表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/105

第20話「すれ違う心と、風の囁き」

夜通しの調査を終えた朝。

弓道場で鉢合わせた三人の間には、気まずく、

そして重い沈黙が流れていた。


「清馬、話がある。『影向ようごう』の正体がわかった」


清継様が報告しようとするが、清馬様は「……後で聞く」とだけ言い残し、冷たく背を向けてその場を去ってしまった。兄を拒絶する清馬様の姿と、それを見る清継様の痛ましげな表情。

その光景に、私は「私のせいで、お二人の間に……」と、胸の奥がずきりと痛んだ。


その日の朝も、三人は同じ車で登校した。

しかし、車内の空気はこれまでになく重い。

清馬様は窓の外を眺めたまま、一言も口を開かなかった。学校に着くと、彼は「用がある」とだけ言い残し、一人でどこかへ行ってしまう。

昼休みも、私たちの元へは来なかった。


「喧嘩でもしたの?」


楓の心配そうな声に、私は曖昧に頷くことしかできない。


いてもたってもいられなくなり、私は清馬様を探して弓道場へと向かった。

一心不乱に弓を引く彼の背中に、私はおそるおそる声をかける。


「清馬様、あの……!」


「……お前のせいじゃない」


彼は、振り返りもせずにそう言った。

その優しい拒絶が、かえって私を突き放しているように感じて、胸が締め付けられる。

彼が、無意識に懐にしまった何かを、ぎゅっと握りしめているのを、私は見逃さなかった。



一人で落ち込んでいる私のもとへ、清継様が静かに現れた。


「清馬は今、迷っているだけだ。自分自身の弱さと、どう向き合うべきかな。……本当は、私が弟の想いを、君のように受け止めてやれれば良かったのだが」


彼は私を責めず、ただ静かに寄り添ってくれる。


「君も、疲れているだろう。甘いものでもどうだ?」


そう言って、彼が懐から取り出したのは、小さな紙袋だった。

中には、私が以前、甘味処で美味しそうに食べていたのと同じ、うさぎの形をした可愛らしい練り切りが入っていた。


「これは……! どうして、私がこれを……」


「君が、とても美味しそうに食べていただろう。

覚えていた」


その細やかな優しさに、私は顔を真っ赤にして俯いた。


「…!ありがとうございます。とても…嬉しいです」


心が少し解れた私に、清継様は次の計画を告げる。


「『影向』一族の文献によれば、彼らが過去に根城としていた古い神社が、帝都の郊外にあるらしい。次の休日に、そこを調査する。……それまでに、清馬が戻ってきてくれるといいのだが」


その言葉に、私は強く頷いた。


(ただ待っているだけじゃない。次の戦いまでに、私が、清馬様を連れ戻すんだ)



その頃、清馬様は一人、屋敷の屋根の上で風に吹かれていた。

手の中には、二条奏にじょうかなでから貰った、風の渦が封じられたお守りがある。


(兄上と琴葉の絆が、俺の影を濃くする…耐えられない! 本当の力が、欲しい!)


嫉妬と、焦燥。そして、無力感。彼の心を、黒い感情が蝕んでいく。


彼は、お守りを強く、強く握りしめた。


「強くなりたい…。兄上よりも、誰よりも……

あいつを守れるくらい、強く……!」


彼が決意を固めた、その瞬間だった。

お守りから溢れ出した風の渦が、彼の全身を包み込む。

彼の瞳に、これまでとは違う、危うい光が宿ったのを、まだ誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ