少年期編・旅情章『13歳の春、小さな街の便利屋と、30リットルのスープ』
初めての投稿です。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
昨日までに16人の方に読んでもらいたい。びっくりしています。
ありがとう存じます。これからもよろしくお願いします。
では、参ります!!
第1章:鉄とノイズの街、エイル
オアシスを出発してから約2週間。
果てしなく続くと思っていた砂と岩の荒野が徐々に姿を消し、目の前には、ごつごつとした赤茶色の岩肌に囲まれた、小さな盆地が見えてきた。その中心にひっそりと佇むのが、僕らが初めて訪れる人間の街――鉱山と鍛冶の街『エイル』だった。
「やっと街に着いたね、イサナギ! 人がたくさんいるわ!」
街の頑丈な石造りの門をくぐりながら、レイラが白いフードを揺らして声を弾ませた。
13歳の春。生まれてからずっと砂漠のオアシスで育ったレイラにとって、石畳の道路や、何十軒もの家が並ぶ光景は、それだけで最高に刺激的な「新しい背景(美術)」のようだった。
けれど、僕の魔力感知が捉えるこの街の空気は、決して穏やかなものではなかった。
「……やっぱり、ここにも流れてきてるな」
僕は眉をひそめ、腰の鉄剣の柄にそっと手を置いた。
街のあちこちから聞こえてくる、カン、カン、という鍛冶屋の金槌の音。その音の行間に、あの支配者ヴァルガが放っていたものと同じ、不快な魔力の不協和音――『ノイズ』が、薄く、だけど確実に混ざり合っている。 7つの幻素のうち、物質の形を安定させる【地】の幻素と、鍛冶の命である【火】の幻素が、何者かによって外側から雑に歪められている感覚。そのせいで、街全体の空気がどこか重く、淀んで見えた。
「いらっしゃい、若き旅人さんたち。……と言いたいところだけど、あいにく今のこの街は、歓迎の宴を開けるほど景気が良くなくてね」
宿屋を兼ねた小さなギルドの受付で、恰幅の良い、だけどどこか疲れた顔をした女主人・マーサさんが、僕らの差し出したオアシスの身分証を見ながらため息をついた。
「景気が良くない……何かあったんですか?」
レイラが心配そうに尋ねる。
「数ヶ月前からさ。ここの鉱山から採れる鉄鉱石の品質が、急にガタ落ちしちまってね。いくら火にかけようが、不純物が綺麗に抜けないんだ。まるで、金属そのものが『病気』にでもかかったみたいに硬くて脆い。おかげで自慢の武具も作れやしないし、商人たちも寄り付かなくなっちまった」
マーサさんの言葉に、僕は小さく頷いた。
病気ではない。ヴァルガの【天】の幻素による強制編集が、この街の【地】と【火】のサイクルを狂わせているのだ。
「そんなわけだから、ギルドに出ている依頼も、小汚い雑用ばかりさ。鉱山に住み着いた小魔物の間引きか、あるいは……これだよ。誰も引き受け手のない、偏屈な老鍛冶屋の荷物運びさ」
マーサさんがトントンと指差した古い羊皮紙の依頼書。そこにはこう書かれていた。
『山頂の古い採掘場から、特質の赤粘土30袋(約300kg)を麓の工房まで運搬せよ。報酬:銀貨5枚。注意:マジックバッグ等の高価な魔道具は、山の魔力異常により動作不良を起こすため使用不可。人力で運ぶこと』
「300キロを人力で山の斜面から運ぶ!? そんなの、大人のハンターが3人がかりでも丸一日かかるわよ。なのに報酬が銀貨5枚なんて、安すぎるわ」
レイラが憤慨するのも無理はなかった。今のこの街のハンターたちは、自分の食い扶持を稼ぐだけで精一杯で、こんな効率の悪い割に合わない仕事に関わっている余裕はないのだ。
けれど、僕はその依頼書を見つめながら、脳内のタイムシート(設計図)を高速で組み立てていた。
「マーサさん、この依頼、僕たちに受けさせてください」
「えっ!? イサナギ、本気? マジックバッグが使えないのよ?」
レイラが驚いて僕の袖を引く。僕は彼女に向かって、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせた。
「大丈夫さ、レイラ。僕の【収納】は、この世界の一般的な魔道具とは『システムの構造』が全く違うからね」
第2章:30リットル(買い物カゴ)の『レイヤー分割』
街の背後にそびえ立つ、赤茶色の荒々しい岩山。
その中腹にある崩れかけの採掘場に、目的の老鍛冶屋・バルカンはいた。頑固そうな白髭を蓄え、煤で汚れた顔をした彼は、僕ら子供二人が現れたのを見て、あからさまに鼻で笑った。
「フン、ギルドも焼きが回ったな。こんなガキんちょにワシの依頼を回すとは。言っておくが、そこの荷車を使って人力で運ぶんだぞ? 山の【地】の幻素が狂っているせいで、空間を広げる上等なカゴ(マジックバッグ)は、中身をごちゃ混ぜに破裂させるのがオチだからな」
バルカンが指差した先には、ずっしりと重そうな、赤い粘土が詰まった麻袋が30袋、山積みにされていた。1袋あたりおよそ10キロ。
「ご心配なく、バルカンさん。荷車も使いません。僕の背嚢だけで、すべて運んでみせますよ」
「はぁ!? お前、正気か? その小さなカバンに、300キロの粘土が入るとでも――」
バルカンが言いかけるのを無視して、僕は麻袋の前に立った。
現在の僕の【収納1(入れるだけ)】の最大容量は、わずか30リットル。前世のスーパーの買い物カゴ1個分だ。
普通に考えれば、10キロの麻袋を3袋も入れれば、体積の限界を迎えてカゴは満杯になってしまう。重さではなく、『カサ(体積)』で引っかかるのだ。
(だけど……【収納1】の本質は、ただの『入れるだけ』。つまり、中に入った物質の『形状』を記憶するような高等な機能はない。ただの真っ暗な、30リットルの容積を持つ『箱』だ)
アニメーションの制作において、1枚の動画用紙にすべてのキャラクターと背景を同時に描くのは愚策だ。キャラクター、背景、エフェクト、それらをすべて『別々の透明なセル画』に切り分け、最後に重ね合わせる(コンポジット)ことで、作業効率は劇的に跳ね上がる。
「だったら……この粘土の『形状(麻袋)』という情報を、一度すべてリセット(消去)して、30リットルのカゴの形状そのものに『塗り潰し(バケツツール)』ちゃえばいいんだ」
僕は腰の鉄剣を抜き、迷いなくバルカンの麻袋を切り裂いた。
「おい、何を狂ったことを――!」 バルカンが悲鳴を上げる。
中からドロリとした、水分を含んだ赤粘土が溢れ出す。
「【収納1(入れるだけ)】――起動」
僕はドロドロの粘土に右手をかざした。
空間の歪みが現れる。次の瞬間、溢れ出た赤粘土は、麻袋という『カサ張る包装』を捨て去り、純粋な「物質の塊」として、僕の30リットルのカゴの中へと吸い込まれていった。
(うん、脳内の仮想フォルダの感覚は……ちょうど、30リットルのバケツの中に、泥水を注ぎ込んでいる感じだ)
麻袋のまま入れようとすれば、袋と袋の間に無駄な『隙間(空気)』が生まれ、3袋で満杯になる。
けれど、袋を破り、粘土をドロドロの流体として隙間なくカゴの底から敷き詰めていけばどうなるか?
赤粘土の比重はおよそ2前後。つまり、30リットルの容積を持つ僕のカゴをドロドロの粘土で「限界まで満杯」にすれば、
$$30\text{リットル} \times \text{比重}2 = \text{約60キロ}$$
の粘土を、隙間なく一気に詰め込むことができるのだ。
「出す(ポップアップ)」
僕はカゴの底から、ちょうど10キロ分の粘土だけを、バルカンが持っていた別の空き缶の中にドロリと「吐き出し」てみせた。鮮度も、粘土の水分量も、入れた時のままだ。
「な、何だと……!? 山の幻素の狂いに影響を受けずに、空間収納が発動している……!? しかも、袋を破って中身だけを隙間なく詰め込むなど、どんな奇妙な魔法だ……!」
バルカンが目玉が飛び出んばかりに驚いている。
山の魔力異常は、【宙】の空間の網目を狂わせている。だから、空間を「引き伸ばして維持する」一般的なマジックバッグは、その網目の歪みに耐えきれずに壊れてしまう。
けれど、僕の【収納1】は、空間を引き伸ばしてなどいない。僕の魂の直結した精神の余白に、ただ『入れるだけ』。外側の世界の空間の網目なんて、最初から利用していないのだ。
「バルカンさん、一気に全部は入りませんが、60キロずつ、5回に分ければ、僕一人で今すぐ麓まで往復できます。荷車を引いて山道を往復するより、よっぽど早いはずです」
「あ、あぁ……。なら、頼む。おい、本当に大丈夫なのか……?」
「お任せください。……よし、レイラ。まずは第一陣、行くよ!」
「うん! イサナギの背中は、私がばっちり守るからね!」
僕はカゴに60キロの粘土を満載し、リュックを背負った。
重さはそのまま身体にかかる。60キロの重量は13歳の身体にはかなり堪えるけれど、オアシスでの泥臭い特訓と、お父様から習い始めた【剣スキル1】による体幹の安定のおかげで、足元がぶれることはなかった。
僕らは山道を風のように駆け下り、わずか数時間のうちに、300キロの粘土をすべてバルカンの工房へと運び終えてしまったのだった。
第3章:15コマの魔剣と、【火・地】の調律
夕暮れ時。バルカンの工房の裏庭で、約束の銀貨5枚を受け取った僕らは、バルカンがまだ浮かない顔をして、運ばれた赤粘土を見つめているのに気づいた。
「バルカンさん、荷物は全部運びましたけど……まだ何か悩み事ですか?」
レイラが優しく声をかける。
バルカンは深くため息をつき、自身の古い鍛冶炉に火を入れた。
「あぁ……。粘土は届いたが、やはりダメだ。この街の【火】と【地】の幻素が狂っているせいで、いくらこの特製の粘土で炉の壁を補強しようが、火の温度が均一にならん。これじゃあ、鉄を叩いても、不純物が中で偏って、ただの鉄クズにしかならんのだ。ワシの代で、この工房も畳むしかないな……」
炉から上がる炎は、確かに赤黒く揺らぎ、時折パチパチと不規則な不協和音を立てていた。
典型的な、ヴァルガのノイズによる『作画の乱れ(フレームのスキップ)』だ。火の幻素のエネルギーが、タイムラインの上で等速に流れていない。
僕はその炎を見つめながら、腰の鉄剣をゆっくりと引き抜いた。
「バルカンさん。もしよかったら、僕がその炉の火を……『調律』してみてもいいですか?」
「あん? ガキが火を調律するだと? 鍛冶の火はな、魔法で適当に大きくすればいいって もんじゃないんだぞ!」
「分かっています。魔法で大きくするんじゃない。……流れを、整えるんです」
僕は炉の前に立ち、鉄剣を構えた。
限界を超えたあの戦いの後、僕の魔法は【15コマ(15フレーム)】へと戻ってしまった。24コマのような、世界そのものを書き換える神業はもう使えない。
けれど、たった1つの炉の火という「小さなオブジェクト」の動きを整えるだけなら――15コマの解像度があれば、お釣りが来る。
「起動――【魔力追生・15フレーム】」
視界が1秒間15分割の世界へと切り替わる。
半透明のフレーム(オニオンスキン)の中に、炉の炎がバラバラな形状で現れる。
3コマ目で火力が急に落ち、6コマ目で異常に跳ね上がっている。この不規則な『コマの飛び(ノイズ)』が、鉄をダメにしている原因だ。
(だったら、僕の【剣スキル1】の物理的な『風圧』とマナを連動させて、15コマのタイムラインの上に、完璧な火力の『中割り(インビトウィーン)』を描き加える……!)
「ふっ……!」
短い呼気と共に、僕は鉄剣を静かに振るった。
1秒間に15回。
等速ではない。1コマ目で剣を寸止めし(タメ)、2コマ目で炉の空気口へ向かって完璧な鋭さの風圧を送り込む(ツメ)。3コマ目で剣を引き、火の幻素の「余韻」を作る。
剣の生み出す精密な風の波が、炉の中の【火】と【地】の幻素を、1コマずつ丁寧に正しい位置へと『描き直して』いく。
「な……何だ、あの剣の動きは……!? 乱暴に風を送っているんじゃない……まるで、炎の呼吸に合わせて、剣が踊っているようだ……!」
バルカンが驚愕の声を上げる。
15コマの魔剣が空気を刻むたびに、赤黒く濁っていた炉の炎が、徐々に不純物のない、透き通った『純青の炎』へと姿を変えていく。火の幻素が、1秒間のタイムラインの上で完璧な均等さで燃え上がり始めたのだ。
「今だ、バルカンさん! 鉄を入れて、叩いてください!」
「お、おおおっ! 職人の血が騒ぐわい!」
バルカンは慌てて、錆びついた古い鉄の塊をトングで掴み、純青の炎の中へと放り込んだ。
均一な超高温に包まれた鉄は、一瞬で黄金色に融解し、中の不純物がジウ、と白い煙を上げて綺麗に蒸発していく。
バルカンはそれを取り出すと、アンビル(金床)の上へ置き、渾身の力で金槌を振り下ろした。
――カーーーーン!!!!!
街中に響き渡るような、どこまでも澄んだ、美しい金属音がエイルの空にこだました。
それは、数ヶ月間この街から消え失せていた、本物の「職人の音」だった。
第4章:料理レベル3の『恩返し』
それから数時間後。
バルカンの工房の炉は、すっかり元の健やかなマナを取り戻していた。僕が15コマの剣で一度幻素のタイムラインを整えたことで、狂っていた周囲の【地】と【火】のサイクルが、正しい円環へと戻り始めたのだ。この火を種火にして街全体の炉に広げていけば、エイルの街は遠からず元の活気を取り戻すだろう。
「ありがう、イサナギ、レイラ。ワシは、お前さんたちに何て礼を言えばいいか……」
バルカンは、先ほど叩き上げたばかりの、見事な輝きを放つ「特製の小盾」を二人の前に差し出した。
「これは、ワシが持てる最高の技術で叩いた、軽量にして最高の強度を持つ盾だ。旅の護身用に、どうか受け取ってくれ」
「わぁ……綺麗……!」 レイラが目を輝かせる。
それは、今の僕らの過酷な旅路において、何よりも心強い防具だった。
「ありがとうございます、バルカンさん。大切に使わせてもらいます」
僕はその小盾を手に取り、30リットルの仮想カゴ(収納1)へと仕まった。
先ほど赤粘土をすべて吐き出したため、カゴの中は再びスッカラカンだ。軽量の小盾が1枚、カゴの底に綺麗に収まった。
「よし。それじゃあバルカンさん、街を救ったお祝いに、今夜は僕が……最高の晩ご飯を御馳走しますよ」
僕はリュックの奥から、オアシスを出発する時に仕込んでおいた、あの小さな布袋を取り出した。
中に入っているのは、僕の【料理レベル3】の技術で極限まで水分を飛ばし、体積を縮小させておいた『濃縮キューブ(ポトフの素)』だ。
「イサナギの料理ね! やったぁ!」
レイラが嬉しそうに飛び跳ねる。
僕は工房の片隅にあった鍋に、レイラの魔法で出してもらった綺麗な水を注ぎ、そこに濃縮キューブを数粒放り込んで、バルカンが直したばかりの純青の炉の火にかけた。
数分後。
水分を吸ったキューブが、まるでお湯の中で花が開くように、一気に元の「具だくさんの野菜と肉」へと復元されていった。
部屋中に、オアシス特産のリンゴの甘みと、じっくり煮込まれた肉の香ばしい匂いが広がっていく。
【料理レベル3】の真骨頂。
ただの料理じゃない。旅の限られた予算(30リットル)の中で、最高のパフォーマンスを発揮するために生み出された、僕らの『濃縮芸術』だ。
「な、何だこれは……! たった数粒の固まりから、こんなに美味そうなスープができるなんて……! モグ、……う、美味い……美味すぎるぞ、これは!!」
バルカンはスープを一口啜るなり、器を抱え込んで猛烈な勢いで食べ始めた。
「身体の芯から、古い疲れが吹き飛んでいくようだ……! 腕の筋肉に、若い頃のような力が漲ってくる……!」
「ふふ、それがイサナギの料理の効果よ。バルカンさん、明日からまた、たくさん鉄を叩かなきゃいけないんだから、いっぱい食べてね」
レイラも嬉しそうにスープを口に運ぶ。
窓の外を見上げれば、小さなエイルの街のあちこちの工房から、昼間の淀んだ煙ではない、どこか生き生きとした、温かい煙が夜空へと立ち上り始めていた。
魔法が15コマに戻ったって。
収納が30リットルの買い物カゴになったって。
前世のアニメーターの思考(レイヤー分割と濃縮)があれば、僕らは目の前のどんな不自由も、最高に面白い「演出」に変えてみせる。
「ごちそうさまでした! さぁ、明日も早いぞ、イサナギ!」
「あぁ。中央都市までは、まだまだ長いからね」
僕はレイラの手を握り、バルカンに見送られながら、温かいスープの余韻が残るエイルの街の宿へと向かった。
13歳の春。僕らのタイムラインは、前途多難だからこそ、どこまでも鮮やかに、新しい1コマを刻み続けていくのだった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。




