
やっぱりムカついて来た。
でもなぁ、あの頭を抱えて青ざめる人の親を見ちまうと、教育を失敗したのはテメーだろうがという怒りより、同情が勝つよなぁ。
王様も娘の悪癖は俺らの報告でご存知。
そんでも娘が攫われて放って置くパパではないのよ。
すぐに俺ら騎士団にため息混じりに捜索と救出の指示をだすわな。
いつもより語気も弱かったけども。
探せぇ…だって。
我ら騎士団はそんな間の抜けた号令だろうが粛々と受けとめてて出征するよ。
仕事だからな。
とは言っても楽なもんよ。
我が騎士団は強い!
俺や団長が死ぬほど鍛えてるし、デケー国なもんで数も多いからな。
4万人の軍隊で魔王の城へ攻め込み圧倒的な数の差で制圧。
ふはは!
ふははだよ馬鹿野郎。
俺が笑えるのはここまでだったわ畜生め。
せっかく、わざわざ、遠くから、はるばる、やって来た俺らに、お姫様は帰れと言いやがった。
人質が救出を断るってそんなことあるか?
理由?聞いたよ、聞いた、もちろん。
「(このわがままカス)姫様、何がご不満なのですか。」
ってな。
心の声を漏らさなかった事を褒めてくれよ。
それに対したやんごとない返事がこれよ。
「城の兵士に助けられたって、ちっともドラマチックじゃない。」
だって。
マジ爆笑。
団長はもうポカーンよ。
ダンディを絵に描いて歩いているようなおじ様が、豆鉄砲喰らった鳩みたいな顔になってたもん。
はー、マジでやってらんねぇ。
やってらんないが仕えている身は世知辛いってもんで、言われたらやるしかないのだ。
はい!よろこんで!
イエスかハイしか返事は用意されていないのだ!
最高だぜ。
そんなに言うならドラマチックにしてやろうじゃないか。
ドラマチックをおみまいしてやるぜ。
くらいな、俺のドラマチックを!
とはいえまずは戦後処理からやんなきゃなぁ。
だって、魔王の国と我が王国の戦争だろ?これ。
火種が馬鹿みたいでも。
助けられたくねぇってんなら、敗戦の魔王に世話を頼むしかねぇわな。
多めの金銭も渡すさ。
婆やと教育係の女性も呼びつけて、彼女らの護衛の我が団長を置いたまま、俺らは一旦帰国。
ここまで船と馬を乗り継いでやって来てんだけど。
どうせまた来る事になるのが目に見えてるからめちゃくちゃ面倒くせぇ。
いやぁ、しっかしあの姫様。
城を離れて見事に羽を伸ばしてやがったから、厳しい教育係がやってきた時の顔は見ものだったわ。
姿絵にして王に献上差し上げたいくらいだね。
魔王軍の態度からして、実は護衛なんて必要は無さそうではあったんだけどよ。
姫と王に挟まれて振り回され続けてた団長の顔色がビールよりも黄色くなっていたので、ここでのんびりしてもらう事にした。
レストインピースですよ、団長。
どうせ国に帰ると休めないっすよ。
アンタ、ワーカホリックなんだから。
代わりに俺がハゲときます!
さて、真面目な話もしようかね。
魔王が姫を拐った理由は魔王国という亜人国家の樹立を認めて貰うための政治主張。
大国の姫を連れ去れば武力の証明にはなるわけだし、声明が世界に轟くくらい大きくなる。
悪名は無名に勝るってやつだーね。
「こんな事は言いづらいのだが、お宅のお姫様の評判がとんでもなく悪いから…最悪、他からの共感を得られるかもしれないと…そんな下心もあった。」
なるほどね。
響き渡っているもんね。
俺もあんたらに共感しちゃう。
いざ国が出来てしまえば、あとは丁寧に誠実な国家運営をしていけば早い段階で認められていくだろう。
そんな目論見だったのだとか。
不良が真面目になったときに、元々真面目だった者より何故か数倍真面目なように見られるアレを目指したんだね。
元々真面目な奴の方が偉いのに不思議な話だよね。
魔王軍側との会話は政治的な判断に基づいていて、変にドラマチックだのロマンチックだのぷりぷりキュルンだのがなくて大変に分かりやすい。
助かるよ、本当。
言葉が通じる相手と交渉が出来るって言うだけで、涙がでそうになる。
実際ちょっと出てたかもしんない。




