14-1<疑惑の殺人>
前世の趣味で様々な事件を調べてきた俺であるが、異世界とはいえそれと酷似した事件が起きれば手を取るように事件のことが分かってしまう。だが今回はその知識こそが、後々に大きく響いて来るとは俺は想像もしていなかった。
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その日、猫柳が勢いよく扉を開けて入ってきたかと思うと、それに続いて卯早美も事務所の中へと入ってくる。
「湊ちゃん!ちょっと聞くのにゃ!」
「そんなでかい声出さないでも聞こえるよ」
いきなり入り込んできた猫柳は、勢いそのまま連続殺人を卯早美も淵田係長も捕まえる気がないと訴える。だが、この周りが見えなくなる熱血漢なところは猫柳の悪い癖である。淵田係長のことは詳しく知らないが、少なくとも卯早美がそんな奴ではないことは猫柳のよりも卯早美との付き合いが短い俺でもわかる。
「例えこのまま逮捕しても公判が保てないわ。今回の事件は普通の事件とは少し違うのよ」
「でも毒だって出てるし、どう見ても死にすぎなのにゃ」
猫柳によればある一人の男の周りで大勢の女性が亡くなっているというのだ。男は元々いた妻が死亡した後、そのまま愛人であった女性と結婚した。そしてその愛人であった女性もどういうわけか数年で亡くなると、次は別の女性に猛アタックして数か月で結婚したというのだ。
そしてついこの間、三人目の女性も突然死を迎えた。医者によれば急性心筋梗塞で亡くなったとのことだが、猫柳によれば複数の高額な生命保険に加入して最初の掛け金を払った直後に亡くなっており、どう見ても保険金殺人だと息巻く。
「それににゃ。卯早美ちゃんの機転で、遺体を調べたところ・・・名前は忘れたけど毒が検出されたのにゃ」
「ほら、帰るわよ」
毒殺による保険金殺人と言うと元の世界だと今の時代から十数年後に当たる1980年代に発生したトリカブトを使用した保険金殺人が有名だが、こっちの世界ではこういった事件が起きるのが少し早いのか、それとも元の世界でも似たような事件はあったが見過ごされてきたのか、どっちにしろ俺も猫柳と同じで偶然女性が死んだのではなく男が殺していると声を大にして言いたい。
「でもね、毒殺だとしてもアリバイがあるのよ。男が渡した飲食物を死の直前に摂取したわけでもないし、たとえ渡していたとしても即効性の毒を遅効性にはできないわ。たとえカプセルに入れたとしても10分が限界。毒を飲ませてから一時間以上、毒で死ぬのを遅らせたと証明できなければ有罪にはできないわ」
その後『取り調べでなんとしても吐かせるのにゃ』という猫柳の意見を卯早美は却下し、猫柳を無理やり連れ帰ろうとする。だが、俺はそこでようやく口を開く。
「毒は一種類しか出なかったのか」
「今のところはね。でもそれ以外に出ていたらどうだっていうのよ」
「例えばまったく逆の効果で死に至らせる二種類の毒を混ぜれば、それぞれが打ち消し合って毒の量次第で時間をずらせるんじゃないのか?」
いま思えばこれがよくなかった。例えば毒にと一緒に少しだけ解毒剤を入れていたらどうなのか、複数の毒を混ぜた結果検出された毒の効能がなくなって一緒に混ぜた別の遅効性の毒で死んだのではないか、などそれとなく誘導することも出来たはずだった。
しかし俺はいきなりここで正解を出してしまい、これが後々になって俺の首を絞めることになったのである。
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猫柳と卯早美が事件のことで来てから半月後、事件は大きな転機を迎えた。二種類の毒を混ぜることによって即効性の毒でも時間を調節することができることを証明した研究者がいたのだ。
その研究者は最初に死亡した男の妻の弟で姉の死後、その死を究明するために姉の死から数年にわたって研究を続けてきたのだという。
これなら別に俺がいなくても事件を解決することができたと思ったのもつかの間、男の逮捕後にやってきた猫柳は若干の殺気を放ちつつ俺のもとへとやってきたのである。
「ちょっと聞きたいことがあるのにゃ」
猫柳の悪いところは敵認定した相手に対してその殺気を若干隠せないところである。俺も猫柳の意図はわからないが、それを感じ取って言動に注意を払いつつ訪れた猫柳に対応する。




